新世紀エヴァンゲリオンZ   作:カチドキホッパー

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32話 「後悔はチャンスの神様の前髪を掴み損ねた愚か者のすることだよ。」

「おっ、きぃついたか?

 シンジ、シンジ!」

 

 聞き覚えのある声に聴覚を刺激されうっすらと目を開ける碇シンジ。

 

 僕は、アスカともう一人の僕を背負って…それからケンスケの車に乗って町へ行って…

 

 曖昧な記憶を辿りながら最後の記憶まで辿り着く。

 横から白衣を着た浅黒い男が話しかけてくる。

 歳の頃は自分と同じ28歳くらいか?

 

「ビックリしたで、お前まで街に入った途端に気ぃ失ってもうてな。

 それになんや、お前が中坊の姿でもう一人おるなんてけったいな話やけど、ワシにはよぅわからん!

 ミサトさんの説明もちんぷんかんやって、とにかくお前は別の世界から来たくらいしかのみこんどらんのや。

 ん?おまえ、わしが誰かわかってへんのか?」

 

 目の前の医者が誰なのか寝ぼけ頭と差し込んでから眩しい日差しに目がくらみ、聞き覚えのある声と懐かしい雰囲気なのに答えにたどり着けないでいるシンジ。

 見かねたのか、目の前の医者が大袈裟に肩をすくめ話を続ける。

 

「はぁ、泣けるで。

 ワシやワシ、トウジや。

 鈴原トウジ、お前の親友やで。

 …まさか、向こうの世界ではワシとお前は仲ようないんか?」

 

 その名前を聞きようやく目が覚める。

 そうだ、向こうの世界でもいちばんの親友だ。

 

「ごめんよ、トウジ。

 寝起きで頭が回らなかったんだよ。

 大丈夫、元の世界でも親友だよ。

 お互いの結婚式の挨拶を任せるくらいにはね。」

 

「おぅ!

 そうかそうか、ちなみにわしは向こうでは誰と結婚しとるんか教えてくれんか?

 なんか、嫁さんと違う人の名前上がるんとちゃうか思うて気がきでないねん。」

 

 周りの目を伺いながら恐る恐る聞いてくるトウジ。

 

「何言ってんだよ,トウジの嫁さんなんて委員長以外いないだろ?

 こっちじゃ違うの?」

 

 それを聞いて安心したからのように胸を撫で下ろすトウジ。

 

「ホンマ焦ったでぇ。

 やっぱりワシは向こうでもこっちでもヒカリと結婚する運命やったんやな。

 違ったから今日帰って目が合わせれんとこやったわ。」

 

 溺愛してんなー、と思いつつ他の人たちの様子を聞いてみた。

 

「あ?

 なにいうてんねん、お前らが町についてから2週間はたってんで。

 式波と中坊のお前はケンスケのとこで預かってもらうとる。

 一応お前ら兄弟っちゅうて周りに説明しとるからな、その辺を気をつけや。

 名前同じでもあかんから、周りのもんにはシンジの兄貴の碇ジンってことにしとるからな。」

 

 やはりΖインフィニティの代償か、長期間の意識不明状態だったか。

 しかし光の国に行くまでの猶予が1週間もある。

 これは以前四ヶ月の昏睡状態になったことに比べれば嬉しい誤算だ。

 

「そっか、気を使わせてごめん。」

 

「なにいうてんねん、水臭い。

 わしとお前の仲やろ。」

 

 やはり次元を超えても自分達はこうでなくてはならない。

 そう思えて仕方がなかった。

 

 自分が寝ている間のことを聞いてみると中学生のシンジは最初は塞ぎ込んでいたようだが何かをきっかけに持ち直して、今はケンスケの手伝いをしているそうだ。

 アヤナミレイは農作業に従事し同僚のおばちゃんから気に入られたようだ。

 しかしシンジの中では

 

『レイから聞いたことあったけど、あの体は調整を受けないといけないと…

 2週間か、そろそろやばいんじゃないか?』

 

疑念が膨れ上がっていた。

 

「どうしたんや?」

 

 思案顔になっていたようでトウジに突っ込まれる。

 

「なんでもないよ。

 ちょっとアヤナミに会いたいんだ、案内してくれない?」

 

 そして農作業が終わり、鈴原家でアヤナミと会うことができた。

 

「あなた、大人の、碇くん?」

 

「君の中ではそうカテゴライズしたんだね。

 ここではジンって名乗らないといけないからそう呼んでよ。」

 

 思わず苦笑しながら返すシンジ、もといジン。

 家族には聞かせられない話なので表に二人で出る。

 

「田植えを手伝ってるんだってね?

 偉いじゃないか、自発的にやっているのかい?」

 

「いいえ、ここでは働かないといけないと言われたから。

 碇くんは今はお手伝いをしてる。

 ジンは、働かない人?」

 

 これはまたストレートに聞いてくるな。

 綾波シリーズの無垢な様子に苦笑してしまうジン。

 

「いいや、僕はもともと医者なんだ。

 だからトウジの手伝いをするんだ。

 それで君、最後に調整を受けたのはいつ?」

 

 ハッとした顔で目を背けるアヤナミ。

 

「…やっぱりそうか。

 いつがタイムリミットなんだい?」

 

「長ければ、今週の終わりには。

 でも、どんどん体が透けてきてるの。」

 

 彼女をネルフに返すには時が短すぎる。

 過去にシンジがアキラやレイの肉体を再構成した時と同じことをするにはインパクトに匹敵するエネルギーが必要になる。

 最低でも一人の生命情報を書き換えるにはインフィニティの上位種二人分のエネルギーが必要だ。

 Zが目覚めていない現状では、いくらシンジの能力が高いと言えど不可能な話だ。

 

「ごめんね、僕は君を救える手立てを知ってはいる。

 だけどそれには力が足りないんだ。」

 

「何故謝るの?」

 

「…医者として君の命を救うことができないからだ。」

 

 それを聞くとアヤナミは遠くを見つめる。

 

「いいの。

 私はそう造られたから。

 だけど、もっと碇くんと一緒にいたかった。」

 

 アヤナミの言葉にハッとするシンジ。

 彼女は敵だ、しかし…

 

「なら会える時は会いに行ったほうがいい。

 君の魂はひどく不安定だ、この生を終えても生まれ変われる保証はない。

 なら、やれることはやるべきだ。」

 

 アヤナミはそれを聞くと一瞬目を見開き、一礼してシンジのある山の方まで駆け出した。

 

 その翌日、ジンはシンジを訪ねた。

 当然驚き、警戒心をあらわにする。

 アヤナミはいないようなので、ケンスケに断りを入れ二人きりになる。

 

「…なんのようですか?

 父さんに見捨てられた僕を笑いにきたんですか?」

 

 うーん、まぁ敵だったし随分警戒されたなぁ。

 

「そんなことしないよ、僕も君と同じ人間なんだから。

 ここではややこしいから君の兄のジンってことになってるからそう呼んで。

 ところで、アヤナミには会ったかい?」

 

「…えぇ、今朝はここから仕事に行きましたから。

 それがあなたに何の関係が?」

 

 なるほど、どこまで知ってるんだろう。

 

「君はアヤナミ、いや綾波シリーズのことをどこまで知ってる?」

 

 シンジはその言葉に悔しそうに下を向きながら

 

「母さんの、クローンだとは聞いてます。

 でもそれがなんだっていうんですか!

 彼女は、アヤナミはアヤナミだ!

 アスカは、彼女が僕に好意的なのはそうプログラムされてるからだって!

 でも、彼女は今生きてここにいる!

 だから彼女の気持ちを、僕が想う気持ちを作り物や偽物なんて言わせません!」

 

「別に、君たちの気持ちを否定したり間柄を非常識だなんていうつもりはないよ。

 でも、残された時間はあまりない。」

 

 ジンの言葉にさっきまでの威勢が嘘だったかのように狼狽するシンジ。

 

「どういう、ことですか?

 あ、父さんたちとの戦いが近づいてて世界が終わるかもって話ですか?」

 

 ジンはゆっくり首を横にふる。

 

「残念ながらそうじゃない。

 彼女は、いや、彼女達の肉体は人と使徒の遺伝情報をベースに構築されている。

 そして培養槽で本来の人間の成長速度を無視して一定の年齢まで成長させられる。

 だけど、本来の理を無視した存在には相応の代償が存在するんだ。

 彼女たちの場合、酷く肉体が脆い。

 だから定期的にNERVの培養槽の中で調整を受けなければいけないんだ。

 だが彼女はあの戦い以後一度もNERVに戻らずここにいる。

 その意味が、これからの結末が君にもわかるはずだ。」

 

 ジンの言葉にシンジは膝から崩れ落ちる。

 そしてジンのズボンに縋り付く。

 

「そんな、なんとかしてよ!

 あなたは医者なんでしょ!

 僕に言ったじゃないか、目の前の命は見捨てないって!

 だから、アヤナミを助けてよ!

 あなたには僕にはないあの力もあるんだ、できるでしょ!」

 

 シンジの気持ちは痛いほどに伝わる、それでも

 

「無理…なんだ。

 そして彼女自身が一つの命として終わりを迎えること決めたからここに残っているんだ。

 確かに僕は医者だし、インフィニティの力もある。

 でも僕は神じゃない。

 彼女を、人造人間から生物学として一人の生命にするには力が…どうしても足りないんだ…。」

 

 その言葉にシンジはとうとう耐えきれず地に伏して涙をこぼす。

 ジンはシンジに語りかける。

 

「僕には生命の魂が見える。

 彼女の魂はひどく脆い、リリスの魂を受け継げていないんだ。

 だから、転生もできないかもしれない。

 だけど、君にはできることがあるはずだ。

 僕は医者で他の人の病や怪我は治せるし、戦うこともできる。

 でも、彼女の魂を救うことはできないんだ。

 だけど君にはそれができる。

 だから、自分で考え,自分で決めろ。

 自分が今、彼女に対して何ができるのかを。」

 

 顔を上げたシンジに優しく語りかける。

 

「僕が医者の見習い中にね、どうしても救えない命があった。

 当時の僕は、インパクトの影響で世界中のあらゆる知識が頭に入ってはいたんだ。

 でも知識と経験ってやつは別物でね、その患者さんが亡くなられた後にすごく思い詰めたんだ。

 もっとあぁすればよかった、ってね。

 でも当時の上司が言ってたんだ。

 後悔は、チャンスの神様の前髪を掴み損ねた愚か者のすることだよってね。

 チャンスを掴むには掴めるだけの努力が必要なのさ。

 正直僕は知識があるから慢心してなかったかと言われると否定できなくてね。

 だからそれからは、救うための自己研鑽は常にしているよ。」

 

 そう言ってシンジの肩を掴み立たせる。

 

「落ち始めた砂時計は止まらない。

 だから、君には限られた時間で彼女にできることをしてあげてほしい。

 大丈夫、ケンスケの手伝いは代わりに僕がやっとくから。

 行ってきな、僅かでも彼女を幸せにしてやるんだ。」

 

 そしてシンジはアヤナミの元へ走り出して行った。

 

 それから1週間後、ヴンダーがアスカを引き取りに着陸した。

 

「ほんとにあんたは行かないの?」

 

「ごめんよ、アスカ。

 肝心のスパークレンスも壊れてるし、どのみち光の国に行かなくちゃならないんだ。

 大丈夫、来週の作戦までにはちゃんと戻るから。

 ミサトさんにも話して了解もらってるよ。」

 

 そう話していた時、誰かが走り寄ってきた。

 制服姿のシンジだ。

 随分あわててきたのか息切れを起こして膝に手をついているので顔は見えない。

 

「はぁ、はぁ…

 

 ジン、さん

 ありがとうございました…

 おかげで彼女は、笑顔で旅立ちました。」

 

「そっか、よく頑張ったね。

 それで?

 それだけを言いにきたのかい?」

 

 ジンはシンジにアヤナミをここまで連れてきた自分の責任だと思わせないように、あえて憎まれ口を叩いた。

 

「…そんな言い方ないじゃないですか。

 本当にあなた僕なんですか?

 別にいいですけど。

 アスカ、僕も連れて行って欲しいんだ。

 何もできないかもしれないけど、決着がつくときに僕がその場から逃げているのは違うと思うんだ。

 どんな形でも、けじめをつけたい。

 アヤナミに、報いるためにも。」

 

 アスカは無表情で

 

「…そう。

 これ、規則だから。」

 

 どこからか取り出したスタンガンでシンジの意識を飛ばした。

 そして、中学生のシンジを肩にかつぐ。

 

「さて、ならアタシはこのガキシンジを連れて行くわ。

 あんたも早く来ないと、全部アタシが終わらせた後かもしれないわよ。」

 

 そう挑戦的な笑みを向ける。

 

「それならそれでいいよ。

 アスカ、間に合わせるからどうか無事でいてくれよ。」

 

 一瞬大人のシンジの懇願に間の抜けた顔を見せるアスカ、しかし

 

「あんたバカァ?

 いいわ、全部アタシがやっちゃうわよ。

 アンタは帰ってこなくていいから!」

 

 怒ったようにそっぽをむくが、口の端の笑みはこちらでも確認できた。

 そしてアスカを見送ると、

 

『いよいよですな、シンジ!

 いざ、光の国へ!』

 

 ちょうど昨日目覚めたZが大人のシンジの横に立つ。

 ウルトラマンゼロとの約束通り、光の国へ向かう日が来たのだ。

 大人のシンジはゼロから預かった銀色の円筒のスイッチを起動する。

 

 音が響くと目の前にワープゲートが現れた。

 全てに決着をつけるその日のため、大人のシンジはそのゲートを潜り抜けた。

 

 




ずいぶん久しぶりになってしまいました。
5月までには終わらせたいんですが色々あるのでどうなるやら
変わらずみていただけると喜びます
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