「うぁぁぁ!き……恐竜が校庭を練り歩いている!」
俺は思わずデカい声を出してしまった。しかしその声に気づいているのか、そうでないのか、恐竜は俺や先輩、そして先生方には目もくれず、何人かの生徒の塊を追い回していた。
どうやらコイツはあの生徒たちが目的らしい。なんだか見た感じスゲームカつく感じの奴らだけど、この入学式会場を葬式の場にさせるわけにはいかねー。
「チィッなんだってティラノサウルスが暴れてるんだよ!」
ふうま先輩が悪態をつく。しかし向かっていきはしない。どうやら様子を伺っているらしい。このままじゃあのムカつく奴ら、丸のみにされてスゲーエロい(意味深)ことになっちまうぜ!
そこで俺は仕方なく戦うことにした。あの白衣ヤローは戦闘技術は仕込んであるって言ってたけど、実戦は今回が初めてだぜ。もう気が狂う!
俺は手のひらに意識を集中させる。するとそこに魔法陣ホールができた。これは所謂ドラ〇もんのポケットみたいに、ありとあらゆるものを収納できちまう優れモノだ。そしてその穴から、俺は自分の身長ほどもある中華刀を出した。
「先輩!俺があの恐竜ヤローの気を惹くっす!その間にあの生徒達を逃がしてくださいっす!」
「?!何言ってんだよ!それは俺がやるよ!」
「鹿之助、ここは巡に任せるぞ」
「なんでだよ!一年生には無理だよ!」
上原先輩がふうま先輩に抗議の声を上げる。やはり上原先輩は優しいぜ。だが、
「上原先輩、俺は大丈夫っす。そんなにヤワじゃないっす」
今はその優しさに甘えないことにした。俺の覚悟が伝わったのか、上原先輩は
「そうか……わかったよ。じゃあ俺たちはあいつらを避難させる。だけど無理はすんじゃねぇぞ」
と言って、ふうま先輩と共に行った。
「さて……と、そんじゃやってみるか!」
俺は刀を構え、暴れ回る恐竜へと向かう。うぉ~やっぱりこぇ~(レ)!だが、逃げるわけにはいかない。先輩たちに無様な格好を見せないためにも、俺は立ち向かわなければならねぇ。
ダッシュの途中に、脳内にある中華刀の基本の扱い方をもう一度おさらいする。それを踏まえながら俺は恐竜へと切りかかる。
皮膚が哺乳類や鳥類のそれより硬いとはいえ、研ぎに研がれた中華の蛮刀の前ではあまりにも柔い。まるで豆腐のようにスパスパと切りつけられる。
しかし、「お前は皮膚が豆腐で出来てんだな、おもしれー!」などと煽っていると、いきなり恐竜が咆哮を上げた。
すると、ヤツのキズがみるみるうちに治っていき、ついには元に戻ってしまった。マジヤベーぜ!
それにもお構いなしに俺はヤツに切りかかった。しかしその時、何かが弾かれたような嫌な音が聞こえた。俺の刀が弾かれたのだ。
「なにっ」
ヤツは自身の皮膚を硬化させていやがった!ちくしょう、やられたぜ!それでも俺は諦めず、次はその装甲を貫くことにした。
そして、俺が魔法陣から対戦車ライフルを取り出したその時だった。
「兄ちゃん……なかなかやるやないか…ワシに『硬化』を使わせるとはのぅ……」
「げぇっ、ティラノが喋った!」
なんだよコイツ、ただの恐竜じゃないと思ったら喋れるのかよ!ん?まてよ?喋れる知能があるならなんで暴れたりしたんだ?
気になった俺はティラノにその理由を聞くことにしてみた。いきなり暴れだす奴だから、どうせ、しょうもない理由なんだろうけど。
「お前、なんで喋れる頭があるのに暴れてたんだ?」
「それはバリクソ単純な理由や。ワシが追いかけとったアイツら、アレがワシの家のことをな、愚弄しやがったんや」
なんだよ、結局あのムカつく奴らが元凶だったんじゃねぇか!全然しょうもなくねーじゃん!別にコイツを切り刻む必要なかったじゃん!
「なんか……悪かったな、いきなり切りつけて」
俺は滅茶苦茶罪悪感を覚えて、とりあえず謝った。しかし、この恐竜は意外とあっけらかんとした態度で、
「別に謝ることないやろ、いきなり暴れたワシも悪いしな!」と言った。
「け…けどよ、痛むんじゃないのか?その傷」
「いいや大丈夫や、兄ちゃんもワシを止める為に体張ってくれたんやろ?」
滅茶苦茶いい人?じゃん!何だか俺はマジ申し訳なくなってきた。すると、ムカつく集団を避難させていた先輩たちが戻ってきた。
「巡!大丈夫だったか!?」
「ウッス!俺はマジ頑丈なんで!」
「まさか本当に無事だったとはな……」
先輩たちも俺のことを気遣ってくれてマジヤベー!優しさのサンドイッチだぜ!そんなしょうもない冗談を考えていると、ふうま先輩が恐竜に話しかけた。
「すまなかったな、お前がまさか愚弄されて暴れていたとは」
「いやぁ、ほんまお見苦しい姿を見せてしまいましたわ、ふうまさん」
おや?二人は知り合いなのか?なんだか親しげだな。
「ああ、コイツは寺野一族の跡継ぎ、
「まさかふうまさんがおるとは思わんかったのぅ、もうちょい落ち着きを持たないかんなぁ」
「そうだな、お前ももう15歳になるからな」
こいつこの話し方と風貌で俺の(俺は戸籍上とは言え)同い年かよ!なんか関西のオッサンみてぇな話し方だな。しかし、この姿だと任務どころか、日常生活も目立ってしょうがねぇんじゃないかと考え、少し質問することにしてみた。
「寺野さん、あんたその恰好じゃ大分こう……目立つんじゃねぇか?」
「いや、流石にいつもこんな姿な訳ないやろ!ワシはもっとイケメンでプリチーなルックスしとるんやぞ!今本当の姿を見せたるわい!」
「ええ~?本当か~?」
かなり怪しいな……ってちょっと待て!こいつ「本当の姿を見せる」って言ったな?
「お前、まさか……」
「ああ、そのまさかや、今の
寺野がそう言うと、ヤツの体が縮み始めた。
「ワシのイケイケなカッコ見てたまげるなよ……」
ヤツの体が大柄な人程度になると、今度は人間のように体を直立した。そして、ムチムチとして大振りだった足が体に見合ったサイズになると、今度は逆にとても小さくて、細かった腕がパンプアップし、ガッシリとした腕に仕上がった。
「これがワシのほんまのハンサム顔や」
なるほど確かに、体は中々のものだ。しかし……ヤツが誇るその顔は、小型になったティラノサウルスそのものだった。