「このまま、終わらせるわけにはいかないっ!」
彼女の魂を瓦解せぬよう固定し、私の部屋まで転送する準備をする。
人間は死んだ時、三つの選択肢に迫られる。
生命活動を終えた肉体からは魂が抜け、生前自分が居た場所を漂い揺蕩う。
その魂が閻魔殿の下へ向かうか、特定の場所に漂着するか、漂ったまま霧散するかの……三つの選択肢。
どれを選ぶかは死者次第だ。
自分に悔いがあれば閻魔殿の裁判所へ、他者に恨みがあれば世界に執着し留まる。
彼女は善人である、閻魔殿へと運ばれればいくつかの仕事をしてすぐにまた生まれ変わることができるだろうが、自分に悔いが残っているようには見えなかった……この選択はしないだろう。
彼女は篤行の人である、特定の場所に漂着する者はその地に縛られるその魂は、穢れはするが消えはしない、だが、他者に恨みを持っているようには思えなかったきっと彼女は……この選択も取らない。
漂流し霧散する者は自分にも悔いがなく、他者にも恨みがない人間だ。
彼女が死の瀬戸際で見せた表情はまぶたの裏に焼き付いている。
自分の行動になんの後悔もなく、銃弾を放った人間に対して憎しみも怒りもなかった。
死の沼へ沈みゆく時見せたあの微笑みが、それを証明している。
このままでは彼女の魂が消えてしまう。
あの少女は今日まで、家族のために身を粉にして頑張ってきたんだ。
その終着点がこれだなんて、そんなことは認められない……。
閻魔殿へコールする。
忙しいお方だ、出てくれるかどうかはわからないけれど。
《おぉ、どうした。君が話しかけてくるなんて珍しいではないか、何かあったのか?》
よかった……通じた。
「大事な話があるんです、お時間頂けますか?」
《……わかった、時間を作っておく。だが早めに来てくれるとありがたい、なにせ儂の目の前には
すぐ行きます、と返事をして切り、足早に閻魔殿の法廷へと向かう。
私はきっと間違ったことをしている。
私の仕事は人間たちの運命の糸をただすことである。
その糸が他者の糸と紡がれずに絡まればそれを解き、解けぬようであれば運命の糸を切る。
絡まった運命の糸を切る時に間違えて他の糸を切ってしまった場合に限り、間違えて死なせてしまったその者へ特別な措置が講じられる。
だが今回、彼女は自分の運命のままその人生の幕を閉じた。
少女の糸は
本来であれば私の仕事の範疇を外れる、越権行為である。
厳しい罰が待っていることだろう、同僚と一緒に地獄を巡ることになるかもしれない。
「でも……それでも……彼女の努力の結果がこれだとは、思いたくないっ……」
彼女を助ける、その覚悟はできている。
いつのまにか閻魔殿の職場、法廷の前まで着いていた。
何回かここに来たことはあるが、こんなに近いと思ったことは初めてである。
どでかい木製の扉をノックして了承を頂いてから法廷へ入る。
「テレパスで喋るのも久しぶりであったが、顔を見るのはさらに久しぶりだ。君がノックして入るなんて驚いたぞ、ここに来るときはいつも無遠慮に扉を開け放つものだからな、違う者が来たかと身構えてしまった」
「小言を頂くためにわざわざこんな辛気臭いところへ来たのではありません、話をしてもよろしいでしょうか?」
「かっはっは! そうだ、君はそうでないとな」
体長は三メートルをゆうに超す偉丈夫、厳つい顔、手には笏を持ちペン回しのようにくるくると回転させ手慰みに興じている。
「して、何用でここまで足を運んだのだ? 随分と焦っているようにも聞こえたが」
生唾をごくりと飲み込み、意を決して口を開く。
「私の管轄でつい先ほど、天命を全うした人間がございます。その者を……輪廻の理から外し、転生して頂きたくここまで参りました」
閻魔殿は深くため息を吐いて数秒頭を垂れたが、じきに頭を上げて面倒な様子を隠そうともせず口を開いた。
「……詳しく話せ」
*******
「あれ、私……えっ」
「起きたか、よかったよかった。失敗してたらどうしようと思ったぞ。大丈夫か? 意識ははっきりしているか?」
全面白に染まった部屋で彼女はいる。
この部屋は客間ともいえるような場所、私がいつも仕事をこなしている執務室とは違うものだ。
人間を天上の世界へ呼んでおいて、書類が雑多に置かれた人間味に溢れている部屋を見せるわけにはいかない、沽券に係わる。
「は、はい……大丈夫、です。私はえっと、たしか銀行で……」
自分で辿るように想起したのだろう、銀行というワードが出た途端に表情が暗くなった。
「……そうだ、憶えてくれていてよかった。一から事情を話すと大変だからな、無駄な時間を費やすことにならずに済んだ」
そう、時間を浪費することはできないのだ。
本来であれば、生者死者生身魂魄問わず、人間をこの天界へ召くには正式な手続きを踏まなければいけない。
しかし間違えて運命の糸を切ってしまったなどの非常事態ではなく、死ぬ定めのもとで若い命を散らした彼女をここに呼ぶなんてもっての外、普通なら申請を出したところで受理されるわけがないのだ。
そんな道理は通らない。
だから無理を通した。
今彼女がここに存在するのは閻魔殿に必死に助力を嘆願し、なんとか叶っただけであって綱渡りもいいところだ。
この天界には閻魔殿の他にも偉い方たちはいる、そのお歴々にバレたらどうなるかは想像もしたくない。
なんとか閻魔殿の権限と人徳でわずかながら時間を設けることができたのだ、その時間を無駄に使うことは許されない。
やっと会えた彼女とゆっくりお喋りしたい気持ちはたしかにあるが、胸に蟠るこの感情は押し殺した。
ここで残された時間を食いつぶしてバレてしまったら、彼女は幸せになれないのだから。
「端的に言う、君は死んだ」
「死……やっぱり死んだんですね、私……。それもそうですよね、あの状況で助かるとは思えませんし……。ならここは天国で、あなたは神様ですか?」
や、やけにあっさり受け入れたな……泣き喚いたりするものかと思っていたが。
まだ頭の中で整理できていないだけかもしれない。
「訊いてくれてありがとう、自分で言うのは憚られたので助かった。私の役職は君の想像通りだ。
そしてここは天界という場所、死んだ者は
「はぁ……天界……」
さすがにここへ送られた人に向かって一言目に『私が神である!』とは私には言えなかった。
なにも証明するものがないのだから疑われたらどうしようもない、自称神とか避けたかったのだ。
話が逸れてはいけない、連絡事項を速やかに伝えなければ。
一つ咳払いを挟んで話を続ける。
「君は死んだが生前の善行を考慮し、特別措置を講じた。君は、違う世界へ転生するのだ」
「転生……違う世界で、ですか? 世界がいくつもある、ということですね。…………あのっ……元の世界で生まれ変わったりは、できないんですか……? 決して文句が言いたいというわけではっ……ないん、ですけど……」
「…………」
苦悩の表情やか細い声音から、家族のことを心配していることは手に取るようにわかる。
母親のこと、妹たちのこと、家のこと、心配の種を多く持つ子だから。
「すまないが……それはできない。そういう決まりになっている」
「そう、ですか……。えへへ、無理を言ってしまってすいません」
無理に笑顔を張り付けて私に向ける、その顔が見ていてとても……つらかった。
彼女の心を少しでも軽くしてあげたい。
意識しないうちに口が勝手に言葉を紡いだ。
「先も言ったが君は生前善い行いをしてきた。私はそれに報いるため君の願いをひ……いや、二つ叶えよう。『元の世界へ生まれ変わる』という願いは叶えてやれないが、それ以外なら何でもいいぞ」
悲しい顔をしないでほしい、その想いだけで無茶なこと言ってしまった。
当然私には行く先の世界を改変するような権限はないので、土下座でも何でもして閻魔殿のつてやコネを頼らせてもらうしかない。
あぁ、借りがどんどん積み重なっていく……。
内心の焦りは表に出さず、無表情のまま彼女の言葉を待つ。
「願い、ですか……。それなら……裕福にしてほしいです」
「それが一つ目でいいんだな?」
「はいっ」
そうだよな、前の世界では生活に困窮していた。
次の人生は豊かに暮らしたいと思うのも仕方ないというものか。
「私の家は、父が借金を作って家を出てしまって……。母はその返済のために無理をし過ぎて身体を壊してしまい、私がバイトをしてなんとか回っているような状態でした。私が死ん……いなくなると食べるものにも困るかもしれません。なので
「なっ……君はっ……こ、これから転生する世界での願いでも構わないんだぞ?」
言葉を失いかけた。
もしかして以前の世界についての願いしか叶えられない、などと勘違いしているのではと思い確認する。
「前の世界ではだめなんですか?」
「い、いや……だめというわけではないが……」
「それならさっきのお願いで大丈夫ですっ。よかったぁ。あと一つはどうしようかなぁ……」
自分のことより家族の方が優先順位が高いなんて、この子の優しさはもはや……病気だ。
私はもう少し……自信の身を大事にしてほしい。
思えばこの子が生きていた時の生活だって無理があった。
睡眠時間は限りなく短く、母親の代わりに家事をこなし、勉学にも精を出し、家が貧しいためバイトもかけ持つ。
銀行強盗の件がなくともいずれ、彼女はその命をすり減らしていたことだろう。
「あの……二つ目のお願いなんですけど、いいですか?」
「あ、ああ。言ってくれ」
彼女について考えていて反応が遅れてしまった。
既に何度か私に尋ねていたようだ、私の目の前で手をふらふらと振っている。
彼女がとても近くまで寄ってきていて驚いたが、なんとか言葉を返した。
彼女は言うか言うまいか悩むように口を開閉させ数瞬目を泳がせたが、ゆっくり深呼吸することで落ち着いたのか、しっかりと私の目を貫くように真っ直ぐ見て、言った。
「前の世界で私がいた痕跡、すべて消してもらえますか?」
絶句、言葉どころか息すら口からでなかった。
目を見開く私の視線から逃げるように、彼女は下を向いた。
「な……なん、で……。それは記憶を消すなんて……ものじゃない。家族からも、学校の友だちからも、世界からも……忘れ去られるっ。君がっ……いなかったことになるんだぞっ!」
彼女が目を逸らし、私が言葉を発するまで数秒を要した。
最初は掠れたままに絞り出し、だが徐々に力が入り、最後は感情が爆発するように叫んだ。
わからない、私にはこの少女が何を考えているのか全くわからない。
自分の身を犠牲にして、自分の心を犠牲にして、いったい何が残るんだ。
「私の母は……身体を壊してからは、心まで弱くなってしまいました……」
ぽつりぽつりと呟くような声で、ゆっくり語り始める。
「私が……死んだことを知ったら、母は心まで壊れてしまいます。妹たちも……とても悲しむでしょう。私を撃った人も罪を抱えることにもなってしまいます……。えへへ、正直……つらいなぁって思ったこともありますよ? 周囲の人はみんな優しくしてくれましたし、母は私を愛情を持って育ててくれました……っ、妹っ……たちも、私を手伝って、くれるし……可愛かった……っ。……死にたく、なかっ……でも、仕方ない……なら……せめてっ……せめ、て……」
家族には幸せになってほしい――と、黒水晶の瞳を涙に濡らし嗚咽を押し殺して彼女は言った。
つらい時、苦しい時もあっただろう。
聖人じゃないんだ、『やってられるか』と投げ出したくなる時もあっただろう。
でも、彼女は最後の最後、この天界の地ですら家族を想い、家族のために願った。
それが彼女の、心の底からの偽りのない本音。
「私はっ、君に……っ。……君の願いは聞き届けた、必ず叶えてみせる」
『家族を裕福にして』
『前の世界から痕跡を完全に消して』
この子の願いがその二つであるのなら、その願いを叶えよう。
それがこの少女の幸せに繋がるのなら、私はその願いを引き受けよう。
…………私は何を考えているんだ……よかったじゃないか、彼女の願いは私にとっても都合がいい。
少女がいた世界の運命をちょっといじくるくらいなら閻魔殿に頼む必要もない、自分の管轄でできるのだから。
……そうだ、だからきっと、この気持ちは間違っている。
そろそろ時間が迫ってきた、名残惜しいが彼女を新たな世界へと連れて行かねば。
「っ。……ねぇ、神様」
声をかけようとしたが逆に話しかけられてしまった。
「なんだ? 訊きたい事でもあるのか? 手短に頼むぞ、時間がないんだ」
私の注文にこくりと頷く。
頭に連れられて艶のある髪がふわりと踊る。
「やっぱり神様は……優しいんですね、私の為ですか?」
「ん? なにがだ?」
抽象的すぎてさっぱりわからない。
私は神ではあるけれど全知全能というわけではないのだ、彼女の心の中までは把握できない。
首を傾げて尋ねたら、目の前の少女は近かった距離をさらに詰め、私の頬へと白磁のように白く細い手を伸ばした。
「この涙は、私の為に流してくれたんですか?」
目元を白魚のような指が触れ、胸元まで右手が引かれる。
その指には水滴がついていた。
「っ!」
自分で頬を触れて確認――濡れている。
気づかないうちに涙が溢れていた、私は……泣いていた。
「私を心配してくれた……のでしょうか? えへへ、思い違いなら恥ずかしいですけど」
私の涙を乗せた右手を左手で包み込み、口癖なのかまた『えへへ』と照れ臭そうに笑う。
周りは部屋のお陰で白く輝き、両手を胸元で組んで微笑む慈悲深い彼女は、まるで聖母のようだった。
「なんでっ、私はっ……っ」
一度自覚してしまうともう止まらない、決壊した堤防のように次から次へと涙が溢れる。
「私は大丈夫ですよ、次の世界でもしっかり頑張れますから」
その言葉が鼓膜を震わせた瞬間、私は咄嗟に目の前の華奢な少女を抱きしめた。
伝えよう、伝えないときっと彼女はまた自ら苦労を背負うから、間違っているとしても私の気持ちを。
「わ、私はっ! 私は、君に幸せになって……っ、ほしいんだっ……。誰かの為とかじゃない、自分のために頑張って……そして幸せになってほしいっ……」
涙は止まらず、言葉も止まらない。
彼女は突然抱き付かれて驚いた様子を見せたが、ゆっくりと私の背中に手を回す。
私の涙は彼女の肩を濡らしていく。
「君は前の世界でっ、いっぱい……苦労したんだ。やりたいこともできずに……自由な時間も作れずに、だから次の世界ではっ……自分の為に生きて……」
「うん……ありがとうございます、神様。こんなにたくさんの温もりと想い、ありがとうございます……。でもね、私の人生は大変だったけど……それでもいやだなんて思わなかったんですよ? そこだけ訂正しておきますっ。だから次の人生も、自分の好きなように生きていきます。……でも神様に注意されたのでちょっとだけ、今までより自由に生きてみようとも思います……」
身体を少しだけ離し、お互いの額を合わせる。
彼女の瞳はウサギのように真っ赤に充血してしまっている、きっと私の目を同じように赤く染まっていることだろう。
「そろそろ行かなくちゃいけない時間、なのでしょうか?」
「何を……っ!」
私が言おうと思っていたことを取られてしまった。
なぜ彼女がそれを言うのだろうと思い、視線を追って目を向けると……彼女の足が半透明になっていた。
ゆるやかに、とは言い難いスピードで透明化が進んでいる。
タイムリミットだったのだ。
恐らく閻魔殿が彼女の新たな世界への転生を実行したのだろう。
もうなにをしても彼女の転生を止めることはできない。
邪魔をされない、という点では安心すべきなのに、私の心は鉛の塊でも括り付けられたように重い。
私は……彼女と離れたくなかったのだ。
「神様……優しい神様。お別れの言葉を言わせてください」
「だめだ……っ、行かないで、くれっ……」
彼女の心残りにならないような言葉を言おう、言わなきゃ、と心では思っているのに、口を突いて出るのは自分の本音、汚い本性。
膝を完全に消し、大腿部に差し掛かった。
「あの時、銀行で撃たれて……床に倒れた時ね、私怖かったんです。死にたくないって思いました。でも徐々に寒くなって視界が暗くなって、あぁ……死んじゃうんだって実感して、もう終わりなんだって諦めそうになった時、温かい光に包まれて、気がついたらここにいました。あの光は神様の光だったんですね、とっても安心できたんですよ?」
「やめろ……言うなっ……」
強く抱き締める、彼女が苦しいかもしれないなんて考えていられなかった。
ただ、行かないでくれと、我儘をぶつけることしかできない。
もう下半身は完全に透明になり、風景と同化していた。
「この白い部屋で神様にあったとき、こんなに無愛想なのに神様なんだぁ、とか私思ってたんです。今のうちに謝っておきますね、えへへ、ごめんなさい。でも神様って無愛想そうに見せてますけど、結構顔に出るんですね。それ見て、きっと素直な人……人じゃないや、神様だもんね。素直な神様なんだなぁって和んじゃいました」
「……っ」
もう喉が震えて言葉すら出てこなかった。
だから行動で示した、私の気持ちが伝わるように。
胸の上まで消えていく、彼女の重みも……薄くなっていく。
「神様、神様のおかげで私は、次の世界を楽しみに思うことができました。ありが、とうっ……ありがとうございますっ」
腕が、私の背中にまわされていた彼女の腕が消えていく。
「いつかまた会えることを祈っています……だからっ……『また会いましょうね』」
彼女の首も、綺麗な漆黒の髪も一本一本透き通るように空気に溶ける。
温もりも、吐息も、香りも……消えてなくなっていく。
伝えよう、私が……押し殺して、押し留めていたこの気持ちを。
「わたしは……っ、きみが……すきだっ……」
「……っ! あ、ありがとう……ございますっ。私も……私も好きですっ……綺麗で可愛い、私の
*******
「ずいぶんと危険な行為の片棒を担がされたものだよ」
閻魔殿は書類にまみれた執務用のテーブルに肘をついて、不機嫌そうに私を見る。
お偉いさん――閻魔殿にとっては同じくらいの階級だが――たちに感づかれないように気を張っていたのだろう、いやはや、当分頭が上がりそうにない。
その上かなりの時間待たせてしまった、機嫌が悪くなるのも無理はないか。
「ありがとうございました、なんとお礼を言えばいいか……」
「かなり気を揉んだんだ。どんな文句を言ってやろうかと考えながら君が来るのを待っていたが、そんな顔ではさすがに言えんな。気分はどうだ?」
恩はあるとはいえ意地の悪いおっさんだ。
私の顔を見て文句は言えないなどと抜かしておきながら、しっかり傷を抉ろうとしてくる。
気分だと? そんなもん決まっているだろう。
「最高ですよ、やっぱりやってよかったです」
「……せめて顔を拭いてから言わんかい」
閻魔殿は席を立ち、桐箪笥からタオルを取り出しこちらに放る。
顔に似合わず準備良いですね。
「あんがとごじゃます」
「拭きながら感謝するなよ、一応君は儂の部下だろう。まぁ細かいことは言わんさ、君が働き始める一番最初からの付き合いだしな」
「そういえばそうですね。そして知り合った時は閻魔殿の一人称は『俺』でした。なんなんですか? 言葉使いから箔でもつけようと思ったんですか?」
「君の可愛げもその時あたりから消滅したな、顔は可愛いのに中身はおっさんと巷で話題だ」
ちっ、口の減らないおっさんだ。
傷心中の私を労わろうとは微塵も思わない様子で逆に安心です。
「……さぁ、もういいだろう、事後処理を始めるぞ」
「はい……」
さっきまでとは表情を一変させ真剣そのものといった風になる。
人相の悪さも相まって迫力が半端なものではない。
これまでの掛け合いは落ち込んでいる私を励ますためのもの、仕事の話はそれとは別だ。
両肘をテーブルにのせ手を組み、顎を手の上に乗せ、地獄の底から響いているような低い声で私へ詰問する。
「幸運にも他の奴らにバレんかったとはいえ、今回かなりの無茶を通した。……いくつ規則を破ったか分かっているか?」
「さ、三十ほどでしょうか?」
真面目モードでは逆らえない。
基本的に私と閻魔殿は格が違うのだ、本来ならばこうして話すこともできないほど隔たりがある。
ましてや頼み事など言語道断、首が飛んでもおかしくない。
「馬鹿者、百を超えた。彼奴らに察知されたら儂の立場も危ういほどのもんだ」
「うっ、あぅ……なんと言えばよいか……」
この天界は人間を統べていると表現しても過言ではない領域である。
人間が命も我々の仕事に左右されるとなれば必然、そこには責任がついてまわる。
だからこそ、多岐にわたって厳格かつ細分化された規則があるのだ。
日頃から軽度な規則は違反していたけれど、まさか大台を突破するとは……。
「今回の一件は儂と儂が信頼している者と君しか知らん事だ。だがな、君にばかり優遇してはいられない。他のもんに示しがつかん。よって君には重い罰を受けてもらうことになった」
……まぁ、仕方ない、予想はしていたんだ。
昵懇の間柄とはいえ、閻魔殿にも体裁はある。
公平でなければいけない立場にいるのだから、誰か一人に肩入れなどしてはいけない。
本当なら私のお願いを聞くのでさえいけないことなのに、リスクを背負って助けてくれた。
処罰を科せられるのは当然、甘んじて受けよう。
「……覚悟はしています。なんでも、なんなりと」
決然と言い放つ。
最後、彼女は笑ってくれた……それだけで私にはもう、欠片も悔いはない。
彼女の輝くような笑顔を思い出せば、私はどんな苦行にも耐えられる……なんだってできるさ。
「君の罰は――――」
・転生させる神様にも思う所はある。
・転生する人間にも思う所はある。
・アイマスに出てくる子は良い子ばかりなので転生する子も良い子なんだってことを表現したかった。
後書きで説明しなければ伝わらないような想いを作品に込めてどうすんの、と自分の頭に疑問を抱きます。
なぜこうなったのでしょう。
今となってはプロローグいらなかったかもなぁと、八割くらい思っています、反省です。
残りの二割くらいは必要だと思っていますが。
次からはのほほんとした話になる予定です。
『なんだよこれ、どこがアイマスだよ』と心の中で罵った、もしくは口に出した方もいるでしょう。
まさしくその通りで返す言葉もございません、すいません。
これから頑張りますので、見捨てずに『見てやってもいいかな』と思う方はよろしくお願いします。