「……このエロガキめ」
「もうやめてよぉ!」
「は、
「
「にっ……妊婦……」
「にゃあぁっ! なんでそこまでわかるのっ!」
「お前の兄だからだ」
今は防音室から移動し、二階のリビングのソファに身体を預けながら杳子の爆弾発言をいじっている。
どうやら腹式呼吸の練習をしているところを見て勘違いし、私たちの話し声を聞いて間違った方向に確信をもったらしい。
さすが中学二年生、思春期である。
私が仰向けに寝転がっていたのは、そのほうが腹式呼吸を実感しやすいから。
一部例外もあるらしいが、人間は寝た状態では胸式呼吸はやりづらく、勝手に腹式呼吸になるらしい。
千早が私の上に跨っていたのは腹式呼吸をレクチャーするため。
レクチャーするのに乗っかる必要があったのかは甚だ疑問ではあるが、そのおかげで腹式呼吸の感覚を掴めたのだからなにも文句は言えなかった。
「…………兄」
千早がソファの上で居心地悪そうに足をぴったりと閉じ、肩を竦めて身を縮こまらせながらぽつりと呟いた。
私はソファの前にある足の短いテーブルに置いている、お茶の入ったコップを口に運びながら千早を見る。
「どうしたんだ、千早。そんなに杳子の妄想が不快だったか?」
「ハル姉もうやめてよっ!」
「また呼び方が変わっているぞ。さっきも呼んでいた『
「あれはちょっと……頭の中がぐちゃぐちゃだったから、つい言っちゃっただけだもん」
「……遥はっ!」
珍しく大きな声で千早が割って入る。
千早の隣に座る私も、私の前で正座している杳子も千早へ視線を向けた。
「遥は、男の子……だったの?」
手を胸元にやる千早。
俯いているせいで顔に影ができていて、表情は読めなかった。
正面で正座を崩し始めている杳子が高さの関係で上目遣いになりながら私をじとっ、と見てくる。
まるで咎めるような目だ。
「……ハル姉」
「な、なんだ、私が悪いのか? いや、私のせいではないだろう。制服だって男子用のものを着ているんだ。私服ならまだしも、勘違いする余地などないぞ」
「ハル姉の見た目で、変声期に全力スルーされたその声じゃあ、みんな女の子だと思っちゃうよ。
「まだ反省が足りてないのか」
「にゃあぁっ!」
お仕置きしようと右腕を伸ばしたら、杳子は頭を守るように抱えてうずくまった。
猫のような声をあげて大げさなリアクションをする杳子が見たくて、お仕置きをしていると言ってもいい。
杳子の頭へとロックオンした私の右腕を、千早の細い手が掴む。
体温の差からひやりとした。
千早は腕を掴んで杳子へのお仕置きを止めると、すぐに手を引っ込める。
「か、勘違いした私が悪いのよ。いくら私たちの高校では女子生徒でもスラックスを
「…………え。女子もズボンあるのか?」
「ええ。スカートだと冬は寒いし、盗撮とかの恐れもあるから制服は自由に選べるのよ。たしか……『性別と服装の固定観念にとらわれない校風』とかって触れ込みで学校紹介のパンフレットにも載っていたわ。だから校則にも男子はスラックス、女子はスカートでなければいけないとの表記はないのよ。私のクラスにも何人かいたから……てっきり遥もスカートが嫌いな女の子なのかと……」
「…………」
「これはハル姉の全面的な敗北だねっ! You,さっさと謝っちゃいなyo!」
「たしかに言っておくべきだったのかも……しれない。勘違いされやすい外見というのは重々承知していたんだからな」
「にゅあぁう!
自分の立場も忘れて調子に乗った杳子には制裁を加えておいた。
まさか女子でもズボンでOKだったなんて……たまに学校の廊下とかで男子用の制服を着た女みたいな顔の生徒がいるなぁ、と思っていたけど……まさかあれらは女子生徒だったのか。
私のような女顔の男かと思っていた。
……学校外ではともかく、校内なら制服で性別の判断がなされるだろうと思い込んでいた私も何割か悪い。
今回の件、個人的にはいっさい納得できないが客観的に鑑みると責任の所在は私にもあるか。
基本、そう簡単に人に頭を下げることをしない私であるが、自分に非がある時は素直に謝るのだ。
それくらいの器量はこの私にもある。
万年下っ端だったがこれでも元神さまだ、そのくらいの懐の深さは持っている。
「ひゃぅっ」
杳子の鼻をつまんでいた右手をぷんっ、としながら離し、右隣に座る千早へ向き直って首の骨を軋ませながら頭を下げる。
「私のせいではないとはいえ、誤解させて……す、すぁ……すみゃ、すまな、かった」
「ハル姉、謝るのに慣れてなさすぎだよぉ……。しかも微妙に認めてないし」
「い、いいのよっ。勝手に勘違いした私が悪いんだし……」
許しを貰った瞬間頭を上げて、いつまでも改めようとしない杳子の頭の両側をわしっ、と掴んで左右に揺さぶる。
猫のようににゃあにゃあと悲鳴を上げるのでこれがまた楽しいのだ。
杳子と攻防を繰り広げていると『それよりも』と千早が続けた。
二人そろって千早を見る。
千早はスカートに皺が残ってしまうくらいに握って、恥ずかしそうに赤面して目線を逸らしつつも、ちらちらとこちらを盗み見た。
意を決して口を開いて、躊躇するようにまた閉じて、息を吸って、また吐いて。
何度か繰り返し、その何度目かでやっと言葉にした。
「性別すら間違えてしまった私だけど……これからも、友達でいて……もらえる、かしら?」
ふるふると震える手でスカートの端を握りしめ、少し首を傾けて顔色を窺い見るようにこちらを見る千早はまるで親を待つ子犬のようで……とても愛らしかった。
「……可愛い」
「どうしよぉ! この人かわいーよハル姉っ! ヨーコのキャラとカブっちゃうよ!」
「千早が可愛いのは事実だが、それだけは未来永劫ありはしないから安心しといていい」
「~っ」
私と杳子のあまりにもあんまりな反応に、千早は白い肌を赤く染めてさらに俯いてしまった。
さらさらとした細やかダークブルーの髪が顔を覆い隠す。
濃い青色の髪と、顔を下げたせいで見える仄かに赤らむうなじ。
そのコントラストが心臓の鼓動を強くした。
視界の端が白くぼやけた気がして一度視線を天井に向け、深く息を吸って、吐く。
千早に教えてもらった腹式呼吸で深呼吸すると、気のせいかいつもより落ち着けた気がした。
俯いたままでこちらを見ようともしない千早の手を握り、もう片方の手は顔に添えて強引に視線を合わせる。
こんなことを今さら言わなくてもわかりそうなものだが、この子にはちゃんと言葉にしないと伝わらないようだ。
ならばこそはっきりと、誤解の余地なくまっすぐに、その瞳を見て答えよう。
「後悔するなよ。嫌だ、と言って突っぱねても千早の席は私の隣だ。友達だからな」
「ひゃぁ……。ハル姉だいたーん……」
「は……遥っ……」
慣れないことはするものではない、無理して格好つけたせいで私も顔が熱くなってきた。
なにやら妙な雰囲気になるし、お互い顔は近いせいもあってまるでサクランボのようになっている。
私だけではここからどうすればいいかわからずあたふたしていたしていただろうが、この場にはもう一人いるのだ。
良い意味でも悪い意味でも空気を読まない女の子。
橘家次女、橘杳子はここにいる。
「ヨーコも千早さんとお友達になるーっ!」
天真爛漫で天衣無縫。
無邪気に陽気で能天気な杳子が無意味に大きな声を出しながら、私と千早に抱きついてきた。
身長に大差がないため私一人では杳子を受け止めきれないし、千早のか細い腕では抵抗できなかったようだ。
天の采配か、それとも単にソファの耐久値の限界だったのか、杳子が飛び込んできた時にソファの背もたれから、がきっ、という不安な音が発せられた。
なんの音だろうと思う間もなく、ソファのリクライニングが働いて飛び込んだ杳子を筆頭に三人全員後ろに倒れ込む。
左が千早、真ん中が杳子で右が私、歪な川の字の出来上がりだった。
「にゃはは、ごめんなさいっ」
「こんのあほ杳子……」
「ふふっ、とても可愛い妹さんね。如月千早です、よろしくね」
「千早がいいなら私はそれでいいけど」
「うんっ! よろしくねっ、ちーちゃん!」
「ち、ちーちゃん……」
「よし、杳子。懺悔は済ませたか? 遺言は
「ち、ちがっ! ハル姉、これはちょっとしたジョーク……ぎにゃあぁっ!」
こうして私と千早は誤解と性別の壁を乗り越え、また一つ仲良くなることができた。
ついでに千早と杳子も仲良くなることができたようだ。
正直、家族にはできるだけ会わせたくなかったのだが……こうなってしまったら仕方がない。
杳子に気に入られてしまったらだいぶ苦労すると思うが、そのあたりは千早に頑張ってもらうとしよう。
*******
「ねぇねぇ。ちー
「え、なんでって……?」
「また杳子がわけのわからないことを言いだしたか」
リクライニング機能が悲鳴を上げたのでソファに休みを与えるという意味も兼ねて、ソファから腰を下ろして今はカーペットに
お茶を飲み干してしまったのでコップには各々のリクエストの飲み物が注がれている。
杳子の目の前には自身の髪のように鮮やかな色をしたレモネード。
定期的に箱単位で購入している杳子のお気に入り。
粉末を自分好みの分量で溶かすタイプのもので、杳子は少し濃い目が好きなようだ。
千早のオーダーはコーヒーだったので、彼方姉さんの趣味で取り揃えているコーヒーの一つ、モカ・マタリを用意した。
苦みや酸味は抑えられており、コーヒー本来の深みと甘みが一つになった品種。
時々淹れ方を教わっているとはいえ、さすがにブレンドまでは勉強の手が回っていないのでストレートだ。
ちなみに私はコーヒーならブルーマウンテンかスプレモが好み。
ブルーマウンテンは苦みが丸くて甘みを感じやすく、酸味もほのかなものでとてもおいしいのだけど高価だそうだ。
スプレモは酸味に棘がなく、甘い香りで鼻からも楽しませてくれてクセがなく飲みやすいのだけど、こちらも値段はお高めらしい。
どうやら私は酸味の強いものは苦手で、お高い品が好みのようだ。
コーヒーについて姉さんから聞いただけの付け焼刃の知識をさんざ語ったが、私の目の前にあるのは煎茶である。
このあたりもきっと、和風を愛する父様の影響だ。
杳子についてだが、さすがに年上相手に『ちーちゃん』と呼ぶのは失礼極まるので改めさせた結果、『ちー姉』に落ち着いた。
杳子は何人姉を作る気なのか……いや、私は男だが。
私は『ちー姉』という愛称も(私が言うのもなんだが)馴れ馴れしくてどうかと思ったのだが、千早が顔を綻ばせて杳子の頭をなでなでしていたので言及できなかった。
その千早は杳子のことをどう呼べばいいか迷っていたようだが、結局『杳子ちゃん』が一番しっくりきたようだ。
「そんなにおかしいかなぁ? ちー姉が歌うの好きなのはお話聞いててわかるんだけど、好きだからってそんなにいっぱいがんばれる? ヨーコは目標とかがないとやる気でないもん。テスト前じゃないと勉強できないよ。それとおんなじじゃない?」
「んむ……。んん……」
「…………」
あまり物を深く考えていないように、まさしくなんとなしに思ったことを言ってみたという口調で、屈託なく笑いながら杳子は言った。
コップにさしていたストローを咥えながらテーブルに体重を預け、のぺっとしながら脱力する。
私はすぐには言い返すことができなかった。
杳子の言うことにも一理あったからだ。
目指すべき場所があるからこそ人は頑張れる。
憧れるものがあるからこそ人は努力するのだ。
野球部員が日夜泥まみれになりながら、血反吐を吐くほどグラウンドで練習するのは甲子園という目標があるからだし、吹奏楽部員が最終下校時間ぎりぎりまで、太陽が沈み空が暗くなるまで研鑽を積んでいるのはコンクールを控えているからだ。
理由なしに人は必死になれない……他のものを切り捨ててまで一つのことに時間も労力も費やすことはできない。
その理屈に則れば千早はたしかに異端と言える。
『歌を……歌いたかった。ただそれだけ』
学校からの帰り道、私の家に来る時の道すがらに見せた千早の決意を秘めた表情を、言葉を、ふと思い出した。
「小さい時に……
千早はコップを両手で持って、砂糖もクリームもいれていない真っ黒なコーヒーをぼんやりと眺めた。
それは表情から一切の色が失われたようにも見えたし、今にも泣きそうな悲愴な面持ちにも見える。
私はかける言葉を失った。
人一倍感情の機微に鈍いと自負する私でも、なにか大きく重たいものを抱えていると感じ取れてしまったからだ。
一度黙り込んでしまったら再び話し始めるのに苦労するとはわかっていても、喉から先へと発声されることはない。
気まずい沈黙に包まれると覚悟したが、この中で口を開く人間がただ一人いた。
「それは家の人に褒めてもらえてうれしかったから、今も歌ってるってこと?」
「…………そうね。端的に言えばそういうことになるかしら。褒めてもらえて、喜んでもらえて嬉しかったから今も歌っているのだと思うわ」
「目指してるものとかはないの? たとえば歌手になりたい~、とか」
「……あんまり考えたことはなかったわね、そういえば。ただただ歌いたいっていう気持ちばかりが先に走っているから」
「すごいなぁ~。よく、え~っと……もちべーそん? 続くねっ」
「ふふっ、モチベーションと言いたいのかしら? でもやっぱりトレーニングしてるのだから誰かに聴いてもらいたい、という気持ちはあるかもしれない。いつか誰かに聴いてもらう時に情けない歌を聴かせたくないから、毎日練習してるのかもしれないわね」
暗くなりそうだった空気を、ものの見事にひっくり返した。
杳子は思ったことを素直に口にする。
率直すぎて無用な厄介ごとを作り出すこともあるけれど、杳子に悪意はなく、問題が大事になったことはない。
根っこは優しい子で、時折きつく思える物言いもきっとその人のことを考えているからこそなのだろう。
純朴さというのは杳子の魅力で、私には欠落したものだ。
「ヨーコにもまた今度聴かせてね? ハル姉がここまでしたくらいだもん、きっとすごいんだよねっ!」
「こら杳子、もうそこらへんで……」
「杳子ちゃん、ここまでって?」
余計なことを言い出しそうな気配を敏感に感じ取る。
だが口を押えようにもテーブルを挟んでいるため間に合わない。
飲み物のおかわりを準備していた時に杳子が席を移動したため距離があるのだ。
慌てだした私の様子を見て、杳子の隣に座る千早が口角を微かにつり上げて意地悪な笑みを浮かべた。
そんな顔もできたのか、なぜここで見せるのだ。
千早が先刻までとは違う種類の笑みを浮かべているのに気づいた素振りもなく、杳子は続けた。
「にゅ? だってハル姉が友達を家に呼ぶことなんてなかったもん。それどころかあの防音室にまで招いたってことは、それだけちー姉の歌に惹かれたってことっ! 人嫌いとまで言えるハル姉がここまでするなんて前例がないことなんだよっ!」
後半はなぜか立ち上がり、両手まで広げて熱の入った演説のようになっていた。
「そ、そうなの」
「そんな目で見るな…………見るな」
「ハル姉の声も綺麗だけどねっ。でもそんなハル姉が認めたちー姉もすごいんだろうにゃぁ……。二人のデュエットとか聴いてみたいっ! この際二人でガールズバンド組むってのはどうっ?」
「ガールズバンド……二人で?」
「その前に『
杳子の突拍子もないアイデアに辟易する。
いくらなんでも無理があるだろう、と切って捨てようと思ったが、声に出す前に口を閉じた。
頭の中でピースが繋がったような感覚。
「なぁ千早。千早は歌うために日頃からトレーニングしてるんだから、多くの人に聴いてもらいたいと思ったことくらいあるだろう? あるよな? あるはずだ」
「それはまあ、思ったことはあるけど……。ちょ、ちょっと遥? もしかして……」
「ハル姉っ! それいいよっ、にゃははっ! 最高だよ!」
千早は空気が悪い方向に流れたことで口の端をひくつかせ、対照的に杳子は心底愉快と言わんばかりにチャームポイントである長めの八重歯を覗かせた。
「人間の寿命は短い。百年を超える者など稀だ。しかも歳を取れば自由はなくなり、比例するように
「ま、待って……一旦落ち着きましょう?」
「そうだよねっ、若い時にはつっぱるべきだよっ! 常識なんか壊すためにあるんだよっ!」
千早は素人の壁なんか容易く超えた歌唱力を持っている。
それだけの技術があれば披露したいと、多くの人に聴いてほしいという欲が生まれるだろう。
それは当然の帰結と言ってもいい。
見返りなしに血の滲むような努力はできない。
野球部員なら試合での勝利が必要だ。
吹奏楽部員ならコンクールの受賞という褒美が必要だ。
千早のような、いわばアーティストであれば、聴衆に歌を届けた時に送られてくる拍手が、歓声が、賞賛がなによりのご褒美になるだろう。
その報労があってこそ、さらに努力できるというものだ。
なによりも千早の歌にはそれほどの価値があるということを知ってもらいたい。
見ず知らずの道行く仕事帰りのサラリーマンにも、家事に疲れた主婦にも、学校終わりで塾に向かう学生にも、なんなら病院帰りのお爺さんお婆さんにも千早の声を聴いてもらいたい。
心地良い一陣の風が胸を吹き過ぎるような、千早の透き通る歌声に貫かれる感覚を味わってもらいたい。
そして千早自身にも、自分の歌には人を感動させられるだけの力があることを知ってほしいのだ。
もちろん千早だけのためにやるわけではない、私のためでもある。
私は今までにも、『例の彼女』と再び会うにはどうしたらいいだろうと考えていて、その方法を模索し続けていたが、いいアイデアには恵まれなかった。
それもそのはず。
おそらく閻魔殿の采配で同じ日本に転生させたとは思うがそこに確信はないし、仮に日本に転生されたとしてもこの国は世界で百位以内に入るくらいには広い。
少子高齢化で人が少なくなっているとは言うが未だ一億二千万もの人がいるし、人口密度になれば世界の二十位以内に名を連ねている。
その一億二千万もの人間の中からたった一人を見つけるのは至難の業、それこそ不可能とも思えるほどだ。
しかも転生された『例の彼女』の性別だって前と同じとは限らないし、名前も、もちろん顔だって知る術はない。
結局、手掛かり足掛かりさえ見つからなかった。
だが、杳子の短絡的で単純なアイデアで閃いた。
逆転の発想だ。
こちらが探し出すことができないのなら、向こうに見つけてもらえばいい。
なんらかの手段で有名になり、『例の彼女』の目に留まれば向こうから会いに来てくれるかもしれない。
途方もない労力と途轍もない時間がかかりそう、なのに成功率は限りなくゼロに近いという理不尽さ。
極めて積極的に近いわりに、肝心要は相手任せという受け身の姿勢。
半ば以上運試しではあるが他に手段は思いつかん。
諦めてしまいそうになるが、約束を果たすためなら……この広い世界からたった一人の人間を見つけ出すためなら、そのくらいの苦労なんてことはない……笑いながら背負ってみせる。
いつになるかは想像もつかないが、また『例の彼女』と会えるかもしれないと、そう考えるだけで口元がほころぶのを抑えきれない。
いつになく上機嫌になりながら、いわゆるハイになりながら、右手を床について端整な顔を青褪めさせている千早に告げる。
「千早、バンドするぞ」
もうお気づきの方もいるかもしれません。
アニマス準拠とか書いていた気がしますが……当分無理そうです。
いつものことながら自分の適当さには呆れ果てます。
こんなのでよければお付き合いください。