「…」
「…」
どうしてこうなった…。
今、この病室には私と比企谷くんしかいない。
遡る事数時間前…とはならずにお母さんが比企谷くんのお母さんと話す為にとそそくさと外へ行ってしまったのだ。
私もついていこうとしたが、久しぶりに会ったんだし話したい事あるでしょと余計な気遣いのせいで私はここに残ってしまった。
くそ…無理にでもお母さんについていくべきだった!
私は比企谷くんが寝ているベッドの横に置いてあった椅子に座っている。私が扉の近くで立ったままでいたら座れよと声をかけてくれた。
優しい好き。
じゃなくてその後ずっと会話する事なく時間だけが過ぎている。初めてだよ沈黙がこんなにも嫌なのは。
「あの…」
「は、はい!」
やばい、声が裏返った。
「…久しぶり。で、あってんだよな?」
声が裏返った事を気にしないでくれている。好き。
「う、うん…そうだね…」
それ以上の事を話せなかった。だって本当に何も無いんだもん。今の今まで気にした事なんて一回もなかったんだから。
でも…。
比企谷くんの顔をチラッと見る。
やばい…すっごいドストライクな顔してる。友達にも引かれるくらい私、人生に絶望してる顔が好きなんだよね。
会社にリストラされたサラリーマンや大切な家族が失った夫がする様な人生が終わって出来た絶望顔じゃなくてただただ人生に期待してないナチュラルな絶望顔が好きなの私は。
友達には違いがわからないと、理解出来ても理解したく無い。なんて言われたけど人それぞれ好みは違うって事だよね。
じゃなくて…。
「元気に…してた?」
「…ぼちぼち」
あぁ!良い!
その残りの人生に何も期待して無い感じかぷんぷんしてて良い!他人が見たらすかした感じがしてうざがれそうだけど比企谷くんはナチュラルで自然な感じがしてて凄く良い!
「足は痛くないの?」
「あんまり…麻酔うったばっかだから感覚自体ないな」
「何で轢かれたのか聞いても良い?」
「…んー、まあ良いけど」
比企谷くんは轢かれそうになった犬を庇って轢かれたと言った。
「そ、そう…なんだ…」
「まあ正直気づいた時にはまだ車と犬は距離があったから助けなくても大丈夫だったかもしれないが…」
そんな事を平気な様子で言う比企谷くん。
私は気づいてしまった。
そうか。比企谷くんはきっと自分の命を軽く見ているんだ。しかもかなり軽く…。
私のタイプはそんな感じだけど、命まで軽く見積もっては欲しくない。人生に絶望してもきっと何処かで希望はやってくると思うから。
比企谷くんにとってのそれは…。
「そんな事ないと思うよ。私は犬を助ける為に飛び出した比企谷くんのことを尊敬する」
「…そ、そうか?」
少しだけ照れた様子を見せてくれる。
ガラガラと、扉の開く音が聞こえる。
「茜〜そろそろ帰るわよ」
お母さんが私にそう声をかけてきた。
「わかったー…比企谷くん」
返事をし、私は比企谷くんの事を見る。
「また、来てもいいかな?」
「…好きにしてくれ」
最初から反論する事もなく諦めた様子を見せる。私が思っていたよりも比企谷くんは雑に生きているのかもしれない。
「ありがとう!これからまたよろしくね比企谷くん!」
今度は本当に仲良くできる様にと、願いを込めて…。そうして私達は3年ぶりの再会を果たした。
「茜、嬉しそうね。そんなに比企谷くんに会えて嬉しかったの?」
帰りの車の中、私の様子を見てお母さんが言った。
「ふふ、そうかもね」
比企谷くんもそうだと嬉しいかな。多分思ってないと思うけど。