剣士よ、“往け”   作:ミノりん

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プロローグでございます。(語彙力がオフライン)


プロローグ 

 βテスト終了まで残り1分です—————。

 

 無機質な女性の声のアナウンスが、この世界に轟く。

あと僅かな時間で、俺の意識はこの世界から強制的に引き剥がされ、無慈悲にも現実世界に強制送還される。

だが、嘆く時間も悔やむ時間も惜しい。俺は一歩、また一歩と迷宮区を進む。少しでも先に進むために。最後の瞬間まで足掻き続けてみせる。

 

「はあっ……はあっ……!」

 

 浮遊城アインクラッド、第10層迷宮区。実に閉鎖的な空間であり、迷宮区全体が薄暗い。青白い光が床から湧き出ており、それがプレイヤーの歩むべき道を無言で示している。

 

βテスト終了まで残り30秒です—————。

 

 今この瞬間に、一刻の猶予が消え失せようとしている。もっと、もっと、この世界に入り浸りたい。何もかも忘れてこの世界に依存していたい。

 

(このまま走り続ければ、せめてフロアボスを拝めるか……!?)

 

 フロアボス。各層の迷宮区に巣食う、謂わば門番。それを倒さない限りは先の層へ進むことは罷り通らない。残り時間から計算しても、ギリギリボスが身構えるボス部屋に辿り着けるか否か。

仮に辿り着けたとしても、残り時間の関係で万に一つも勝利することは叶わないだろう。だがそれでいい。このゲームのβテスター1000人の内、ここまで辿り着けている人間は殆ど居なかった。

テスト時間終了間際となれば、そもそもダンジョンに潜っている人間さえ限定されてくる。少なくとも今日の時点で、俺より先に進んでいるプレイヤーはいなかった。つまり、最後の最後でこの層のフロアボスを拝む事、それは俺が他のどのプレイヤーより遥かに優れている証明になる。

 

「いける……間に合う……ハハッ、間に合うぞ!!」

 

 だがそんな俺の希望を嘲笑うように、直線上に1匹のモンスターがポップする。《オロチ・エリートガード》。上半身をすっぽり覆う蘭茶色をした甲冑を身に着けた蛇系のモンスターだ。

不自然に生えている両腕で、刀身の長い刀を構えている。この迷宮区で既に何体か遭遇したので対応の仕方も弱点も把握しているが、このタイミングで湧くのはあまりにも運が悪かった。エリートガードは耐久に優れており、また独特なアルゴリズムによって行動するため対処には時間がかかる。

 

 コイツを無視して駆け抜ける手も一瞬考えたが、エリートガードは一度目が合えば凄まじい速度と鬼気で接近してくる。下手をすれば扉にたどり着く前に背中を貫かれ、HPが0になりそのままタイムオーバーで強制ログアウトさせられてしまうかもしれない。そんな無様な結末を迎えては、仮にこれがβテストだとしても俺は俺を永遠に許せなくなる気がした。

 

「くそがああっ!!!」

 

βテスト終了まで残り15秒です—————。

 

 間に合わない。どう考えても。このままエリートガードを倒してフロアボスの部屋に辿り着くのは現実的に考えてまず無理だ。せめてあと30秒あれば————。

だがこの際構わない。本音を言えばこの層のフロアボスを見てみたかったが、それでも俺が誰よりも最前線にいる事実は確固たるものだ。それさえ持ち帰れるのなら、このまま終わっても悔いはな—————……

 

「う……そ、だろ」

 

 見えた。否、見えてしまった。俺より2メートルほど先だろうか。俺以外のプレイヤーが既にいる。薄紫色の髪が特徴的な、身の丈ほどある大鎌を巧みに使い熟す大男。表情はハッキリとは見えないが、ここから見てもわかるほど険しく、強面だ。

 

 先を越されていた。その事実を俺は即座に受け入れられなかった。俺は現実世界のあらゆる時間を削りに削ってこの仮想世界に没頭してきた。

今後控えている正式サービス開始前なら兎も角、このβテスト期間中ならば俺より時間を費やしている人間などいるはずがないと心のどこかで確信していた。なのに!

 

(負けた、負けた……負けた!! 嘘だろ!?)

 

 信じられない。俺よりも更にこの世界に没頭する人間がいたなんて。

 

 衝撃も止まぬうちに、俺の自信はまたも粉々に砕かれる。エリートガードと戦闘をしている最中、俺の横を突っ切る男がいた。

殆ど音を立てない静寂な動きでありながら、今まで俺が見てきた中で最も素早い動きで。黒い髪をたなびかせ、曇りなき眼は俺よりも遥か先を見据えている。右手に装備している片手剣も、まるで身体の一部であるかのようにサマになっているのだ。

 

(なんて——————速さだ)

 

 追い抜かれた悔しさは自然と湧かなかった。その男は、妬むにはあまりにも無駄のない流麗な動きだったからだ。だが今この瞬間、俺は最も優れているプレイヤーどころか三番手の烙印を押された。

いや、下手をすれば俺が見ようとしていなかっただけで、もっと上には上がいる可能性だって十分あり得るだろう。

最後の最後で、俺は自身の視野の狭さを痛感する。まさしく、井の中の蛙大海を知らず。我ながらとんでもない大馬鹿者だ。

 

βテスト終了まで残り10……9……8……7————

 

 最速最短な動きを以てエリートガードを撃破すると同時に、無慈悲にも残り10秒のカウントダウンが始まる。魂が引き抜かれるような、ひどい脱力感を感じていた。折れてしまいそうな弱々しい足を鼓舞して、俺は再び走る。

もしかしたら先にいる2人に届くかもしれない。或いはギリギリで追い越す事だって————。

うっすらと、大きな扉が見えてきた。間違いない。ボス部屋だ。あの先にはボスがいる。

 

4……3……2……1……

 

「見え—————っ」

 

 足掻き、足掻いてもそれまでだった。最後に見えたのは、ただ1人、扉の先に進む黒髪の男。そしてその少し後ろにいる鎌使いの大男。このβテストに於いて最前線に君臨するトッププレイヤー2人。

その光景を眼が捉えた瞬間、世界は光に包まれた。全てのオブジェクトが消え失せ、夢のような仮想世界は影も形もない。

 

(あぁ、終わりなんだな)

 

 βテスト終了です。βテスターのみなさま、ご協力ありがとうございました。正式サービス開始日を、お待ちください————。

 

 無慈悲なアナウンスが耳を刺す。

 

 意識がだんだんと薄くなり、俺の意識は仮想から現実へと引き戻される。

目が覚めると、初めに視界に飛び込んできたのは自室の天井。

頭部にはフルダイブ型VRマシン、《ナーヴギア》がすっぽり覆われているので少し圧迫感を感じる。俺はその圧迫感を取り除くようにナーヴギアを外して、完全に現実世界に帰還した。

 

 薄暗い自室。重苦しい空気。仮想世界のダンジョンと酷似した雰囲気を感じるが、仮想と違って現実にはなんの感情も湧かない。飽きるほど見慣れた景色だ。

 

「ゲームセンターにでも行くか……」

 

 ひどく掠れた声を吐き出しながら、俺は部屋着を脱ぎ捨てて簡素な服に着替える。母からは「もっとお洒落に気を遣ったら?」と耳に穴ができるほど言い聞かせられているが、別に俺の服装に問題があるようには思えない。

たしかに少し質素で地味な印象を感じるかもしれないが、所詮服なんてなにを着ても大差ないだろう。

 

(アイツら……凄かったなぁ)

 

 未だ余韻が収まらない。最後に見た2人の男の顔が頭からどうやっても消え失せそうにない。あの強面な鎌使いも、黒髪の片手剣使いも、必ず正式サービス開始日に現れるはずだ。

あれほどギリギリの時間まで攻略に励むような奴らなのだ。俺と同じく生粋の廃人ゲーマーであるに違いない。正式サービスでも、いつか必ず巡り会う機会があるはずだ。次会えたら、ぜひとも話してみたい。どんな人間なのか気になってしょうがない。

 

「待ってろよ……」

 

 両頬を2、3回勢いよく叩いて未練をはたき落とす。いつまでも女々しく引きずるのはよくない。そんな体たらくでは今から向かうゲームセンターで高スコアを叩き出すのは至難の業になる。気持ちの切り替え、これはジャンル問わずゲームをする上で必要なテクニックの一つだ。

 

 唯一払拭できない感情があるとしたら、2ヶ月に及ぶβテスト期間で作り上げたアバターデータは今頃リセットされているという事だろう。

あのアバターは途方もない時間をかけて育てた、謂わば俺のもう一つの肉体だ。それが俺の預かり知らないところで消え失せるのはやはり苦しい。

いや、しかし冷静に考えれば大した問題ではあるまい。またすぐにレベル上げをすれば少なくともステータスは戻せるのだから。

むしろやりがいがある。

 

「ゲームセンター行ってくるから」

 

 最低限の礼として、一応俺は出かける前にリビングのソファで寝そべっている母に出かける旨を伝えた。母は何も言わない。暗黙の了解と見做して、俺は外に出る。ここから一番近いゲームセンターに向けて、猛ダッシュするのだった。

 

 もし、この時。ソードアート・オンライン正式サービス開始日に起きる、あの悪夢を予知できていたら。きっと呑気にゲームセンターに行くような真似は、この時の俺には到底出来なかっただろう。




以上、プロローグです。
オリ主、もとい主人公くんの名前が判明していませんがそれは次回。あとお察しと思いますが、主人公くんはすごいゲーム廃人です。まぁSAOやってる人間は現実より仮想に比重が傾く人多いですし多少はね?
ところでみなさん、星なき夜のアリア何回見ます?自分はあと5回は見ますね
つかミト可愛いよね。ミトたんマジ天使。MMT。
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