鬼滅の刃〜雷鳴轟く刻〜   作:グリアノス

10 / 10
遅れてすみません。

ちょっと魔が差して模擬戦やるかとか思って書き始めたら出来に納得出来ないままズルズルと間延びしちゃいました。




第十話

シィィィィィィィ───。

 

 狭霧山の頂上の一角にて全集中、雷の呼吸に伴う呼吸音が静寂を乱す。

 

(この山は標高が高いからか空気が薄い。呼吸の質を上げないと常中を維持出来ない……)

 

 地面に胡座をかいて座り込む善逸は一呼吸一呼吸を身体に刻み込む様に繰り返している。

伊織との稽古の時の様に日輪刀を振るうわけでも無ければ走り込みを行う訳でもないのにも関わらず一刻程で全身から滝の様な汗が吹き出す。全集中の呼吸は正しい形で身につけなければ身体を十全に強化出来ないばかりか心肺機能に大きく負担を掛ける事になるだけに、理想の形に近づけていく為の修練は四六時中欠かす事は出来ないのである。

 

 即ち全集中の呼吸を行って汗が流れるという事は己の呼吸法に無駄があり、本来のポテンシャルを発揮出来ていないという事に他ならないと善逸は呼吸を一層と深くしていく。その点呼吸の質を高めるのに狭霧山というのはうってつけの場所だ。無駄を省いて呼吸を行わなければ立っているだけでも息を切らしてしまう程の負荷を掛けられるならば肺を鍛えるのにも誂向きと言えた。

 

「精が出るな。我妻善逸」

 

 夜明け前に出かけた善逸の様子を見に来た鱗滝が手ぬぐいを投げながら声を掛けてくる。

 

「…………俺に出来ることは師範みたいに多くないですから。だからこそ出来ることに手を抜いて二度と後悔したくないんです」

 

 その言葉は鱗滝に対してのものなのか、それとも自分自身への戒めであるのか。手ぬぐいで流れる汗を拭う善逸の中には楔として打たれた何かがあるのかもしれないと鱗滝は感じた。

 

 鬼に家族を惨殺された炭治郎にも匹敵する程の意思。鱗滝はこの我妻善逸という少年の事をもう少し見極めてみたいと思い、口を開く。

 

「────我妻善逸。お前に折り入って頼みたいのだが、炭治郎と一度手合わせをしてくれないだろうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではこれより、竈門炭治郎と我妻善逸の模擬戦を始める。我妻善逸は竈門炭治郎を打ち殺さぬ様に細心の注意を払うように」

 

 狭霧山にある真っ二つに両断された大岩がある広場で模擬戦の立会人である鱗滝が見守る中、炭治郎と善逸は木刀を構えて向き合っている。

 

「いくぞ善逸!」

 

「先手は譲るよ」

 

 二人の間にザァッと風が吹き抜けた瞬間に炭治郎は全集中の呼吸と共に駆け出す。

 

「水の呼吸・壱ノ型『水面斬り』!!」

 

「雷の呼吸・壱ノ型『霹靂一閃』」

 

 木刀に波飛沫を纏わせる炭治郎が放つ両腕を交差させて一息に振り抜く横薙の一撃。それを稲妻と共にたった一歩だけの踏み込みから逆袈裟に振り抜かれた木刀が炭治郎の身体ごとカチ上げる。その威力は上段からの振り下ろしに比べて力を込めにくいものである筈であるというのに炭治郎の腕には強烈な痺れが襲った。

 木刀を取り落とさなかっただけでも見事であるが、腕の痺れを気合いと根性で強引に抑え込んだ炭治郎は次なる攻め手を仕掛ける為に木刀ごとカチ上げられた身体を大きく捻る。

 

「水の呼吸・陸ノ型『ねじれ渦』!!」

 

「雷の呼吸・壱ノ型『霹靂一閃』」

 

 本来であれば水中の様な不安定な場所でこそ威力を発揮する技であるねじれ渦を相手の攻撃の威力を利用して放つという使い方を見せる炭治郎。それは当たれば必倒確実の文句無い一撃だったが、またもや善逸は霹靂一閃で斬り捨ててしまう。

 しかし漠然とではあるものの彼我の実力差を理解している炭治郎はねじれ渦が防がれる事は折り込んでいたのか、素早く体勢を整えて着地すると流れる様な足運びで善逸との間合いを詰める。

 

「水の呼吸・参ノ型『流流舞い』!! からの、『打ち潮』!!」

 

 炭治郎はただ型を繰り出すだけでは善逸には届かないと察したのか、参ノ型と肆ノ型を組み合わせた新しい技を繰り出す。流れる様な足運びから回避と攻撃を同時に行う事も可能である流流舞いと、寄せては引いていく波の様に連撃を繰り出す打ち潮は組み合わせる事で距離感や速度感を絶妙にズラしながら攻める事が可能となっており、これには善逸も常に維持していた居合の構えを解いて炭治郎の木刀を打ち払っている。

 

 畳み掛けるなら此処をおいて他にはない。炭治郎は激流の如く攻めの手を強めていく。

 

「水の呼吸・捌ノ型『滝壺』!!」

 

 空中から振り下ろされる一撃はまともに受け止めようものなら木刀ごと圧し折られてしまう程の威力。水の呼吸の型の中でも特に威力の高い滝壺を無策で防ぐのは悪手である。

が、いくら攻撃力が高くても大味な振り下ろしを躱すのは難しくはない。自分を捉えるより先に後ろに跳躍した善逸の鼻先を木刀が過ぎていく。しかし勢いに対して地面を打ちつけた手応えが不自然に軽く聴こえた善逸は、これで終わる事は無いだろうと確信していた。

 

 事実、滝壺の手応えが弱いと感じたのは善逸の気のせいではない。炭治郎はあえて型を乱す事で威力を乗せずに技を放った事で型の硬直を減らしていて、次なる一撃へと動きを繋げていた。

 

「水の呼吸・漆ノ型『雫波紋突き』!!」

 

 素早く体勢を整えた炭治郎が本命の一撃として放つのは、拾まである水の呼吸の型の中で最も速い刺突の技だ。刺突というのは鬼に対して致命傷を与える事はほぼ不可能で、牽制として使うのがセオリーなのだが頸を斬る必要の無い人間同士の戦いであるならばそれは必殺となり得るだけの威力を備えている。

 

 炭治郎の見せた型を組み合わせる事も、矢継ぎ早に切り替えて繰り出す事も。それは間違いなく善逸には出来ない強みだ。

 

 なので善逸も、ここで一つ手札を切って見せる事にした。

 

「…………雷の呼吸・壱ノ型『霹靂一閃・四連』」

 

 空中で身を翻した善逸は着地と共に体勢を大きく前に倒し、地面を抉りながら突っ込んだ。

 

 一撃目。炭治郎の木刀を上に打ち払い手から弾き飛ばす。

 

 二撃目。炭治郎の側面に回り込む様に駆け抜けて軽く一当て。

 

 三撃目。二撃目とは反対側を駆け抜けながらまた一当て。

 

 四撃目。小細工無しで真正面から肉薄し、炭治郎の首筋に木刀を添える。

 

「────そこまで!」

 

 弾き飛ばされた木刀が地面に突き刺さるのと同時に鱗滝から勝負ありと告声が上がる。それは誰の目にも明らかな敗北で、連続して型を繰り出した炭治郎は激しく息を切らせながら「参りました」と告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ善逸。少し気になってた事があるんだけど聞いてもいいか?」

 

「いいよ。答えられる事ならね」

 

 あの後、日も暮れるからと鱗滝の家でもう一夜過ごす事になった善逸は夕餉に出された焼き魚を齧りながら炭治郎に答える。

 無論善逸とて聞かれたくない話の一つや二つはあるが、そう言ったものに関しては答えなければ良いだけだ。尤も、炭治郎や鱗滝にならばある程度腹を割って話しても良いかとは思っていたりするので、余程の事でなければ真面目に答えるつもりではある。

 

「じゃあ、善逸って型を一つだけしか使わないのってどうしてなんだ?」

 

 余りにも真面目腐った顔をして聞いてくるからどんな質問が来るかと少し身構えていた善逸だったが、元より隠しているわけでもない様な事であれば答えるのに抵抗は無い。善逸は沢庵をポリポリと咀嚼しながら何でもない様に答える。

 

「何だそんな事か。それはただ単純に俺が壱から陸まである雷の呼吸の型の中で壱ノ型しか覚えられなかったからだよ」

 

 一方の炭治郎はと言うと聞いた答えに驚きを隠せない様子だ。

 

「善逸は俺よりも凄く強いのに、信じられない……」

 

「真面目に鍛錬はしたんだけどね。俺が不器用なのか向いてないのかはわからないけど、どうしても覚えられなかったんだ」

 

「……そうなのか」

 

「まあ弐ノ型以降の型も使えたら良いなって思う事はあるけど、覚えられない型に執着するより一つの型を極める方が向いてるって言われてたしね……あ、この鍋美味っ」

 

 弐ノ型以降が使えない事を少しばかり残念そうに語る善逸だが、鱗滝が拵えた鍋料理を口に運んだ途端にどうでもよくなったのか。頬を綻ばせながら味の染みた具材と共に白米を搔き込む様子に炭治郎は何も言えなくなった。

 

 

 

 

 ちなみにずっと口を挟まずに食事を続けていた鱗滝は善逸に鍋を気に入られて内心嬉しかった様で、天狗の面越しには分からなかったが少し機嫌が良さそうだったのは余談である。

 




大正コソコソ噂話

今回の模擬戦で善逸に負けた炭治郎は余程悔しかったのか、夕餉の時間を過ぎても鍛錬に明け暮れて鱗滝から拳骨を賜ったらしい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。