前に書いてた頃でも赤くなった事は無かったんで素直に嬉しいです。お気に入り登録してくれてる方もたくさん居てくれて有り難い限りですほんと。
しかしもっと面白く書けたら良いんですけどね。歯痒い限り。
「…………ご馳走様でした」
最終選別を乗り越えた事を言祝ぐ目的で催された朝食会にて、握り飯を三十個と天麩羅をざっと六人前程平らげた善逸は満足した様子で手を合わせる。
「何だもう食わないのか。他人の前だからと遠慮は要らんぞ?」
え?と間の抜けた声を漏らしたのは誰であっただろうか。伊織の言葉にあれだけの量の食べ物を腹に収めて尚、善逸は満腹ではないのか。
「まあ、もっと食べられるけど山の中じゃ大して食べられなかったから今は腹六分目でも十分だよ」
六分目。今この男は腹六分目と言ったか。流石に何処ぞの桜色の髪の何かにつけてキュンキュンしてしまう淑女と比べれば少食の部類なのだろうが、それでも現時点で成人男性が食べられる量を遥かに超えた量を平らげてまだ六分目なのかとその健啖家っぷりに伊織と善逸を除く全員がドン引きしている。
「善逸。お前専用の日輪刀が届くまでの間はどうするのか決めているのか?」
「俺は一度狭霧山に行って、それからじいちゃんに会いに行こうかと思ってるよ」
伊織の問いかけに善逸は食後のお茶を啜りながら答える。
「狭霧山と言うと…………元水柱の鱗滝左近次殿に会いに行くのか?」
「うん、その人が彼処にいる炭治郎の育手らしくてさ。一度挨拶しときたいんだ」
炭治郎というのは今回の最終選別で生き残った頭に包帯を巻いた少年か。伊織が炭治郎に視線を向けていると、彼も伊織に気づいたのかこちらに歩いてくる。
「あの、俺は竈門炭治郎って言います。貴方は善逸の知り合いなんですか?」
「俺は水無月伊織という。君と同じ鱗滝一門の冨岡義勇の同僚で我妻善逸と同じ桑島一門の剣士だな」
炭治郎の質問に答える伊織だが、善逸はそんな自分の師匠にジトっとした目を向ける。
「此処で柱って言わないのはちょっとズルいんじゃないですか?」
「善逸、柱って何なんだ?」
「柱ってのは分かりやすく言うと鬼殺隊で九人だけしかいない剣士の事だね。単純に俺や炭治郎じゃ逆立ちしても勝てないくらい強い人と思えば良いよ」
「善逸でも勝てないのか!?」
炭治郎から見れば善逸は自分より圧倒的に強い存在だ。最終選別でも助けられた事は一度や二度ではないのだが、その善逸が手も足も出ずに負ける人間がいると言われても炭治郎は俄には信じ難かった。
「勝てないね。俺程度じゃ師範に本気を出させる事も出来ないよ」
いつの間にか温くなったお茶を飲みながら迷いなく答える善逸に炭治郎は言葉も出ない。
「まあ、そんな話は置いておくとして、だ。善逸、炭治郎」
茶を濁す様に善逸と炭治郎のやり取りを遮った伊織は神妙な顔で二人に告げる。
「二人とも狭霧山に行くのなら屋敷で風呂に入ってから行け。この七日間は碌に身体を清められていないだろう?」
人を訪ねるのであれば礼を失する事の無い恰好で行けという、伊織の尤も過ぎる正論に善逸も炭治郎も何も言えなくなったのだった。
伊織の屋敷で身を清めた善逸と炭治郎は今度こそと狭霧山に向かって足を進める。
思わぬタイムロスがあって既に日は高く登っており日没まで五刻程。しかし幸いにして伊織の屋敷は藤襲山と狭霧山の中間に位置する場所にあるため急げば三刻程で辿り着けるだろう。
日没まで五刻あるのならば急いで行く必要はないのでは?と思う者も居るかもしれないが、実はそこまで単純な話ではない。というのも日が暮れずとも傾けば山中等の光の届きにくい場所では鬼も動きやすくなる。故に移動にあまり時間は掛けられないのが実情であったりするのだ。
こういう点も善逸は伊織からみっちりと仕込まれている為に抜かりはない。
「炭治郎。日が傾く前に目的地に着いておきたいんだけど走れる?」
「大丈夫だ。行こう!」
「道案内も頼むよ炭治郎」
「任せてくれ!」
そうして走り出した二人だが、善逸の足に炭治郎は置いていかれない様に必死になって走る事となるのは言うまでもなかった。
「…………炭治郎も師範に鍛えてもらう?」
「それも良いかもっ、しれないなぁ!!」
善逸の気遣いなのか提案なのか暗にテメー足遅えなとディスられているのか良く分からない問いかけに、炭治郎はヤケクソ気味に叫ぶ。
一応弁明しておくと、炭治郎とて狭霧山でヌルい鍛え方をしていたわけではないのは明らかなのだ。むしろ最終選別へ行かせる気がなかった鱗滝の意思を努力をもって捻じ曲げた事は驚嘆に値する事である。
…………が、それでも若干の悪ノリも込みで現役の柱に壊れないギリギリのラインを見極められて扱き回された結果として、全集中の常中を体得してしまった善逸と比べては酷な話だろう。常中を習得しているのとしていないでは大人の身体能力と子供の身体能力を比べる様な事なのだから。
ぶっちゃけ劇的な成長と引き換えに失ったものもそれなりにあるよなー、と善逸は思ったりもする。前より明らかに感情の起伏が減ったし、激増した食費に関しては鬼殺隊の高給を持って充てねば成り立たなくなる事は日の目を見るより明らかだ。慣れて来る度に増やされていく重りに関しても然り。善逸としては炭治郎に死んでほしくはないとは思いつつ、感情が死んで彼の発する心地の良い音色が聴こえなくなるかもと考えると少々悩ましい。
と、益体もない事を考えつつ走る事二刻半。いつの間にか周囲の風景はのどかな田園から鬱蒼とした木々が乱立する光景に変わってきた。隣を走っていた炭治郎も何とかついてきている様で一安心である。
「炭治郎、この辺か?」
「ゼェー……ゼェー……」
どうやら返事をする程の余裕は無いらしい。炭治郎は膝に手をつきつつ、震える手で山道を指差す。
「……今はまだ鬼の音は聴こえないし、ここからは歩いて行こう」
安全を確保する為に屋敷から走り通して来たが、此処に至ってまだ走れと言う程善逸も鬼ではない。炭治郎からも少し安心した様な音が聴こえる。
それから暫く歩いていると、山中にポツンと建つ民家が見えてきた。
「ああ、やっと、やっと帰ってこれた……禰豆子……鱗滝さん……」
炭治郎の言葉から察するに、鱗滝左近次という方はあの家に住んでいるのだろう。しかし安心した事で緊張の糸が切れたのか、炭治郎は気を失ってしまう。
崩れ落ちるより先に身体を支えた善逸は疲れ果てて眠る炭治郎を起こさない様に、「お疲れ様」と声を掛けたのだった。
大正コソコソ噂話
伊織は全力でおにぎりを握る時、全集中の呼吸を使って無駄に速く握る事が出来るらしい。