鬼滅の刃〜雷鳴轟く刻〜   作:グリアノス

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毎日投稿が途切れてしまった……。


第八話

「炭治郎……!? 生きて、生きて戻ったか……!」

 

 人の気配を感じて家屋の陰から薪を脇に抱えながら現れた天狗の面を付けた男性、鱗滝左近次が信じられないものを見た様な声を漏らした。

今まで幾人もの子供達が自分の元から最終選別に赴き、そして帰ってこなかった。送り出した子供が最終選別で命を落とす度に胸の内には後悔と悲しみばかりが積み重なっていった。

しかし今回は違った。炭治郎は帰ってきてくれた。これ程嬉しい事は他に無いと左近次は、面の下に隠した目から涙が溢れるのを止められない。

 

 炭治郎はどうにも気を失っているようだ。隣に立つ珍しい毛色の少年に支えられたままピクリとも動かない。

 

「鱗滝左近次さんですね。炭治郎を休ませたいんで家に上がらせて貰っても良いですか?」

 

 この子が炭治郎を助けてくれたのだろうか? 炭治郎と同じ位の歳に見えるがこの子もまた最終選別を生き抜いたのか。良い育手に恵まれた上で努力を重ねたのだろうな。

 

「ああ、勿論だ。茶を出すので是非とも上がってくれ」

 

 炭治郎の恩人は儂の恩人でもある。精一杯饗すとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか。炭治郎は藤襲山に巣食っていた異形の鬼と戦ったのか……」

 

 かつて儂が捕らえた鬼が生き延び続けて、その鬼が送り出した子供達を殺し続けていたとは……。しかも、旅立つ際に贈っていた厄除の面を目印にして。ならば、あの子達を殺したのは儂の様なものではないか。儂が知る由など無かったとはいえ、悔やんでも悔やみきれるものではない。もっと早く、この事を知っていたならば幾らでも手は打てたというのに……。

 

「でも炭治郎は勝ちました。もうあの鬼に誰かが殺される事はありません」

 

 憔悴を隠しきれない儂に炭治郎と共にやってきた少年、我妻善逸が淡々と事実のみを語る。責める事も慰める事もしないでいてくれるのは、正直言うと有り難い。

 

「……ああ、そうだな。君にも礼を言わせてくれ」

 

「気にしないでください。俺が此処に来た理由は、他にありますから」

 

「それは一体……」

 

 何だと儂が聞こうとすると我妻善逸の纏う匂いがガラリと変わる。事実のみを淡々と語った先程とは打って変わって、こちらの意思を何一つ見逃すまいとする様に目線を合わせてきた。しかしこの少年、炭治郎と然程変わらぬ歳であろうに恐ろしい程鍛えられている。何より、既に呼吸の常中を習得しているというのだから正しく底知れないという表現に尽きるな。

 

 並の育手では此処まで育て上げる事は出来ないだろう。恐らくは元柱に師事を受けたか。

 

「────俺は竈門炭治郎の妹が、鬼である事を知っています。貴方もそれを承知した上で匿っている事も」

 

…………ううむ炭治郎め。さてはうっかり口を滑らせたな?

 

「貴方はただの育手ではない、元水柱だ。鬼殺隊の隊律をよく理解している筈の貴方が、鬼を匿うと決めた理由を知りたくて、俺は此処に来ました」

 

 あれは、真実を見抜かんとする目だ。此処に至っては下手な誤魔化しは通用せんな。儂も覚悟を決めねばならんか。

 

「儂は二年前、ある男から一通の手紙を受け取った。冨岡義勇。鬼殺隊の現水柱の男からの手紙だ。そこには家族を全て殺され、妹を鬼に変えられた境遇を持つ子を儂の元へ送るので面倒を見てくれないかと書かれていた。少年は鬼にされた妹を連れているが、妹は飢餓状態にありながら兄を喰わずに、倒れた兄を庇う様子を見せたそうだ」

 

 我妻善逸の顔に驚愕した様子が見て取れる。歳不相応に感情が薄いこの少年にして、本当に人を喰わない鬼の存在は驚くに足るものなのかもしれんな。

 

「事実として炭治郎の妹である竈門禰豆子は二年間もの間、人を喰わずに生きている。俄には信じ難いやもしれんがな……」

 

 儂が話せる事はこれが全て。これでこの少年を納得させられれば良いのだがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(待て待て待て。元柱の育手だけじゃなくて水柱も関わってる? なんだよそれ聞いてないんだけど?)

 

 鱗滝左近次から話を聞いた善逸はまたまた頭痛に襲われる。竈門炭治郎という男は自分の頭を内側から破壊してやろうとでも思っているのだろうかと思う程に厄介な事実を齎してくるのだから堪らない。

 

 まあ確かに身内が鬼になったとしてもだ。一般人が鬼殺隊の存在など知る筈も無ければ育手とも関わり等無いのだから鬼殺隊の関係者が竈門炭治郎に接触していた事は想像に難くないのだが、現役の柱が関わっているというのは何の冗談だろうか。

 

 聞かねばならない事が山程増えてしまったと善逸は頭を抱えたくなった。話が話だけにサクッと終わるものではないと思ってはいたが、この問題は些か以上に根が深い様だ。

 

「…………幾つか質問をさせてください」

 

「何だ?」

 

 鬼になった妹を斬らなかった理由は理解した。ならば一番最初に問うべきは目的だろう。

 

「竈門禰豆子を炭治郎はどうする気なのですか?」

 

「炭治郎は鬼殺の剣士となって、鬼と戦いながら禰豆子を人に戻す方法を探すと言っている」

 

 炭治郎の目的を聞いた善逸はいくら何でもそれは無茶だろうと思わず苦い顔をしてしまう。そもそも存在するかどうかすら分からないものをどうやって探すというのか。

 

「無茶だというのは炭治郎とて百も承知だろう。だがあの子は他の誰が諦めようと、自分だけは諦めてはいけないのだと言ったのだ」

 

「…………わかりました。次の質問です」

 

 次に問わねばならないのは、覚悟だ。

 

「炭治郎が鬼を人に戻す方法を探すというのであれば、まず障害となるのは十二鬼月や鬼舞辻の存在でしょう。炭治郎に奴等と戦う覚悟はありますか?」

 

「無論、覚悟はあるだろう。ただ、まだ炭治郎は鬼の事を知らなさ過ぎる。とにかく経験を積まねばならんだろうな」

 

 鱗滝が言う事は的を射ている。

 善逸ですら下弦の鬼すらもギリギリ戦えるかどうか、相性が悪ければ負ける事も十分ある程に十二鬼月は強大な力を持つ。今の炭治郎が十二鬼月で最も弱い下弦の陸に出逢っても即座に殺されるのがオチであるし、仮に上弦の鬼とでも出会ってしまえば目も当てられないだろう。

 

「…………鍛えてあげてください。理不尽に殺される事が無い様に」

 

「ああ。あまり時間は無いが教えられる事は教えるつもりだ」

 

 願わくばあの心優しい人間が理不尽な現実を断ち切れる様に願いながら、善逸は頷いた。

 

「これが最後です。今は人を喰わずに過ごせている竈門禰豆子が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を聞かせてください」

 

 最後に聞くべきは責任についてだ。はっきり言ってこれが最も重要であり、他者を納得させる事が最も難しい点だ。

 生半可な答えでは竈門禰豆子を生かしておく事に誰も納得しない。人を喰わないからと言われて「そうですか。わかりました」と言ってのける程、鬼殺隊は、いや鬼を知る者は暢気ではない。鬼に大切な者を奪われてきた側からすれば、いつ爆発するかも分からない爆弾を放って置けと言っているに等しいのだから。

 

「その際は竈門炭治郎が妹の頸を斬り、炭治郎と儂と、水柱の冨岡義勇が腹を切って詫びる。人が喰われてからでは取り返しがつかない事は重々承知だが、な」

 

 正直言うと、一声足りない。が、これ以上のものを出すのは誰にだって不可能だろう。少なくとも彼等は己が差し出せるものは全て差し出している事は間違いない。

 

「……ありがとうございました。もう十分です」

 

「そうか。君は禰豆子をどうする気だ」

 

 鱗滝から不安を感じている音が聴こえる。

 

「そうですね。それは本人に会ってから決めたいです」

 

「……それもそうだな。禰豆子は隣の部屋にいるから会ってみると良い」

 

 立ち上がった鱗滝は奥の部屋へ続く襖に手を掛ける。奥の部屋では怪我の処置をされた炭治郎の横で、静かに眠る少女が居た。

 

(え、待って待って待って? 何この子めっちゃ可愛いじゃん!?)

 

 竈門禰豆子を一目見て瞬間、善逸の中で落雷を受けた時の感覚が蘇る。禰豆子の状態について鱗滝が話しているが善逸の耳には届いていない。

 

 常人よりも圧倒的に優れた聴覚も静かに眠る天使(善逸目線)の前では意味を為さない様だった。




最後の最後で善逸さんが善逸に戻ってしまった。流石に汚い雄叫びは上げないですが。



大正コソコソ噂話

善逸は甘味好きの伊織の影響を受けて甘味に目が無くなっていて、休養日は甘味処をハシゴするのが楽しみだったりする。
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