それからしばらくの間、当たり障りの無い日々が続いた。
アラガミを食べたり、はぐれヒューマンを食べたり、カルトっぽい連中を食べたり、ゴッドイーターに追いかけ回されたりと非常に充実した生活だった。
そのうちに第一部隊と合流したシオも見かけるようになった。鎮魂の廃寺を駆けて、楽しげにくるくる回るアラガミの少女。今のところ物語は順調に進行しているようだ。
僕の身体もどことなくヒトに近づいてきた。見た目は『世界を拓く者』の本体部分に近い雰囲気だ。やはり人喰いが良かったのだろう。
全てが順調だった。
今日も今日とてストーキング、もとい極東支部の戦力把握に務めている。軽くなった身体で、バレないように空からつけ回す素敵な日課だ。質量は増した感があるのに軽いなんて変な話だが。
今日のメンバーは珍しいことに第一部隊だ。
彼らは人員不足を補うかのように、支部周辺の各地に出撃している。
言わば完全ランダムエンカウントであり、運の無い僕が彼らを見かけることはあまり無いのだ。今日はツイてる。
主人公くん、ソーマ、リンドウさんにシオの四人か。面白いメンバーだ。シオは紅一点だな。
──ん? 何かおかしい。違和感が…………リンドウさん!? 何故ここに!
記憶が確かなら、シオの存在が明らかになった時点でリンドウさんはMIA扱いだったはず。アリサの暴走により敵と取り残されたリンドウさんは行方知れずになるのだ。よって、シオとリンドウさんが同時期に第一部隊に居るなんてことは絶対に有り得ない。
リンドウさんの腕にも変化は無く、身体の何処にもアラガミ化の兆候は見られない。いたって健康な様子だ。いやいや、そんなバカな。全く以て意味不明だ。どうなっているんだ……
というかこれ、本格的にマズくないか?
リンドウさんはアーク計画に勘づいている。そのリンドウさんが健在な状態で、シックザール支部長がシオを奪うのは流石に厳しいような…………アーク計画、詰んだ?
アーク計画が詰めば僕の計画も連座して詰む。僕と支部長は運命共同体なのだ。
脱出ロケット相乗り作戦のためにも手を打たねばならない。
楽しい時間が終わるのは悲しいが、やむなし。
観察を止め、空から急降下してシオの前へ降り立つ。彼女は他の三人から離れ、一人突出している。好機。
目を丸くしているシオを、ガッシリと片手で抱え、再び空へ舞い上がった。
リンドウさんが無事な時点でどうせめちゃくちゃなんだ。当初の計画は破綻した。もう知ったことか。せめて、無理矢理にでもアーク計画は発動させてもらう。
「ま、待てッ、クソッ! シオを離せ!」
離しません。また君かソーマ。色々と遅いんだよ、君は。
ソーマの神機が空を切る。
「わっ、わっ、ソ、ソーマ!」
「シオ!」
バシバシ飛んでくる弾を無視して、じたばたするシオを抱えながらエイジス島へ向かう。
遠くに見える楕円形の明かり。どこか懐かしさを覚える光を放つその島こそが人類最後の楽園、エイジスだ。
エネルギー噴射の勢いのままに突っ込み、外壁を破って中へ侵入する。
ぐったりとしたシオを落とさないように抱え、着地。
おお、天井にでっかい女が張り付いてる。あれがノヴァか。
その真下、装置に乗った支部長が待ち構えていた。ヨハネス・フォン・シックザール。
「待っていたよ、ヴリトラ……いや、真なるノヴァよ。なるほど、オラクル密度、エネルギー共に計測不能だ。ペイラーの危惧もあながち間違いでは無いようだな」
ノヴァではないが。しかしマズい。どうも非友好的だ。そういえば討伐対象とか言ってたっけ。完全に忘れていた。何とかせねば。
僕は、人類の味方であるという主張とアーク計画に賛成する旨、ロケットに乗って宇宙旅行がしたい旨などを支部長へのお世辞も交えながら情感たっぷりに語った。
「…………なるほど。君の考えは分かった。ならば、そのように取り計らおう」
おお、何と物分りの良い人なんだ。ラスボスと和解に成功したぞ! 上手くいきすぎて不思議なくらいだ。会話スキルの向上が良かったのかな?
「しかし……もう余計なことはしないでもらいたい。君の行動によって、私の計画は大いに狂った。……本当なら、私は今ここで君を討伐するつもりだったのだ。これ以上ノヴァの成熟が遅れたら取り返しがつかない。大人しくしていたまえ」
アッハイ。
つまり、リンドウさんが無事なのは僕のせいってことか。よく分からんがやっちまったぜ。
僕は大人しくシオを引き渡し、エイジスを辞した。それにしても…………真なるノヴァ? 何を言ってるんだこの人。大丈夫かな?
だが……ふふ。宇宙旅行、楽しみだな!
全てが、順調だった。