平原の覇者   作:うすば

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第11話

 

 極東支部の雰囲気は最悪だ。

 支部長により第一部隊がアラガミを匿っていたことが発表され、驚く間もなくエイジス計画が偽りであることが知らされた。

 

 アーク計画の開示。極東支部の人々は、地球に残り死ぬか、大勢を見捨てて宇宙へ避難するかの選択を迫られていた。

 

 第一部隊の面々は皆一様に暗い顔をしていた。

 その中でもコウタの表情は特に暗い。

 

「……どうするんだよ、これから」

 

 第一部隊の立場は微妙なものだった。

 一旦問題は保留とされたが、シオを匿っていたことは全ての人々への裏切りに等しい。サカキ博士が庇っていなければ事態はより悪化していただろう。

 

「……どうするもこうするもねえ。クソ親父からシオを取り戻す」

 

 みすみすシオを失い、知らぬ間にシックザール支部長に奪われていたことを知ったソーマは一時荒れた。しかしリンドウや仲間の支えにより立ち直り、シオの奪還を心に決めていた。

 

「えぇ……シオちゃんを取り戻しましょう」

 

 リンドウは元より、シオを可愛がっていたサクヤとアリサも覚悟を決めていた。悩んでいるのはコウタだけだ。

 

 外部居住区に大きな被害が出た時、コウタは大きな衝撃を受けた。家族が危険に晒されたことへの恐怖。それが転じて、同じ状況に置かれていた外部居住区の住民への親近感を強めていた。

 アーク計画はコウタの家族を救うが、彼らを見捨てる道でもある。

 

 結局コウタは決めかねたまま、家族の待つ家に帰った。彼の家族は思慮深く、善良な人物だ。コウタが自分のするべきことを悟るまで、そう長くは無かった。

 

 第一部隊はアーク計画に抗う覚悟を決めた。

 

 

 

 >>>

 

 

 

 支部長は僕に神機使いへの嫌がらせを命じた。ちまちまと襲撃を繰り返して戦力を削る。

 負い目もあり安請け合いしたは良いものの、どんどん心象が悪くなっているようで気が気でない。まあ最悪ロケットは一人乗りでもいい。新天地で暮らすことさえ出来れば。

 

 そんなこんなで、遂に約束の日がやってきた。

 決戦の地、エイジス島。僕は支部長から呼び出されていた。

 ノヴァは既に完成している。琥珀色の光が不気味に脈打ち、今にも起動しそうだ。額にはシオが磔にされている。

 

 結局ノヴァの育成速度は変わらず、計画は早まることは無かったようだ。むしろ僕のせいで遅れた分を、シオの早期確保で補えたような気すらする。ファインプレーだった。

 

 そして……ゲートから第一部隊が現れた。結局、彼らは戦う道を選んだようだ。それでこそだ。

 察するに、僕の役目は遅延戦闘で時間切れにして、彼らをロケットに乗るしか無くすることかな? さすが支部長。完璧な作戦だ。

 

 一通り会話パートが終わる。支部長は僕との関係もバラしたようだ。

 そして、颯爽とアルダノーヴァに乗り込んだ。そろそろ良さそうだったので、天井に張り付いてタイミングを見計らっていた僕は地面に落下する。

 第一部隊が神機を構える。覚悟の篭った視線が身体を射貫く。

 

 サカキ博士が下がる。帰り際に言った。

 

「……アラガミと組んだね、ヨハン。君は取り返しのつかない過ちを繰り返そうとしている。……もはや、手遅れかもしれないけれどね」

 

『いいや、それは違う。私は彼を利用したのさ、ペイラー。彼にはここで死んでもらう。元より……彼の席は用意していない』

 

 …………は? 

 

 だ、騙したの!? な、何で? 僕が何をしたと言うんだ……

 

『有り得ないのだよ、君という存在は。……アーク計画を知っていたな? これは極秘の計画だ。外部の、それもアラガミなどに知られるハズが無いのだよ。不確定要素は次の世界に持ち込ませない。ここで私に殺されるか、終末捕食に呑まれるか。二つに一つだ』

 

 ……あー、うん。まぁ、そうね。よく考えていなかったわ。

 

 …………よし。支部長は、殺そう。不都合な真実を知る者は闇へ葬らなければならない。どのみち死ぬのだ。これ以上余計なことを吐かれる前にご退場願おう。

 ロケットは他人のものを奪うとしようか。

 

 両手から神機を生やす。無論模しただけの代物だが、これはスサノオから奪ったものだ。元が元だけにそれなりに強力だ。

 

 エネルギーを噴出し、支部長もといアルダノーヴァに踊りかかる。複雑な軌道を描いて迫る僕を、アルダノーヴァは事も無げに迎撃した。

 スピア型の神機と女神の腕が鍔競り合う。硬っ。何で出来てるんだこれ。

 競り合ったまま、複眼からレーザーを連射する。数発女神に命中したが大半は男神の太い腕に弾かれた。そのまま殴りかかってくる腕を回避しバックステップ。

 

 再び斬り掛かろうとした所で、逆に背後からバッサリ斬られた。

 第一部隊。そういえば放置してたね、忘れてた。

 

 ソーマとリンドウさんはアルダノーヴァへ挑んでいる。僕を切りつけたのは主人公くんだ。入れ替わってアリサちゃんが上から下への斬り落としを仕掛ける。隙がない。なるほど、良いコンビだ。

 旧型ガンナー二人の援護射撃も中々に鬱陶しい。僕とアルダノーヴァ、それぞれを攻める部隊の支援をしている。両方を同時に相手取るつもりのようだ。

 

 つまり、僕たちは三つ巴の泥沼に突入した。

 

 流石にヤバいと思った僕は開始早々に天井へ避難している。まともに相手をしたら何だかんだで負ける。毎回のパターンから僕は学んでいた。上からチクチクとアルダノーヴァを狙撃するだけに留める。アルダノーヴァや第一部隊から攻撃がバンバン飛んでくるが、全て無視だ。エネルギーに変換された攻撃は、もはや僕には一切通じなくなっていた。

 

 アルダノーヴァの男神が結合崩壊を起こした。沈黙まで、そう長くないだろう。

 ついに女神が倒れ伏した。男神もそれに続いて倒れる。アルダノーヴァは撃破された。

 

『バカな! この私が……!』

 

「終わりだ……クソ親父……」

 

 よし、今だ。

 僕はアルダノーヴァを踏み潰した。天井からジェット噴射で突進し、勢いのままに蹴りを叩き込んだ。

 クソ親父さんは終わった。アーク計画は責任を持って僕が引き継ごう。もうすることなんてほとんど無いけど。あとは彼らをロケットに誘導するだけだ。

 

「ク、クソ野郎ッ……! やりやがったな……!」

 

「……お前じゃねえだろうが。支部長を倒したのは俺たちで、ソーマはヤツの息子だ! お前は、全く関係無いだろうが! 何なんだお前は!」

 

 ソーマもリンドウさんもめっちゃ怒ってるじゃん。何だと言うんだ。身内ではトドメを刺しづらいだろうし、むしろ僕に感謝するべきだろう。

 

『よく分からんことを言うね、リンドウさん。それに……随分と悠長だ』

 

 いよいよノヴァが起動する。揺れるような音がエイジスに響き渡る。そしてノヴァの放つ光が強くなり…………青色に変わった。音が止まる。

 …………あっ。

 

 第一部隊がシオの方を見た。僕には何も聞こえないが、きっと会話をしているのだろう。僕が拉致したのでゲームよりもなお短い期間しか共に居なかった筈だが、それでも絆を紡いでいたのだ。完全に想定外だ。

 

 ノヴァが夜空へ飛び去る。月へ向けて。

 ……いやマズいって! 

 

 ジェット噴射でかっ飛び、全力でノヴァを追いかける。

 触手を掴んで引きずり落としてやる! 

 掴んだ! 戻れええええ! 

 

 後ろから僕の翼が掴まれる。ソーマぁ! 

 

「邪魔は、させねえ! 二度もテメェをシオに近づけて堪るか! 落ちろォ!」

 

 僕はノヴァの触手を伝ってきたソーマに引きずり落とされた。クソおおおおおお! 

 

 

 

 暗い空を落ちて行く。エイジス島への落下だけは回避しなければ。第一部隊が待ち構えている中に落ちたら終わりだ。

 エネルギーを撒き散らしながら全力で夜空を泳ぐ。

 

 遠くの空で、月の花が咲いた。

 

 

 

 

 >>>

 

 

 

 

 不時着した場所は、嘆きの平原だった。

 奇妙なことに、地面に落ちた僕の目の前には沈黙するツクヨミがいた。アルダノーヴァの原型となった、支部長の遺産。そして……恐らく、このアラガミはノヴァの余剰パーツだ。アルダノーヴァと同じように。

 

 反射的に、僕はツクヨミを捕食した。

 心臓(コア)が跳ねる。

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