平原の覇者   作:うすば

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第12話

 とても良い気分だ。

 

 ツクヨミを食べたのは正解だったという奇妙な確信がある。急に視界が晴れたような、長い夢から覚めたような……何とも言えぬ清々しい気分だ。

 身体が青く輝き、背にある二対の翼が、風も無いのにたなびいている。コアの脈動はいよいよ強くなってきた。光もそれに合わせるかのように強弱を変える。

 なるほど。この光は……ノヴァですね。ノヴァですわ。さっき見たノヴァ(inシオ)と同じ光だ。支部長の言った通りだった。終末捕食のやり方とか知らないけど大丈夫かな……

 

 空に騒音が響く。ヘリの音だ。エイジス方面から飛来したようだ。第一部隊が追ってきたか。

 僕は第一部隊を投下したタイミングを見計らい、レーザーでヘリを撃墜した。所詮はカプコン製、脆いものよ。

 真っ先に降ってきたソーマの渾身の一撃を躱す。避けた先で主人公くんの狙撃を顔面に受けた。モルター。頭が爆発して少し怯む。相変わらずどんな読みしてんだよ。バケモノめ。

 

「ヴリトラ……!」

 

 ソーマの神機は真っ白に染まっていた。やはりシオを捕食したようだ。ヒトの形をしたモノを捕食させるなんて、やはりソーマはこちら側の存在に違いない。トモダチ! 

 残りの四人が着地する。リンドウさんが吠えた。

 

「これで全てを終わらせる! いいな、お前ら!」

 

 サクヤさんがよろけた僕を追撃する。レーザーを放ち、言った。

 

「ええ、これで最後よ! シオちゃんがあんなに頑張ったんだもの。私たちも頑張らなくちゃ!」

 

 コウタとアリサが銃を構える。アリサは新型だが、僕の身体の大きさに対してに前衛四人は多すぎる。彼女は臨機応変なカバー要員って所だろう。よく考えられた編成、なのかな? 

 

「はい!」

 

「ゼンブ終わらせて、皆で帰ろう!」

 

 

 そう、これで最後だ。負ける気がしない。

 決着を付けよう。

 

 主人公くんの連撃。右上から左下への斬撃、次の瞬間には横に回って下から上への切り上げ。繋げた捕食攻撃の反動を利用してバックステップ。目にも止まらぬ早業だ。

 

 バックステップで神機槍の刺突を透かされた僕のスキをついて、リンドウさんが突っ込んでくる。

 ブォンと、風の音が聞こえる程の横薙ぎ。神機槍でカチ上げようとしたが力負けした。だが僕には二対の腕がある。拳でリンドウさんを殴り飛ばす。軽い。威力を殺された。

 リンドウさんが離れた瞬間に、三方向から銃撃の雨を浴びせられる。腕で弾を弾き散らした。弾丸はもう効かんよ! 学ばないな君たち! 

 だが気のせいだったようだ。普通に複眼が潰れてしまった。……あっ、主人公くんのモルターか!? ダメージの蓄積……! ッまだだ! 僕の回復力をナメるなよ! 

 回復リソースを複眼に回し視界が戻る。……!? 目の前にソーマ。チャージクラッシュ……! マズい! 避けっ……

 何とか避けようとしたが視界が戻ったばかりで体勢が悪かった。回避しきれず絶対に受けてはいけない攻撃を食らってしまった。

 吹き飛ばされて壁に激突する。あぁ、コアが損傷した。これは……致命傷だな。リンドウさんたちが駆けてくる。終わった。

 あれ? そもそも何で戦ってるんだっけ……? たしか僕は、戦いは苦手だから避けようって考えて……。な、何か……何かがおかしい……。

 僕は…………

 

 

 

 気がついたら僕の意識は宙に浮いていた。

 大気圏から地表を見下ろすのと同時に、地表から空を見上げている。そういえば、頭に響く声。人類排除の指令も、この視点の主と同じ気配だ。これは……星の視点、なのか? 

 

 いや、違う。この気配は……僕? だが僕はここにいる。

 

 ならこれは…………そうか、前回のノヴァか! 

 白亜紀の終わりに顕現した、竜殺しの(ノヴァ)。あの声はアラガミの本能でも、星の意志でも無い。このノヴァが直接下した指令だったのだ。

 

 ノヴァは地表の全てを捕食し、地球へリソースを還元する。それはどのようなものなのか。きっとこれが答えだ。

 全てを捕食したノヴァは地球と一体化するのだろう。そうしてリソースを星に還すのだ。そして、次の時代でノヴァを育成する。頭に送られる声がそうなのだろう。

 

 そして……僕がここに居るということは、来たるべき時が来たのだろう。僕に終末捕食を起こせと言うのか。しかし僕は特異点を取り込んでいない。終末捕食は発動出来ない。

 

 ……いや、違う。シオはノヴァを操縦した。特異点は制御パーツってことだ。終末捕食の発動自体とは関係が無い、のか? 

 そう考えると辻褄が合うような気がする。ノヴァが地表全てを捕食したなら、特異点がどこに居ようが関係無いのだ。2の赤い雨も、ノヴァの育成では無く特異点の育成のための装置だった。特異点は後からで良い。終末捕食の発動自体には特異点を必要としないのか。

 ノヴァが環境をリセットし、取り込まれた特異点が制御してリソースを還元する。それがこの仕組みの正体だ。

 

 声が、全てを捕食しろと囁いてくる。不思議な強制力を感じる声だ。

 だが……もう、すんなりと言うことを聞くのは癪だな。

 お前はノヴァで、僕もノヴァだ。もう……僕たちは対等なんじゃないか? 

 そう思い至った瞬間から、僕は声をねじ伏せることが出来た。僕という意識が肥大して、前回のノヴァを塗り潰していく。……今までよくも僕の頭に電波を垂れ流してくれたな。対等ってのはやっぱ無し。お前が下で、僕が上だ。お前はここで惨めに死ね。

 

 

 

 現実へと意識が戻った時、まだ目の前には駆け寄ってくる第一部隊が居た。あの空間での時間の経過は無かったようだ。

 切りかかってくる主人公くん達三人。だが……悪いね、ゲームセットだ。

 

「なっ!」

「ぐあッ!」

 

 エネルギーを解放して周囲を吹き飛ばす。エネルギーは光の粒となり、青い嵐が僕を包んだ。嘆きの平原に渦巻く竜巻を取り込み大きな渦になる。竜巻の底、大穴から琥珀色の光が立ち上った。光は直ぐに青色に変わった。今なら分かる。あれは……さっき支配した、前回のノヴァのコアだ。

 全てのオラクルが嘆きの平原を満たしている。さあ、終末捕食を始めよう。

 

 束縛から解き放たれた肉体が巨大化し空を突き破る。黒い翼が天を覆い、二対の腕が地を抱き締めた。

 宇宙から…………月から見たなら、巨人が星を抱き潰そうとしているように見えたことだろう。シオ、見てるかな? 

 

 さて。

 前回のノヴァに逆らうと宣言したのは伊達では無い。特異点無き終末捕食。暴走状態に近いそれを制御する。僕なら出来る。

 だって、僕の主体はこの意識にあるのだから。コアが再生するのもそのためなのだろう。肉体に優越する精神。要するに心で身体を制御するってことだ。たったそれだけのことなのだ。

 目指すのは────極東の人間だけを除外した終末捕食だ。

 

 

 

 >>>

 

 

 

 再生された自然の中、嘆きの平原だった場所で惚けている第一部隊がいた。僕はそれをあらゆる角度から見守っている。

 星そのものと一体化して獲得した高次の視野を遺憾無く使って極東地域を観察する。

 外部との連絡が取れず、大慌てをしているサカキ博士が見えた。アラガミが消えて戸惑っている防衛班が見えた。他にも沢山の人が居た。

 もちろんこれは極東だけだ。支部近辺以外は全て捕食し、環境をリセットした。

 人類はもう極東の一部にしか生息していない。だが、残された彼らは強い人々だ。以前よりも豊かな世界になったことだし、何だかんだ元気に生きていくことだろう。いざとなれば僕が干渉することも出来る。今やこの星は僕でもある。ある程度は環境を調整することだって可能だろう。

つまり……この星の全ては僕の支配下に落ちた。虫けらの如き人間どもには僕を害することなど出来ようはずも無い。もはや死の危険は遥か彼方。世界の幸福を独占したような素晴らしい気分だ。

今まで散々いたぶってくれた彼らには今後、僕の掌の上で踊ってもらうとしよう。

 

まるで全てが玩具であるかのようだ。ならば、僕こそが神なのだろう。


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