「弱いウロヴォロス?」
「そうだ。心当たりはあるか?」
帰投したリンドウはペイラー・サカキの研究室に赴いていた。
「視認されても戦闘状態に入らず、終始、非戦闘行動をとった、ね……」
「そうだ。斬りかかってもヤツは腕を振り回すだけで、どうにも攻撃の意図を感じなかった。オマケに少し斬っただけで逃げ出した。それが……俺には、ヤツが怯えているように見えた。博士、あんたがコアを調べたんだろ? 何か気がつかなかったか」
「フム……」
超大型アラガミ、ウロヴォロス。
発生地不明の謎多きアラガミ。山のような大きさと赤い複眼、加えて大きな角に朽ちた翼を持つ、数種類のアラガミをごった煮にしたような異形だ。強大なアラガミであり、討伐されるのは稀なことだ。
リンドウ君が回収したウロヴォロスのコアには強い結合が見られたことが記憶に新しい。しかしそれは大型のアラガミにある程度共通する特徴でもある。ウロヴォロスの巨大なコアは希少であり、非常に興味深い検体だったが……それだけだったはずだ。
しかし、なるほど。
「いや、特に思い当たることは無いね。リンドウ君が回収したコアは登録されている情報の通りだったよ」
「……そうか。悪かったな、時間を取らせて」
「構わないさ。……時に、リンドウ君。君がそうまで気にする理由は何だい? ものぐさな君がわざわざ私の所まで来るなんて珍しいじゃないか」
「……いや、大した理由じゃない。少し気になったってだけだ」
「なるほど。……ところで、君の探っている件についてなのだがね。これ以上の深入りは止めておきたまえ。私に悟られるようならば、ヨハンにはとうにバレているだろう」
アーク計画。アラガミ装甲に囲まれた人類の安全圏を作る『エイジス計画』を隠れ蓑に進行する人口の終末捕食。計画を主導するヨハンはノヴァの母体を作成すると同時に、起動と制御を担う特異点を、正確にはそのコアを探している。
リンドウ君が探っているこの計画はヨハンの悲願であり、極秘でなければならない類のものだ。ヨハンは今や一支部長でしかない。発覚したら本部の干渉は避けられない。アーク計画はフェンリルへの背信行為に他ならないのだから。
リンドウ君は頭を搔いた。
「……バレてんのか、参ったな。……そんなら言っちまうが、支部長は俺を使って何かを探している。今回の特務で、ヤツは探し物を見つけたんじゃないか、なんて考えたんだよ」
「素直でよろしい。結論から言うと、アレは本当にただのコアだ。それ以上のモノでは無いよ」
「……そうか。ありがとよ」
リンドウ君はそう言うと私の部屋を辞した。
ヒントは与えた。私らしくもないが、この位の肩入れはいいだろう。
私とヨハンが結託していないことは、これでわかってくれただろうからね。リンドウ君が特異点を発見したなら、私の元に連れてきてくれるかもしれない。早期に確保出来たなら、それだけ私の勝ちの目が増える。
……そして彼には言わなかったこともある。復活し、すぐに消失したオラクル反応。情動を感じさせるウロヴォロス、か。
「人が神となるか、神が人となるか。私たちの知らない新たな役者が現れたようだ。……この競走、まだ分からないよ──ヨハン」
ヨハン:ヨハネス・フォン・シックザール支部長。人類に絶望していたりしていなかったりする。特異点が欲しい
ペイラー・サカキ:人類とアラガミの共存の道を探っている博士。特異点が欲しい