暗い穴を真っ逆さまに落ちていく。
しかし随分と深い穴だ。落ちたアラガミはそうそう出てこられないだろう。
轟音を立てて地面に衝突する。アラガミボディーは物理的なダメージにめっぽう強いので、痛みはほとんど無かった。
リンドウさんに斬られた時の方がよっぽど痛かったね。
穴の底は、端的に言うと地獄だった。
大小様々なアラガミが地面から生えては争い、互いに喰らい合う戦場。広い穴の底に、咆哮と断末魔が絶えず響いている。
体躯の大きい僕に襲いかかってくるほど獰猛な奴は居ないようだが、数がとにかく多い。落下した僕の下敷きになって潰れた運の無いアラガミもいるほどだ。
うーん、グロいな。ゾンビ映画のような嫌悪感を覚える。ヴァジュラに首を撥ねられたオウガテイルの頭部がこちらに飛んできた。地獄かな?
琥珀色に発光する地面の上で延々と殺し合う同胞の姿にドン引きした僕は、無益な争いから彼らを救うべく片っ端から食べることにした。
彼らは尽きせぬ闘争から解放され、僕は空腹を満たせる。ウィンウィンってな訳だ。素敵だね
さて、そうと決まれば話は早い。とてもお腹が空いていた。
僕は引き潰したアラガミを体表から捕食した。
オラクル細胞は単体で捕食活動が行える。本来なら口を模す必要など無いのだ。学習したことが効率がいいとは限らないってことだね。
巨体を引きずり、争いに夢中なアラガミを次々と捕食する。
彼らから獲得したリソースをダメージの補填に充てると、傷はすぐに癒えた。
断ち切られた片角だけがそのままだが、まぁよかろう。元より使い物になっていない部位だからな。見方によってはチャームポイントだ。
しかし……本当に不思議な空間だな。
竜巻で抉れたという広さでは無い。フラスコに似た形状の空間だ。僕は丁度口の部分から落ちてきたことになる。
ぼんやり光る地面といい異常なペースで湧き出るアラガミといい、明らかに不自然だ。何処となくエイジス島に似た雰囲気を感じるな。ノヴァ居ないけど。
……もしかしてここ、僕の生まれた場所じゃないか?
元より疑問ではあった。
この巨体が育まれる環境は外界にはそう多くないはずだ。単純に考えて、質量を増やすには消費されるエネルギーを供給が大きく上回る必要があるのだ。外界で獲物を探してウロウロしていては消費するばかりだろう。
そして、ウロヴォロスは角や複眼、触手などの様々な特徴を持つ。それだけ多くのアラガミを捕食したのだろう。今の僕と同じように。
ウロヴォロスの生産工場。僕の無駄に多い触手は、ここから這い出るためにあったのか。
ひとまず周囲のアラガミは全て平らげた。新しく生えてくるのも定期的に触手で薙ぎ払いつつ捕食すれば良さそうだ。
さて、これからどうしたものか。
相変わらず頭に響く、指令ともアラガミの本能ともつかぬ声に従って人類を滅ぼすべきか? これだけ世界が荒廃していると地球環境のリセットは必要だろう。環境に優しい系アラガミとしては終末捕食に賛成だ。
でも極東支部の皆さんは殺したくないんだよなぁ、ファンだし。リンドウさんに恨みはあれど憎んじゃいない。
うーん…………よし、折衷案だ。
まず民間人を襲おう。外部居住区を破壊する。
そして最終的にはアーク計画を完遂させるのだ。
いや、これは中々にいい案じゃないか? 襲撃が成功すれば、極東支部は外部居住区の防衛に戦力を割くことになるだろう。当然、僕を襲うゴッドイーターの数も減る。そして時間が稼げれば支部長は特異点を発見し、アーク計画は成就するだろう。うん、一石三鳥の素晴らしい案だな。僕は天才だった……?
アーク計画は人類を残しつつ環境リセットが出来る素晴らしいプランだ。作中では失敗したが、このプランに乗れば僕の目的は全て達成できる。
そしてリンドウさんの特務から今の時期はゲームの序盤だと予測できる。時間に余裕がある今なら取れる手段は多いはずだ。
まず肉体を改造しよう。リンドウさんにエンカウントして殺されては元も子もないからな。
そもそも全体的に脆いくせに身体がデカすぎるんだよ。翼もあるのに飛べないし。とにかく大きいのが悪い。身体が重くて逃げることも出来ない。
触手はまぁ……柔軟性と防御力を両立するのが無理なのは分かる。でも両方とも中途半端なのはいただけない。
改造で最終的に目指す地点は決まっている。人型アラガミだ。
終末捕食が始まったら僕も逃げる必要があるからな。宇宙船に紛れ込んでも許される姿でなくては。
……うーん、そうは言ったがいきなり人型になるのは無理なようだ。どうもこの身体、人間を捕食したことが無いようだ。今後の目標だな。
僕はコアを掌握し、大雑把に身体を作り変えた。
まぁ簡単だ。ほとんどコア任せな上、改造に使うリソースは地面から生えてくるのだ。僕はコアを制御するだけでいい。
内容にしても単純なものだ。肉体の密度を上げればサイズは縮む。翼は元々あるものを大きくして整形するだけだ。触手は……防御力を捨てよう。代わりに弾性と柔軟性を大きく向上させる。まるでゴムのように。そして、ピンと硬化させれば歩く際の杖代わりにもなる。そこは同じだな。
全体の見た目は少し小さいウロヴォロスといったところだ。
数日の後、肉体改造を終えた僕は穴を登って外に出た。
穴の縁に掴まって空を見上げる。【嘆きの平原】は相変わらずの曇天だ。さあ行こうか。
僕は大きくなった翼を広げ、渦巻く風に乗り勢いよく空へ飛び立った。フライアウェイ!
──そして遠くに捉えた外部居住区に向けて圧縮レーザーを放った
主人公:人を人とも思わぬタイプの邪悪