穴底のアラガミと戯れる中で、僕はこの身体の使い方を掴んでいた。
ビームを圧縮したレーザーもその一つだ。
細いレーザーだが射程は非常に長く、着弾地点で結合が崩れ爆発する仕組みになっている。今頃外部居住区は大騒ぎだろう。
その外部居住区に向かって滑空している。
どうもこの翼はあまり高く飛べないようだ。何もしなくても高度が下がる。何とか対アラガミ防壁を越える高さは維持できそうだが、帰りは歩くしか無さそうだ。
空の散歩を楽しむことしばし。ようやく極東支部を確認した。ここからなら人の姿も視認できる。居住区のさらに内側、アナグラ方面へ逃げているようだ。おや、こっちに気づいた人も居るな。
進路に追加でレーザーを打ち込み、人の流れを一箇所へ誘導する。
つまり、僕の着陸地点へと彼らを集めた。
翼を折り畳み、上空から落ちるようにして壁の内側へ着陸する。
土煙が晴れると悪夢でも見たような表情で硬直し、こちらを見つめる人々がいた。
その中の数人と目が合ったが誰も声を上げない。
うん、お見合いしていてもしょうがないね。
触腕を先端だけ開き、爪のある手を形成する。
脚だけで立ち上がり周囲を把握。その姿は四腕の巨人にも見えたことだろう。
──そして一気に触腕を四方へ突き出した。
射線にいる連中を一纏めに掴み、掌から捕食した。
不運な彼らは死んだことにも気がつかなかっただろう。
僕の捕食スピードは偏食因子を持たない一般人なら触れただけで捕食出来る程に上がっていた。これも身に付けた技術の一つだ。のんびり食べている暇が無かったんだよな、あの魔境。
少なくない血が飛び散り、次の瞬間悲鳴が爆発した。
一斉に逃げ出す人々。鬼ごっこの始まりだ。
『オオオォォォォォ……』
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そこには地獄があった。
「何だよ、これ……」
火が燃え移り炎上した家屋。外部居住区は粗雑な廃材を組み合わせただけの小屋が多い。それらが密集しているため、火はどんどん燃え広がっていく。
最早人影は無く、パチパチと火が弾けて鳴るばかりだ。時折何かが崩れる音がする。
防衛班班長、大森タツミが辿り着いた時には既に"終わって"いた。
防衛班はアナグラや外部居住区などの拠点及び一般人の防衛が仕事だ。
その性質上非番の出撃も多く、タツミも休日ながらアナグラで待機していた。
彼以外の第二部隊は、いつものように極東支部へ迫るアラガミを迎撃に出ている。第一部隊も任務のため不在だ。緊急警報を受け現場に急行したタツミは、幸か不幸か最初に駆けつけることが出来た。
逃げ惑う人々と反対に駆け、首尾よく辿り着いたタツミを迎えたのはこの世の地獄だった。
そして──地獄の中心に、炎に照らされた黒い影が落ちている。
「まさか──ウロ、ヴォロス、なのか……?」
超弩級アラガミ、ウロヴォロス。同種に比して小柄だが、それでも尚他のアラガミとは比較にならない巨大なシルエット。
タツミもデータベース【
タツミの見つめる先、黒い翼を外套のように纏った影が振り返る。そして────赤い複眼と目が合った。
「ッ……!」
強いプレッシャーに咄嗟に目線を下げてしまう。強敵を前に、あまりにも致命的な行動だったが、偶然にも"それ"に気が付く。
ウロヴォロスの足元には大きな血溜まりが出来ていた。
炎で反射し、ぬらりと光る赤い血がここで何があったのかを語るかのようだ。
──それを見たタツミは怒りで恐怖をねじ伏せた。
守れなかったものを知り、守るべきものを思い出した。タツミは第二部隊隊長にして防衛班班長だ。彼こそが住民を守る最後の盾だ。
覚悟と共に、伏せていた目を上げる。
しかし──ウロヴォロスはそこには居なかった。その姿は既に小さい。音も無く逃げた。
そして、ギョッとするタツミを他所に────対アラガミ防壁に拳を振りかぶった。触腕二本を纏めた太い腕が、青い光を放っている。
「ま、待て、やめろ」
冷えた身体に熱が戻る。神機を手に全力で駆ける。
「やめろおおおおお!!」
だが間に合わない。俯いていた時間はやはり致命的だった。
ウロヴォロスの一撃が炸裂し対アラガミ防壁が爆発する。
煙が落ち着き、視界が晴れた先に吹き飛んだ防壁を見たタツミの手から、神機が零れ落ちた。