「ヒバリちゃん……?」
『……ミさん……タツミさん! 繋がりました! 無事ですか!? 状況を教えてください!』
「……外部居住区の対アラガミ防壁が、壊された。アラガミの群れがそこまで来ている。早く……早く救援を呼んでくれ……」
数日前、飛行するウロヴォロスに強襲された極東支部は未曾有の大混乱に陥った。パニックを起こした外部居住区の住民はアナグラへ詰め掛け、すぐに暴動へ発展した。今なお職員は対応に追われている。
そして何より深刻なのが対アラガミ防壁の破損だ。
外部居住区を囲む、その堅牢な壁は一部が消し飛んでおり、アラガミが何時でも侵入できる状態だ。急ピッチで修復作業が行われているが、警護のゴッドイーターの人手が足りず進捗は芳しくない。
ウロヴォロスの襲撃の後、すぐにアラガミの群れが外部居住区に侵入した。
大きな被害が出ると思われたが、大森タツミの奮闘により第一部隊が間に合った。だが代償にタツミは重症を負い、今なお目覚めていない。
ペイラー・サカキは、第一部隊及び、タツミを除いた第二部隊のメンバーを招集していた。
「──以上が、件のウロヴォロスの映像だ」
対アラガミ防壁に設置されている、監視カメラに残された映像には、民間人を相手に暴れ回るウロヴォロスの様子が映し出されていた。
青く輝く拳がカメラ付近の壁を吹き飛ばして映像が途切れる。
「あれが支部長が発令した緊急任務の……」
「チッ……胸糞悪ぃ……」
第一部隊の面々は、まだ悪態をつく余裕がある。深刻なのは第二部隊だ。隊長のタツミを失った彼らは血がにじむ程強く拳を握り、普段は冷静なブレンダンですら歯を食いしばっている。
「諸君らも知っての通り、アレが今回の事件の元凶だ。概要と対策について、私が説明を請け負っている。支部長のヨハンは対応に追われて動けないからね」
──あればウロヴォロスでは無い。ノヴァだ。まだ幼体なのだろうがね。
有り得ない発言に場が騒然となった。
ノヴァ。
終末捕食なるオカルトの、アラガミが共食いの果てに至るという終着点。根拠の無い噂話であり、実在するはずが無い怪物だ。星を喰らうとされるそれは一時世の中を騒がせたが、既に過去の話だった。
「まず前提として、終末捕食は実在する。既に数回発動したと思われ、古くは恐竜の絶滅にもその痕跡が見受けられる。──要は地球環境のリセット機能だ。アポトーシスの一種であるという見方も出来るね」
ソーマが腕を組んで言った。
「……アレがノヴァだという根拠は」
「映像であのアラガミは青く光っていただろう。ノヴァとは、終末捕食を引き起こせる程に大規模、或いは高密度のオラクル細胞を持つアラガミを指す。ウロヴォロス通常種の結合崩壊時にも見られる、可視化されるほどに凝縮したオラクル細胞のエネルギーがあの青い光だ。それを体外に放出する余裕が出来るほど溜め込んだのだろう」
「……それだけか」
「あとひとつ。知っての通り、ウロヴォロスは多くのアラガミの特徴を持つ。これは数え切れない共食いの結果と判断していいだろう。……もう分かるね? ノヴァの生育環境に最も近い育ち方をしたアラガミが、ウロヴォロス神属なのだ」
リンドウが深刻な顔をして挙手した。
「質問だ、サカキ博士。ヤツは……何処から来た」
「…………アレは第七部隊、リンドウ君が討伐した個体だ。嘆きの平原から飛来した痕跡があった。そして……弱者を狙い、タツミ君との交戦を避けた。悪意にも似た知恵。間違いないだろう。リンドウ君との戦闘を学習されたな」
「つまり、俺が仕留め損ねたせいってことか。クソッ!」
リンドウの飄々としたなりは息を潜め、恐ろしい鬼のような形相だ。
一拍置いて、サカキが言った。
「……いいや、私の責任だよ。私は……ウロヴォロスの反応が復活した可能性に気が付いていた。知恵の片鱗にも。まさかあれほど──悪辣な学習をするとは。私は、理想に目が眩んで見誤ったんだ。本当にすまない」
「────対象は既に相当数の人間を捕食している。これ以上知恵を付けられる前に、或いは終末捕食が発動する前に討伐する必要がある。……頼んだよ、君たち」
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僕は数日の間、贖罪の街に身を潜めていた。
理由は簡単。帰り道が完全に分からなくなった。端的に言うと迷子だ。深く考えずに真っ直ぐ飛んできただけだからね。
潜伏場所はマップ外、大穴の空いたビルの中心部。背景で印章的だったアレだ。
ゲームでは侵入出来るエリアでは無かったのだが、ここは現実なので普通にマップ外まで探索に来ているようだ。下をゴッドイーターが彷徨いている。このままでは直に発見されるだろう。
──おかしい。そこいらを歩いている神機使いが想定よりずっと多い。
先日の作戦は成功した。
極東支部は戦力を防衛に割くことになるはずだったのだが……どうしてこうなった。
やはり作戦にガバがあったのだろうか。
……あったのだろう。よく考えると穴だらけの作戦だな、これ。外部居住区だけ襲って逃げるアラガミなんて、そりゃ躍起になって殺しにくるわ。やらかしたぜ。
とてもまずい状況だが、大勢の人間を捕食し
──何ならこちらから仕掛けても良いな、と考える程度には
以前より長くなった首をもたげ、遠くに見える通常マップ目掛けて跳躍する。触腕から放出したエネルギーで弾みをつけ、大きく羽ばたく。
しかし速度を出しすぎたようだ。
教会の壁に派手に衝突した僕を神機使いたちがギョッとして見る。おっとこれは第一部隊の御三方。リンドウさんに主人公くん。おや、アリサちゃんも到着したんだね。酷い顔をしていらっしゃる。
では、秘密兵器のお披露目だ。
神機を構える彼らに顔を向けて、僕は親しげに
『トモダチ』
『ニ』
『ナロ゛オォォウ゛ゥゥ』