平原の覇者   作:うすば

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第8話

 

 気味が悪い。

 

 リンドウの心中はその一言に尽きた。不気味な声で有り得ないことを話すヴリトラはひたすらに気味が悪かった。しかしそれでも冷静さを失わない辺り、彼は戦士として希な適性を持っているのだろう。

 怒りで力を増し、思考は冷静を保つ。

 強力な個人であり指揮官でもあるリンドウは、内面の矛盾を飼い慣らす事ができた。

 

 ──そのアラガミは新人との初任務を狙い澄ましたかのように現れた。

 不快な声で巫山戯たことを抜かすそれは、まるで悪意の塊であるかのようだった。

 無辜の人々を殺し、同僚を意識不明に追い込んだ元凶。サカキは自らの失策を悔い、その理想を一時保留し討伐に協力した。リンドウとて仕留め損ねた自身への怒りを堪えられなかった。

 

 しかし──コイツが居なければ、と考えるのは当然の帰結であり、また事実だった。

 

「おおおッ!」

 

 怒りで満ちたリンドウの身体は普段よりも速く動いた。

 

 接近するリンドウへ、ヴリトラが首を捻りビームを放つ。

 リンドウが避ければアリサに当たる軌道だ。だがリンドウは動じない。

 軽々と回避し、飛び上がって頭部に斬撃を加える。避けたビームはアリサへ向かうが、"彼"が横からアリサに飛び付いて躱した。

 この二人は既に言葉に頼らない連携を完成させていた。非凡な才を持つ者同士、通じ合うものがあるのだろう。

 

 回避した勢いを利用して回転し、神機を変形させた"彼"が射撃する。

 遅れてアリサも弾を撃った。

 

 それを意に介さずヴリトラは地面から跳躍し、翼を広げると地上へ触手を打ち込んだ。

 

「ぐっ……!」

 

 雨のように連続して打ち込まれる触手にリンドウが弾き飛ばされる。

 すかさずフォローが入り、"彼"──神薙ユウがショートブレードに変形した神機で切り込んだ。

 細かい動作で触手を回避しながら斬撃を加え、空中に飛び上がって捕食攻撃をする。バースト。

 

 ヴリトラがじたばたと暴れ回る。大きな質量の運動はそれだけで脅威だ。素早く下がった神薙ユウを加速した触手で追撃した。

 

 青い残光を引いて触手が迫るがそもそもの出だしが遅い。ひらりと、当然のように回避されて当たらない。

 

 ヴリトラは転生者だ。かつては一般人であり、平和な国の教育を受けていた。なまじ考える頭があるから、動作にアラガミには無い思考のラグがある。強敵を前に、考えてから動くのでは遅すぎるのだ。

 いかに精神がアラガミに染まっていても、そもそもの頭が平和ボケしているのである。判断の悪さはその場のノリで適当に生きてきた弊害でもあった。

 

 体勢を立て直したリンドウと神薙ユウが再び迫る。

 

「ちょっと! 私たちは援護に徹しろって……もう!」

 

 不気味な新種アラガミに不安定になっていたアリサだったが、二人の超絶技巧の前に落ち着きを取り戻していた。

 

 精神に余裕が出来たアリサが銃撃するなか、前衛二人はヴリトラの動きを制限するように立ち回っていた。

 紙一重で触手を躱し、返す刀を浴びせることを繰り返して、その攻撃は間違いだと教え込んでいく。

 優れた学習能力を逆手にとる。これがサカキの授けた策だった。

 

 完全にパターンに入っていた。

 

 神薙ユウの執拗な捕食攻撃と、途切れることの無いバースト。加えて死角に潜るリンドウとアリサの銃撃に焦りを感じたのか、身体窮まったヴリトラが身体を振り回す。そのままグルグルと回転しながらビームやレーザーを乱射した。

 

 神薙ユウとリンドウに距離を取らせることに成功するが、アリサの銃撃が複眼に命中し結合崩壊した。

 怯んだヴリトラが回転を止める。

 

 これ以上無い好機に、トドメを刺そうと三人が距離を詰め一斉に剣を振るう。そして──怯んだ体勢のヴリトラが爆発した。

 

 シールドの展開が間に合い大きく弾かれる三人。顔を上げた彼らの目に映ったのは街の下層へ墜落するヴリトラの姿だった。

 

 

 爆発で巨体が吹き飛び、下層の建物をなぎ倒していく。そして────その勢いを更なる爆発で加速する。爆発を次々に連続させることで、爆発しながら逃走した。

 

 イカの様な動きでヴリトラが遠ざかる。

 

「──え? 嘘、でしょう?」

 

「ちょっ、おいおい! 逃げるな!」

 

 そして、青い爆発も黒い巨体も見えなくなった。

 

 




ヴリトラ:その言葉に意味は無く、その行動に信念は無い。その場のノリで生きるを突き詰めた結果、善と悪を区別しない真の邪悪になった。得意技は自爆
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