平原の覇者   作:うすば

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第9話

 

 主人公くん、怖っ。

 

 全ての攻撃を見切られ、軽く三十回くらい捕食された時点で完全に心が折れた。捕食攻撃と結合崩壊はホントに痛い。

 秘密兵器だったヒトの言語も、強くなったはずの能力も一切通じず、まさに完封負けだった。

 主人公くんの反応速度は明らかに人間じゃない。挙動の先に攻撃が置いてある感覚だ、全く訳が分からない。反応速度というより予知の領域だった。あれで新人なのだから恐れ入る。リンドウさんよりやべぇや。

 ヤバい奴にヤバい奴が合わさり最強に見えた所に、更にアリサちゃん加入だもんな、やってられんわ。僕も仲間が欲しいぜ。

 

 第一部隊の三人に敗北し、ほとんど自爆に近い形で逃げ出した僕は、海の近い土地まで辿り着いた。

【愚者の空母】近隣の港。

 今は崩れた建物が密集している地点に身を隠している。爆発で削れた身体は小さく、隠れるという選択肢が取れるようになっていた。

 

 それにしても、こうまで敗北続きだと流石に落ち込む。

 少し人間を侮っていた。そもそも極東支部の戦力が高すぎてどうにもならん。

 僕って戦闘ヘタクソなのかなぁ。こと捕食に関してはどのアラガミにも負けない自信があるのだが。体表面ならどこからでも捕食出来るアラガミなぞ他に居ないだろう。オラクル細胞を世界で一番上手に使いこなしているのは間違いなく僕だという確信がある。

 

 声の出し方にも慣れてきた。よし、次こそは説得してみせよう。小柄になり、さらに親しみやすくなった僕に不足は無い。

 今までのエンカウントだって無駄ということは無いはずだ。

 細かいコミュの積み立てが未来へ繋がる。第一部隊が美少女アラガミになった僕と何だかんだで仲良くなり、最終的に極東支部のマスコット枠へ収まる栄光の未来は着実に近づいている。

 

 ちゃんと話せばアラガミ陣営を取り込むことは必須だと分かってくれる筈だ。

 結局、終末捕食が不可避なのは事実なんだから。アーク計画こそが唯一の最適解なのだ──少なくとも僕にとっては。

 地球を穢すだけのモブ人類は滅びてしまえ。

 

 奇しくも支部長の思想と重なっていた。優れた人類を次代に残すとはそういうことだ。浄化された星に残るのは、極東支部の皆さんと僕だけでいい。

 

 

 

 ふと、愚者の空母へ目を向ける。眩しい夕陽の下、デカい神機を肩に担いだフードの男が、ボルグ・カムランを撃破していた。

 あれは……ソーマじゃないか? 支部長の一人息子。タイムリーだ。

 ……はーん、分かったぞ。さては特務だな? シックザール支部長はノヴァ育成の手は緩めていないようだな。何よりだ。

 

 周囲にはソーマ一人きり。これは────チャンスだ。

 

「なにっ……! ッテメェは……!」

 

 神機を構え警戒するソーマ。

 

『ソーマ。同胞ヨ。少し話ヲしヨうじャナいか』

 

「……ッ!! アラガミが、一丁前に口を聞いてんじゃねえ……!」

 

 おいおい、酷いことを言うじゃないか。……まさか、僕が無策で現れたとでも思っているのかな? 話を聞く流れさえ作ればこっちのものだ。

 ソーマはツンケンした態度とは裏腹に、情に厚い一面がある。そして──僕は既に超遠距離攻撃を見せている。仲間の命を盾に取れば、話を聞かせるくらいは出来るさ。

 

『酷いコトを言ウナよ。僕ラは同胞、誰の目にモ明らカにな。話くラいは聞イテおくレ。仲間ッ──!』

 

 痛ったぁ! 最悪のタイミングでノドが結合崩壊した。仲間の命が惜しくないのか、と言おうとした瞬間に限界が来た。

 発声のために、複雑な構造にしたのが悪かったのか。ノドが脆すぎる。確かに発声練習の段階でダメージ入ってたけどさ。よく考えずイケると思ったのが間違いだった。

 

 

「ッ──、誰が、仲間だ! バケモノが!!」

 

 開戦。

 

 怒り狂ったソーマが肉薄する。

 今の僕はシユウとさほど変わらない大きさだ。爆発で吹き飛びながら、残った身体を圧縮したらこの大きさに落ち着いた。元より限界まで圧縮していたつもりだったが、防御の意識が更なる圧縮を可能にしたのかもしれない。

 

 つまり、以前よりも硬くなっている。

 

 神機が振り下ろされる。

 大気を割いて迫るそれを、僕は片手で受け止めた。

 

「何だとッ……!」

 

 ソーマが驚愕に目を見開く。

 

 見せかけの口を歪めてソーマを嗤う。まるで余裕を誇示するかのように。

 そして────その表情のまま、僕は吹き飛ばされた。いくら硬くてもソーマの筋力の前には関係無かった。

 取り敢えず格好つけてみたのはヤケだ。

 

 質量が上がって、重量も増したハズの僕を軽々吹き飛ばしたソーマは警戒した様子で、攻めて来ない。頭が冷えてしまったようだ。

 落ち着いた様子で耳元の機器を操作している。…………援軍を、呼んだ……? 

 

 よし、逃げよう。

 

 ソーマにレーザーをぶっ放し、当然のように避けられる。しかし隙は出来た。

 

 ボロボロになり、マントのような形になった黒翼を翻し海へ駆ける。

 

「待てッ……クソ野郎!」

 

 待ちません。

 

 両手を揃えた、理想的なフォームで海へ飛び込んだ。そしてそのまま深く、更に深くと潜水し、暗い海へ沈んでいった。

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