ポケモン不思議のダンジョン 〜マボロシの地と記憶の地図〜 作:ガパオだよ
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「また厄介な依頼を取ってきたものだね、トゲピー君。トレジャータウンから世界の大穴までどれくらいかかるか、まさか知らないのかな?」
「トゲピーじゃなくてトゲキッスですし、ラヴィって呼んでください!…それで、どのくらいかかるんです?先生」
「片道一週間だ」
「うぇえぇ〜っ!!?」
トレジャータウンから少し離れた、リンゴの森の近くに居を構える2人組の探検隊。伝書係のヤミカラスにリンゴを食べさせながら、先生と呼ばれたポケモン—ドンカラスは、呆れたように欠伸をした。
「ラヴィ君。キミはあそこのおやかた様に三日三晩頼み込んで、セカイイチを10個献上したのちにダイヤモンドランクに降格してもらいなさい。少しはマシになるだろう」
「い、イヤですよぅ!」
「だったら依頼文くらいしっかり読めるようになりたまえ!キミの無鉄砲さにはワタシもホトホト困っているのだよ!」
「読んでますよ!お腹を空かせて動けなくなっているんですっ!人助けですよ、先生!」
「世界の大穴の深部だぞ!こんなことを依頼してくるヤツのために動けるか!」
『コクタン』と聞けば、誰もがこの探検家を思い浮かべるだろう……狡猾で知略に優れた、巨大なむくげ色のドンカラスを。
通称「碩学王」。未開の地を次々と切り拓き、探検家として大陸全土に名を馳せてきた「レジェンド級」の探検家である。現在は一線を退くつもりで、弟子を1人だけ取りギルドを立ち上げたのだという。
「でも、報酬はイイですよ。30万ポケも払ってくれるそうです!」
「バカ!余計怪しいだろうがっ!暮らしには困っていないし、ワタシは引き受けないよ!」
「なら私一人でやってきますよっ!」
「それはやめたまえ!あそこはとても危険な場所で……まったく。また止まりそうにないな……その依頼、引き受けてやるから」
「やったっ!先生大好きですっ」
「媚を売るんじゃないっ。いいかい、キミはワタシの初めての弟子だが、まだまだヒヨッ子なのだからね。中身はまだトゲピーだぞ」
「そ、そんなことないです!!」
トゲキッスの『ラヴィ』は、正義感にあふれタフ…そして、コクタンに言わせれば「底抜けの鍋のようにアホ」である。依頼を読まずに引き受けることもしばしばあった……そんなこともあり、コクタンは何だかんだ、まだまだ一線級の働きをしているのであった。
「しかし…本当に怪しい依頼だな。キミ一人だったら…どうなっていたか」
「どうなってたんですか?」
「わからん。さっきも言ったが…世界の大穴は危険な場所だ。ここの依頼を受けられる探検家は限られているから、人さらいではないだろうが…まぁ、行けばわかることだ。穏便に済めばそれでよし、さ」
「先生がいるから大丈夫ですねっ。早く行って助けてあげましょう!」
「キミ、さっきの話をホントに聞いていないんだな……」
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世界の大穴。
その大きさから存在だけは知られていたものの、不思議のダンジョンとして発見されたのはつい最近のことである。新進気鋭の『ポケダンズ』という探検隊によって「伝説のポケモン」や「幻の楽器」といった、探検家の心を躍らせる数々の報告がなされ…今では各地から、宝探しや腕試しのために足を運ぶ探検家も多い。
「そして、この依頼の内容は…保安官を通じた救助依頼ではなく、一個人が『腹が減って動けないからご飯がほしい!』と言ってるワケだ。このダンジョンの深部まで潜れるほどの実力があるというのに、食糧を持たずに動けなくなるとは……あまり考えられないな」
「あっ、でも先生の話じゃ、ここにはリンゴも飲み物も落ちてないらしいじゃないですか」
「確かに、あのポケダンズが攻略するまで誰も寄り付かなかったような場所だ……それを知らなかった可能性はあるがね。そもそもこんなところにわざわざ来るやつは、私たち探検家くらいのものだ。キミと違って下調べくらいするだろう」
「なんですかその言い方!私だって食料くらい持っていきますよっ」
大穴の中のダンジョンは暗く、狭い。並のポケモンは恐ろしさで動けなくなるともいう…だが、コクタンはそれとは別の、底知れない気味の悪さを感じていた。
(いかんな。ワタシが不安になっていては、ラヴィ君に示しがつかない……しかし、何に対する不安なのだ?強大な敵や困難に対するものではないような……ワタシも歳を取ったな)
「先生?野生のポケモンが来てます」
「あぁ、わかっているよ……ふんっ!」
コクタンが翼をはためかせると、それだけで突風が吹き荒れ、野生ポケモンはダンジョンの壁に叩きつけられてしまう。彼のドダイトスのように巨大な体躯が、「かぜおこし」を一撃必殺の威力まで高めているのだ。
多数のヤミカラスを従え、群れのリーダーとして生活するのが一般的なドンカラスだが、コクタンはその職業柄なのか、ダンジョンにヤミカラスを連れることはない。ラヴィを迎えるまでは、たった独りで数々のダンジョンを踏破してきた。
「…先生が一緒に来てくれる時は、私のやれる事がなくなっちゃいますね。でもこれくらいの敵なら、私だってやれますよ!」
「そう息巻かなくても大丈夫だ。もうすぐ目的の階に到着するからな……」
そう言ったのはいつだったか。
目的の階に依頼人の姿はなく、帰還しようと……かれこれ50回…いや、100は階段を上っただろうか。
「……先生。何かおかしいですよ」
「うむ…気づいているよ。こんなことは今までなかった」
「まさか、わ…私達を狙った罠なんじゃ!」
「落ち着きたまえ。不思議のダンジョンは底なしではない……幸い、野生のポケモンはキミでもそう手こずらないようだからね。できるだけ消耗しないように、進んでいこう…」
(とはいえ、このままでは撤退もままならない。穴抜けの玉も反応しない……どうしたものか)
ダンジョンに潜る前、うっすらと感じていた気味の悪いモノに…自分の足で近づいている。コクタンの胸に燻っていたかすかな不安が、彼の全身を包んで離さない。
そんな時だった。
「先生、アレ……何ですか?」
2人の前に現れたのは、揺らめく空間の「穴」のようなもの。そして……コクタンの感じていた不安の正体。
(……出口だろうか?迂闊に近寄るのは危険だが……しかし)
「せ、先生〜。大丈夫ですか?」
「む、うむ。……アレは『時空ホール』と呼ばれるものだろう。ワタシも間近で見るのは初めてだが…時を渡り、空間を行き来することができるらしい。……この階、なぜか『奥底』のような行き止まりになっている。もはやこの時空ホールを通るしかないだろう」
「そ、そんな……でも、わかりましたっ。先生を信じます」
「すまない。ありがとう……一気に飛び込むぞ」
「はいっ!!」
———かくして彼らは、時を越えた世界へと向かうこととなる。そしてそれは、これから始まる新たな冒険の序章でもあった———