幼い私は綺麗な夜空を飛んでいた。
何も考えず、ただただあの美しい月灯りに誘われて。
手を伸ばせば届く、その距離にいると。
「私と燈花なら大丈夫!」
「そうかなぁ……?」
「そうなの!」
両親が忙しかったから、マネージャーさんもいれて三人で歩いていた帰り道。
月明りが照らす道は少し不明瞭だったけど、そこには確かに見えていた道があったんだ。
「唐木さんもそう思うでしょ?」
「ん? ……あー、できると思うぞ」
「もー唐木さん聞いてなかったでしょ?」
「考え事してたんだよ、仕方ねぇだろ」
今思えばあの頃から気づき始めていたんだと思う。
少し前を歩く二人、あの場所に私はいちゃいけない存在なんだって。
「……」
「……ん? 燈花そんなとこで止まってどうしたんだ?」
「どうしたの燈花?」
「……ううん、なんでもない」
翼が無くなって、夢から覚めてしまうのが怖かったんだと思う。
誰にも、それこそ自分にもばれないように、嘘ついて。
だけど、つぎはぎだらけの嘘だったから。
「次も二人で歌おうね?」
「っ! そうねっ! 私と燈花なら最強よ!」
「あーあー、仲がいいのはいいことだが、うるさくすんなよ」
「唐木さんうるさい!」
みんな気が付いてたんだ。
この景色がもうすぐ終わってしまうことぐらい。
「なんていうか惹かれる魅力ってのがないんだよな、あの子」
夜明けが迫っていた。
目覚めなきゃ。
お姉ちゃんの邪魔になっちゃうから。
寂しさばかりであふれる家の中、薄暗い自室の中で一人パソコンをいじっているのが私、
共働きの両親は今日も夜遅くまで仕事で帰れないらしく、お姉ちゃんは今日は帰れないとメッセージが来ていたから、今は広い家の中でたった一人。
よくあるこの状況はとても寂しくて、心細くて、幼かった私はそれを埋めるようにゲームを始めた。
少しでも誰かと触れ合えればこの寂しさもどっかにいってくれると思ったからだったけど、そこで出来た友達が「鈴」と「キョウ」と「リリー」だった。
全員が高校生で歳が近いってのもあって、それなりに長くなる関係が続いてきた。
最近ではみんなで話す方が楽しくなってきて、ナイトコードで雑談ばかりしている。
「──らんちゃん? 聞こえてますか~?」
「んっ! ……ごめんリリー、ちょっと考え事してた」
「大丈夫なん? なんかあったら話聞くけど?」
「ううん、なんでもないよ鈴……ただ、このメンバーも長いなぁ、って思って」
そういうとナイトコードにいるみんなはあーなんて納得の声を上げていて。
懐かしい話がポロポロと零れるように出て来た。
「最初はわたしとキョウだけでしたのに、今は倍の人数になりましたわ~」
「らんたんが迷子になってたのを拾ったのがきっかけかな?」
「うっ……その節はお世話になりました……」
「いや、別に迷惑ではなかったよ、むしろ微笑ましいかったというかね」
寂しさを埋めるように始めたゲームは、それまで碌にゲームをやったことがなかった私には難しかった。
それを助けてくれたのがキョウトとリリーで、飽きてしまってそのゲームをみんな辞めてしまったけれど、楽しく遊べていたのは二人が教えてくれたからだと思う。
そこには感謝しかないし、仲良くなれてよかったと思っている。
「そっからキョウが鈴を連れてきてくれたよね」
「ウチとしてもゲームに誘われるなんて思ってもみなかったわ」
「鈴が二人と仲良くなれそうだからって、ゲーム全く関係ない理由だったけどさ、連れてきてよかったと思うよ」
「そこは感謝しとるわ」
キョウの幼馴染の鈴が参加してからは、ゲームをやるために集まるメンバーじゃばくて、ただ仲良しのこのメンバーで集まりたいだけになっていて、ナイトコードで話すようになったのもこの頃だった。
「というかこんな話じゃなかったと思うんやけども」
「キョウちゃんの話だったと思いますけれど、なんの話してたんでしたっけ?」
「竜と歌う姫の三巻が明日出るって話をしてたんだよ、らんたんが話を変えちゃったけども」
「うぅ……ごめんね」
「いや、別に大丈夫だよ、私も懐かしかったしね」
笑いながら流してくれるキョウに少しの安堵を感じながら、話の内容を聞いて思い出した。
そういえば明日、竜と歌う姫が出るんだ。
「そういえば明日だっけ、私も買いに行かないとなぁ」
「わたしは読んだことありませんでしたけれど、二人が好きなら面白いんでしょうか?」
「さぁ?ウチにはあんまり合わんかったけど、つまらない話ではなかったと思うで?」
「やっぱファンタジーって好みわかれるね、私は心躍ったんだが」
「ウチがあんまり本読めないからってのはあると思うけどなー」
そうやっていくつかの話題を変えて、繰り返して、夜もよいくらいに進んだ時間までナイトコードのおしゃべりは続いていた。
これからも少しの違いはあるだろうけれど、きっとこの日常が続くと思っていた。
このままで、そのままで。
けれど、この物語は少しのきっかけでセカイが変わっていくんだ。
「―――――初音ミク?」
「いらっしゃい燈花♪」
黄昏のセカイと共に、私達は綴る。
前に進むためのメロディーを。
けれどもまぁ、これはもう少し先のお話。