仮面ライダーカジノ   作:楓/雪那

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今までより長めになってしまいました。
それくらい重要な回ではあります。


第九話:不撓不屈の闘士

ブリゲード本部には重苦しい空気が漂っていた。

まず本来の任務であった『Cosmo』の護衛依頼に関して言えば、間違いなく失敗でしかない。

カジノと竜胆がジャイアント・オルトロスの追撃に向かった直後、カジノとジェイルファントムの戦いを制止したカラス怪人がステージ裏に現れ、正道や霧島らブリゲードの隊員たちをわずかな間で制圧、『Cosmo』の三人を攫っていった。

加えて仮面ライダーたちが追っていったオルトロス・ドラクマも倒しはしたものの突如現れた太陽のような怪人によって新たな力を得て逃走、この怪人によって近くにいた隊員の大半が殉職し雅も現在は意識を失って警察病院の病床で寝かされている状態である。

 

 

「どうだ、『Cosmo』の居場所は掴めたか」

「まだです。町中の監視カメラの映像を確認していますが、手掛かりとなるものはなにも…」

「ここまで跡を残していないのは不自然だな…ハッキングでも使っているのか?」

 

 

森川がオペレーターの一人に尋ねるがその成果は芳しくない。

そもそもステージ裏で襲撃があった直後から監視カメラを確認していたにも関わらず、一切の情報が掴めていないのに違和感を覚えるが、相手は未知の怪人。

電子機器に干渉したり普通では出入りできない独自の通り道を作っていてもおかしくないだろう。

厄介なのは前者であった場合であり、それを想定してブリゲードも各個小隊に指示を出して足での捜査を行わせている。

だがこの捜査法も有効とは言い難い。

今回の任務中に対峙した敵はオルトロス、ジェイルファントム、カラス怪人、太陽怪人の4人であり、ライダーは1名負傷。

カジノの戦闘力をもってしてもオルトロス以外の敵を2人同時に相手取るのは厳しく、ブリゲードのみではオルトロスすら倒せないのが現状だ。

勝率が低いというレベルですらない、勝ち目がない状況である。

 

正道はオペレータールームでその様子を眺めていた、そうすることしかできなかった。

本来なら今すぐ本部を飛び出して捜索に向かいたかったが、ステージで護衛任務にあたっていた部隊は治療のため一時待機の指示を出されている。

正道は軽傷で済んでいるが、同期の霧島は右足を骨折してしまい他の隊員の負傷具合もまちまちである。

広い部屋に指示が飛びあう中、オペレータールームの扉が開き樹とアタッシュケースを持った凪が入ってくる。

 

 

「…凪君!まさか完成したのか!?」

「ええ。リーヴコインを使用しない警察用の新しいライダーシステム、ブリゲードドライバーです」

 

 

凪が開けたアタッシュケースの中には青と黄色で彩られたベルトと同じ色合いのスマートフォン型のデバイスが入っている。

ベルトはカジノドライバーと同じく非対称なデザインで左半分はスマートフォン型デバイスがちょうど横向きに収まるような形に、右半分は円形の液晶になっている。

 

 

「注文をしてから1か月しか経っていないが、素晴らしい出来だな。これならあのジェイルファントムに対抗できるのか?」

「もちろん、設計段階の時点でジェイルファントム戦を意識していましたから。ですが…」

 

 

森川の賞賛の言葉を受けて凪は誇らしげな顔をするがすぐに顔を曇らせる。

 

 

「完成したのはついさっきのことなのでテストプレイはまだ済んでいません。カジノや竜胆ほど特殊な能力を内蔵してはいませんが、ライダーシステムを最大限発揮するには変身者に合わせたチューンアップが必要なんです」

「最終的にはこれを量産型として生み出すつもりだからね、姉ちゃんは。だから初号機はしっかりと適正のある装着者を選定しないと」

 

 

ブリゲードドライバーによるライダーシステムは樹のような天性のギャンブルの才も、雅のような状況を俯瞰する視野の広さも要求されない、シンプルなパワードスーツとしての運用を想定して開発された。

それ故に変身する人間の身体能力や得意とする戦い方に合わせた調整をする必要がある。

加えて樹が言ったように第一機は量産型の開発に向けてデータ収集の役割も兼ねている。

そのため隊員の誰もが今すぐ変身して出動できるような代物ではないのだ。

 

 

「分かった、それでは今すぐにでも適性検査を行おう。まずは…」

「隊長!δ部隊から緊急通信が!」

「このタイミングでだと…まさか」

 

 

森川が不審な顔つきでオペレーターに通信を繋ぐよう指示する。

通信先から聞こえてきた声は樹たちが最近よく聞いた声だ。

 

 

「……あー、あー、…これ聞こえてんのか?」

「ファントム…!」

「ん?その声は…カジノか。ちゃんと聞こえてるようで安心したぜ」

「なぜ貴様がブリゲードの通信機を使っている!?」

「何故って…そんなん奪い取ったからに決まってるだろ。あ、これってGPSもつけられてたりするか?それなら2時間後に今俺がいる廃工場に来な。お前らが持っているライダーシステム全部と交換で人質は解放してやるよ。完成したばかりのものも忘れずにな」

「なぜ貴様がそのライダーシステムを知っている!?」

「へぇ…カマかけのつもりだったが本当にできてるとはな。だが手間が省けて何よりだ。指定の時間まではお前らのお仲間もアイドル達にも手を出さないでやる。だが時間を過ぎても来なかったら…俺が好きに弄らさせてもらう

賢明な判断を期待してるぜ」

 

 

一方的にまくし立ててファントムからの通信が切れ、静聴していた正道は怒りから壁に拳を叩きつける。

樹や凪、森川らも厳しい顔をして少しの間、どう動くべきか各々悩んでしまう。

その中で一番最初に動き出したのは樹だ。

 

 

「樹君、まさか今すぐ向かうのか!」

「それしかないでしょ。今ファントムとまともにやりあえるのは俺しかいない、なら例え罠だとしても俺が行くしかないですよ」

「…すまない、警察として我々がやらねばならないことなのに君にばっかり負担をかけてしまっているな」

「大丈夫ですよ。…でも俺だけじゃきついのは事実です。姉ちゃん、2時間とちょっとでブリゲードドライバーを実践投入できるように調整することってできるかな?」

「まっかせて!本部に待機している人でしかテストできないけど、人数を絞ればいけるはずよ!」

「いいえ、ブリゲードドライバーの実践投入は認められません」

 

 

部屋を出ようとした樹より先にドアが開きスーツを着た壮年の男性が入室する。

隊員たち共通の制服ではなく胸元にブリゲードのエンブレムを付けたスーツを着ていることから高官だと樹は察するが、同時にその佇まいがとても文官とは思えない戦士のもののように感じ取って内心驚いていた。

 

 

「浪川司令官!?なぜライダーシステムの仕様を禁じるのですか!?」

「先ほど通信をかけてきたファントムという男…ただの直感で我々の新装備について言及したとは思えません。警察内部に内通者がいると考えるのが自然ではないでしょうか。このライダーシステムが完全に信用できる装備になるまで私は実践投入を許可できません」

 

 

司令官と呼ばれた壮年の男性―――浪川は一切表情を変えずに淡々と理由を語る。

しかし身内を疑っている浪川の発言に眉をひそめた樹が彼に詰め寄っていく。

 

 

「聞き捨てならないですね。あいつの言ってることだけで疑心暗鬼になるなんてそれこそ向こうの思うつぼでしょ。人を守るための仮面ライダーなのに出し惜しみして被害が広がるなんて本末転倒ですよ」

「君が財部樹君ですね……そうですね、『仮面ライダー』としての歴が長い君からしたら、その力を出し渋ることで守れない人々が増えるのは認められないでしょう。ですがその力は我々人間が手にするにはあまりにも強大な力です。ドラクマに対抗できる希少な存在であるからこそ、取り扱いに慎重にならなくてはならない。それに君は我々の『協力者』であり、『上司』ではない。故に決定権は君にはない。以上です」

 

 

入室してから一貫して表情を変えず意見を譲らない浪川に、樹は説得を諦め単身で司令室を後にする。

そして何を思ったのかその後を追って正道も退室する。

 

 

「樹!」

「……なんで帯刀さんがついてきてるの?」

「いや…その、司令官が悪かったなってよ…」

「別に帯刀さんが謝ることじゃないでしょ。あの人の言い分も立場を考えたら分からなくもないけど、俺が納得できないから俺が正しいって思ったことをやる。ただそれだけじゃない?」

「それはそうなんだがよ…」

 

 

さっきまで苛立っていたはずなのにそれを感じさせない落ち着いた物言いをする樹に、正道は複雑な気持ちになる。

自分には無い憎きドラクマを倒す力、頭に血が上りやすい自分とは真逆の冷静な思考、同年代のはずなのに彼の戦いぶりを見ていると嫉妬心が湧き上がってくる。

もし自分が仮面ライダーとしての力を持っていれば、妬みの感情を力に変えてドラクマに当たり散らかしていただろうが、生憎今の自分では返り討ちにあうだけだ。

いや、相手が悪の怪人であっても個人的な八つ当たりで倒すのは流石にヒーローとしてよろしくないかと自嘲しさらに自分の捻くれ具合を自覚してしまう。

 

 

「それより俺としては帯刀さんがらしくないのが気になるんだけど。いつもの帯刀さんなら無許可で出撃しそうなのにやけに大人しいけどどうしたの?」

「お前が俺のことをどう思ってるのかだいたい分かったよ……でもそうだな、らしくなかったかもな」

「……やっぱりお父さんのこと?」

「それもあるけど…浪川司令官のことも、だな。前に親父が俺たち家族を見殺しにしていなくなったって話はしただろ?そのあと俺のことを救ってくれたのが浪川司令官なんだよ」

「あの人が?でも帯刀さん、お爺さんの家に引き取られたって…」

「ああ、住む場所をくれたのは爺さんだ。爺さんのおかげで俺たちは生きていけた。でも引き取られたころの俺はめちゃくちゃ荒れててよ、目についた不良に片っ端から喧嘩ふっかけて暴れてたんだ。そんな頃に浪川司令官、当時は警視だったあの人に出会ったんだよ」

 

 

警視と言えば警察官の中でも課長や署長にあたる高官であり、そのような立場の人間と偶然にも出会えたのは奇跡だったと正道は当時を思い返して笑ってしまう。

 

 

「今のあの人と同じ真顔で『君の中の優しさを苛立ちで簡単に消してしまってはいけない』、『君がその力を暴力ではなく正義のために使うなら、それに相応しい精神を身に着けるべきだ』って出合い頭に説教してきて、あん時はムカついたけど、それでも自分と真正面からぶつかってくれる人の存在が何よりも嬉しかったんだよ」

「そっか、帯刀さんはあの人に憧れて警察官になったんだね」

「ああ、入隊してからも時折稽古をつけたりしてくれて、ほんとに頭が上がらねぇんだ。…ほんとは今すぐにでも出撃したい、仮面ライダーとして親父を倒したい。でもその気持ちで行くのはあの人の説教を忘れてるってことだって思うとよ…」

 

 

正道の警察官としての原点である育ての親ともいえる人の教えと、生みの親に対する憎しみ。

その二つが彼の心の中でぶつかっているからこそ、いつもの調子が出ない。

それを理解した樹は愛車であるカジノストライカーにまたがって、正道の顔を正面から見つめる。

 

 

「帯刀さんの中に迷いがあるのは分かった。でも俺は、帯刀さんがやりたいことを心のままにやるべきだと思う」

「…お前、ほんとに分かってるのか?やりたいことをやったら警察官としては正しくなくなるだろ!」

「ほんとに正しくないって思う?俺は違うと思うよ。だって帯刀さんは憎しみを戦う動機にしてないからね」

「は…」

 

 

正道の中の迷いをぶった切るようにはっきりと言い切る樹に正道は言葉を詰まらせる。

 

 

「正道さんはお父さんのことを恨んでるように言ってるし、実際その気持ちもあるんだと思う。でも今までの2回の遭遇で帯刀さんがそこまで強い恨みを持っているようには俺は見えなかった。これは俺の勝手な推測だけどさ、帯刀さんは無自覚に自分の気持ちに折り合いをつけてるんだと思うよ。『市民の平和な生活を奪うドラクマが許せない』っていう帯刀さんの心情の出所が父親への憎しみなんじゃないかって考えてしまってるだけで、実際は他のドラクマへの感情と同じ、『ブリゲード、警察官としての帯刀正道』のものなんじゃないかな」

「なんで…そんな簡単に言い切れるんだよ」

「帯刀さんが俺に賭けてくれてるから。あんたが俺の目を信じてくれてるように、俺もあんたの信念を信じてる。そうでなきゃギャンブラーをやってられない。俺は『復讐者』じゃなくて『警察官』としての帯刀さんに賭けてるんだ」

 

 

笑いながらそう言ってカジノストライカーのエンジンをつけて交渉場所へ向かっていった樹を見送りながら、正道は独り言を漏らす。

 

 

「考えっていうか…期待じゃねぇか…」

 

 

 


 

 

 

指定の廃工場に到着した樹。

そのうちの倉庫の一つの中にすでに変身した状態のジェイルファントムが座って待ち構えていた。

彼の手前にはオルトロス、もとい強化されたケルベロス・ドラクマが唸りながら獲物を狩るアイズが下されるのを待っている。

そして吹き抜けから見える二階にはそれぞれ椅子に縄で縛られた『Cosmo』の三人が見える。

反応が無いことから3人とも気絶させられているのだろう。

 

 

「ちゃんと時間通りに来たようだが…他のライダーシステムも持って来いと言ったはずだぞ?」

「彼女たちは解放させてもらうけど交渉には応じないって意思表示だよ。だいたいお前に彼女たちを帰すつもりがあるかも分からないからね」

「ククッ、その警戒は正しい……が、見積もりがあまりにも甘いな。やれ」

「アオォォォォーーーーン!!」

 

 

ファントムの命令を受けたケルベロス・ドラクマが地を蹴り樹へと襲い掛かる。

両手の爪で切り裂こうとしてくるケルベロスの猛攻を躱しつつ、樹はカジノドライバーを装着する。

 

 

「変身!」

『『OK! That's sure! Raise Up! Earth Baccarat!』

「はぁ!」

 

 

変身と同時にアースマグナムでのゼロ距離射撃を打ち込むカジノ アースバカラフォーム。

さらにドライバーのゲーム機能を使用し、バカラを開始する。

 

 

「バンカー!」

 

 

樹がバンカーを宣言し、ゲーム画面が進行する。

表示されたのはプレイヤー側が『2』と『6』、バンカー側が『9』と『5』だ。

これでバンカー側が勝利となり、カジノに報酬のダメージコインが蓄積される。

 

 

「アビリティ解放!」

『That's sure! Earth Abilities!』

 

 

ドライバーから音声がなるとアースマグナムに変化が起きる。

銃身が一度砂となって消失、そして違う形となってカジノの手元に現れる。

最初のハンドガン型とは違うショットガンのような形に変化したアースマグナムをケルベロスに向けて発射する。

銃口から撃ちだされるのは散弾、近接距離で使用される想定の銃であるためさっきよりもダメージを与えられる。

 

 

「ギャオオオオ!?」

「このまま撃ち抜く!」

 

 

ショットガンの衝撃に吹っ飛ばされるケルベロスに追撃をしかけるカジノ。

ケルベロス・ドラクマも3つの口からそれぞれ火炎を放ってやり過ごそうとするも、アビリティによって足元を流砂に変えることでまるで蛇のように地を滑るカジノには当たらず接近を許してしまう。

 

 

『OK! All In!Ending Time! Golden Shoot!』

「これで消し飛べ……っ!?」

「悪いが簡単にはやらせねぇ」

 

 

マウントポジションで必殺技を放とうとするカジノ。

しかし今まで傍観してただけのジェイルファントムがファントムチェーンを駆使してアースマグナムを奪い取る。

武器を奪われた動揺から一瞬動きが止まったカジノの横腹に蹴りを入れて、ケルベロス・ドラクマを助け出す。

 

 

「ガルオオォォォ!!」

「クッソ!」

 

 

復帰したケルベロスの3つ首も火炎を回避し、すぐにカジノブラスターを取り出して連射するカジノ。

右側の顔を中心的に狙い体勢を崩させることで他の首の炎が右の顔に引火する。

混乱しているケルベロスにすかさず連射を叩きこもうとするが、それより先にファントムチェーンの殴打とファントムブラスターの連射をもろに受けてしまう。

 

 

「ウグッ……」

「もしかして、1対1に持ち込めば俺に勝てるとでも思ってるのか?甘すぎるんだよ!」

 

 

 

 


 

 

 

時は少し遡り、樹が廃工場に到着した頃。

正道は本部に併設されている警察病院の一室にいた。

その部屋の主は3年前から目を覚まさない正道の妹・帯刀優美である。

 

 

「優美…俺はどうするのが正しいんだろうな…」

 

 

彼女が返事を返せないのを知っていながらも、正道は弱音を吐いてしまう。

立場としての警察官として上の指示にただ従うだけで樹にすべて任せるのが正しいのか、それとも命令違反をしてまで自分の中の正義を貫くのが正しいのか。

樹には、浪川司令官は自分の道を正してくれた恩人、としか話していないが、優美の病室を手配してくれたのも彼である。

そのため返しきれないほどの恩がある浪川に命令違反という形で仇を返したくはない。

 

それにわざわざ自分が戦う必要なんて本当はないんじゃないか?

だって樹はいい奴だ。

仮面ライダーカジノしか知らなかった時はいいとこどりをしてくる気に食わないやつだと思ってたけど、人々を守りたいって覚悟は自分と同じで好ましく思ってる。

仮面ライダーに変身する力が無くてもあいつの戦いをサポートすることができればブリゲードの隊員としての本懐は果たせるんじゃないのか?

 

 

「……だったら、なんでこんなにモヤモヤしてるんだろうな」

 

 

ふと思い出したのは樹から言われた言葉。

『自分のやりたいようにやればいい』

そういえば優美もよく言ってた言葉だった。

 

 

『お兄ちゃんは、もっとお兄ちゃんのやりたいことをやりなよ。私のこと心配してくれるのは嬉しいけどさ、お兄ちゃんの人生はお兄ちゃんのものなんだから』

 

 

まだ両親と暮らしていた頃、正道は母と妹を支えるためにアルバイトを始めた。

当時は中学生であったため受け入れてくれる職場は中々見つからなかったが、同級生の友人の家族が経営している個人店などで働かせてもらっていた。

母が他界し祖父の家で暮らし始めてからも、正道はアルバイトを続けた。

祖父は「金のことは気にするな」と言ってくれたが、ただ飯食らいは気に食わなかったのだ。

手当たり次第に喧嘩をする時もあれば、生真面目にバイトに勤しむ日もあり、二つの行動のベクトルは真逆だったものの当時の正道は不良と呼んで違いない学生だった。

そんな正道を誰よりも心配していたのが優美であった。

 

 

『お兄ちゃんが働くなら私も働くよ。お兄ちゃんだけに負担をかけるなんて私はイヤ』

『なんで分かってくれないんだって…それ私からしたらお兄ちゃんもだからね?』

『お兄ちゃんが私のことを大切に思ってるのと同じ、私もお兄ちゃんのこと大切なの。世界で二人だけの兄妹じゃん』

『お兄ちゃんが義務感で働いてるなら私も働く。それが認められないなら、お兄ちゃんも心の底からやりたいことをやってほしいな』

 

 

当時はまだ中学入学前だった幼い妹は、自分よりも遥かに聡明で自分が思っているよりも強い子だった。

当然この時の自分は妹に自分の意見を通させるために何度も口喧嘩をし、時には祖父も混ざってきて何時間も口論をしたこともあった。

自分はともかく幼い妹に苦労をさせたくない、その一心で正道は生活していたが、この時の喧嘩を通して正道はやっと妹と祖父も自分と同じ思いをしていたことに気づいた。

それを知った時には理解してくれない怒りよりも、家族に、特に妹を結果的に不安にさせていたのを申し訳なく思い始めた。

そして妹と和解する少し前に浪川に出会い、妹の思いを受けて警察官を目指し始めた。

 

 

(そうだ……俺があの時警察官を志したのは、復讐なんかじゃない)

 

 

自分の中の原点を思い出しかけた時、廊下で揉め合う声が聞こえてきた。

何事かと思い外に出ると、病室から抜け出そうとしている雅を霧島と凪が取り押さえようとしていた。

 

 

「二人とも、放してください……早く樹様のもとへ行かなくては…!」

「行かなくてはって…その身体で行かせられるわけないでしょ!?」

「この程度…今も樹様が一人で背負っている傷と比べれば…っぅ!?」

「ほら見ろ、無理して動くから傷口が開いただろ。そんな状態で行っても樹君の負担が増えるだけだろう」

 

 

ボロボロの体を無理やりに動かそうとする今の雅では、怪我人と科学者のコンビとは言え二人を振り切るのは流石に無理なようだ。

そんな彼女を見ていられず、正道は雅の肩を掴んで止める。

 

 

「お前、自分の身体を気遣うこともできねぇのかよ…凪さんも霧島も休めっつってんだ。いいから寝てろ」

「フッ…フフッ…寝てろ、ですか…あなたたちブリゲードが無能だから私が行かなければならないのに?」

「あ…?」

「聞きましたよ……内輪で疑心暗鬼になったせいで、足踏みをしているらしいですね…それで樹様に全部の負担を負わせておきながら、私には休め、と…本当に笑わせる…結局、あなたたちはいつもそう…表面上は『市民の平和を守る』と言っておきながら、いざという時にはギリギリまで動こうとしない…結局のところ、保身のために動けないんでしょう…?それなら公的機関に属していないから動きやすい私たちに頼らざるを得ない…そうだと認めたようなものではないですか…」

「お前…言わせておけば!」

「ええ、言わせてもらいますとも!私の心と体は樹様と共にあります!あのお方が願うのならば、私もあのお方の夢を守ります!あなたたちの様に立場や権威に縛られない、私たちの心のままにこの力を振るうまでです!」

 

 

人をからかう時とも、樹に甘えている時とも、戦いを前にした時とも違う、正道の初めて見る雅の表情は極道の組長であることを再認識させる気迫のあるものだった。

だがそれと同時に、正道は雅に優美の幻影を重ねた。

大切な人を思う彼女の気迫が、かつて自分のことを心配して本気でぶつかってきた妹の思い出が重なって見えた。

思わず言葉を詰まらせた正道に、雅は尚も思いを吐露する。

 

 

「もし…あなたが私の言う警察と自分は違うと言うのであれば……行動で示してみなさい…帯刀正道…!」

「行動で…?」

「帯刀さん、これ持って行って」

 

 

雅に代わって声をかけた凪が、正道にアタッシュケースを手渡そうとする。

そのケースは先ほど司令室に持ってきたのと同じもの、つまりドライバーが入っているものだ。

 

 

「これは新しいライダーシステムの…!?だが凪さん、これはまだ使用許可が…」

「分かってますよ。だからこれは私の独断。あっ、調整については心配しないで!もう済んでるから!」

「済んでるって…俺は使ったことないぞ?」

「実はその初期型はね、帯刀さんが使うことを想定して事前に調整しておいたの。これを最初に使うのは帯刀さんになるかなーって。まあ私なりの賭けってこと!」

 

 

笑顔でサムズアップしながらケースを押し付ける凪に困惑する正道。

次いで霧島が自由な方の手で彼の肩を叩く。

 

 

「俺も多少は製作に関わったからな、その時に推薦したんだよ。まあ、凪さんは最初から目をつけてみたようだがな。そいつはお前が使うべきだ」

「霧島…」

 

 

自分が抱きかかえているアタッシュケースを見て正道はそれに秘められたものを感じ取る。

雅が、凪が、霧島が、そして樹が、自分に託した、賭けた思いと力を。

それが分かったなら、悩んでいた自分が本当に「らしくない」と思えてきた。

 

 

「ほんっっとうに尺ですけれど、樹様のこと、お願いします」

「私の新技術、あのファントムにぶつけてきてよ!」

「いざという時は俺も一緒に司令官に土下座してやる。ケリをつけてこい!」

 

 

「……ありがとう、行ってくる!」

 

 

三人に見送られながら正道は病院を駆けだす。

もう心に抱えてたモヤモヤはなくなった。

 

 

「……貸し一つ、ですからね」

 

 

 


 

 

 

「ははっ!もっとあがいて見せろよ、カジノ!」

「ぐぅぅ!?」

 

 

カジノとファントム、ケルベロス・ドラクマの戦いはカジノの劣勢となっている。

幹部級と思われる太陽怪人の力を受けたケルベロスだけでも手強い相手であるのに、巧みなサポートで追い詰めてくるファントムも合わさってカジノは反撃することもできないでいる。

アビリティを使おうとすればファントムチェーンで奪い取られる。

カジノブラスターでケルベロス・ドラクマを攻撃しようとすればファントムブラスターの援護射撃で妨害される。

フォームチェンジをしようとすればケルベロスの爪とファントムの銃撃で隙さえ与えてもらえない。

 

 

「これで終いだ」

『Explosion』

 

 

ファントムブラスターから撃ちだされた紫の光弾が、ケルベロスの三つ首から放出される火炎と合わさりカジノの身体を傷つける。

 

 

「ぐあああああ!?」

 

 

自分から奪い取ったダメージコインの量も合わさってとてつもない威力を内包した必殺技を受けて、ついにカジノの変身が解除される。

倒れる樹に詰め寄るケルベロス・ドラクマ。

その怪人にはもはや人間であった頃の理性はおろか、人間としての欲望もなく、ただ獣の本能のままに目の前の人間を殺そうとしている。

その爪が樹へと振り下ろされようとしたその時、銃声が木霊してケルベロスが二歩後ろにのけ反る。

音が鳴った方角に樹とファントムが視線を向ける。

二人の視線の先、倉庫の入り口には右手で銃を構え、左手にアタッシュケースを持った正道が立っていた。

 

 

「帯刀さん…!?」

「へぇ…やっと来たか」

「待たせたな、樹。こっからは俺に任せてくれ」

『Brigade Driver!』

 

 

正道は樹を庇うように前に立ち、アタッシュケースの中からドライバーとデバイスを取り出してベルトを装着する。

 

 

『帯刀君、私はライダーシステムの使用許可を出していません。命令です、樹君を連れて撤退しなさい!』

「司令官…いえ、師匠、すみません。その命令は聞けないです。俺は市民が安心して生活できるために警察官になった!もう二度と妹みたいに不安に駆られた生活を送る人を作らないために、平和を守りたい!だから!目の前でその安心を脅かそうとするやつがいるなら!上の命令が市民の平和を守れないのなら!俺は俺のやりたいように市民の平和を守る!」

 

 

インカム越しの浪川からの撤退命令を無視して、正道はインカムを放り捨てる。

そして腰にブリゲードドライバーを装着し右手にG-デバイスを持ち、ファントムとケルベロス・ドラクマを睨みつける。

 

 

「しっかり目に焼き付けろよ、ファントム…そして親父!これが俺に託された思いの力だ!」

『Fighters' Spirits!』

 

 

G-デバイスを横向きに起動すると古代ローマのコロッセオを背景としたゲーム画面がデバイスのモニターと正道の背後に映し出される。

モニター中央には『Fighters' Spirits』『TOUCH TO START』の文字が表示されている。

 

 

『TOUCH TO START! BURN YOUR HEART!』

「変身!!」

 

 

次の動作を急かす待機音声に従いG-デバイスの画面をタップし、ドライバーの左側から挿しこむ。

すると右側の円形の液晶に正面を向いた兜と剣を模したクレストが表示される。

そして荒れ狂う青い雷の演出の中心で、脚、腕、胴体、頭と順に西洋の甲冑のような装甲が正道の身体に装着されていく。

 

 

『Take Up Sword! Follow Your Will! Grab The Victory!WOW!Kamen Rider Gradius!』

 

 

まるで闘技場の観客が一斉に唱えてるようなコーラスが鳴り響き、青い雷が装甲の上に模様として刻まれる。

直後凄まじい風圧が正道を中心として発生、仮面の瞳は赤く輝く。

 

 

「マジか…」

「……っは、それが新しいライダーの姿か」

「そうだ!俺が仮面ライダー!……仮面ライダー…何て言うんだ?」

『グラディウス!仮面ライダーグラディウスだからね!そこんとこよろしく!』

「グラディウスか!分かった!改めて、俺が仮面ライダーグラディウスだ!」

 

 

通信機越しから凪が新たなライダーシステムの正式名称を名付け、その通りに正道が名乗る。

 

 

「――って、なんで凪さんの声が聞こえんだ!?通信機は外したぞ!?」

『帯刀さんがさっきつけてたのとは別!ライダーシステムに予め搭載してあるの!これ使って私がサポートするからしっかり聞いといてね!』

「なるほど、なら存分に頼らせてもらう!樹、他の隊員たちの安全は頼んでいいか?」

「うん、代わりにあいつら倒すのは帯刀さんと姉ちゃんに賭けるよ」

 

 

初めての変身でコントじみたやり取りをしてしまう正道と凪だが、すぐに気を取り直して樹に同僚たちの安全確保を任せる。

ちなみに現在凪は雅の病室で雅と霧島の3人でグラディウスの資格と共有しているモニターをタブレット端末から見ている。

 

 

『まずは右のレバーを一回押して!』

「レバー…これか!」

『Assault Arms Stand-By! Sword Mode!』

「うおっ!?これが武器か!」

 

 

指示通りレバーを押すとグラディウスの正面に鎧と同じ青い雷の模様をした大剣が召喚される。

その名もアサルトアームズ、状況に応じて最適な形に組み替えられるグラディウスの専用兵装だ。

ソードモードで呼び出されたアサルトアームズを手に取り、グラディウスは剣を構える。

 

 

「よっし!どっからでも来やがれ!」

「……ならお望み通りにしてやる。行ってきな」

 

 

様子見と言わんばかりにファントムはケルベロス・ドラクマをけしかける。

かつての息子だろうと構わずにケルベロスは人間離れしたスピードでグラディウスに接近し、自慢の爪で切り裂こうとする。

 

 

「へっ…しぶとく2回も復活したにしては全然じゃねぇか、なぁ、親父よぉ!」

「グギャ!?」

 

 

しかし振り下ろされた爪をグラディウスは左腕の装甲だけで難なくガードし、お返しにアサルトアームズで勢いよく斬りつける。

その装甲の強度はカジノや竜胆のものより明らかに上であり、攻撃した側のケルベロスの爪の方が欠けかけてる程である。

 

 

「おらおらおらぁ!」

「がぎゃぎゃ!?」

 

 

自分の武器の中で最も多様する爪が壊されかけたことでケルベロスが動揺する一方、グラディウスはその強さを実感し勢いづく。

アサルトアームズのラッシュでケルベロスを圧倒するが、その状況をただ見ているだけのはずじゃない人物が一人控えている。

 

 

「ぐっ…お前のは少し効くな!」

「そりゃよかった、おかげで少しは攻め手を増やせるってもんだ」

 

 

ケルベロスの援護をしたのは当然ジェイルファントム。

ファントムが自信に搭載したビームエクイッパーによって精製した弓から射出したエナジーアローを受けてグラディウスはわずかに後退する。

しかし立て続けに撃ちだされる二本目以降の矢を全てアサルトアームズで切り払う。

グラディウスは一度ケルベロスのことは無視してジェイルファントムの方へと突進する。

 

 

「ちっ」

「食らいやがれぇ!」

 

 

1発目以外は全部防がれたことにファントムは舌打ちする。

そんなことお構いなしにグラディウスはアサルトアームズを横薙ぎに振るう。

ファントムはその攻撃を弓のアーチ部分でわずかに逸らし、その結果生じたわずかな隙を使ってファントムブラスターを連射する。

のけ反りこそしたもののグラディウスは今の攻撃に痛みを感じなかった。

だがファントムの狙いは別にある。

 

 

「はっ、捕らえた…!」

 

 

ファントムが右腕から伸ばした鎖、ファントムチェーンがグラディウスの右腕を絡めとる。

真の狙いはファントムチェーンで拘束し、グラディウスのダメージコインを奪い取ること。

これでグラディウスを完全に無力化する、そのつもりだった

 

 

「これで新たなライダーシステムも……なに?」

「捕まえたはこっちのセリフだぜ…!」

「ぐっ!?」

 

 

しかしファントムチェーンに異常が発生する。

拘束する側のファントムに電流が流れたのだ。

痛みと異常事態でファントムが混乱しているのに対して、グラディウスは自身を縛っている鎖を引っ張ってファントムを投げ飛ばし、倉庫の壁へ叩きつける。

 

 

「どうだ、見たか!……ん?」

「ガルルラぁ!!」

「うおっ!危なっ!」

 

 

投げ飛ばしたファントムに自慢げに叫ぶグラディウスの頭上を影が覆う。

何事かと見上げると、真上から黒い大足が落ちてくる。

咄嗟にその大足――巨大化したケルベロス・ドラクマの前足を避けたグラディウスだが、振り返った先に口元に炎を溜めている三つ首を見て焦る。

 

 

「やべっ…」

『帯刀さん!右の液晶を下にスワイプして!』

 

 

急いで回避しようとするが、動くより先に凪からベルトの操作を指示される。

言われた通り液晶をスワイプすると同時に、ジャイアント・ケルベロスから特大の火炎が放たれる。

グラディウスの姿を一瞬でかき消すほどの火炎に樹は慌てる。

 

 

『Counter Mail! Ready!』

 

 

だが炎の中から音声が聞こえたことで目を凝らすと、五体満足な状態のグラディウスが立ちはだかっていた。

ただしその姿は先ほどまでとは異なる、より分厚く重たい鎧に変わっている。

グラディウス・カウンターメイル、機動力を落とし防御性能を引き上げた、その名の通りカウンター戦法を得意とするフォームだ。

最初に変身していたバスターメイルも強力な装甲を誇っているが、カウンターメイルは追加された装甲により耐熱・耐火・耐冷・耐電など物理攻撃以外の様々な状態への耐性を備えている。

そのため巨大化したケルベロスの火炎を受けても装着者の正道には熱さすら感じていないのだ。

 

 

「コイツはいいな……蒸し暑いとすら思わねぇぜ!」

『Halberd Mode!』

 

 

アサルトアームズを大剣からハルバードへと変形させるグラディウス。

そしてアサルトアームズ・ソードモードの鍔部分、ハルバードモードの持ち手中央に存在する円形の液晶を、同じくブリゲードドライバーの液晶に近づけて連動させる。

 

 

「こいつでケリつけてやる…!」

『OK! Soulful Lethal Smash!』

「消し飛べぇぇ!!」

 

 

アサルトアームズに青い雷のエネルギーがチャージされ、斧頭が一回り程巨大化し、飛び上がったグラディウスが振り回す。

チャージした電撃に加えてケルベロスが吐いた炎も合わさり、刃がケルベロスの身体に突き刺さる。

しかし一回だけでは終わらず、グラディウスは独楽のように回りながらハルバードを振り回し何回もケルベロスの身体を切り裂いていく。

やがてグラディウスは回転をやめ、ケルベロスの後ろに着地した。

全身を切り刻まれたケルベロスは爆散、その中から正吾が放り出された。

グラディウスは変わり果てた父を一瞥し、先ほど投げ飛ばした場所からユラリと立ち上がったファントムを睨む。

 

 

「次はお前だ、ファントム!メイルチェンジ!」

『Shooting Mail! Ready!』

「……仕方ない、探るだけ探るか」

 

 

グラディウスは再びベルトの液晶を下にスワイプし、装甲を変化させる。

今度は付け足されるのではなく装甲がパージされ、バスターメイルへと戻り、さらにもう一度パージされる。

この姿がグラディウスの3つ目の姿・シューティングメイルである。

カウンターメイルとは逆に、防御性能を犠牲にすることで機動力を向上させたフォームだ。

機動力の高さはもちろんながら、頭部に装着された兜には暗視・望遠・索敵の機能を備えたバイザーが新たに追加され、他にも聴力の強化や演算処理機能の向上など射撃能力を高めるための様々な機能が内包されている、シューティングの名に偽りのない形態となっている。

 

 

『Rifle Mode!』

 

 

アサルトアームズもハルバードからライフルへと変形させ、撃ちながら突撃するグラディウス。

その弾幕をファントムはファントムチェーンで弾きながらファントムブラスターで撃ち返してくる。

しかしグラディウスもバイザーの弾道計算機能を使い、ファントムの銃撃を危なげなく避けていく。

走りながら撃ち続けるグラディウスに対して、動かずに相手の様子を疑うように攻撃するファントム。

このままでは埒が明かないと考えたファントムはカジノから奪った残り僅かなダメージコインで武器を精製する。

 

 

「これは賭けになるが……やむを得ないな」

『Sword』『Cobra』『Thunder』

 

 

生み出したのは刀身に雷・蛇・刀のエンブレムが刻まれた黄色い蛇腹剣。

ファントムがその剣を振るうと刀身が鞭のように伸びて、前方一帯を薙ぎ払う。

 

 

「あっぶね……うお!?」

「避けた気になってんじゃねぇよ」

 

 

グラディウスは迫りくる蛇腹剣をスライディングで潜り抜けて安堵するが、すかさずファントムブラスターの銃撃が襲い掛かってくる。

素早く立ち上がって駆けだすグラディウスだが、突如正面から出現した黄色く輝く大蛇がその巨体でグラディウスの全身を締め付ける。

 

 

「ぐっ…うおお!?」

「さっきのフォームより脆いんだろ、それ?今のうちに調べさせてもらうぜ」

 

 

身動きの取れないグラディウスにファントムチェーンを巻き付ける。

今回のはさっきのダメージコイン吸収ではなくハッキング機能として使おうとする。

だがさっき同様にファントムチェーンの機能を起動した瞬間、ファントムの全身に電撃が走る。

 

 

「ぐっ…やっぱりか…そのライダーシステム、ダメージコインの機能を搭載していなぇな!」

 

 

さっきは思わぬダメージで動揺したが、今度は予め推測した状態で受けたためファントムは平静を保つ。

彼の読み通りグラディウスにはカジノと竜胆にはあるダメージコインを蓄積し、ステータスの向上や特殊なアビリティの解放といった能力が備えられていない。

その分、元々の基礎スペックを大幅に引き上げているのだ。

また、ただダメージコインに関する機能を他に回しているだけでなく、独自の能力として『パニッシュブースター』という機能が備えられている。

これは敵対している者が抱えているダメージコインが多ければ多いほど、グラディウスのスペックが引き上げられていくという効果だ。

これにより相手がダメージコインで強化すればするほど、自動的にグラディウスも強化されるということになる。

しかも、このダメージコインとは『その時に所有している量』ではなく『リーヴコインに記録された今までの総量』が対象となっている。

つまりファントムがいくらダメージコインを消費しようとも、グラディウスの強化を下げることはできないのだ。

 

加えてファントムは今まで直接的なハッキング能力を披露しなかった。

だが凪は『ファントムが疑似的なライダーシステムを所有している』ことと『カジノのダメージコインを奪う能力がある』ことから、「こっちのライダーシステムから情報を奪い、有利に戦うためのハッキング機能もあるのではないのか」と推測した。

そして樹のリーヴコインを解析したらダメージコインだけではなく、カジノとしての戦闘記録を複製していたことが発覚した。

その為、凪はただダメージコインに関する能力を搭載しないだけではなく、『ライダーシステムが不正なアクセスを検知したとき、そのアクセス先に電撃を食らわせる』というハッキング対策も施したのだ。

 

 

「へっ、さっきも食らったから分かってんだろ!おらぁ!」

「がっ…!拘束も解けたか…!」

 

 

さっきのハッキングしたことで受けた攻撃はファントムには少し怯む程度の威力だったが、同じくハッキング攻撃と解釈された大蛇は防衛機能によってフリーズしてしまう。

拘束から抜け出したグラディウスはアサルトアームズの銃口をファントムの横腹に押し付けて、密接射撃を食らわせる。

 

 

『OK! Soulful Lethal Blast!』

「まずはこっちから、消し飛びな!」

 

 

アサルトアームズとドライバーを再び連動させて、バチバチという音を鳴らしながらライフルに電気エネルギーをチャージする。

グラディウスが引き金を引くと強力な電撃のレーザーが撃ちだされ、大蛇の首から上が吹き飛ばされ、残された身体も維持ができなくなり消滅する。

 

 

「お前にもケリをつけてやる!」

『Bastard Mail! Ready!』

『OK! Soulful Panishment Strike!』

 

 

バスターメイルへと姿を戻し、ドライバーに挿入されているG-デバイスの画面をタップして、レバーを2回倒す。

グラディウスの右足に青く放電するエネルギーがチャージされるのを見て、ファントムも必殺技のために愛銃にカードを挿しこむ

 

 

「やるしかない、か…!」

『Destruction』

 

 

ファントムの足に紫色のエネルギーが集約され、右足を縛っていた鎖が膨張したエネルギーにより弾き飛ばされる。

そして二人は同時に跳躍し、両者の右足が衝突する。

 

 

「うぉらあああぁぁぁ!!!」

「あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁ!!」

 

 

当事者からしたら1時間にも感じた必殺技の衝突。

だが実際には、両者のキックが拮抗したのは僅かな間のみだった。

 

 

「ふっ飛べぇぇぇぇ!!」

「ぐっ!?」

 

 

グラディウスのキックがファントムの必殺技を打ち破る。

敗北したファントムは勢いよく飛ばされ、倉庫の壁を突き破る。

 

 

「はっ…ははっ…中々面白かったぜ、グラディウス…今日は俺が退かせてもらおうか…!」

 

 

全身からスパークを放ちながら、何とか立ち上がるファントム。

息も絶え絶えながら楽しげに笑って、銃弾をばら撒いて逃走する。

敵が去ったのを確認して、正道は変身を解いて樹のもとへ向かう。

いまだにボロボロではあるが、多少身体を休めていたため普通に歩く分には問題が無いようだ。

 

 

「樹!無事か!?」

「帯刀さんのおかげでね、助かったよ」

「何言ってんだ、俺の方がいつも助けられてたんだ。お互い様だろ!」

 

 

お互いに笑い合いながら健闘をたたえ合う樹と正道。

だが今するべきことは談笑ではなく、人質と負傷した隊員の救助であるとすぐに思い出し、まず人質から助けようと動こうとする。

その時、倉庫に武装したブリゲードの隊員たちが入ってきた。

やけに着くのが早いな、と二人は思ったが、二人の隊員に両脇を護衛されながら入ってきた浪川司令官の顔を見てフリーズする。

 

 

「なっ、浪川司令官…!?なんで、ここに…?」

「ドラクマを倒した時点で他の部隊をこちらに回しました。ジェイルファントムの性格上、手駒が一人やられたら退くだろうと思いましたからね。結局戦うことになったようですが…」

「そ、そうなんっすね……いや、でもなんで司令官が現場に…」

「言わなければ分かりませんか?重大な命令違反を君が犯したからでしょう」

 

 

正論を叩きつけられ何も言えなくなり、正道は大量の冷や汗をかく。

樹は引きつった笑みを浮かべながら、どうフォローしようか考えるが、「待ってください!」と声を上げながら凪と霧島が来た。

 

 

「帯刀さんに許可が下りてない装備を渡して焚きつけたのは私です!処罰があるなら帯刀さんだけじゃなく私にも課すべきじゃないですか!?」

「お言葉ですが司令官、結果として『Cosmo』の3人は誘拐こそされたけど傷一つなく救出し、コイツは戦力としての結果も出せた。処罰は厳しすぎなくてもいいんじゃないですかね?」

「俺一人じゃファントムの行動は止められなかった。グラディウスの性能の証明もできたんだから警察の面子としてもいい事なんじゃない?」

 

 

何とか正道の罪が軽くなるように3人はフォローする。

だが浪川は無表情を崩さず、言葉を続ける。

 

 

「まだ私は処分について何も言ってませんよ。それに私は彼を罰するつもりはありませんので」

「「「「……え?」」」」

「君たちの言う通り、彼は新しいライダーシステムの戦力と安全性を証明し、人質の安全も確保しました。命令違反をするというリスクを背負って多くの命を救った彼の行動を私は賞賛しています」

「司令官…!」

「ですが、組織における命令違反は重大な罪であることには変わりません。罰として始末書を書いてもらいますよ、たっぷりと」

「……はは、分かりました」

 

 

浪川の言う「始末書」の量がとんでもないということを知ってる正道は遠い目をしながら笑い、樹たち3人は仕方ないな、と言わんばかりに苦笑する。

そんな彼らの様子を見て、浪川はほんの一瞬、珍しく穏やかな顔を浮かべる。

 

 

(師範代……あなたのお孫さんは立派に成長なされていますよ)

 

 

 


 

 

 

 

―――――数年前

 

 

「おお、来てくれたか浪川君」

「師範代……あなたが私に頼みごとをしてくるなんてこと、今までありませんでした。一体何があったのですか?」

「なに、そんな大げさなことではないよ。まあちょっとばかし、儂の孫の相手をしてほしくての」

「お孫さんのお相手、ですか…?」

「ああ、相手といっても遊ぶとか稽古の相手とかではない。実はあの子は生みの父親のせいで大変な目にあってな、今は大層荒れておってな、その上儂にあまり迷惑をかけたくないからと無茶ばっかりしおっての。だがらあの子の無茶な考えを少し正してほしくてな」

「はぁ……ですが、私が言っても変わるとは思えませんよ?どんな子なのかも分かりませんし…」

「それなら問題ないと思っておる。浪川君ならきっとあの子のいい目標になるはずだ。儂のもとに弟子入りする前から真っ直ぐだったからな」

「……分かりました。期待に沿えるかは分かりませんが、やれるだけやってみましょう」

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