仮面ライダーカジノ   作:楓/雪那

12 / 12
第十一話:驚異の光輝

時は少し遡り、樹が凪からドラクマ出現の連絡を受けた頃。

 

『Fortuna』を出た大翔は自分の事務所に戻るのではなく、ある場所へと向かって歩いていた。

数分歩き、たどり着いた場所は霊園であった。

いくつもの墓標が並ぶ道を迷うことなく進み、やがて目的の墓石の近くに一人の男がいることに気づいた。

その男――財部焔は自分の両親が眠る墓を綺麗にしていたところであった。

足元に雑草の一つも見えず墓石に水をかけている様子から、もう終わるところだったのだろう。

 

 

「久しぶりだな、大翔。今年の盆以来か?」

「ええ、あんたはしょっちゅう帰ってくるわけじゃないし俺もけっこう忙しかったから、中々会う機会がありませんでしたからね」

「ははっ、それもそうだ。ところでどうだ?かなり綺麗になったって思うんだが…」

「十分綺麗だと思いますよ。それにしても真面目ですね、帰郷するたびに墓磨きだなんて」

「まあ…な、俺が家族にできるのがこれくらいだからな」

 

 

いつものような軽い笑み、しかし申し訳なさも含んだ表情で焔は語る。

 

 

「焔さん…あんたにとって家族とはなんです?」

「そんなもん決まってんだろ。失いたくない、俺の宝だ」

 

 

大翔の質問に迷うことなく、はっきりと答える焔。

それを聞いて大翔は覚悟を決め、険しい表情で問いかける。

 

 

「だったら、もう一つ聞かせてもらう

 

 

 

 

 

 

  ――――――財部焔、あんたがジェイルファントムだな?」

 

 

 

 

 

「へぇ…」

 

 

その問いに焔はさっきまでの穏やかな笑みとは真逆の、他者を弄ぶような邪悪な笑みを浮かべる。

その表情の変化が答えだと大翔は自分の考えが正しかったと確信する。

ここに来た時点でこうなることは予想していたため動揺はしていないが、それでも今まで感じたことがないほどの緊張に襲われていた。

 

 

「それじゃあ一回途中式を教えてもらおうか?」

「……動揺しないんだな」

「してるさ、少しだけだけどな。けどそれ以上にお前の推理が気になるんだよ」

「…まず最初の違和感はドラクマ被害者の共通点だ。子供が被害者となっていて表沙汰になっていない事件の加害者という共通点」

 

 

数時間前に樹たちに話した数少ない手掛かりとなるドラクマ被害者の共通点を述べる大翔。

しかしやはり先ほど述べたようにこれだけではまだ弱い、なぜなら被害者がまだ少ししか出ていないからだ。

 

 

「しかしこれだけの情報で大きく犯人の立場を絞り込める。可能性があるのは教育者・警察・児童相談所の職員、そして街全体をよく知る名家の関係者だ。そしてこの中から教育者と児童相談所の職員は除外させてもらった」

「理由は?」

「被害者であった児童の年齢と置かれていた状況」

「…なるほど」

 

 

コブラ・ドラクマの変身者の女がネグレクトしていた3人の子供のうち、最年長は9歳であった。

一方バット・ドラクマの変身者の被害者は高校生や大学生であり、その手口から住宅街には寄り付かないだろう。

スパイダー・ドラクマはそもそもの活動拠点が戸津部ではないため、ただの教師や地方公務員がすぐに察知できる内容ではない。

 

 

「さらに犯人の立場を絞り込むにあたって、性格もある程度分析ができる。用意周到、それでいて非情かつ優しい人物だ」

「ドラクマの中身の選び方と見つけ方から、か?だがそれがどうして俺に結び付く?」

「一つ目はファントムのシステム、二つ目に霞ちゃんの引っかかり、最後に俺の知る人間の中で犯人の性格に合致しているのがあんただから」

 

 

ファントムのシステムはドライバーを使用する仮面ライダーとは大きく異なるものである。

特にダメージコインを吸収する機能は、カジノドライバーについてのデータなしで初戦から完璧に使用するのは不可能と言っても過言ではない。

 

そこに霞の違和感が加わったことで、大翔は樹たちの近くに犯人がいると推測をした。

だが先日のグラディウスの初陣では樹と凪、雅、そして森川隊の面々はブリゲードの本部でファントムからの通信を聞いており、焔はその場にいなかった。

森川隊以外のブリゲードの隊員という可能性もあるが、それならば焔が帰郷する以前からファントムが動いていないのは不自然だと考えた。

 

 

「もう一度言うが、俺が分析したファントムの性格は用意周到、そして非情かつ優しい人間。だがこれまでの事件でファントムはあえて足を残すような真似をしてる。それに凪さんにカジノの強化プランの資料を渡したそうだな。一体何を考えている?」

「……」

「仮に俺があんたの立場だとしたら、その強化プランを既に実物として樹に渡す。樹を倒すのならその実物にバグでも仕込んでおくのが確実かつ楽だしな。だが設計図の状態で凪さんに渡したらいくらでも調整が効く。つまりちゃんとカジノを強化する気自体はあるってことだろ?…焔さん、あんた一体何を考えてッ!?」

 

 

その時、大翔は自分の中に何かが入り込み、内側から自分が変わっていく痛みを感じた。

苦しみながら後ろを振り向くと、そこには以前カジノの邪魔をしたカラス怪人が立っていた。

 

 

「まさか俺が素直に追い詰められてくれるって思ってたのか?だとしたら見通しが甘すぎだろうよ。何のための性格分析だって」

「最初から……狙い通りだったのか…っ!?」

「お前ならファントム()の正体に気づくのに時間はかからないと思ってたよ。だがまさか樹を連れてこないとは思わなかったぜ?あいつに心配をかけたくないってつもりだったなら、裏目に出たなぁ」

 

『Ape!』『Bat!』『Scorpion!』

 

「な…にをっ……があああァァァ!!!」

 

 

愉快な笑みを浮かべる焔は、3枚のリーヴコインを取り出し大翔の体に投入する。

一枚だけでも人間の理性を破壊するリーヴコイン、それを立て続けに4枚も入れられるとどうなるか。

一枚目による精神汚染を何とか抑え込もうと抗っていた大翔だが、追加投入には耐えきれず一瞬で自我を喪失し、マンティコア・ドラクマへと変貌する。

 

 

「さぁ、お前の大切な親友の元へ戻りな」

 

 

 


 

 

 

時は戻り、ブリゲード本部の警察病院。

 

あの戦いの後、一時的に意識を失った大翔は本部へと搬送されて精密検査を受けていた。

入院から2時間後、大翔が目覚めるのと同時に凪が検査結果について話したいと樹と雅、正道たちを呼び出した。

 

 

「色々報告しなきゃいけないことがあるんだけど……どれから話すべきかな…」

「大翔は…そんな重態なのか、姉さん?」

「……まず、彼が変身させられたドラクマだけど、あれは新型で間違いないわ」

「いや、新型って……あんな生物いないだろ!?」

 

 

正道の疑問に凪は首を横に振ってタブレットを見せる。

画面に映されているのは今の話題となっているマンティコアだ。

 

 

「確かにあのドラクマの見た目は空想上の生物、マンティコアと一致してるわ。けどあのドラクマはマンティコアのリーヴコインで変身はしてない」

「猿の顔に獅子の胴体…蝙蝠の羽根に蛇の尾……まさか」

「ええ、大翔くんは4枚の新型リーヴコインを使わされてあのドラクマへとなった。だから正しくはキメラ・ドラクマと言うべきかな」

 

 

まあそんなことはどうでもいいわね、と凪はぼやき、そして改めて息を整えた。

樹たちが気にしているのはドラクマの正体ではなく、その先のことだからだ。

 

 

「それで重要なのは」

「新型なのになぜ大翔が消滅しないか、なぜ記憶がなくなったのか」

 

 

同じく新型ドラクマのマンティスとホーネットは今までの新型同様、倒されると中身の人間は消滅した。

しかし大翔だけは消滅することなく、なぜか記憶だけが飛んでる状態で元の姿に戻った。

 

 

「結論から言うと、大翔くんの体の中にはまだリーヴコインが残っているの」

「何だと…!?」

「さっきも言ったように彼は4枚のリーヴコインで変異した。そしてカジノの攻撃を受けてリーヴコインは壊された。でもそれはまだ1枚だけなの」

 

 

凪はタブレットをスワイプさせて、大翔のバイタルを映す。

 

 

「見て、本来の心臓の拍動とは別に異なる波形が3つあるの。今は微弱だけど、恐らく活動を休止しているからだと思う。こっちはさっきの戦闘中のデータから解析したバイタルね」

 

 

2つ目の画面に映る拍動は一目見て分かるほど、異常な形をとっている。

 

 

「記憶がなくなった原理は分からないけど、コインの過剰投入によるショックが一番可能性が高いと思うわ。でもやっぱり前例がないから、リーヴコインを全て砕いたとしても記憶が戻るかどうかは分からない。むしろ…」

「残り3枚が全て壊れたら消滅、の方がありえますね…」

 

 

沈痛な面持ちで雅が呟く。

現状、大翔の肉体が崩壊していないのはリーヴコインの働きによるものだとしたら、そのコインが無くなると今までの新型同様の結末をたどる可能性は容易に想像できる。

より空気が重くなった中、樹は何も言わず険しい顔のまま部屋から出て行った。

 

 

「樹様……」

「……私はカジノの強化アイテムの開発を急ぐわ。大翔くんの状況は前例がないから難しいけど、なんとか消滅を避けるためのシステムを間に合わせる」

「俺も手伝うぜ。技術開発の手伝いは無理だけど、新型との戦闘データならある。役立てられるかもしれねぇ」

「お二人とも…よろしくお願いします」

 

 

本部のラボに向かう二人を見送った雅もまた病室を離れて、屋上へと向かう。

予想通り、最初に退出した樹はそこに佇んでいた。

 

 

「樹様……貴方の気持ちは痛いほどわかります」

「…やるべきことは決まってる。仮面ライダーとして、あいつの友として、俺がやれることは分かってるさ。でも……」

 

 

リーヴコインを握りしめる手が震える。

ここまで賭けるのが怖いと感じたのは人生で初めてのことだ。

それくらい樹にとって、大翔は大切な友達だからだ。

 

 

付き合いの長さで言えば、それこそ雅よりも長い。

幼いころから樹は運が絡む遊びを好んでおり、持ち前の豪運と直感・洞察力で負け知らずなほどだった。

しかし今でこそ手加減はできるようになったものの、当時の幼い樹にそんな器用な真似などできるはずもない。

それ故他の子どもたちからはほぼ絶対勝てない樹とのゲームなど飽きられてしまい、次第に周囲から孤立していった。

 

そんな中でも樹と遊び続けてくれたのが大翔だった。

 

樹から見た倉敷大翔という男は「かなりのお人好し」である。

 

困っている人間を放っておけず、手を差し伸べたことで自分が不利益を被る可能性すらも考えてない。

その優しさに樹は憧れ、現在の仮面ライダーカジノとしての心構えを形成する要因の一つとなった。

両親から託されたカジノドライバーをどのように使えばいいのか、何のためにドラグマと戦うのか。

その答えを出すための一助となったのが、大翔という人間へのリスペクトだった。

 

一方で大翔から見た財部樹という人間は「信念が強すぎる男」である。

 

樹が尊敬している大翔の優しさは、かつては危険も孕んでいた。

自分に来るリスクも周囲からの評価も気にせず人助けを行っていたが、その優しさに付け込まれて危険な目にあったことも何度かあった。

偽善者とバカにされたり妬まれたこともあった中で、今でも彼の善性を認めてくれたのが樹だった。

 

大翔が私立探偵になることを決めた時、誰よりも応援して、それでいて誰よりも心配してくれたのも樹だった。

 

 

「個人でやる方が大翔の性にはあってるだろうな。でも気をつけろよ?お前、騙されやすいんだから。まずは自分自身を信じなよ」

 

 

そして樹が仮面ライダーとしての力を手に入れた時、雅と家族以外にその話をしたのは大翔だけだった。

 

 

「俺にはお前の親御さんが何を求めてそれを預けたか、俺には分かんねーけど……お前が守りたいものに使えばいいんじゃねーの?お前がわざわざ俺…っていうか周りに尋ねるってことはまだ答えが決まってないってことだろ?そりゃそんなすげー力、使い道に悩むのは当然だろうけど、シンプルに考えていいと思うぜ。樹なら間違った使い方はしねーって、俺も雅も、きっと親御さんも信じてるしな」

 

 

樹の信じる力と大翔の優しさ、お互いに尊敬しあっているからこそ今の自分たちがある。

 

そして樹は大翔をドラクマとして倒すと腹を括っていた。

優しすぎる彼が望まないまま被害を出し続けてしまうのなら、その前に自分の手で引導を渡すのが親友である自分の役目であり、また仮面ライダーとしての使命であると思っている。

だが本心ではやはり大翔の命を奪うことなどしたくはなかった。

 

今まではドラクマを倒しても元となった人間が死ぬことはなかった。

しかし新型の出現、さらに親友がその被害者となったことで、彼の強固な信念がここにきて揺れ始めてきた。

 

 

「ははっ……賭けるのがこんなに怖く感じるのは初めてだ…」

「樹様の苦しむ気持ちは分かります……ですが同時に、大翔さんの立場であれば、きっと私も貴方も同じ思いを託すでしょうね」

「あぁ…きっと、気にせず倒してくれって思うだろうな。それがどれだけ難しいことか……っ!」

「だからって、簡単に諦めていいのでしょうか?」

 

 

諦めるのか、その言葉を聞いて樹はハッと顔をあげる。

それは生前の父と母が自分たちによく言い聞かせていた言葉だからだ。

 

 

「いいかい、樹?どんな選択を迫られても、考えることを諦めちゃいけないよ。何かに諦めて選んだ答えには後悔が残るからね」

「樹、あなたは意志の強いところは美徳よ。けどその意志に囚われすぎるのはよくないわ。自分の持つ全てを見直してから決めても、遅くはないからね」

 

 

仮面ライダーになりたての頃、孤独に戦うことを決め、周りに頼るということを諦めていた。

その選択が雅の心を失いかけるという後悔を産んだ。

そして改めて現状の自分の全てを見直して答えを出し、竜胆となった雅と共に戦うこととなった。

結果、当初は望んでいなかった彼女を危険にさらすということにはなったものの、樹にも雅にも以前のような後悔はない。

 

だが今の自分はどうだ。

また同じ轍を踏みかけていたのではないか?

 

 

「はは…また、俺は同じ後悔を繰り返しそうになってたのか。ダメだなぁ…!」

「限界まで考え抜きましょう。凪姉様も新しい力の為に尽力を尽くしているではないですか」

「あぁ、どうやら俺は賭けるべき相手を間違っていたみたいだ。それにまだ出せる手札がある以上、フォールドなんてできないな」

 

 

その時、下の階から何かが割れる音、そして人々の悲鳴が聞こえた。

樹は雅と顔を見合わせて、屋上から駆け出した。

その眼にはもう迷いはない。

 

 


 

 

 

樹の予想通り、大翔が再度ドラクマとして覚醒させられていた。

院内はガラスが割れ、器具が倒れ、医者も病人も血を流し逃げ回る、混沌とした状態となっている。

騒ぎの中心であるマンティコア・ドラクマは前回と異なり、顔が猿ではなくライオンに変化している。

 

 

「大翔…これ以上、お前に人を傷つけさせない!」

「「変身!!」」

 

 

『OK! That's sure! Raise Up! Aqua Craps!』

『承認完了!開幕!疾風丁半!』

 

 

樹はカジノ・アクアクラップスフォームに、雅は竜胆・疾風丁半式に変身。

アクアランスとクナイモードの光華槍弓をそれぞれ手に持ち、マンティコアに向かって突撃する。

 

マンティコアは狭い通路ででたらめに蠍の尾を振り回して迎撃しようとする。

対して先陣を切るのは竜胆、2つのクナイで鋼鉄の尾を振り払い、カジノのために道を作る。

 

竜胆の狙いを言われずとも察したカジノが勢いよく跳躍、アクアランスを逆持ちにして突きを放つ。

そのまま反撃を許さない連続突きをお見舞いし、突き当りの窓からマンティコアを叩き落す。

 

 

『OK!That's sure! Raise Up! Storm Roulette!』

『承認完了!開幕!舞鶴花札!』

 

 

3階から正門へと落下したマンティコアを追いかけて飛び降りるカジノと竜胆。

着地地点の近くに到着したばかりの救急車があることに気づき、舞鶴花札式へと姿を変えた竜胆が翼を広げてそちらへと向かう。

一方のカジノはストームルーレットフォームへと変わり、左手に持ったカジノブラスターを連射してマンティコアを牽制。

距離を縮めて右手のストームダガーで切りかかる。

抵抗を許さず、かといって深手を負わせ過ぎない絶妙な加減でカジノは攻撃を続ける。

 

 

「姉ちゃんが強化アイテムを完成させるまで、倒れないでくれよ……っ!?」

 

 

その時、カジノの装甲に銃撃が浴びせられる。

その犯人はファントムブラスターの銃口をこちらへと向けながら、正門から歩いてくるジェイルファントムである。

 

 

「ファントム……!」

「手緩いんじゃねぇの、仮面ライダー?そんなんじゃ熱気も冷めちまうぜ?」

「こちとら手汗ダラダラだっつーの!」

「ははっ、違いねぇな。けどこういう時こそ楽しもうぜっ!?」

 

 

軽口を叩きながらトリガーを引こうとするファントムの胸に光の矢が直撃する。

意趣返しのようにカジノが攻撃を受けた場所と同じ位置から火花が散る。

光華槍弓を弓モードへと変形させた竜胆からの反撃だ。

 

 

「樹様、あれは私が請け負いましょう」

「っ…頼んだ!」

「おいおい、そう易々と行かせるかっての!」

「こちらの台詞です!」

 

 

カジノがマンティコアの方へと向かうと同時に、竜胆とファントムはそれぞれの武器を撃ちだす。

たった3発、しかしそれだけで足止めが不可能と悟ったファントムは新たな武器を生成する。

 

 

『Thunder』『Cobra』『Sword』

『Tuning Weaponize』

 

 

黄色く輝く刀を手にするファントムを警戒し、光華槍弓にリーヴコインを装填する。

多彩な武器を自在に扱うファントムの手数は無限と言ってもいい。

加えて出力も自分以上であり、対抗するには遠距離必殺技で相殺しつつ、さらにもう一撃叩き込むべきだと竜胆は考えたのだ。

しかしファントムが取った一手は予想外のもの。

 

 

『Destruction』

「ほら、しっかり守ってみせろよ?」

「「なっ!?」」

 

 

刀、否、蛇腹剣をマンティコア目掛けて振り下ろしたのだ。

必殺技級の一撃を味方であるはずの者に放つ凶行。

しかしカジノたちの目的がそのマンティコア救出であるなら、最悪の嫌がらせとなる。

 

勿論、今のマンティコアの体内にはまだ3枚もコインがある。

だがだからと言って1枚壊れても平気とは言い切れないのだ。

 

 

「くっ!間に合って!」

『承認!必殺上々!舞鶴 黄金射!』

 

 

やむを得ず竜胆は射線を変更して光の矢を撃ちだす。

しかし無理に体勢をずらしたことで、反動で後ろへと倒れてしまう。

 

そしてそれを見逃さないのがファントムという男だ。

振り下ろした刀身が光の矢に弾かれて勢いを失ったのを確認するや否や、今度は吹き飛んだ竜胆の方へと軌道を変える。

 

 

「そらよっ!」

「があああぁぁぁ!!?」

 

 

電撃をまとった一撃が無防備な状態の竜胆を襲う。

絶叫をあげる彼女の方にカジノの意識が向くが、それが良くなかった。

本能的にファントムが最も脅威であると感じたマンティコアが、鬣から無数の針を飛ばしてきたのだった。

だがそれこそがファントムの狙い。蛇腹剣を巧みに使って竜胆を引き寄せて、自らの盾にする。

 

 

「ぐうぅっ!?」

「雅ぃ!?」

 

 

全身に無数の針が突き刺さり、竜胆の変身が解除される。

生身に戻ったことでファントムに投げ捨てられた雅の顔には滝のような汗が流れている。

ただ攻撃を受けただけとは思えないような状態だが、その原因はマンティコアの鬣の針だ。

先ほどの針には蠍の尾と同様の猛毒が仕込まれており、その毒が雅に苦痛をもたらしているのだ。

 

 

「ぐるぉぉぉ!!」

「ぐっ!?こんの…少しは大人しくしろって…!」

 

 

悶え苦しむ雅に気を取られるカジノ。

そこへマンティコアが蝙蝠の翼を使い抵抗飛行しながら、爪で切り裂こうとしてくる。

不意を打たれたことで背中にもろに攻撃を受けるカジノだが、地を転がって受け身を取りながらカジノブラスターで反撃する。

その攻防を眺めながらファントムはカードを銃身に挿入し、チャージを完了させる。

 

 

『Explosion』

「クソっ!?」

 

 

その狙いはまたしてもマンティコアの方。

ファントムブラスターから射出された紫色の光弾。

それがマンティコアに直撃させないため、カジノは全力で射線に入りストームダガーで受け止めようとする。

 

 

「うわぁあああ!」

 

 

しかし必殺技のチャージも行ってない状態では威力を殺すことができない。

竜胆と同様に変身解除に追い込まれ、地面に叩きつけられた樹。

しかし樹は再びカジノブラスターをカジノドライバーから構築させ、生身の状態でファントムへと発砲する。

仮面ライダーではない状態からの反撃に、さすがのファントムも虚をつかれて苦悶の声をあげる。

 

 

「ぐおっ!?……やるじゃねぇの」

「らああぁぁぁ!」

 

 

そのまま無理やり血だらけの体を動かしながら、マンティコアの顔面に殴りかかる。

しかしカジノブラスターではないただの人間の拳など、ドラクマ、それも3枚もコインを使っているマンティコアに効くはずもなく、振り回した尾が鳩尾に叩きつけられる。

強烈な一撃に意識が飛びかけるも、樹は気合で踏みとどまり右手と体全体を使って尾を抑え込む。

そしてカジノブラスターをゼロ距離で尾に連射した。

 

 

「喰らえぇぇっ!!」

「ぐるぉぉぉ!?」

 

 

マンティコアの全身で特に固い部位である尻尾も、さすがに密着射撃には耐えきれず7割ほどが引き千切られる。

痛みで後退したマンティコアの胴にさらにカジノブラスターを打ち込もうとする樹だが、突如その体が宙に浮く。

ファントムがファントムチェーンで樹を縛り上げているのだ。

 

 

「悪かったなぁ…そんな状態から粘るとは思わなかったぜ」

「かはっ…打つ手が少なくても、ゼロじゃないなら……降りることなんてできねぇよ…!」

「ふっ…そういうのは嫌いじゃねぇが……いい加減終わらせないとなぁ」

 

 

ボヤキながら銃口を向けるファントム。

しかし樹は決して目を背けず、真っすぐに彼のことをにらみ返す。

その時であった。

 

 

『OK! Soulful Lethal Impact!』

「ちょぉっと待てやァァァ!!」

「「ぐあああぁぁぁ!!」」

 

そしてもう1人は、ソードモードのアサルトアームズから必殺技を放ちながら飛び込んできたグラディウスである。

青い閃光と共に繰り出された一閃はファントムに直撃し、さらに後ろにいたマンティコアと雅も爆風で吹き飛ばされる。

 

ファントムの装甲は焦げ付いているものの変身解除には至らず。

しかし樹を拘束していたチェーンは解けて、またしても地面に叩きつけられる。

そんな樹と雅の元へグラディウスは駆け寄った。

 

 

「大丈夫か樹!?」

「心配するなら、もっと安全な助け方してくださいよ……いってぇ…」

「全くです…貴方、乱暴すぎるでしょう…」

「わ、わりぃ…急いできたからよ…って雅お前、顔真っ青だぞ!?」

「どうもさっきのドラクマの針に毒があったようです……正直、今喋るので精一杯、あ、やばいですちょっと吐きそう」

「うおおお!?ちょっと待て!?今すぐあいつらに病院の中に運ばせるから耐えてくれ!?」

「どっちかっていうと毒よりも、さっきの爆風で転がったせいじゃねーの…?」

「あんた達ふざけてる場合じゃないでしょ!」

 

 

3人のどこか気の抜けたやり取りを見かねて、遅れて来た凪が説教する。

やれやれと呆れながら姿を現した姉に気づき、樹は目を輝かせる。

 

 

「姉ちゃん!ここに来たってことはもしかして!」

「そのもしかしてよ!カジノの強化アイテム、完成したわ!」

 

 

そう言って凪は樹にあるものを手渡す。

それはカジノドライバーに取り付けられているダイヤルと酷使しているが、ドライバー側のダイヤルが銀色であるのに対して新しいダイヤルは金色であり、また一回り大きくもある。

さらにリールには数字ではなく、8つの目にそれぞれアルファベットで『Earth』『Wing』などと書かれている。

その造形はダイヤルというよりスロットのようである。

 

 

「このダブルアップギアをベルトの左側に挿し込んで、アースバカラのリーヴコインで変身して!」

「ダブルアップギアか…ありがとう、姉ちゃん。使わせてもらう!」

『Double Up!』

 

 

言われた通りにダブルアップギアをもう片方のダイヤルと対になるように装着し、アースバカラリーヴコインを入れる。

すると以前のカジノドライバーとは異なる軽快な音楽が流れ始める。

そしてダイヤルのリールをリーヴコインと同じ『Earth』に合わせる。

 

 

「ぶっつけ本番の新たな力か……で?それで親友を確実に救えるのか?」

「救ってみせるさ。今賭けられるのは姉ちゃんが間に合わせてくれたこの力だけ。それなら俺は姉ちゃんを信じてやり抜くだけだ!」

 

 

ファントムの挑発に樹は毅然と言い返し、ダイヤルを回転させる。

 

 

「変身!」

『OK! That's sure! Super Raise Up!』

 

 

その音声と共にダブルアップギアと同じ形をした大型のダイヤルが樹の後ろに投影される。

ダイヤルは数度回転すると最終的に『Earth』のリールで止まり、さらにその文字が変化して『Diamond Fever』となる。

すると今度は頭上から大量のダイヤモンドのホログラムが樹の周囲に降り注ぐ。

樹の身体をコバルトブルーのアンダースーツが覆い、その上から金色のラインが二重に駆け巡る。

アースバカラフォーム同様の4つのスートを模したレリーフと『IX』の文字が刻まれる。

仮面はアンダースーツ同様のコバルトブルーに琥珀色の複眼、さらに頭頂部は縁に色とりどりの宝石が嵌め込まれたシルクハットとなっている。

最後にいくつかの周囲のダイヤモンドのホログラムが実体化し、アンダースーツの上に散りばめられる。

 

 

『Amazing Brilliant!! Diamond Baccarat!!』

 

 

最後に音声と共に群青色の花火が爆ぜる。

これこそがカジノの強化形態・ダイヤモンドバカラフォームである。

 

 

「俺は絶対に失くさない。大切な街も、人も、心も!全てをこの手で守り抜く!」

「ハッ!それなら口先だけじゃねぇってところを見せてみろよ!」

 

 

不遜に笑ったファントムが蛇腹剣から黄色い光を放つコブラを召喚する。

全身から放電する大蛇が鎌首をもたげて、今にもカジノに襲い掛かろうとする。

対するカジノはファイティングポーズを取ることなく、自然体で佇む。

 

 

「ダイヤモンド・ミラージュ、展開…!」

 

 

その言葉と共に身体中のダイヤモンドが発光し分離、カジノの周囲を浮遊する。

ダイヤモンド・ミラージュと呼ばれたその物体を脅威と感じたファントムは、まず手の内を探るためにコブラを先行させる。

巨体を活かした突進を仕掛けるコブラ、しかしその攻撃は浮遊体によって構築されたシールドにあっさり止められる。

 

 

「何だと!?」

 

 

何とかシールドを突き破ろうと頭突きを繰り返すコブラだが、シールドにはひび一つ入らない。

その隙にカジノはドライバーを介して右手に新たな武器を生成する。

それはカジノブラスターよりは大きく、アースマグナムよりは小さい、アンダースーツ同様のコバルトブルーのハンドガンだ。

新武器―――ダイヤマグナムの銃身にアースバカラリーヴコインを装填し、その銃口をシールドの奥にいるコブラの頭へと向ける。

 

 

『OK! All In! Ending Time! Diamond Platinum Smash!』

 

 

ダイヤマグナムから青白い光球が撃ちだされると同時にダイヤモンド・ミラージュが散開し、コブラの頭が弾け飛ぶ。

以前カジノ・ブレイズスロットフォームを打ち破ったビームエクイッパーによる攻撃があっさりと蹴散らされたことに、ファントムだけでなく雅やグラディウスも驚く。

しかし武器から呼び出されたコブラなどただの前座に過ぎない。

 

 

「まだまだ上げてくぜ!」

 

 

散開したダイヤモンド・ミラージュがファントムとマンティコアを取り囲むように宙を舞う。

そしてカジノはダイヤマグナムとカジノブラスターを乱射する。

狙いなどまるでない、一見出鱈目にしか思えない射撃だが、計52個のダイヤモンド・ミラージュがそれらを反射させる。

跳ね返った光弾のいくつかはファントム達に命中し、またしても狙いが外れたものを別のミラージュが反射させる。

これにより高威力の光弾が一つも外れることなく、四方八方から絶え間なくファントムとマンティコアに襲い掛かる。

 

 

「ぐおっ……これは中々…!」

 

 

2人が動きを封じられている間に、カジノはカジノブラスターを捨てて接近する。

ダイヤマグナムを撃つ手は止めず、空いた左手に呼び戻した6枚のミラージュを纏わせる。

 

 

「はあっ!!」

「がはっ!?」

 

 

ミラージュによって硬質化した正拳突きがファントムの腹部にめり込む。

必殺技でもないただの一撃だが、今までのカジノの必殺技クラスではないかとファントムは感じる。

さらに左手のミラージュを再度散開、そして左腕に列を成す形で9枚のミラージュを纏わせる。

さながら剣のように振るわれたダイヤモンド・ミラージュはマンティコアの硬い爪をボロボロと破壊していく。

 

 

「すっげぇ…」

「あれが樹様の、カジノの新しい力なのですね…!」

「ええ、超硬質サポートウェポン・ダイヤモンド・ミラージュ。ダメージコインによるアビリティ無しで発動できる、ダイヤモンドバカラフォーム独自の武装よ。ミラージュ単体での攻撃を始め、複数を重ねたり連結させることでシールドや剣、ナックルダスターなど様々な形に変形したり、光弾を反射させることで弾幕の檻を作ったり…文字通りカジノの手札を何倍にも増やしてくれる最強の武器よ。もちろん従来のフォーム同様のアビリティも使用可能ってわけ!」

 

 

爪をミラージュソードで砕かれ、逃走のための翼は光弾により穴だらけ、残された武器である鬣からの針攻撃もシールドで防がれる。

打つ手がなくなったマンティコア、それでも殺戮本能に動かされる彼はなおもカジノに襲い掛かる。

爪も何もない殴打をミラージュシールドが防御、その隙にカジノはドライバーのダイヤルとダブルアップギアの両方を一周させる。

 

 

『OK! All In!』

 

 

全てのダイヤモンド・ミラージュがブリリアントカットのように見える配置でマンティコアの周りを囲んで逃走を封じる。

そしてカジノが太陽を背にして上空へと跳躍、太陽光がミラージュに降り注ぎ乱反射する。

反射した先には何体もの半透明のカジノが飛び蹴りの構えを取っている。

 

 

「大翔、お前の苦しみはここで幕引きだ!」

『Ending Time! Diamond Platinum Brake!』

「ハァァァァァ!!」

 

 

反射によるカジノの幻影が四方八方からキックを叩き込み、最後に青白い光を纏ったキックがマンティコアの頭上から繰り出され爆発する。

 

 

「頼む…無事で終わってくれよ…!」

「きっと大丈夫…お願いだから…!」

「樹様…」

 

 

砂煙で姿が見えないカジノと大翔を案じて、雅たちは祈るように二人のいるであろう位置を見つめる。

やがて煙が晴れ、その中からカジノと彼に支えられる形で横たわる大翔が見えた。

 

 

「い、樹…なのか……?お前が…俺のことを…たす、けて…?」

「大翔!よかった……!お前が無事で……!」

「その様子だと……大勝利、って…とこか…?」

「ああ…!俺だけじゃない、みんなのお陰だ…!」

 

 

その言葉を聞いて大翔は微笑み、意識を失う。

脈があることに安心し、樹は仮面の下で涙を流しながら駆け付けたブリゲードの隊員たちに大翔を預ける。

本当は一緒に治療室までついていきたいが、まだ倒すべき相手が残っているからだ。

その横にグラディウス、そしてマンティコアが倒されたことで毒が抜けた雅も改めてドライバーを装着する。

 

一方のファントムは爆発で自分の近くに飛ばされた、割れたライオンのリーヴコインをしげしげと観察する。

 

 

「なるほど…リーヴコインの内包する生命エネルギーだけを変身者に与えて、有害な要素や致死量のダメージだけをリーヴコインに押し付け必殺技で分離、って手法か。口で言うだけなら簡単だが……やるじゃねぇか」

 

 

凪の技術力に感嘆するファントムだが、褒められた凪は「別にアンタに言われても嬉しくないけどね」と返す。

変身者を死に至らしめる新型リーヴコイン、その原因は旧式とは異なり変身者が受けた致死的ダメージを排出する機能がないからだ。

旧式の場合はドラクマが体を維持できないほどの過剰なダメージを負うと、そのエネルギーがリーヴコインに移されてドラクマから排出されると同時に破壊される。

しかし新型の場合は量産性能を上げる代わりにこの排出機能を撤廃、結果として致死的ダメージを受けてもそのエネルギーがドラクマの体内に蓄積されてしまう。

最終的にドラクマの肉体としての許容量を超えると、元の人間の肉体も限界を迎えてしまい消滅してしまうのだった。

 

このことに気づいた凪は、ダブルアップギアを使用した必殺技を介してドラクマ体内に蓄積した致死量のエネルギーを結晶化、それをリーヴコインに移し固定させることで旧式同様の排出機能を疑似的に与えることに成功した。

リーヴコインの過剰投入で記憶を一時的に失っていた大翔も、結晶化と固定の応用で元の記憶を定着させることができたのだ。

 

 

「まっ、今日はここらで引き際かね」

「へぇ、2連敗でいいんだ」

「ああ、今日は俺の負けだ。またヒリつく勝負をしようぜ」

 

 

そう言ってファントムは去っていった。

ここでファントムを倒したい気持ちはあれど、戦場が病院であることを考えると引いてもらった方が樹たちにとっても助かる。

そのため追跡は行わず、怪我人の救護にそれぞれ動き出す。

 

 

「なぁ、雅」

「はい?」

「ありがとうな、支えてくれて」

「良妻ですからね」

 

 

いつものような夫婦漫才だが、それができるほどお互い心の余裕ができた。

それがなぜか嬉しくて二人とも笑いだすのだった。

 

 

 

 

 

その様子を病院に併設された立体駐車場の中から覗く者がいた。

ジェイルファントムの正体である焔、そしてポセイドン・ドラクマの正体である深月だ。

 

 

「それで?長男サマが態々ここまで出計らって、何の用です?」

「前にも言っただろう。仮にも協力関係を結んでいる以上、自分で宣言したことくらいはしっかりと果たせ、と。」

 

 

冷たい眼差しで睨まれても焔は気にせず笑みを浮かべる。

一方の深月も、焔がこれで反省するような人間ではないとわかっているため、怒鳴りなどはせずに淡々と話し続ける。

 

「好き勝手やっていた割には宣言した『仮面ライダーの完全敗北』を果たせてないからな。しばらく貴様個人での行動は慎んで、私たちの指示で動いてもらう。異論は認めんぞ」

「別に構いませんよ~?俺が一番見たかったものはとりあえず見れましたし、しばらくは大人しく従います」

 

飄々とした焔の興味は、深月ではなく樹と雅へと向けられていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。