仮面ライダーカジノ   作:楓/雪那

13 / 14
亀更新過ぎて申し訳ないです。


第十二話:紅蓮の覚悟

マンティコア戦決着から3日後、大翔はまだ警察病院に入院はしているものの軽く動く程度なら問題ない状態まで回復していた。

 

 

「うん、もうほぼ全快と言っても問題ないと思うわ。ただ念には念をってことであと3日ほどは入院してもらうわ。ダブルアップギアで解決はできたけれど一時はめっちゃ衰弱状態にあったわけだしね」

「了解した。助かるよ、凪さん」

「いーのよ別に。そもそも私、ドラクマの分析やリーヴコインの解析はできても、医療については素人だし」

 

 

「それじゃ後はよろしく」と言い残し、凪は病室を出てラボへと向かう。

残されたのは大翔と樹の二人きりだ。

 

 

「まったく…俺もお前も、警察も、凪さんには頭が上がらないな」

「その通りなんだけどね……グラディウスと並行してダブルアップギアも作ってたみたいで、今度はそのダブルアップギアの調整と複製をしないとだってさ」

「複製?あぁ、竜胆の方もってことか」

「開発と調整の連続でね。家のラボも使うから家には帰ってきてはいるけど、さすがに根を詰めすぎてると思うんだよな…」

 

 

家族として、凪にはしっかり休んでもらいたいという気持ちは強い。

しかし凪の開発のお陰で窮地を脱しているのは一度や二度ではないのもまた事実である。

それに最近の凪はOLとして生活している時よりもイキイキとしている。

元来凪は機械いじりを趣味としており、それを見越してかカジノドライバーとリーヴコインの開発にまつわる資料を両親から託されたほどだ。

そのためパワハラ環境のOLをやりながら空いた時間でカジノと竜胆のサポートを行っていた時よりも、多少生活リズムが崩れても趣味に打ち込める今の方が凪は楽しんでいられるのだ。

 

 

「まっ、倒れられたら皆心配するんだ。そうならないように上手く休ませるこったな」

「それしかないよなぁ…」

「あとお前もだぞ、樹。俺のせいでお前もだいぶ無理してたろ」

「いいんだよ俺は。姉ちゃんや帯刀さんたちと違ってゆるゆるカフェやってるだけなんだし」

「そのカフェの店長待ってる客は多いんだ。そろそろ戻んな」

「ああ、また来るよ」

 

 

荷物をまとめて病室から出ようとする樹だったが、何かを思い出した大翔が呼び止めた。

ベットから起き上がった彼は棚の中に入れてたカバンからUSBメモリを一本取り出し、樹に手渡す。

 

 

「これはどうやら俺がドラクマになる前にファントムについて調べてたものらしい……悪いが、今の俺じゃこの情報から結論にたどり着くことができなくてな。お前に預けておく、使ってくれ」

「…ありがとう、大翔」

 

 

体内のリーヴコインが全て取り除かれ記憶も元に戻った大翔だったが、なぜかあの日『Fortuna』を出てからドラクマとしてカジノに倒されるまでの記憶だけは戻らなかった。

いざという時の為に残していた情報を元に推理しようと試みても、頭に靄がかかり止まってしまうらしい。

樹はUSBを大事に自分のカバンにしまい、自分の家へと向かった。

 

 

その様子を廊下の物陰から眺めている影に、樹が気づくことはなかった。

 

 

 


 

 

 

一方その頃、雅は桔梗家の応接間である人物から相談を受けていた。

机を挟んで向かい合っている相手は正道の所属する隊の部隊長を務める森川である。

机の上にはかなりの量の資料や写真が置かれており、そのうちの何枚かを手に取って見ている雅の顔は険しいものだ。

 

 

「これは…」

「ここ数日、埠頭で不審な小型船が確認されていてね。『Cosmo』の護衛任務やマンティコアの一件で我々も発見が遅れてしまったんだが、先日埠頭の整備員から情報が提供されたというわけだ」

 

 

離れた位置から隠し撮りしたものであるため少しぼやけた写真であるが、取引をしている人物は両方とも雅が知る人物である。

1人―――ホルスターのような何かを渡している女性は、以前大学で戦ったテュポーン・ドラクマの正体だった女だ。

そしてもう一人は、

 

 

「……確かに彼はうちの構成員です。柳河修仁、一か月ほど前に二次団体の設立を許可し、柳河組の長となった者です」

「その柳河組のシノギは?」

「湾岸エリアのパトロールです。主に夜間の人員補助ですが、他にも運送業に関わってます」

 

 

桔梗家の構成としては当主である雅が組長にあたり、その下に彼女を補佐する若頭が3人、それぞれ二次団体を抱えて存在している。

繁華街の治安維持を主とする猪口組、建築業を請け負うことの多い鹿宮組、本家の事務を担当する蝶野組を筆頭に他に3つ二次団体が存在している。

そこに最近新設されたのが湾岸業務をメインとする柳河組である。

 

 

「その柳河というのはどういう男なんですか?」

「組の中ではまだ新参です。それこそ私の代になってからですから」

「それはまた…中々のスピード出世ですね」

 

 

まだ入って日が浅い人間に新たに組を、それも幹部の二次団体ではなく本家の二次団体を持たせられるというのは、当然周囲からの反発は少なくなかった。

しかしこれは同時に雅が初めて傘下に組を与えるということでもあり、遅かれ早かれ経験しておくことであるということ、そして柳河の熱量と行動を見てきた親父分にあたるサブの後押しもあって認められたのだ。

 

 

「この写真では取引らしきものについてのみですが、他にも最近不審な物音のする貨物の搬入があったという話も聞いてます」

「誘拐、人身売買もありえる、と……」

「勿論、我々は雅さんや樹くんたちが関与しているとは微塵も思っていません。かと言ってこの件を放置することもまたできません」

「ええ、分かっております。むしろこうやって情報を共有してくれたことに感謝していますよ。お陰で警察と組の抗争を起こさずに済みますから」

 

 

そう言うと雅はドライバーを手に持ち、立ち上がる。

そしてレイに表に車を出すよう指示を出した。

 

 

「私もすぐ自分の部隊を動かす。雅君は樹君と共に先に現場に向かってくれないか?」

「…いえ、この件は一旦樹様には控えさせてもらってよろしいですか?」

「構わないが…何故だ?」

「まずは長として私が責務を果たさねばなりません。まずは私だけで行かせてもらいたいのです。不躾な申し出でございますがどうか」

「分かった。だがドラクマが現場に出現したら我々も実力を行使させてもらう」

「ええ、構いません」

 

 

 


 

 

『Fortuna』は今日も満席ではないものの、ほどほどに賑わっていた。

部活が休みである霞と抱えているタスクがない焔も手伝っているため、樹も余裕を持って調理ができる。

しかしその手伝いの二人はとんでもないハードワークに襲われていた。

 

 

「かっ、霞さん!!俺とっ、つっ、付き合ってくれませんか!?」

「あ~、ごめんなさい。私、今誰かと付き合うとかあんま考えてないからさ」

 

「お兄さんって今彼女いるんですかぁ?いないならぁ私立候補しよっかなぁ?」

「自分で言うのもなんだが、俺は辞めときな。仕事上色んなとこに行ったり来たりだからよ、お勧めはできねぇな」

 

 

店自体はそこまで忙しくない。だがワンチャンを狙って告白したり口説いてくる輩が多すぎるのだ。

普段の樹だけならば、最強の許嫁を知っているためこうはならないのだが、滅多に表れない焔となれば別である。

しかも根は真面目な学者であるのだが、見た目がワイルド系であるためかチャンスありだと思われやすいのである。

 

また霞も、普段は樹や雅のガードという名の圧によって迂闊な真似をする者は極めて少ない。

しかし文化祭が控えていることから圧を恐れない無謀な学生が増えているのだ。

勿論、兄二人の目がある以上、一度降られたらショックを受けるがしつこく食い下がるものはいない。

だがそれは同級生や後輩であった場合であり、先輩となるとそう上手くはいかない。

 

 

「なぁ、財部さん。やはり考え直してくれないか?俺の彼女になってくれよ」

「ですから先輩……私は誰かの彼女になる気はないんですって」

「そんなこと言わないでさ、一度付き合ってみないか?試してみたら絶対に楽しませるよ」

「楽しい楽しくないじゃなくてですね…今は部活とか兄や姉の方が大事なんです。彼氏のために時間を作る余裕がないんです」

 

 

霞がうんざりしながら告白を拒否している相手は、同じ戸津辺高校の3年でありテニス部の部長を務めている男だ。

一見すると爽やかな好青年であるのだが、一人の相手と付き合う期間も新しい彼女を作るスパンも短いことで有名であり、霞はいい印象を抱いていない。

そもそも霞の抱く理想の彼氏の基準にいるのが樹と焔なので、そこらの男にはハードルが高すぎるのである。

 

そんな霞の様子を二人の兄はハラハラと窺っていた。

彼らにとって末っ子の霞は目に入れても痛くないほどのかわいい妹であるため変な虫はつかないでほしいが、それと同時に自分たちが過干渉になりすぎるのもよくないと思っているため、霞の恋愛事情にはあまり首を突っ込まないようにしている。

今まで告白して断られた男は粘着してくることはなかったから介入することはほとんどなかったが、この男はそうは行かなそうだ。

テニス部の部長は今までの女と違い思い通りにならない霞に次第に苛立ち、遂に腕を掴みだした。

 

 

「~~~っ!いい加減調子に乗るなよ!?」

「ちょっ!?痛っ!放してください!」

「この俺が彼女にしてやると言ってるんだ!君は素直に従って――いだっ!?」

「辞めたまえ、見苦しい」

 

 

さすがに看過できなくなった樹と焔が動き出すが、それよりも先に男の腕を誰かが掴み、霞から引き離させる。

美形な顔立ちこそ純日本人だが、瞳だけは日本人らしくない碧眼であり、皺一つない紺色のコートと合わさって英国紳士を思わせる青年である。

腕を捻られて悲鳴を上げるテニス部の男にしばらく侮蔑の視線を向け、10秒ほどたった後に腕を放す。

掴まれて痣ができた腕を擦りながらテニス部の男は店から逃げ去っていった。

 

 

「あ!?ちょっとお会計!」

「放っておくといい。あの男の会計は私が払おう」

「えっ!?いや、そんなのよくないですよ!?私のこと助けてくれたのに…」

「構わん。これもノブレス・オブリージュ…高貴な者が果たすべき責任だ」

 

 

逃げたテニス部の男が未会計であることを思い出した霞が引き留めようとするが、青年は自分がその分も払うと言う。

しかし恩人である青年からさらに関係のない会計までさせてしまうのを申し訳なく思い、霞はどう断ればいいのか分からずオロオロしてしまう。

そこに樹が来てある提案をする。

 

 

「それなら、俺から一杯奢らせてください。お客さん、まだ入店したばっかで何も頼んでないでしょう?」

「ふっ…それなら有難く頂こう。エスプレッソを頼む」

「畏まりました。妹を助けてくれてありがとうございます」

「礼には及ばないさ、仮(・)面(・)ラ(・)イ(・)ダ(・)ー(・)」

「……えっ?」

 

 

自分が仮面ライダーであることを知っているのは家族と桔梗家の人間、ブリゲードの隊員たちと大翔しかいない。

だというのに自分の正体を言い当てた青年に樹は驚愕し、キッチンに戻ろうとしていた足を止めて振り向く。

席に着いた青年が手にしていたのは群青色のリーヴコインと、テュポーン・ドラクマ―――蘭が使用していたのと同じリーヴドライバーだ。

 

 

「まずはコーヒーをもらっていいか?そのあとゆっくりと話そうじゃないか」

 

 

 


 

 

 

その頃、雅は柳河が取引現場として利用している埠頭に到着した。

彼女一人だけではない。サブやマル、レイの若頭3人を筆頭に桔梗家の組員が大勢、柳河たちにケジメをつけさせるために集まっている。

特に親父分であったサブの怒りは凄まじく、屋敷で話を聞いた際には怒鳴り散らしながら組員を招集していたが、今では一周回って静かになっているが、下の者たちは今の方が余程怖いと内心思っている。

 

 

「皆さん、いいですか?まずは私が柳河から話を聞きます。その上で彼が抵抗したら私たちも武力行使、それまでの攻撃は禁止です……とは言え、私の予想では絶対に彼はドラクマとなって抵抗するでしょうね。皆さんは大将を無理に取ろうとせず、制圧できる者を制圧してください」

「「「応!」」」

 

 

組員たちに指示を飛ばし、海岸へ向かう雅。

そこには彼女が来ることを予期していたかのように、柳河が部下たちとともに待っていた。

 

 

「やっぱり来ましたか、組長」

「柳河……」

「サブの親父どころか若頭が3人揃い踏みとは豪華なことで……入念に準備してくれて俺は感激ですよ」

「修仁ぃ!てめぇお嬢を裏切るとはどういうつもりだ!?」

 

 

桔梗家の中心であるメンバーが勢揃いしたこの状況で、柳河は焦るどころか喜んでいる。

その態度に雅は嫌な予感がした。

 

 

「どうもこうもないですよ、親父。俺はね、力が欲しいんです」

「力ですか…そんな在り来たりなものの為にドミネイターについた、と?」

「在り来たり、ねぇ……ま、既に仮面ライダーなんて凄い力を持っている組長には分からないでしょうよ」

「分からなくはないですが……力を手に入れたとして、それを何のために、どう使うつもりなのですか?」

 

 

力が欲しいという気持ちは雅にも少しは理解できる。

もっと自分に力があれば、今よりも樹や財部家の支えになれると思った時は決して少なくない。

それにもっと早い段階で竜胆になれていたのなら、もしかしたら自分や樹の両親も救えたのではないかとも思う。

だからこそ柳河が何のために力を使うのか、聞く必要があると思った。

返答次第では彼の道を正せると思った。

 

 

「目的ですか……そんなの、より多くのものを支配するために決まっているだろうがぁ!」

 

 

柳河修仁は貧しい家の生まれだった。

貧乏であるだけで周りからは蔑まれ、奪われた。

自分が奪われたのだから自分だって奪っていいと考えて盗みをしたが、あっけなく失敗した。

だというのに自分より裕福な人間が盗みを働いたら、そいつの家が万引きの事実をもみ消し許された。

 

次第に柳河に生じた妬みは支配欲へと変わっていった。

中学・高校時代は喧嘩に明け暮れ、たった一人で少しずつ規模の大きな不良グループの上へと昇りつめて、やがてリーダーへとなった。

サブ、そして雅と出会ったのは高校3年の時だった。

不良グループのリーダーが変わったことに興味を抱いたサブが彼を気に入り、更生も兼ねて彼らを組に入れてほしいと雅に頼んだのだった。

 

その誘いは柳河にとって渡りに船であった。

「世のため人のため」といった活動には嫌気がさしたものの、巨大な組織の中で着実に成り上がっていく実感を楽しみ、裏ではサブに気づかれないようにドミネイターに「いなくなっても困らない人間」を横流しにしてきた。

当主である雅がドラクマを倒すのを見た時は何度もその力を羨望し、そして先日リーヴブレスをもらった時は「直刺しで暴走するやつらとは違う」と歓喜した。

 

 

「つまるところ……それがあなたの本性なのですね。最初から成り上がりと支配しか考えてなかったのですね」

「ヒャハハ!当然でしょ!自分以外の全てを蹴落として踏み台にする以上の楽しみがあるかぁ!?」

「ある、と言ってもあなたには分からないでしょうね。私ももう理解してもらおうとは思いません」

 

『舞鶴花札!』

 

「変身…!」

 

『承認完了!開幕!舞鶴花札!』

 

「あんたの首を手土産にして、俺はさらにのし上がる!昇核!」

 

『Myrmidon!』

 

 

竜胆・舞鶴花札式に雅が変身するのに合わせて、柳河もリーヴブレスにコインを装填しドラクマへと姿を変える。

体の色は真っ黒であり、頭部の一対の大顎や棘の生えた手足から大蟻を思わせる容姿をしている。

しかしその胴体には東洋の鎧のようなものを纏っており両腕からはそれぞれ刃が伸びていることから、侍のようにも見える。

さらに柳河が姿を変えたのと同時に、後ろに控えていた彼の子分たちも同じ蟻の怪人へと姿を変える。

顎はやや小さく、格好も鎧ではなく軍服のようなものという違いはあるが、柳河同様に自我は残っているらしい。

大将である柳河だけでなく、隊一つが一個体となっているのがこのドラクマ―――ミュルミドン・ドラクマである。

 

 

「これは、中々…」

「へへっ、狩り開始だ」

 

 

リーダーであるミュルミドンが指示を出すと配下のミュルミドン・トルーパーが一斉に突撃し始める。

想定以上の敵戦力に竜胆は仮面の奥で歯噛みするが、彼女の後ろで待機していた若頭たちが下っ端たちに檄を飛ばす。

 

 

「怯むんじゃねぇ!お嬢のための道を作れぇ!」

「桔梗の仁義を見せるときだよ、お前たち!」

「半端もんが粋がっとんちゃうぞ!」

 

 

各々鉄パイプやバット、木刀などを持ちミュルミドンTに叩きつける。

生身の人間に食らわせるのと違い大きなダメージにはならないが、仰け反らせて動きを抑えることはできる。

加えてミュルミドンTの性能は一般のドラクマと比較すると劣ったものであり、2,3人程度の人間ならともかく1体につき10人ほどでぶつかられるとさすがに堪ったものじゃなくなる。

 

正面から振り下ろされた木刀を大顎でつかみ取りへし折ったと思えば、横腹を三人がかりで蹴り飛ばされ横転。

タックルしてきた下っ端二人を抑えて肘鉄を喰らわすが、後ろから近づいた三人に引きはがされて、逆に海に落とされる。

口から蟻酸を飛ばして下っ端たちをびびらせるが、コンテナの上に隠れていた組員が爆竹や木箱を絶えず投げつけてきて、逆に近寄れなくなる。

 

 

(私もまだまだですね……率いる立場でありながら勇気づけられてしまいました)

 

「皆の衆!ここは任せました!頭は私が討ちます!」

「行ってくだせぇお嬢!」

 

 

槍モードの光華槍弓を握り、ミュルミドンに切りかかる竜胆。

それをミュルミドンは左腕の刃でガードするが、両者の武器がぶつかり合った瞬間に竜胆は光華槍弓をクナイモードへと分離させる。

予期していた手ごたえの無さに肩透かしを食らったミュルミドンに隙が生じ、その胸元にヤクザキックを叩き込まれる。

バランスを崩し後退するミュルミドン、さらに竜胆は片方のクナイを投擲する。

 

 

「ぐあっ!」

「まだまだ、『こいこい』!」

 

『展開!舞鶴花札!』

 

 

空いた右手で札を引く動作を行う竜胆。

その動きに合わせて彼女の背に札のイラストが表示される。

 

 

「『菊に盃』、これなら攻めます!来い!」

 

 

継続を宣言しながら竜胆はミュルミドンに肉薄、突き刺したクナイの片割れを引き抜こうとする。

そこにミュルミドンがカウンターで蟻酸を吐き出す。

当たればコンクリートすらドロドロに溶かす強烈な酸が竜胆の頭上に降りかかる、ことはなかった。

 

背中の翼を羽ばたかせた竜胆は低空飛行で加速しており、その勢いで飛び蹴りをお見舞いした。

吐き出された蟻酸は竜胆の頭頂部スレスレで当たらず、地面で煙をあげるだけだ。

キックの勢いでミュルミドンの背後に着地した竜胆は、すかさずクナイを手元に戻して連続切りで追い詰める。

 

 

「俺はぁっ!力を手に入れたんだぞ!?こんなところで終わって…」

「付け焼刃の力の半端もの程度で、よくもまぁ下剋上を成せると思いましたね」

 

 

自分の醜態を受け入れられないミュルミドンに冷ややかな言葉を贈る竜胆。

すでにドライバーを必殺技の待機状態にしている彼女の前では、柳河に逃げ道などなかった。

 

 

「ま、待って!」

「新型じゃないから死の恐怖もないでしょうに。潔く受け入れなさい」

 

『承認!必殺上々!舞鶴 黄金撃!』

 

白いエネルギーをまとったクナイが、素早くミュルミドンの両腕を貫いて地面に縛り付ける。

仰向けで固定されたミュルミドンが次に見たのは、上空から落ちてくる竜胆の足だった。

 

「はぁぁぁっ!!」

「ギャァァァ?!」

 

純白のストンプキックがミュルミドンの胴を捉え爆散、五体満足で元の姿に戻った。

雅の読み通り新型のドラグマではなかったため、気絶はしているが命に別状はない。

 

 

「大将を打ち取ったから部下たちの変異も解除されているでしょうか…」

 

まぁサブたちならあの程度の手合いは問題ないだろう、と思った雅だった。

しかし直後に部下たちの絶叫が聞こえたため、その思いは霧散しすぐに先ほどの場所へと駆け出す。

 

 

「どうされたのですか!?……貴方はっ」

「よぉ~竜胆、お疲れのところ悪いねぇ」

 

 

倒れ伏す部下たちと柳河の手下たち、その中心に立つのはあのジェイルファントムだ。

 

 

「すみません、お嬢…あの蟻んこ共が人間に戻ったと思ったら奴が現れて…」

「俺らじゃ手も足も出なかった…面目ねぇ…!」

「…柳河は囮ですか」

 

その言葉にファントムは口元を抑えながら笑う。

柳河が新型のコインを持っていなかった理由は、死ぬことはないという竜胆の施行を誘導し、強化されたカジノをこの場に呼び出させないためだったのだ。

ファントムはこれ見よがしに三枚のリーヴコインを見せつける。

彼の足元で転がっているのはサブ、マル、レイの三人。

 

 

「お前も言ってただろ?付け焼刃の半端もの程度じゃあ意味がないからな。俺のターゲットはこいつらってわけ」

「待ちなさい!?」

「待たねーよ」

 

 

竜胆の制止も空しく、三人衆はドラグマに変貌させられる。

サブは青色の体にねじ曲がった巨大な2本の角を生やしたディアー・ドラグマ、マルはガッシリとした茶色の肉体でこれまた2本の巨大な牙を生やしたボア・ドラグマ、レイは緑色の身体から妖しく光る紫色の翅を広げたパピヨン・ドラグマ。

 

「「「があああああああ!!!」」」

「っ!いけない!?」

 

三匹は咆哮をあげ、ディアーが角から緑色の電撃を放出する。

倒れているほかの部下たちを守るために竜胆は前に飛び出て体を張った。

激しい光と土煙が海岸に舞う。それらが治まった時、雅の変身は解除され、3匹のドラグマとファントムの姿は消えていた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。