仮面ライダーカジノ   作:楓/雪那

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霞む陽炎

「は………?樹お兄ちゃん何言ってんの…?」

 

 

その日の夜の『Fortuna』は重苦しい空気に満ちていた。

呆然とした表情で戻ってきた樹、雅、凪の様子を見て、何事かと思った霞が聞かされたのは「ジェイルファントムの正体が長兄・焔であった」という残酷な真実だった。

 

 

「焔兄がドミネイターの仲間……?そんなわけないじゃん!?」

「俺も雅もこの目でしっかり見た。姉ちゃんもグラディウスの戦闘記録から確認してる。間違いない」

「そんなの…ドラグマの能力で焔兄の姿してる可能性だって…」

「発覚したのはジェイルファントムの変身機能が維持できなくなったタイミングだ。顔に傷も負っていた。そんな状態でドラグマとしての機能を維持できてるとは思えない」

「それに改めて今までのファントムとの交戦記録を確認してみたの。そしたら兄さんの動きの癖と一致したわ」

「もし姿を変えられるドラグマが手下にいるなら、むしろアリバイ作りに利用したって方があり得る」

「凪姉まで……そんなこと言うの…?」

 

 

樹だけではなく、凪からも証拠を見せられて霞は愕然とする。

雅にも視線を向けるが、彼女もまた目を伏せて肯首する。

 

 

「だって…カジノや竜胆のパワーアップを考えたのは焔兄でしょ!?樹お兄ちゃんやみんなのこと考えてくれてたじゃん!敵ならなんでそんなこと…」

「兄ちゃんは…ファントムは今まで俺たちとあまり本気で戦ってこなかった。試すような動きが多いんだ」

 

 

パチンコホールの客や正道の父親を素体に新型ドラグマを生み出しその性能を確かめる実験。

その正道の父親、正吾の進化を見届けグラディウスの性能を確かめるための戦い。

ダイヤモンドバカラフォームや鳳凰花札式の性能の観察。

いずれの行動も樹や雅は自分たちと比較して大した敵意を感じられなかった。

 

 

「最初はドミネイターの幹部みたいに俺たちのことを侮っているからだと思ってた。でも、多分ファントムにとって俺たちはまだ倒してはいけなかった実験材料の一つ、なんだと思う」

「実験って、そんな……」

「それにこの前店に来た神々廻深月、あの人は『カジノの強化形態が邪魔だからこの場所に留めさせておいてくれとファントムに頼まれた』って言っていた。ってことは竜胆をパワーアップさせるためにあえて俺を引き離させたってことだ。あの時店にいた兄ちゃんがきっと偽物、姿を変えられるドラグマだと思う」

 

 

樹がそこまで話した時、店内にパチンという音が響く。

大粒の涙を流した霞が樹の頬を引っぱたいたからだ。

キッと樹を睨みつけ、そのまま部屋のドアを激しく閉めて籠ってしまう。

 

 

「霞っ!」

「いいんだ姉ちゃん、雅も」

 

 

思わず凪が呼び止めようとするが、それを樹が制止する。

同時に冷蔵庫から冷やすものを取り出そうとしていた雅も動きを止める。

 

 

「ですが樹様、腫れが…」

「うん、でも悪い。これはちゃんと受けなきゃいけないものだ」

 

 

それを聞いて雅は渋々引き下がる。

本当はあの時、気絶させてでも焔を逃がしてはいけなかった。

この痛みは、この場に連れてこなければならなかった自分への罰だ。

樹がそう思っているのを理解したからだ。

 

 

「どの攻撃よりも効くよ、兄ちゃん…」

 

 


 

 

「げほっ…っはは、今頃樹のやつ、霞に怒られてんじゃねぇか?」

 

同時刻、焔は自分に与えられたラボのソファに横たわっていた。

顔は傷だらけで額から出血もしているが、彼は気にせず愉快そうに笑う。

そんな彼の様子を伺いにペストマスク、般若面、ゴーストマスクの3人が集まる。

 

 

「だいぶ手酷くやられたようじゃないか」

「いやいや、さすがにパワーアップしたカジノと竜胆に加えてグラディウスまでってなると流石に無傷生還は無理でしょ」

 

 

般若面がマスクの下から低い声で気遣いながら応急手当をするが、焔はヒラヒラ手を振って笑う。

余裕そうなのはジェイルファントムではカジノ・竜胆・グラディウスのうちどれか2人、現状の最高戦力で挑まれたら勝ち目はほぼないと分かりきってるからだ。

故に今日の戦闘はあくまで情報収集、負けるのはほぼ既定路線であの大立ち回りを成し遂げたのだ。

 

 

「そろそろ、私たちも出番が来る?」

「そうだなぁ……暫くは本家ドミネイターの皆々様にお任せしようと思ってるが…まあちょっかいかけるくらいはしていいだろ。一応言っておくが…」

「まだ倒すな、でしょ。分かってるよ、まずは私からでいいよね?」

「構わない、俺はまだやる事があるしな。般若殿はどうだ?」

「私も後で構わんよ」

 

今後の方針を決めた一同。

ゴーストマスクが一番槍を志願し、ペストマスクが抱えている役目を理由にそれを許可、般若面も同意する。

焔がやり過ぎないように諌め、ゴーストマスクは了承するが落ち着いた口調とは裏腹に、その執念の強さを示すように拳は固く握りしめられていた。

 

 

「…っし、俺も明日ちょっくら行ってくるわ」

「傷はいいのか?」

「お陰様でな、話しておかないといけないやつがいるからよ」

 

 


 

 

次の日、朝の財部家はいつにもなくギスギスしていた。

兄妹の間に会話はなく、普段はいちばん口数が多い凪も何を喋っていいか分からないのか黙りこくっていた。

朝食を終え霞が家を出る直前に雅が来たが、彼女とも何も話さず学校へ向かった。

雅は心配そうにその背を見送り、樹もどうしたものかと頭を搔く。

 

その日一日中、霞の顔は暗いままだった。

クラスメートは彼女に何かあったのかと身を案じるが、霞は無理に笑って「何でもない」と答え続けた。

当然だ。「実の兄が最近噂の怪人を作ってる人だったと聞いた」など言えるわけが無い。

 

そして浮かない顔のまま放課後を迎え、帰宅の準備をする。

今日は吹奏楽部の活動がないため、普段ならまっすぐ家に帰り『Fortune』の手伝いをするのだが、今日はそんな気にはなれなかった。

かといって友達と遊んだりする気も起きない。

どうしようか悩みながら校門を出ると、今1番探し求めていた人物が目に入った。

 

「よっ、霞」

「…焔兄?」

 

霞の悩みの種である人物、焔は近くの電柱に寄りかかって待っていた。

彼の近くには声をかけようか、どうしようかと様子を伺っていた女子生徒がチラホラいたが、例によって霞の兄だと知るとそそくさと散り始める。

 

「なんでいるの…?」

「おいおい、兄が妹を迎えに来ることの何がおかしいんだよ?」

 

呆然とする霞にいつものように笑いかける焔。

その様子に安堵する霞だが、昨日の樹の話を思い出しすぐに顔を強張らせる。

 

「…まっ、ここで立ちっぱなしってのもなんだ、帰りながら話そうぜ」

 

そう言い、『Fortune』への帰り道を歩き始める焔。

その後を霞も付いて行く。

 

「この前の演奏、良かったじゃねぇか」

「今更感想言うんだ」

「あん時はゴタゴタして言えなかったからなぁ。学校は楽しいか?」

「何その不器用な父親みたいなセリフ。楽しいよ、クラスメートも先輩もよくしてくれてるし」

「それなら何よりだ。霞は樹や凪に似て人に好かれやすいもんなぁ」

「それを言うなら焔兄もじゃん。この前行ったって国…えーと…」

「ペルーな、あそこは美食の国だ。特にアヒ・デ・ガジーナは1度本場のを食った方がいい」

「それなら焔兄が連れてってよ。どうせ現地の人とすぐ仲良くなって、隠れた名所とか教えて貰ってるんでしょ?てかさ、みんなで行こうよ。家族みんなで旅行なんて、久しく行ってないじゃん」

 

何気ない兄妹の会話を続けながら帰路へつく2人。

だが家族旅行の話を霞が出した途端、焔は足を止めた。

 

「焔兄?どうしたの?」

「……悪ぃな霞、そりゃあ難しい頼みだ」

 

申し訳なさそうに笑う焔。

その姿に嫌な予感を感じた霞は、遂にそのことについて聞く。

 

「…ねぇ焔兄、焔兄がジェイルファントムって嘘だよね…」

「……いや、ほんとさ」

 

今日一緒に帰りながら話して改めて感じた。

焔は昔から大好きな兄の一人であると。

だから最後まで樹の話は嘘だと思いたかった。

しかし残酷な真実を、焔は肯定する。

 

「なんで…なんで焔兄が樹兄と戦うの…?焔兄は家族を傷つけることなんてしないはずじゃん!?」

「…すまないな、霞」

 

思わず泣きながら焔に掴みかかるが、そんな妹を見てもなお焔は申し訳なさそうな顔をするだけである。

そんな焔の態度で霞はさらにどうして、と泣きじゃくるしかできなかった。

しかし突如として焔の纏う雰囲気が変わった。

妹を優しく見守る眼差しが冷たいものになり、彼らが通り過ぎた道にある電柱を睨んでいた。

 

「出て来いよ、ストーカー野郎。学校出た時からついてきてたんだろ?」

「えっ、ストーカー?」

 

焔の口から出た言葉に驚き、霞も電柱に目を凝らすがそこには誰もいない。

しかし焔はため息をつくと、懐からファントムブラスターを取り出して即発砲する。

突然の銃撃にそばにいた霞が驚いたのだから、狙われた張本人が焦って飛び出るのは当然のことだった。

 

「ここ最近、使えそうな『被験体』を仲間に探させてたら、霞の高校周辺に盗撮魔がいるから目星をつけてたんだが…あんた、ストーカーまでする肝があるやつだったか?自室か近所の公園から隠し撮りするのが精いっぱいだったろ」

 

銃口を向けられた中肉中背の男は体を震わせており、怯えているのかと霞は感じた。

しかし顔を上げた時にこちらへ向いた眼が恐怖ではなく、狂気に満ちていることに気づいた。

 

「霞ちゃん……写真だけじゃ足りない…僕のものに!」

『Afanc!』

 

なんとストーカーはリーヴコインを取り出し、それを自分の首に押し込む。

そして鋭い爪と前歯を持ったビーバーに似た怪人、アーヴァンク・ドラグマに変異した。

 

「あ~…このタイプ、彼(・)女(・)の仕業ね」

「ガルルルル!」

「他の子ならまだ仮面ライダーの慈悲があったかもな。だがカワイイ妹を狙ったのが運のつきだ」

 

霞を後ろに下がらせた焔は、一枚の黒いカードを取り出しファントムブラスターに挿入する。

 

「換禁」

『Recognition』

 

引き金を引くと同時に焔を囲う檻が出来あがり、その中で鎖に身を包む。

ジェイルファントムへと変異した焔にアーヴァンクは牙を剝き出しにして襲い掛かる。

しかしそれよりも早くファントムはファントムブラスターでの攻撃でアーヴァンクを牽制する。

一発も外すことなく的確に急所を狙うファントムの攻撃にアーヴァンクはたまらず後退しようとする。

だがファントムは銃を持っていない方の腕からファントムチェーンを伸ばして、アーヴァンクの右足を縛り上げる。

アーヴァンクに飛び道具の類は持ち合わせていなかった。

なんとか自慢の爪と前歯で鎖を嚙みちぎろうとするが、仮面ライダーの動きすら縛る鎖を並みのドラグマ程度が破れるはずもない。

なによりそんな見え透いた武器をファントムが見逃すはずがなかった。

 

「ぐぎゃぁああああ!!?」

「お前ごとき、これ以外武器を作る必要もねぇ」

 

長く伸びた前歯に一点集中してトリガーを引き続けるファントム。

次第に前歯はボロボロに欠けてゆき、喉を貫通し始める。

拷問さながらの光景に離れて見ていた霞は思わず目を背ける。

 

「さぁて、そろそろ楽にしてやるよ」

『Destruction』

 

右足に蓄積されたエネルギーが鎖を弾き飛ばし、必殺の回し蹴りがアーヴァンクの身体を粉砕した。

爆発の跡には何も残っていない。

アーヴァンクに変異していたストーカーは跡形もなくなったのだ。

そして霞から連絡を受けて駆け付けたカジノが、ちょうどその光景を目にしていた。

 

「兄ちゃん…!」

「おー、ちょっと遅かったな、樹」

「今のドラグマは、死んだのか?」

「そりゃあ、俺にはそんな機能必要ないからな」

 

あっけらかんと言い放ったファントムに、樹は怒りを覚える。

自分たちが知る兄はもういないのだと思い知らされたからだ。

 

「兄ちゃんはなんでそんな簡単に人の命を弄べるようになったんだ!」

「決まってる。家(・)族(・)の(・)た(・)め(・)だ(・)」

「家族のためって…何が兄ちゃんをそうさせたんだ!」

「それはお前が知ることじゃない」

 

お互いに銃口を向けにらみ合った状態で、話は平行線をたどる。

しかし先に銃を下したのはファントムだった。

 

「…はぁ~、別に今日はただ霞と話をするために来たんだよ。さっきのストーカービーバーはたまたま居合わせただけだ」

 

焔の目的は、おそらく自分の裏切りを信じていないであろう霞に真実を話して、きっと喧嘩してたであろう樹と仲直りさせることだ。

もっとも襲い掛かってきたアーヴァンクが誰の手先かは気づいていたが、そこまで樹に言う義理はない。

 

「…それで?だったらはい、そうですかで帰すと思ってんの?」

「あぁ、帰らせてもらうさ」

 

直後、新手のドラグマが出現し、カジノの腹に痛みが走る。

現れた怪人、ムネモシュネ・ドラグマは3度ほどカジノの腹に蹴りを入れ、壁へと叩きつけた。

急な奇襲で初撃を躱せなかったカジノは、もろにダメージを食らうがすぐに立て直し、ダイヤマグナムの照準をムネモシュネへと向ける。

しかし狙いを合わせるより先に、ファントムがカジノの構えた手を狙撃、ダイヤマグナムを落としてしまう。

その隙にムネモシュネがエネルギー弾を地面へと撃つことで土煙で身を隠した。

一瞬の逃走劇を止めることができず、カジノは悔しそうに壁を殴った。

 

 


 

 

時は少し遡り、霞が校門で焔と合流した頃。

ブリゲードの研究室で凪は浮かない顔をしていた。

原因はもちろん焔のことである。

彼女もまた、慕っていた兄が人の身体を弄んでいたジェイルファントムだとは信じたくはなかった。

しかし事実として、その状況を見てしまったのだから疑いようがない。

頭ではブリゲードと仮面ライダーをサポートする技術者としてファントムに対抗する装備を作らなければならないと分かってはいるが、気が重くて発想も浮かばないのだ。

背もたれに深く寄りかかり天井を見つめる凪だったが、その視界に缶コーヒーが入ってくる。

 

「帯刀さん…」

「お疲れさんです、少しは休んで別のこと考えた方がいいんじゃないか?」

 

正道が差し出した缶コーヒーを礼を言って受け取り、啜り始める。

正道もまた隣に座って、同じように缶コーヒーを飲む。

 

「そうは言ってもね…私が発案しないと中々製作まで行きつかないわけだし…」

「悩んでてもいいもんは浮かばないだろ。こういう時には息抜きが必要だと思うぜ」

「ふっ…訓練の虫の帯刀さんがそれ言う?」

 

ブリゲードのメンバーで一番「休む」という行為が似合わない男に休んだ方がいいと説教されたことに凪は思わず吹き出してしまう。

かく言う正道も自分がそういうキャラじゃないと自覚しているのか、恥ずかしそうに頭を搔く。

 

「あー…やっぱり俺っぽくないよなぁ…」

「うん、休むべきって似合わなすぎ。誰に言われたの?」

「安達。凪さんが悩んでるから俺が外連れ出してこいって…安達の方が向いてるんじゃないか…?」

「ふ~ん、そっかそっか」

 

なるほど、この前の女子会の後に霞が安達に協力するよう頼みこんだのだろう。

そして同性の安達が誘うのではなく、正道が誘うことで自然な流れでデートに行けるよう一芝居打ってくれたわけだ。

内心で二人に感謝をしながらも、正道にそれを悟られないよう平常心を保つ。

 

「でも帯刀さんにそこまで言われちゃあ、断るのも忍びないなぁ~。私辛いのが食べたいんだよね~」

「調子いいな…まっ、最初から奢る気だったけど」

「おっ、太っ腹だねぇ~」

 

予期せぬ喜ばしい誘いでいったん悩むのをやめようと外出の準備をし始めた時、室内にサイレンが響き渡る。

ドラグマ出現の合図だ。

二人とも舌打ちしつつも、自分たちの役割を果たすために車両倉庫に向かおうとする。

普段ならば各部隊ごとに車両に乗り込み、その中でオペレーターから状況を聞きながら作戦を立案・確認する。

しかし今回はいつもと違った。オペレータールームから向かうよう指示されたのは、本部の正面入り口だった

 

「正面入口ってことは…まさかドミネイターが直接攻め込んできたのか!?」

「ありえなくはないけど…ドミネイターがこんな派手な行動に出たことは今までなかったわ」

 

まさか警察本部を叩きに来たのかと焦る正道に、凪も意外そうな顔で考える。

以前、樹達の前に現れた神々廻深月が勤める神々廻コーポレーションは大企業であり、仮に神々廻コーポレーションのすべてがドミネイターの支配下であるとするなら、ブリゲード本部を攻撃する戦力を持っていてもおかしくはない。

しかし今までは散発的なドラグマの出現くらいしか動きを見せなかったドミネイターがここまで目立つ行為をしてくるイメージがないのだ。

 

二人が1階に下りた時にはすでに銃声が聞こえていた。

外では何人もの隊員が防護盾を構えて銃を撃っている。

その銃弾の雨が向かう先には、黒い靄の上から外骨格を纏った山羊のような角を持つ怪人、ゴート・ドラグマが佇んでいる。

彼女の周囲の通ったであろう道には、守衛を務めていたであろう隊員が数人倒れており、守りを固めている隊員たちは彼らに誤射しないよう気をつけている。

しかし何十発も当てれば倒すまではいかなくても怯ませることはできる弾丸を受けて、ゴートは一切動じず突撃する。

 

肋骨に位置する外骨格を一本引き抜くと、それをレイピアのように突き出す。

レイピアはまるで豆腐かのように易々と貫き、その奥にいる隊員の肩も貫いた。

盾が意味ないと理解させられながらも、ゴートを包囲しようとするが、レイピアでの突きや蹄のある足での蹴りを受けて一枚、また一枚と紙屑のようにグシャグシャさせられていく。

盾を失った隊員が増えたことで誤射の危険が上がり特殊警棒での近接戦に切り替えようとするが、銃弾でも傷一つつかないゴート相手にそんなものが効くはずもなく、隊員たちは次から次へと倒れ伏す。

 

「くっ…変身!」

『Take Up Sword! Follow Your Will! Grab The Victory!WOW!Kamen Rider Gradius!』

 

その惨状を目にした正道は、グラディウスに変身しアサルトアームズで切りかかった。

しかしゴートは変身音声でグラディウスが到着したことに気づいており、掴んでいた隊員を放り捨てて骨のレイピアで受け止める。

 

「てめぇ…よくも仲間たちを!」

「待っていたわ、グラディウス。私の獲物!」

 

両者はそれぞれの武器に力を込めながらにらみ合うが、すぐにお互いに一歩引き、間合いを取る。

流暢に喋るゴートの様子と油断のない構えから、正道と凪は相手がただの一般人ではなくドミネイターの関係者であると気づく。

怪人でありながらもその佇まいは揺らぎがなく、外見さえ気にしなければ見惚れてしまいそうなものである。

 

ゴートは勢いよく地面を踏みこみ、グラディウスの右肩を狙ってレイピアを突き出す。

細身の剣とはいえ、当たったらただでは済まないと直感したグラディウスは咄嗟に身体を傾ける。

レイピアは肩の上を掠り、その装甲に浅い傷をつける。

 

「んなっ…!」

「チィッ…」

 

その突きの速さは正道がギリギリ見切れたスピードであり、離れているとはいえ凪が見逃しかけたほどであった。

しかも並みのドラグマではもろで受けたならまだしも、掠った程度ではグラディウスに傷をつけることもできなかった。

ということはゴートのレイピアを急所に食らうと致命傷になりかねない。

 

すかさず素早く連続突きを繰り出すゴートにグラディウスは防戦一方だ。

上半身を中心に絶え間なく浴びせられる攻撃は装甲を貫きはしないものの、グラディウスを少しづつ追い詰めている。

何より正道はこの攻撃は囮であり、さっきのような本命の一撃を躱せなくなるタイミングで狙っていると疑っている。

故に不用意なガードは却って隙をさらすだけであり、アサルトアームズを使って一部の攻撃だけを防いでいた。

 

「ふっ…!」

「そこだ!」

 

何十回にも及ぶ剣戟の末に、再びゴートは神速の一突きを繰り出す。

しかし集中力を切らさずにゴートの動きを見極めていたグラディウスは、合気道の要領でゴートの右腕を抑え込む。

その際に左腕の装甲に大きな傷がつくが、構うことなく手を払いのけて武器を手放させることに成功した。

 

「っし、捕らえた!」

「甘い!」

 

右腕で取り押さえたゴートをこのまま近距離で必殺キックを叩き込もうとベルトに手をかけたその瞬間、ベキャリと何かが潰れるような嫌な音が響く。

なんと靄の中から口が現れてグラディウスの右腕の装甲を噛み砕いたのだ。

 

「まずっ…!帯刀さん、右腕だけ離脱してっ!」

 

叫ぶような凪の指示を受けて、正道は右腕だけを部分的に変身解除することでゴートの反撃から逃れる。

幸いにも腕を噛みちぎられずに済んだが、これでグラディウスは明確な弱点を晒すこととなった。

正道はどうやってこの状況を打開するか、頭を回転させる。

すでにゴートは二本目の剣を手に持っており、突きの構えを取っている。

 

(カウンターメイルかシューティングメイルに変えるか…?いや、多分意味がねぇ)

 

カウンターメイルならば装甲が重ねられることで右腕をある程度守れるだろう。

しかし機動力がゴートに大きく劣ることになり、反撃は難しくなる。

シューティングメイルで機動力を上げれば、今度はほかの装甲が薄くなり、より致命傷を受けかねない。

 

(だとしたらやっぱバスターメイルでやるしかねぇが…そうだ)

『OK! Soulful Lethal Smash!』

 

ある考えを思いついたグラディウスはアサルトアームズをハルバードモードへ変形、さらに必殺技を発動させる。

距離がある状況で近接武器、しかも重さのあるハルバードモードで必殺技を行おうとすることにゴートは訝しむが、その答えはすぐに分かった。

グラディウスが青く放電した戦斧を思いきり回し投げたのだ。

 

「っ!!?」

 

横投げで飛んできたハルバードはさすがに外骨格では防ぎきれないと判断し、横に跳んで避ける。

しかしゴートの目線はこちらに向かってくるグラディウスをしっかりとらえていた。

ハルバードを躱した隙を狙って攻めてくるなんて、分かりやすい作戦だからだ。

 

『OK! Soulful Panishment Strike!』

(必殺技!右側の外骨格を犠牲にして、カウンターで右を貫く!)

 

グラディウスがエネルギーをチャージしているのは、まだ装甲が残っている左拳。

それならばとレイピアを左手に持ち替えて、カウンターを決めようとする。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

「うぐっ…!」

 

ゴートの予想通り、グラディウスの左ストレートが彼女の右胸に炸裂し、外骨格にひびが入る。

すかさずレイピアで反撃しようとしたゴートだがーーーーーーー

 

『OK! Soulful Panishment Strike!』

「ーーは?」

 

次の瞬間、グラディウスの回し蹴りがゴートの左わき腹にめり込む。

咄嗟のことにゴートはガードできず吹き飛ばされる。

なんとか飛ばされないよう足を踏ん張って再度レイピアを構えようとするが、今度は攻めではなく守りの構えだ。

グラディウスががら空きになった右手で何度も必殺技のスイッチを押してるのを見てしまったからである。

 

「守りを捨てたのか…!」

『OK! Soulful Panishment Strike!』

「おらぁぁぁぁっ!!」

 

またしても左ストレートがゴートに襲い掛かる。

正面から突き出した骨の剣を粉砕し、胸部に鉄拳が叩き込まれる。

さらにグラディウスは休むことなく必殺技を連打、片手と両足による必殺技のラッシュがゴートの外骨格を少しずつ砕いていき、同時にグラディウスの装甲の隙間から煙が上がっていく。

 

「帯刀さんもうダメ!オーバーヒートする!」

「これでトドメだっ!!!」

『OK! Soulful Panishment Strike!』

 

凪の忠告を聞いて、正道は最後に必殺の飛び蹴りをゴートに繰り出す。

命中すると同時にゴートは胸の外骨格をバラバラにまき散らしながら、電柱まで吹っ飛ばされ叩きつけられる。

ふらつきながらもなんとか立ち上がるが、既に変異は解けておりゴーストマスクの姿に戻っている。

変身が解けたのは正道も同様であり、ブリゲードドライバーは半ばショートしている。

 

「この……!」

「そこまでだ、これ以上はファントム殿からやりすぎと言われるぞ」

「ぐっ…!」

 

マスクの下で目を血走らせ、再度変異しようとするゴーストマスク。

しかしそこに般若が現れ、彼女を制止する。

 

一方の正道と凪、そして応援に駆け付けたブリゲードの隊員たちは緊張した面持ちで動けずにいた。

頼みの綱のグラディウスはすでに再変身が厳しい状態に対し、向こうは新手、それもゴート・ドラグマと恐らく同レベルの強さが一人増えたのである。

状況を打開するにはカジノか竜胆を呼ぶ必要があるが、それまで自分たちで持ちこたえねばならない現実に物怖じしてしまう。

だが、般若とゴーストマスクは彼らに背を向け、その場から去ろうとする。

 

「待て!逃がすと思っているのか!」

「……君はもう変身できない状態じゃないのか?」

 

生身でアサルトアームズを構える正道に、呆れたように般若はため息をつく。

そして渋々といった様子でリーヴブレスにコインを挿入する。

 

『Octpath!』

「少し手荒に行こう」

 

顔が描かれたような筋肉に包まれた怪人、オクトパス・ドラグマに変異した般若はちょうどゴーストマスクが叩きつけられた電柱に触れる。

そしてそれをまるでお子様ライスの旗を抜くように軽々と持ち上げ、ブリゲード本部の方へ放り投げた。

 

「んなっ…!退避しろぉぉぉ!!!」

 

正道の叫び声で思わず呆然としていた隊員たちは我に返り、散り散りに逃げ出す。

幸いにも電柱は本部の建物に直撃はせず、入口前に落ちただけで済んだ。

先ほどのグラディウスとゴートの戦闘中に負傷者も救出されていたため、下敷きになった隊員もゼロだ。

しかしこの間にゴーストマスクと般若は逃走したようで、姿は見えなくなっていた。

もう少しで幹部かそれに近しい立場の人間を捕らえられたかもしれなかったことに、正道は歯噛みするしかできなかった。

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