仮面ライダーカジノ   作:楓/雪那

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お久しぶりです。
懲りずに新作です。
多くの作家さんに触発されて作りました。
レジェンドライダー要素はないです。


第一話:運命のコイン

午後10時、こんな時間でも駅周辺の繁華街はネオンの看板や居酒屋の提灯で真昼のように明るく賑わっている。

そんな夜の喧騒の大半を成しているのは老若男女問わずの酔っ払いであり、ある者は大声で笑い、ある者はその大声に怒り罵声を飛ばし、そこから喧嘩が勃発する。

まさに無法地帯とでも言うべき場所だが、この繁華街ではほぼ連夜の事であり、当然昼間より多くの警官が巡回し揉め事が起これば二人一組の態勢で駆け付ける。

そんな物騒な繁華街をイライラした様子で歩く男が一人。

この男がイラついているのは何もたいしたことではない。ただパチスロで大負けしただけの事だ。

手持ちの金をすべて使い果たし何の成果もない、ただ行き場のない苛立ちのみが残る彼にはこの喧噪も自分を馬鹿にしているように聞こえる。

だからこそ彼は手ごろな通行人に難癖をつけて金を巻き上げようと考えた。

 

男がターゲットとして目を付けたのはちょうどこちらに向かって歩いてくるカーキ色のパーカーを着た青年。

男はにやりと一瞬笑い平常を装いながら青年のほうへ向かって歩く。

そしてすれ違う寸前、わざと青年のほうへ寄り肩をぶつける。

 

 

「いってぇ!!…おいちょっと待てよ、今お前がぶつかったせいで俺の腕の骨にひび入っちゃったんですけど!?治療費払ってくれませんかねぇ!?」

 

 

非常に低俗な言葉で青年を恐喝する男。

どう見ても男がわざとやったのは周囲から見て丸わかりであるが、こんな日常的に起こる揉め事にいちいち巻き込まれに行くお人好しの通行人がいるわけもなく、そのうち来るであろう警官に後を任せて一瞥するだけだ。

しかし絡まれている青年の反応は一般的なものとは異なっている。

気が短く喧嘩っ早い者ならばそのまま殴り合いに発展し、気の弱い臆病なものならば怯えてなすがままにされるだろう。

だが青年は面倒くさそうに舌打ちをし、ポケットから硬貨のような物体を取り出し、それを男の腹に押し付ける。

すると硬貨のようなものは男の体内に取り込まれていき、同時に男の身体が痙攣したかと思えばその姿を異形のものへと変化する。

真っ青の素肌に以上に膨れ上がった筋肉、一切の毛髪がない頭部から伸びた一本の角、そして獣のような鋭い牙に中央に一つしか存在しない瞳。

 

怪物へと変貌した男は理性など感じさせない雄たけびをあげながら、周囲のものをひたすらに破壊し始める。

これには無視を貫いていた通行人も反応せざるを得ず、蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。

人々の逃げる流れに逆らって到着した二名の警官も怪物の姿を見てギョッとするが、すぐに一人の警官が無線機を取り他の警官に応援を要請する。

 

 

「こちらC地区!『ドラクマ』を一体確認しました!至急応援を要請します!」

『了解!直ちに装備を持って向かう!お前たちは通行人の避難誘導を続けろ!』

「了解!」

 

 

二人組の警官は拳銃を怪物に構えつつ、いまだに残っている野次馬たちに逃げるよう指示を促す。

だが野次馬の一人の持つ携帯のシャッター音が怪人の耳に入り、彼の注意をそちらへと向けてしまった。

筋肉で盛り上がった腕を振るい、野次馬を攻撃しようとする怪人。

怪人の薙ぎ払いが野次馬に当たるよりも先に警官の一人が野次馬に飛び掛かり彼を地へ伏せさせる。

おかげで怪人の攻撃は外れるが、二度目の攻撃が来ないわけではない。

巨大なハンマーのようにも見える拳を振り下ろす。当たったら骨折なんて生易しいものではすまないだろう。

 

直後、パンという音と同時に怪人の動きが止まる。

もう一人の警官が銃を怪人の背に向けて撃ったのだ。

しかし一瞬動きを止められたのも痛みからではなく、煩わしさからくる注意の変更であり怪人は銃を撃った警官のほうへギョロリと単眼を向ける。

そして近くにあったカラオケのネオン看板を片手で持ち上げ、その警官目掛けて勢いよく投擲する。

看板を持ち上げた時点でまさかと思っていた警官は体をしゃがめて横に飛び、投げ飛ばされた看板を躱す。

しかし再び怪人の方へ眼を向けた瞬間、飛来してきた自転車が視界に移る。

看板の次に近くにあった、恐らくはカラオケ客のものであろう自転車を投げつけたのだと理解した瞬間、彼の身体は自転車とともに後方へと飛ばされていた。

コンクリートの路上に背中を打ちつけ、仰向けになった体の上にさらに自転車で押しつぶされた警官は意識を失ってしまった。

 

気絶してしまった警官に怪物は目もくれない、わけではなかった。

痛くはないが自分を攻撃したことに苛立った怪人はそのまま気絶している怪人の方へのそのそと歩いていく。

野次馬を庇い逃がしたもう一人の警官は同僚の命の危機をどうすれば切り抜けられるか必死に考える。

名前を呼びかけるが反応はない、否、目覚めたとしても負傷している状態で自転車を押しのけて逃げることは無理だろう。

では自分が自転車をどかして運ぶか?

それが一番いいのだが、そのためには怪人を後ろから追い抜いて行かなければならない。

そして怪人の横を抜けた瞬間に攻撃が飛んでくるであろうことは容易に想像がつく。

 

考えた結果、というより本能的に警官は同僚の方へと走り出していた。

彼が怪人の右側を通り抜けた瞬間、その姿を視界に捉えた怪物が腕を振るう。

警官の目には自分の方へと迫ってくる青い腕がスローモーションに見えた。

 

自分の死を予感したその時、怪人が横へと吹っ飛ばされる。

何が起こったのかと、警官は怪人が吹っ飛ばされた方向とは反対の、自分の右へと目を向ける。

まぶしく輝くネオンライトを逆光として立つ、一人の異形。

黒いアンダースーツの上に刻まれた金色の文様。

よく見ると右肘にスペード、左肘にハート、右膝にダイヤ、左膝にクローバーのマークが同じく金色のレリーフで刻まれている。

最も特徴的なのは素顔どころか頭部全体を覆う赤い複眼のある仮面だ。

仮面の上の赤い瞳は警官の奥にいる怪物を射抜いており、なお警戒を緩めることなく右手に持った銃を構えている。

 

 

先の警官のものとは違い自身へと痛みを与えた攻撃に激高する一つ目の怪人。

怪人は近くにあった標識を引っこ抜いて武器として振り回しながら突進してくる。

 

 

「危ないから下がってな」

 

 

仮面の戦士は警官にそう告げながら、再び発砲する。

撃ちだされたのは一般的な銃弾ではない。

まるで金貨のようだ、と警官は思った。

仮面の戦士が連射した金貨状の弾丸は、得物をちょうど振り上げて胴体ががら空きとなっていた怪人にすべて命中する。

仰け反る怪人、一方の仮面の戦士は腰に巻いたベルトの上部からコインを抜き出して、銃のクリップの後ろの投入口にコインを入れる。

 

 

『OK! All In!』

「夜も遅いし、ぱぱっと終わらせよう」

『Ending Time! Golden Shoot!』

 

 

銃口から撃ちだされる無数の黄金の弾丸が怪人の身体を撃ち抜き、爆散する。

爆炎の中から怪人に変身させられていた男が気絶した状態で現れ、彼の体内からひび割れた硬貨が排出される。

 

 

『Congratulation!』

「ふう…一仕事終えたし、帰るとしますか。あ、そっちのお巡りさんは無事?」

「あ、ああ……、君は…」

「それなら問題ないね。後始末は警察に任せますよー」

 

 

あっけらかんとした様子で警官からの問いかけに応えることなく、バイクにまたがって来た道を戻る仮面の戦士。

「やーっぱ理性がないやつと戦っても微妙なんだよなー……フィールド展開できないし…」と彼にしか理解できないぼやきを聞き、その後姿を見送ることしか警官にはできなかった。

 

直後、反対方向から入れ替わりで数台の警察のエンブレムが入った車両が到着し、中から特殊部隊のような大型の盾やライフルを持った警察官たちが降りてくる。

最後に降りたスーツを着た中年の警官が、現場にいた若手の警官に尋ねる。

 

 

「おいおい…『ドラクマ』はいねぇじゃねぇか。…まさかよ」

「はい、そのまさかです。『仮面ライダー』によって倒されました」

「やっぱりねぇ……てことは仮面ライダーはお前ら二人の命の恩人でもあるってわけね」

 

 

ため息代わりにたばこの煙を吹く中年警官。

若手の警官は申し訳なさそうに頭を下げるが、中年警官は「いいさいいさ」と窘めるも、「ただあいつはな……」とぼやく。

その呟きの意味を理解した若手警官は、現場に到着した一人の先輩警官のほうを見る。

 

 

「クソオォォォォ!!」

 

 

視線の先の先輩警官――帯刀 正道(たてわき まさみち)――は一人、他の同僚からの呆れの視線も気にすることなく夜の街に吠えた。

 

 

 

 


 

 

 

ここ『戸津辺市』は至って普通の、都心ほどではないが人口の多い大都市だ。

特に戸津辺駅を中心に広範囲に広がる繁華街の盛り上がりは都心にも匹敵する勢いで、連日お祭りでも開催されてるのではないかと思われる賑わいがある。

そんな戸津辺市には2,3年ほど前からある都市伝説が広がっていた。

『怪人』と『仮面の戦士』。

突如として何の変哲もない人間がまるで神話に登場するような怪人に変貌して破壊活動を行う。

そして金と黒の戦士がその怪人を倒す。

典型的な特撮ヒーローのような話だが、その怪人と戦士の戦う姿を収めた映像が連日ネットに投稿され、以前はこの街に来る人々はゲームやグルメ、ショッピングなどが主だったが、今では仮面の戦士を一目見たいと思う人々の聖地となっていた。

仮面の戦士の評判は外から来た人だけではなく、戸津辺市で暮らしている人からも高い。

特に店舗を構える者からすれば「治安維持だけでなく、外から人を集めてくれるなんてまるで商売繁盛の神様だ」なんて言うものもいる。

そして人々は感謝と親しみを込めて、その戦士を『仮面ライダー』と呼んだ。

 

だがその存在を快く思わない者もいる。

それが件の怪人たちへの対策のために警察によって立ち上げられた特殊部隊『ブリゲード』の隊員、帯刀正道だ。

『ブリゲード』は怪人たちに『ドラクマ』という総称をつけ、それに対抗するため専用の銃火器や防護服を支給され、市民をドラクマへと変えている黒幕を逮捕するための指令を与えられ活動してきた。

しかし設立されて以来、黒幕の手がかりを掴むどころかドラクマの撃破すらもままならない状況が続いていた。

そのため『ブリゲード』の存在意義について生みの親である警察上層部からも疑問が生まれてきてもいた。

幸いというべきか避難誘導という活動のおかげでなんとか解散を免れてはいるが、連日仮面ライダーを見たがる観光客が増え続けて次第に避難誘導も困難になるだろう。

 

 

加えて仮面ライダーの存在が『ブリゲード』の存続に影を差していた。

彼らが倒せなかったドラクマを彼の戦士はいともたやすく撃破し続けているのだ。

そのため最近は『仮面ライダー殿の手がかりを掴んで、勧誘せよ』という指示まで出され、それを聞いたかつて仮面ライダーに命を救われた隊員たちは喜んで賛成していた。

 

 

しかしドラクマに対して個人的な憎しみがあり、また警察官としてのプライドも高い正道にとって仮面ライダーの存在は面白くない、どころかドラクマ同様に嫌悪感を抱いていた。

なぜなら彼は、正確には『ブリゲード』の隊員たちはみな知っているからだ。

仮面ライダーが戦うために使用している金貨状のアイテム、それと同じものがドラクマが撃破されたときに排出される。

すなわち仮面ライダーとドラクマの力の源は同じであるということ。

それが正道が仮面ライダーも嫌う理由だ。

 

 

 


 

 

 

一つ目の怪人――サイクロプス・ドラクマ――と仮面ライダーの戦いの翌日、休日の正道は街をブラついていた。

本当なら『ブリゲード』のトレーニングルームで訓練をしていたかったが、上司から「お前は無理をしすぎだ」と怒られ、半ば無理矢理トレーニングルームを追い出されたのだ。

だが普段から訓練の虫の彼には息抜きの手段なんてなく、ただ行く当てもなく歩いていた。

やがて一見の喫茶店が彼の目にとどまった。

『Fortuna』の看板が掛けられた店がやけに気になり、正道は何となく入店してみた。

 

 

「いらっしゃいませ!一名様ですか?」

「はい、そうです」

「それではご案内いたしますね!」

 

 

入店を知らせるベルの音に気付いたポニーテールが特徴的な少女の店員が迎えてくる。見たところ高校生くらいだろうか。

彼女についていき、席に着いた正道はぐるりと店内を見回しある一点で視線を止める。

 

カウンター席には二人の男と、その男たちを囲むように制服を着た少女が3人立って彼らの後ろから何かをのぞき込んでいる。

そして彼らの向かい、つまりキッチン側に立つ男――エプロンをつけていることから店員、恐らくは店長が彼らが覗いているテーブルの上に何かを並べている。

 

 

「さぁ、皆さん。どっちにしますか?」

「うーん……わたしはこっちかな~?」

「今日の俺はツイてる気がするんだ!ズバリこっちだ!」

「マルさんのツイてるは信用ならないからな~。私もこっちにしよっと!」

「おいおい、それはねぇだろ嬢ちゃん!?」

 

 

何をしているのか気になった正道はじっとカウンターを見るが、客の背で隠れて見えない。

 

 

「お客さん、ひょっとしてここ来るの初めてですか?」

「えっ、ええ…まあ」

「やっぱり!お兄ちゃん、えっと、店長のあれはいつもの事ですから」

 

 

お兄ちゃん、ということはこの少女はあの店長の妹か、と正道は理解し、彼女に尋ねた。

 

 

「あれ、とはなんです?」

「ちょっとしたゲームですよ!お兄ちゃんはああいう遊びが大好きで、いつもお客さんに勝負を持ちかけるんです。まあお客さんたちも楽しんでくれてるみたいだからいいんですけどね」

「ゲーム…」

「そうだ!お客さんも参加してみます?」

「えっ?いや、俺は…」

「大丈夫です!負けても悪いことがあるわけじゃないし、ルール分からなくてもお兄ちゃんが教えてくれます!さらに厄落としにもなるんですよー!」

 

 

ゲームで厄落としって何なんだという正道の反論も耳に入らない店員は、カウンターの方に正道を引っ張っていく。

カウンターキッチンに立つ店長――カフェの店員らしい清潔感のある短めの髪と切れ長の瞳の青年は正道を見て微笑む。

端正な顔立ちだが幼くもあり、正道よりも若いだろう。

 

 

「お兄さん、ここ来るの初めてなんですね。バカラはやったことありますか?」

「いや、聞いたこともないが…」

「それじゃ、簡単に説明しますね。バカラっていうのはトランプを使った運試しのゲームです。と言っても基本的に参加者が何かをしなければならない訳ではないんです。僕はディーラーとして『プレイヤー』と『バンカー』、それぞれのエリアにトランプを配ってその数字の合計数の下一桁が9に近い方が勝ち。そして皆さんは『プレイヤー』か『バンカー』、どちらが勝つかを予想して賭けるだけ。簡単なゲームでしょ?」

「賭けだと?」

「はい、賭けるだけです。それでお兄さんは…」

「賭け事なんて俺はやらない。絶対にな」

 

 

店長が言った『賭ける』という単語を聞いた正道は声を荒げ、不機嫌そうに自分の席に戻る。

その様子を見たカウンター席に座る恰幅のいいスキンヘッドの男が不思議そうに店長に話しかける。

 

 

「なんであんなに怒ってんだ?賭けっつったて俺らが金を出すわけでもないのにな」

「ねー。ただ当たったら店長さんの特製お菓子がもらえるだけなのにね」

「賭けっていうよりビンゴゲームみたいなもんだよねー」

「あの人、絶対うちらの学校の教頭と同じくらい頭固いと思うー」

 

 

スキンヘッドの男に同調した女子高生たちも疑問を口にする。

が、不機嫌そうにコーヒーを啜る正道の耳には入らない。

彼は一刻も早く賭けが行われているこの空間から去りたいのだ。

しかし注文した商品を完食しないまま帰るのは生真面目な彼には到底許せないことなので、しかたなく不機嫌なままコーヒーを飲む。

 

 

「まあ世の中色んな人がいるってわけですよ。ゲームが嫌いな人がいたっておかしくなんかないさ」

 

 

正道を見ながら店長はちょっとだけ残念そうに笑い、そして進行中だったバカラを再開する。

 

コーヒーを飲みほした正道は会計をしようと立ち上がる。

その時外から悲鳴が聞こえる。

 

 

「すまない!これで会計を!釣りはいらない!」

 

 

そう言い1杯400円ほどのコーヒーに対して1,000円札を置いていき、ポニーテールの店員の呼び止める声を無視して正道は外へと出る。

携帯を操作しつつ悲鳴の聞こえた方へと走り、現場に到着する。

彼が見たのは人のように二本足で立つ馬のような顔や毛並み、そして頭頂部に一本の長い角を持つ怪人。

怪人――ユニコーン・ドラクマ――の周囲には三人の男が倒れている。

 

 

「こちら帯刀!『ドラクマ』を発見した!至急応援を要請する!場所は繁華街北東を出た先の喫茶店の近くだ!」

『了解した!すぐに向かう!』

 

 

オペレーターが『無理をするな』と告げる前に正道は通信をブチ切りして、倒れている男の一人を踏みつけようとするユニコーンの腰にしがみつき、止めようとする。

しかし日頃から鍛えている正道の筋力でもユニコーンを抑えることはできず、なんどか激しく体を揺さぶって振りほどかれさらに腹に蹴りを食らう。

怪人として強化された筋力に馬の特徴である発達した蹄の硬さも合わさって、非常に重たい一撃となる。

思い切り吹っ飛ばされた正道は住宅の石垣に背中を打ち付け、倒れ伏す。

 

 

「ううっ……くそっ…」

 

 

痛みで呻く正道の心は悔しさであふれていた。

憎きドラクマを目の前にして一方的にやられてしまった弱い自分が憎い。

警察官なのに市民を守ることができない自分が憎い。

蹲る自分に近づいてくるユニコーンを睨みつけることしか今の彼にはできない。

しかし、突如彼の視界にユニコーンではない者の脚が映る。

 

 

「大丈夫かい、ゲーム嫌いのお兄さん?」

「君は……」

 

 

正道とユニコーンの間に割り込んできたのは先程まで正道がいた喫茶店『Fortuna』の店長の青年。

さっきまで着けていたエプロンを外して不敵な顔で立っていた。

 

 

「何をしに来た!?ここは危険だ!さっさと逃げろ!」

「逃げる必要はないよ。あのドラクマは()が倒すから」

 

 

そう言って彼はベルトのようなものを取り出す。

ベルトといっても留め金のようなものはなく右側の側面にはダイヤル、左側にはコインケースのようなものが装着されており、中央には直方体型の電源のついていないディスプレイのようなものがある。

青年はそれを自分の腹へ押し当てるとベルトが一人でに彼に巻き付き固定される。

 

 

『Casino Driver!』

 

 

ベルトから陽気な音声が流れ、青年はコインケースから一枚のコインを取り出す。

そしてコインの裏面を押すと、こちらからも音声が流れる。

 

『Earth Baccarat!』

 

 

それこそドラクマの身体から排出されるコイン――別名を『リーヴコイン』。

つまりこの青年は―――

 

 

『What's your choice? What's your choice?』

 

「変身!」

 

 

青年はリーヴコインをベルトの上の投入口に入れ、ダイヤルを一周させる。

 

 

『OK! That's sure! Raise Up! Earth Baccarat!』

 

 

ベルトのディスプレイから立体映像が投影される。

映し出されるのは青年の上空から舞い散る何枚ものトランプ。

それと同時に青年の全身が黒いアンダースーツで覆われ、その上に金色のライン、そして両肩両膝にトランプの四つのスートのマークが刻まれる。

最後に胴体全てに重なるような大きな『Ⅸ』の線が刻まれると同時にトランプの映像が金色の花火として爆ぜる。

現れたのは昨晩も警官たちを救った仮面の戦士。

 

 

「仮面、ライダー…」

 

 

正道は呆然としながらその名をつぶやく。

 

 

「そう、俺の名は仮面ライダーカジノ。さあ、ゲームを始めようか」

 

『Casino Blaster!』

 

 

ベルトのディスプレイから再度立体映像が投影される。

それは銃の映像。

映像から実体化した銃・カジノブラスターはカジノの右手に収まる。

クルクルと銃を軽く回転させカジノはトリガーを引く。

銃口からは金貨型のエネルギー弾が撃ちだされ、命中したユニコーンの身体は火花を吹き後退する。

するとユニコーンの身体から散った光の粒子がカジノのドライバーへと吸収されていく。

トリガーから指を離すことなく前進するカジノに対し、ユニコーンは頭をうずめて背中を前に向ける。

 

 

「ブルルル……」

「ん?」

 

その様子に警戒したカジノは銃を撃ちながら注意深く観察する。

するとユニコーンは両足で地を蹴り、一直線に突進してくる。

 

 

「ヒヒィィーーン!!」

「うお!?」

 

突進といってもただの頭突きではない。

伝説上の生物ユニコーンの名を持つこのドラクマは自慢の角でカジノの身体に風穴をあけようとしているのだ。

 

「そらっ!」

「ヒヒィ!?」

 

しかしカジノは横に転がり回避、さらにユニコーンの無防備な背中にエネルギー弾を撃つ。

ユニコーンは痛みで思わず身体を仰け反らせ、さらに失踪の勢いも合わさって派手に転倒する。

 

 

「折角だ、一緒にゲームをしようぜ?」

 

 

カジノからの問いかけにユニコーンは返答しない、というよりかは返答するほどの知能もない。

だがそんなことはお構いなしにカジノはドライバー上部を右へと撫でるようにスライドさせる。

 

 

『Set! Earth bacarrat!』

 

 

ベルトのディスプレイから光が放たれ、空中に映像を投影する。

その画面には左右で『PLAYER』、『BANKER』と書かれたエリアで区切られており、続けてそれぞれのエリアに裏面表示のトランプの投影が配置される。

 

 

「さあ、ゲーム開始だ!お前はプレイヤーとバンカー、どっちのほうに賭けるかい?」

 

 

先よりも楽しそうに、まるで試すかのような口ぶりでユニコーンにカジノは尋ねるが、さっきも言ったように目の前の怪人はそんなことを考えられるほどの賢さを持たない。

今この怪人の頭にあるのは目の前の仮面ライダーを倒すことだけである。

その思考通りに突進攻撃を再び仕掛けるユニコーン。

 

 

「ヒヒィーーン!!」

「おいおい、今はゲーム中だっての!」

 

 

カジノは衝突目前のユニコーンの背中に手を置き宙がえりをして回避する。

しかしさっきのように反撃をせず、一気につまらなそうにため息を吐く。

 

 

「はぁ、これだから知能の落ちてる奴は…。ねえ、お兄さん、せっかくだからお兄さんがどっちにするか選んでよ!」

「知るか!なんだそれは!?そもそも賭けはやらん!」

「えぇ…ノリ悪…」

 

 

仕方なく正道にも問うが、知らんと一蹴されカジノのテンションはさらに萎える。

 

 

「はぁ~…しゃーない、バンカーで」

 

 

カジノの宣誓に合わせてトランプが裏返る。

『PLAYER』のほうは2と3、『BANKER』のほうは1と8。

バカラのルールに基づきバンカー側の勝利が確定する。

『BANKER WIN!』の音声と表示が出されるとカジノの体が金のエフェクトで光り出す。

 

「あらよっと」

「ブルル!?」

 

カジノブラスターから撃ちだされたエネルギー弾がユニコーンのボディに命中し、爆発する。

その威力は第三者の正道から見てもよく分かるほど、さっきの謎のバカラゲームの前とは比べ物にならないほど上がっている。

さっきは後ろに仰け反る程度だったものの、今のユニコーンは爆風と衝撃で後ろの壁に叩きつけられてしまう。

 

『NEXT GAME!』

「プレイヤーに入れる」

 

再び裏面の状態で二枚ずつ配られるトランプ、それを見ずにカジノは再び宣誓する。

裏返ったトランプは、『PLAYER』が1と2、『BANKER』が2と5。

バカラのルールに従って『PLAYER』側に追加でカードが一枚配られる。

引いたカードは6。よって合計が9に近い『PLAYER』側の勝ちとなる。

『PLAYER WIN!』の表示に合わせてより一層カジノが纏うエフェクトの輝きが増す。

 

その攻撃しか手段がないからなのか、再び角を向けて突撃するユニコーン。

カジノはその攻撃が当たる前にサマーソルトキックをお見舞いし、上空に打ち上げる。

さらに真上に向けたが地のブラスターのトリガーを連射、打ち上げられたユニコーンの体に全弾命中し全身から火花が吹く。

落下し、体を打ち付け苦痛に悶えるユニコーンに対し、カジノはドライバーのダイヤルを一周させる。

 

 

「これでとどめ、幕引きの時間だ」

『OK! All In!』

 

 

カジノが纏うエフェクトが右足に集中する。

するとカジノが立つ足元が変化する。

コンクリートの道なのに砂が集まっているのだ。

いや、正確にはカジノの足元を中心として砂が湧き出ているのだ。

 

「はっ!」

 

カジノが軽く前にジャンプすると砂も追従して上昇、そしてまるで龍のように人一人乗せられる足場となり、カジノを乗せてユニコーンの周囲を回り始める。

龍のような砂はぐるぐる回りながらも少しずつ上昇し砂の壁で逃げ場を塞ぐ。

そして真上へと昇り、その上からカジノが右足を突き出したキックの構えで飛び降りる。

 

 

「ハアァァァァ!!」

「ブルヒィィィン!?」

 

『Ending TIME! Earth Golden Brake!』

 

 

カジノのキックと砂の龍の口がユニコーン・ドラクマを粉砕、爆発する。

そしてその跡地からは変身者と思われる男と割れたリーヴコインが出てくる。

変身者に目立ったケガはなく意識を失っているだけのようで、安堵した様子でカジノは一息つく。

 

 

「ふぅ…終わったな」

「待て!!」

「ん?」

 

 

しかしそうは問屋が卸さなかった。

大声で呼び止められてカジノが振り向くと、正道が拳銃をこっちに向けている。

 

 

「え、ちょっとお兄さん!?銃刀法違反だよ!?おろしな!?」

「俺は警察だ!!それに銃刀法違反はおまえのことだろうが!」

「あ、確かに……いやいや、待ってよ!?警察のお兄さんも今の見てたでしょ!俺のこれは不可抗力っていうか…そう!正義のため!」

「ほざけぇ!お前があの『ドラクマ』と同じリーヴコインを使っているのは知ってるんだ!大人しくベルトを渡して署までついてこい!」

「いや、それはちょっとできないっていうか、企業秘密みたいな…」

「企業だと!?より詳しく話を聞く必要があるな!どっちにしろついてこい!」

 

 

何が何でも仮面ライダーをしょっ引きたい正道と、どうしても警察にはいきたくない様子のカジノ。

なんとかしてこの場の話し合いで終わらせたい、さっさと逃げたいカジノだったが、どうやら彼の運はここまでだったようだ。

 

 

 

「樹様……?」

 

 

ふいに正道の背後から女の声が聞こえた。

その声、というよりはその声から隠しきれないくらい滲み出ている黒いオーラのようなものが二人を振り向かせる。

声の主は黒地に紫色の桔梗の花の柄がある着物を着た少女。

そして彼女は笑顔を浮かべ、なぜかその手に薙刀を持っている。

 

 

「お答えください、樹様。なぜあなたはそこの下賤に銃を向けられているのでしょうか?」

 




一話で名前が出てこない形主人公。
実はもともとは『ピリオド』に出す予定だったミライダーだったカジノです。
ピリオドも何とかリメイクしたいなって思ってます。
当面はモチベーション上げ続ける。
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