初めて知りました。
「あ”あ”あ”あ”~~~」
午後7時。
戸津辺駅周りの繁華街を北東の方角へふらふらと歩きながら奇妙な声をあげるスーツ姿の女性が一人いた。
彼女の名前は
容姿端麗で文武両道、人望激熱のキャリアウーマンがどこにでもいる普通なわけがないが彼女自身は割と普通だと思っているのでまあよしとしよう。
しかしいくら彼女が有能だからと言って誰もが尊敬するわけではない。
一部の者、具体的に名を挙げるとするならば彼女の上司にあたる者は、若くして主任の地位を得た彼女の才能を妬み、生意気な小娘と捉え、嫌がらせをする。
「あんのブタガッパめぇ……」
凪自身は竹を割ったような性格で、仕事中の嫌味も「無能の遠吠え」と思うことで気にしないでいられる。
だからといって毎日毎日言われ続ければ流石に頭にくる。
ちなみに『ブタカッパ』とは肥満体系でカッパのような円形禿のような髪形である自身の上司に対して凪がつけたあだ名である。
このむしゃくしゃを酒で解消しようと酒屋で日本酒を買い、弟と妹に絡むために家路に着く。
実家兼現在は弟が両親の跡を継いで切り盛りしている喫茶店『Fortuna』の「closed」の表札を無視して、勢いよく戸を開ける。
「樹~!霞~!お姉ちゃんが帰ったぞ~~!!癒してく……」
「あ、お姉ちゃん。お帰りなさい。」
「う、うん。ただいま、霞。えっとさ……これ、どういう状況?」
戸を開けたときのテンションはどこへやら、困惑して末っ子であり、高校生でありながら喫茶店の手伝いをしてくれている妹の
凪が困惑した光景はカウンター席でにらみ合う一組の男女。
男の方は初めて見るが、和服を着た女の方は凪もよく知る、財部家とは家族ぐるみの付き合いのある少女だ。
そしてそのカウンターの向こう側、キッチンにはげんなりした顔で食器を磨いている青年、まさしく『Fortuna』のマスターであり凪の弟、財部家次男の
「うーんとね、あの男の人…帯刀さん?っていうらしいんだけどね、警察の人なんだって」
「ふむふむ?」
「それで夕方に怪人が出て、お兄ちゃんが変身して倒したんだけど」
「なるほどなるほど?」
「帯刀さんがお兄ちゃんに銃向けて『逮捕する!』って言ったらしくて」
「あっ…(察し)」
「そこにタイミング悪く雅ちゃんが来ちゃって今に至ります」
「うん…完全にわかったわ。ちなみにどれくらい経ってる?」
「3時間くらいは経ってるよ……お兄ちゃんたちが戻ってきたらすぐにらみ合い始めるからお客さん帰っちゃうし、私も勉強しに一回部屋に戻ったんだけど、様子見に戻ったらまだこれだもん」
「うわぁ…暇人なのかな?」
何はともあれこの空間にとどまり続けるのはよろしくない。主に胃に。
あの二人に気づかれないように二階の自室に行く階段の方へ行こうとするもそうは問屋が卸さない。
「あら、凪義姉さん。お帰りなさいませ」
「む、夜分遅くに申し訳ない。自分は警察庁対怪人特殊部隊『ブリゲード』の隊員を勤めています、帯刀正道です」
「あ、はい…それで警察の方がなんでうちに?」
「ええ、実はこちらのあなたの弟さんが件の怪人が所持している『リーヴコイン』という金貨と同じものを持っていましてね。その金貨は犯罪に直結するもの、そのため本部に連れていき話を聞かせてもらいたいのですが…」
「男のくせして猫被るような言動するのやめてもらっていいですか?無能のお巡りさん?」
正道からの説明を聞き霞が言っていたことと同じだなと凪が納得した直後、着物の少女――
ピシ、と空気にひびが入ったような音が聞こえた。
「今、何て言った?」
「あら、聞こえませんでしたか?怪人一体相手に手も足も出ず醜態をさらし続けるだけの特殊部隊(笑)所属のくせに、命の恩人相手に一丁前に拳銃構える無能だと言ったのですよ」
もうやめよう、雅ちゃん。警察の人、めちゃくちゃ青筋浮かべてるから。
財部家の三人はみな同じことを思ったが、言うことはなかった。
「好き勝手言ってくれやがって……だいたい、お前は何なんだ!?」
「私ですか?さっきから何度も言ってるではありませんか。私は樹様のお嫁さんです♡」
「いや、まだ結婚はしてないから。許嫁だからね?」
凪が帰ってから初めて樹が喋った。
とりあえず結婚しているのではなく婚約状態なのは間違えてほしくないんだろう。
「そういう貴方こそ何様です?樹様に命を救われた身でありながら上から目線で権力を振り回すとは。ああ、これだから権力者は嫌いなのです。話を聞きたい、聞いてもらいたいのならば相応の態度を見せるべきでは?」
グギギといった感じの擬音でも聞こえてきそうな苦悶の表情を浮かべ再び席に座りなおす正道。
「あら?もしかして席について静聴の姿勢を取るだけで聞けると思いましたか?」
「グググ……話を、させていただきたいのですが…!」
「はい、よろしいです♪樹様もよろしいですか?」
「ああ、うん。構わないよ。姉ちゃんも座って」
その様子を見て凪はぽつりと疑問を漏らす。
「……え、いや、私帰ってくる前に話し終わらすこと出来たじゃん?」
「姉ちゃん含めて話したほうがいいだろうって雅が言ったからだよ」
樹からの回答に、凪は半分ほど納得するも「私を巻き込むなよ」と心の底から思った。
凪とついでに霞が席に着き、まずは樹が紅茶を出しながら話を切り出した。
「さて、どこから話すべきか…」
「その前に一つ聞いていいか?」
「?なんです?」
「ここにいる人たちは君が仮面ライダーだということを知っていたのか?」
「はい」「ええ」「そうです」
正道の質問に凪、雅、霞が順に答え、正道は唖然とする。
少なくともこの家族プラスアルファは全員グルだということだ。
「じゃあ俺から帯刀さんに質問するけど、警察の方は『ドラクマ』についてどこまで知っているんですか?」
「そうだな……『リーヴコイン』を使用して変貌する、怪人化したら自分で元に戻ることはできず、変身してる間の記憶もない。このくらいだ」
「成程、警察はその程度しか掴んでいないんですね」
「雅、いったん煽るのはやめてくれ。話が脱線するから」
「樹様がそうおっしゃるのなら、静かにしています♪」
とりあえず小馬鹿にしていく雅に今にも正道が切れそうなので樹が窘める。
「でも雅の言うように、帯刀さんたちの認識は非常に弱いです。なぜ一般人がドラクマにさせられるのか、リーヴコインはどこから流通しているのか、黒幕はいったい誰なのか。俺たちはここまで情報を掴んでいます」
「なんだと……!?」
警察組織でも全然掴めなかったドラクマとリーヴコインの全貌。
そのほとんどを一見普通の家族が知っていることに正道は驚きを隠せなかった。
しかし樹の口ぶりは嘘をついているようではない。
「そいつはいったい誰なんだ!?誰がリーヴコインを作っている!?」
「その情報を知りたいなら俺と勝負してください、帯刀さん」
身を乗り出して詰め寄る正道に対して、樹はテーブルにトランプの束を置いて勝負を持ちかける。
しかしその言葉の意味を理解した正道は激高する。
「勝負だと?ふざけているのか!そんな下らないことをしている間にも罪のない市民がドラクマの被害に巻き込まれているかもしれないんだぞ!」
「ふざけてなんかないよ。賭けは俺にとってとても重要なことだ。帯刀さんが情報を貰いたいなら俺は賭けを
ものすごい剣幕で詰め寄る正道に動じることなく、樹はまっすぐと彼を見る。
絶対に譲れない、そんな強い意志を感じ取った正道の答えは一つしかない。
「ああ、そうか…そうかよ。それなら俺は受けない!クソみたいな賭け事をして手に入れた情報もクソだ!」
語気を荒げて席を立ち店から去る。
その後姿を見送った四人の中で最初に言葉を発したのは末っ子の霞だ。
「お兄ちゃんさ、あの人が賭け事嫌いなの分かっててやってるよね?それでよかったの?」
「もちろん分かってるよ。でも俺にとって初対面の人とのギャンブルは大事な意味があるからさ、信用が必要なら余計にやらなきゃいけないんだよ」
「でもいいの?あの人が上司の人とかに報告しちゃったらお兄ちゃん捕まっちゃうんじゃない?」
「ふふっ、大丈夫ですよ霞ちゃん。あの馬鹿な人の上司も馬鹿でない限り、樹様や私たちに手を出すことは不可能ですから」
「結局私待ってる必要なかったじゃん……」
お疲れキャリアウーマンの姉の呟きはあえて聞かないようにした三人だった。
翌日。
出勤した正道は自分が所属する分隊の隊長に昨日の出来事を報告した。
しかしそれを聞いた隊長の反応はあまり良いものではない。
「そうか~…桔梗家のお嬢さんが絡んでいるのか……まいったねこりゃ…」
「あの女に何か問題でもあるんですか?」
「君は知らないのかい?一度くらいは聞いたことあるんじゃないのか?」
「いえ、何も?」
肩書の割にフランクな口調のため部下からの信頼も厚い隊長は、正道の事を呆れたように見て説明する。
『桔梗家』とは戸津辺市で最も規模の大きいヤクザの家柄だ。
構成員は3桁を雄に越しており、そのほとんどが強面の男衆だ。
しかしヤクザというのもあくまで事情を知らない人たちから見た印象であり、その実態は真逆といってもいい。
真っ当な利子での金貸し、土木建築業、警備員などから始まり、農作業、介護職、タクシー運転手などのヘルプとして様々な職業のアシスタントとして活動している。
特に重要なのが夜の街でのパトロールであり、警察だけじゃ手の足りないエリアや大人数での犯行を警察と連携して防ぐなどして治安維持に貢献してきた。
なぜ見た目からして恐ろしそうな彼らがここまで真っ当な活動をしているかというと、それは桔梗家の代々の当主の人格によるものだ。
「弱気を助け、強気を挫く」一族の家訓は代々受け継がれてきて、その教えのもとに一度道を踏み外してしまったもの、非道なことをやらざるを得ない状況に追い込まれてしまったもの達を拾い上げ、真っ当な人間に構成し続けてきた。
歴代当主に救われた者たちはみな感謝し、敬い、その器に惚れ込んで当主についていき、その子供たちもまた桔梗一家を慕うようになる。
当主が変わっても先代の教えをしっかり受け継いでいるため、人望は落ちないどころか組員総出で支えようとする。
まさに『侠客』、正しい意味での極道であり、市民からの信頼も厚い。
隊長が困っているのは、このとおり警察本部が桔梗一家に多大な恩があるということ。
そして彼らは暴力行為に一切手を染めておらず「指定暴力団」として認定されていないのが大きい。
そのため『ブリゲード』の隊員1人の報告で、恩を仇で返すような真似はできない。
というよりそんな仁義に反することをしたら、当代当主・桔梗雅に殺されかねないだろう。
そして仮面ライダーカジノの正体である財部樹及びその家族に関しても厳しいところだ。
なぜなら当主の雅本人が婚約者だと明言しているからだ。
それは樹に手を出せば桔梗一家を敵に回すことに繋がる。
そのことを聞いても正道としては納得できない。
「なぜ家宅捜査をしないんですか!?それだけ大きな組織なら裏でリーヴコインを流通させてる首謀者が桔梗雅の可能性もあるんですよ!?」
「それはありえないね。先日のサイクロプス・ドラクマやユニコーン・ドラクマ含めて今までのドラクマに桔梗一家に所属しているものは見つからなかった。いわゆる半グレってやつらばっかりだったよ。それよりも今すべきなのは仮面ライダーと共闘戦線を張ることだな。桔梗のお嬢さんが承諾してくれるといいんだが…」
ぶつぶつ呟きながら他の部隊長との会議に向かう上司。
その様子を見て正道の中で怒りが再燃する。
やはり上層部の方では仮面ライダーを引き込む方向で決まっているらしい。
それでは自分たちの活動はいったい何だったのだろうか。
自分がここに居続ける意味は何なんだろうか。
「随分悩んでるな、帯刀」
「…霧島」
俯いていた正道に声をかけてきたのは警察学校時代からの同期である
感情がすぐ表に出る正道と他の者のいさかいを何度も収めてきてくれたストッパーのような人物で、交渉術に長けている。
誰からも好かれてそうな彼がなぜ自分と共に行動してくれるのかはつくづく謎だが、本人曰く「危なっかしくて見てられない」らしい。
「そんなに仮面ライダーの力を借りるのが嫌なのか?」
「当たり前だろう!奴の力はドラクマと一緒だぞ!?しかも『ゲーム』とかいって楽しんでやがる!そんな奴の力を借りるなんて納得できるか!」
「お前のギャンブル嫌いはよく知ってるよ。けど妹さんを少しでも早く助け出すには仮面ライダーの力を頼った方がいいと思うがね」
「それはっ…!」
「お前はドラクマとギャンブルが関わるとすぐ熱くなる。冷静に考えて、どっちが警察官の本懐かを考えることだな」
霧島は諭すように缶コーヒーを正道に渡し、自分ももう一つの缶コーヒーを飲む。
その時、警報が鳴り響く。
ドラグマ発生の合図だ。
「おっと、仕事か。それじゃあな。…きっと、仮面ライダーも来るぜ?」
「ああ、分かってるさ…」
正道はブリゲードの専用車両の格納庫の方へ、霧島はオペレータールームへと向かう。
平日でも多くの人が集まるショッピングモール。
そんな憩いの場で暴れているのは人間の女のような真っ赤な上半身とタコのような12本の触手で構成された下半身を持つスキュラ・ドラクマ。
下半身の触手を振り回し近くにあるテーブルや観葉植物などを手あたり次第投げ飛ばしている。
到着した正道の所属する部隊を含めた3小隊がスキュラ・ドラクマを囲むように陣形を組み、一般人に攻撃が及ばないようにする。
「発砲開始!」
隊長の合図に従って、何丁ものライフルから銃弾が発射される。
しかしスキュラ・ドラクマは触手を薙ぎ払うように振るって大半の銃弾を打ち落とす。
その防御を掻い潜り命中した弾丸もスキュラ・ドラクマに効いている感じではない。
タコのような軟体の身体がその衝撃を殺してしまっているのだ。
お返しといわんばかりに鞭のような触手がブリゲードの隊員たちを襲う。
空を切るような音とともに触手を叩きつけられた隊員たちはみな吹き飛ばされ、何人かがそのまま意識を失ってしまう。
なんとか回避した隊員たちは射撃を続けるが、結果は変わらない。
平然とした様子のスキュラ・ドラクマが残っている隊員向けてその触手を振るい、最初の一撃を食らった者たち同様に意識を刈り取られる。
「おらぁっ!」
最初に一撃を食らった正道だが根性で何とか意識を保っており、吹き飛ばされた位置からライフルで狙撃をするがそれがよくなかった。
正道に気づいたスキュラ・ドラクマは彼の方に視線を向ける
「まずい!?逃げろ帯刀!」
通信機から霧島が叫ぶ。
しかしさっきの射撃もうつぶせの状態で撃つのが精いっぱいで、立つことなんて今の正道にはできない。
その正道の真上から声が掛けられる。
「よっ、帯刀さん。生きてる?」
「財部…!」
その声の主は仮面ライダーカジノこと、財部樹。
変身前の姿だが右手でカジノブラスターを持っており、連射することでスキュラ・ドラクマを牽制している。
「何しに来やがった…!」
「何しにって…そんなんドラクマを倒すために決まってるでしょ」
何を言ってるんだというような表情で答えた樹はカジノドライバーを構える。
が、装着する前に何かを思い出したように正道に聞く。
「そういえば聞きたいことがあったんだけど、帯刀さんは何でそんなにギャンブルが嫌いなの?」
「それを答えて……お前に何になる…!」
吐き捨てるように聞き返す正道を見て、樹は真剣な顔で答える。
「俺はさ、賭け事を通して相手の事を知りたいんだ。人の感情が最も表に出るのはお互いに譲れないものを賭けている瞬間、勝利と敗北が一瞬で覆るようなギリギリの瀬戸際、その時に隠された相手の本質が一番見えるって俺は考えている。だから俺は相手を信用できるかどうかを確かめるためにギャンブルをしたいんだ。最も帯刀さんは隠さなすぎだと思うけどね」
最後に苦笑しながら揶揄うように言うと、樹はスキュラ・ドラクマの方へ向き直りベルトを装着、リーヴコインを取り出して裏面を押しベルトに挿入する。
『Casino Driver!』
『Earth Bacarrat!』
『What's your choise? What's your choise?』
「変身!」
『OK!That's sure!Raise Up!Earth Bacarrat!』
掛け声と同時にダイヤルを回転させるとベルトから立体映像が投影される。
空中から舞い散るトランプの映像と共に樹の身体を黒いアンダースーツが覆い、さらに金色のラインとトランプの四つのスートの紋章が刻まれる。
胸部を掛ける『Ⅸ』のラインが刻まれ、トランプの映像が花火の演出として爆ぜる。
仮面ライダーカジノ・アースバカラフォーム
大地の属性とカジノゲーム『バカラ』のルールを内包したカジノの基本形態だ。
再び手に持ったカジノブラスターの引き金を引き、スキュラ・ドラクマを攻撃する。
ブリゲードの攻撃よりかは効いているようだが、スキュラの柔軟性が幾分か衝撃を抑えているらしくカジノはあまり効いてないな感じる。
「それならこっちも使おうか」
そうつぶやくとカジノはダイヤルを半回転させる。
するとベルトのディスプレイから映像が投影され、カジノブラスターよりも大きいハンドガンを映し出す。
『Earth Magnum!』
カジノが左手で掴んだのは、アースバカラフォーム専用の中型ハンドガン・アースマグナム。
二丁拳銃になったカジノはその弾幕を一層厚くして、スキュラを大きく後退させ、モールの外へと出させる。
しかしそれでも決め手に届くほどの威力には至らない。
しかしその威力を引き上げる方法がカジノにはある。
「さあ、ゲームを始めようか」
『Set! Earth Bacarrat!』
ドライバー上部を右になぞり、自分の真上にバカラの盤上が映し出されたモニターを表示する。
『PLAYER』と『BANKER』、それぞれのサイドに二枚ずつトランプが配られる。
「さあ、お前はどっちに賭ける?……って聞いたところでどうせお前も理性はないんだろ?はあぁ~…それじゃあ俺は「『PLAYER』だ!!」…え?」
描ける方を宣言しようとする樹の声を誰かの声が遮った。
声が聞こえたのは、モールの出入り口。
その壁にもたれかかった正道が立っている。
「帯刀さん…」
「勘違いするな!おれはギャンブルなんてクソくらえって思ってるし、その考えは絶対に変わらねぇ!だから俺は
熱い思いを叫ぶ正道を見て、樹は仮面の下で再び苦笑する。
「いいね、帯刀さん。俺もあんたの覚悟に伸ったぜ!」
正道の選択に従い『PLAYER』を選択するカジノ。
映像のトランプが裏返され、『PLAYER』側は2と7、『BANKER』側は3が二枚表示される。
すなわち『PLAYER』の勝利であり、『PLAYER WIN!』の演出に合わせてカジノの身体から金色のエフェクトが発生する。
これこそがカジノドライバーに備え付けられたカジノの能力、『ダメージコイン』である。
カジノがリーヴコインに内包されたカジノゲームを仕掛けると、ゲームに勝った方に一定数のダメージコインが配られる。
そして今カジノから発生しているエフェクトの輝きの度合いがダメージコインの所持数によって変化しているのだ。
さらにダメージコインを賭けるということは、勝者が手に入れるダメージコインの出どころは敗者、この場合だとスキュラ・ドラクマからである。
ダメージコインが所有者に及ぼす効果は主に二つ。
一つは身体能力の増減。
「はぁっ!」
「ぎいぃぃ!?」
さっきまでは仰け反らせるまでだった銃撃がスキュラ・ドラクマの触手をはじけ飛ばすほどまで威力が増加している。
再生能力があるのか、はじけ飛んだ触手の根元から再び生やそうとするスキュラ・ドラクマだが、カジノは新たに生えた触手も逃さず早撃ちで狙う。
その時、万事休す化と思われたスキュラ・ドラクマが口から黒い球体状の何かを吐き出す。
カジノはそれを反射的に撃ち抜くが、その球体は破裂すると黒い霧となりカジノの視界を覆う。
スキュラ・ドラクマが吐いたのはタコの墨だったのだ。
「くそ~…見えないな……うおお!?」
スキュラの姿を見失い、射撃を一旦やめて警戒するカジノ。
しかし次の瞬間何かが彼の身体に巻き付き、持ち上げられる。
実はスキュラは人間の腕であった上半身を触手に変えるという奥の手を隠し持っている。
こっちの方が再生よりも体力を削らないため、今まで使わずにとっておいたのだった。
そして両腕の触手でカジノを捕らえ、絞め殺そうとする。
煙幕の中から上に持ち上げられたカジノを見て帯刀は狼狽えるが、実は樹は驚きこそしたが焦ってはいない。
「アビリティ解放!」
『That's sure! Earth Abilities!』
「ゲギャッ!?」
カジノの言葉を聞いたベルトのディスプレイが金色に光る。
するとスキュラ・ドラクマの左右から巨大な手が一本ずつ現れ、スキュラを押しつぶすように合掌する。
予想外の攻撃にスキュラ・ドラクマは触手にこめていた力を弱めてしまい、その隙にカジノに脱出される。
これがダメージコインを使った二つ目の効果、ダメージコインを消費することで、ライダーのリーヴコインに内包された属性の特殊能力を発動できるのだ。
『アースバカラ・リーヴコイン』は大地の属性、今スキュラを押しつぶした巨大な手も砂から型づくったものだ。
「これでとどめ、幕引きの時間だ」
『OK! All In!』
砂の手がスキュラ・ドラクマの動きを封じている間に、カジノはドライバーのダイヤルを一回転させる。
今度はカジノの足元から勢いよく大量の砂が噴水のように湧き出て、カジノを上空へと打ち上げる。
それに合わせて砂の手もボールで遊ぶかのようにスキュラ・ドラクマを空中へ放り投げる。
『Ending Time!Earth Golden Brake!』
「ハアァァァァ!!」
「ギエェェェっ!?」
上空からはカジノの右足が、真下からは巨大な砂の足がスキュラ・ドラクマを挟み潰し、爆散した。
爆炎の中からスキュラ・ドラクマの変身者らしき女性が落ちてくるが、砂の手が傷つけないようにクッションとなる。
変身者も無事なようで安堵の息を吐く正道に、変身を解除した樹が手を差し出す。
「…んだよ?」
「いや、握手だよ。一緒に戦うんだからさ、ほら」
その意図を説明されてようやく理解した正道は、さっきまでの険悪な態度からか少し気まずそうにしていたが、素直にその手を握り返した。
その二人の姿をモールの屋上から眺めている男が一人いた。
その男は二日前のサイクロプス・ドラクマを生み出した人物と同じカーキ色のパーカーを着ており、右手には変わった形状の銃のようなものをブラブラと持っている。
「いいねぇ。ピースは揃ったってわけか。あとは『アレ』が完成するまでだな」
男は愉快そうに笑い、その場を去っていった。
本作に登場する怪人、ドラクマの名前の由来は古代ギリシアやヘレニズム時代に用いられた通貨単位からです。
モチーフを神話上の怪物や幻獣にしようと決めて、そこからギリシア神話→ドラクマと繋がりました。
また、特殊部隊『ブリゲード』もここからきてます。
遊戯王の『トライブリゲード』というカード群からです。
元々『トライブリゲード』も『ドラグマ』ってカテゴリも知ってはいたんですけど、調べたらこの二つのカテゴリが対立してるという背景ストーリーがあったので、そこから来ました。