でもギリシャ神話に基づいて書くと家系図がこんがらがるわ、倫理観がバグり始めるのでやめました。
その名残がこの小説にもありますが、基本神話上の人の名前と主な力を模しただけなのでそれぞれの関係性が違くない?っていうのには目をつむってください。
主にゼウスとアポロンが悪い。
ショッピングモールでのカジノとスキュラ・ドラクマの戦いの翌日の夜。
とある豪華な西洋風の邸宅である家族が食事をしていた。
「それで、今回のドラクマはどうだったかな、ファントム?」
「だめですねー。8枚目を手に入れてから幅も出てきて並みの個体じゃ手も足も出ないですよ」
「ふむ、それは困ったね。リーヴコインはいくらでもある、とはいえ無限ではないからな」
長方形の食卓の最奥、上座の中央に座る白髪の老紳士が入り口側から二番目の席に座る男に話しかける。
ファントムと呼ばれたその男は、モールの屋上から昨日の戦闘を眺めていた時と同じカーキ色のパーカーを着ている。
「いい加減にしろ、ファントム。貴様、これで何度ドラグマを無駄にした?意味もなく愚図にコインを与え、カジノに力を与えるのも見飽きたな。もっと有意義な計画を練ったらどうだ?」
「兄上のおっしゃる通りですわ。貴方、最近自分が外様の身分だということを忘れているのではなくて?」
老紳士の二つ隣にそれぞれ向かい合う形で座った二人の男女がファントムを責め立てる。
男の方は端正な顔立ちをしておりシンプルな黒のスーツに青いネクタイを着けている。
その瞳の色はネクタイと同様に深い青色だ。
女の方は上品そうな薄い水色のロングドレスに緑色が混じった長髪、そして長髪と同じ緑色の瞳が特徴的だ。
席の位置からして自分よりも位が高い二人からの威圧を受けているファントムだが、そんなことは意に介さずステーキを頬張る。
「まあまあお兄様にお姉様!今は喧嘩をする時間じゃないと思いますよ!まずはご飯を食べましょ?」
「うむ、照美の言うとおりだ。私も彼を責め立てたいわけではない」
「お爺様がそうおっしゃるのなら…」
今どきの若者風の洋服を着た赤い瞳の快活そうな女性が二人の愚痴を止めて、老紳士が続けて二人を諫める。
緑の瞳の女は不服そうに口を噤み、青い瞳の男も「ふん」と鼻を鳴らして食事に戻る。
「そういえば伝治と愛美はまだ帰らんのか?」
「お二方は現在ギリシャの本部での仕事が残っている御様子。日本へいらっしゃるのはまだ先とのことです」
「なんだ、せっかく歓迎会の案を練っていたというのに」
老紳士の疑問に、後ろに立つオールバックと眼鏡が特徴的な壮年の執事が答える。
その内容に老紳士は不服そうにして落ち込む。
その会話に何かを思い出したかのように青い瞳の男が「そういえば」と口を開く。
「ファントム、貴様の部下が一人不在のようだが」
「そういえば、いないね」
同調するかのように男の横、赤い瞳の女性の向かいに座る小学生くらいの金髪の少年がしゃべる。
下座のファントムの横とその向かい、つまり入り口に最も近い席には白いフードを被った長身の人物と黒いフードを被った小柄な人物が座っている。
しかしその二人は目の前の食事には一切手をつけていない。
なぜなら白フードの人物は般若の面を、黒フードの人物はゴーストマスクを着けているからだ。
両者ともに外すことも言葉を発することもない。
そして青い瞳の男が指摘したのは、本来ならファントムの向かいに座っているはずの人物が不在だということだ。
「あいつは仕事中っすよ。こっちの準備が整うまではしばらく不参加です、残念ながらね」
言葉とは裏腹に対して残念そうでもなく笑って白米をかきこむ。
その様子を見て他の者たちは興味を失ったように各々の食事に戻る。
少ししてファントムが茶碗を机に置き、手を合わせる。
「ごちそうさん」と一言言ってから席を立った彼に向けて、老紳士が声をかける。
「ファントム、お前の予想だとあとどれくらいだ?」
「そうっすね~…向こうが次の力を出すのが1,2週間。対してこっちは1ヶ月がいいところですかね。レベル2の性能テスト自体はもうできてるけれど、実用化までの運用には辿り着けてないので」
「なんだ、思ったより進んでいるじゃないか」
ファントムの返答に満足したように老紳士は笑うが、逆に緑の瞳の女と青い瞳の男、そして執事の眼光は鋭くなる。
同時刻、『closed』の看板が外に向かってかけられた『Fortuna』の店内にて。
「モガアアアアアアアアア!?」
「ギャハハハハハハハハ!!!」
現在、正道の絶叫とそれを爆笑する声が響いていた。
なぜこのような状況になったのか。
事の発端は数時間前に遡る。
ブリゲードの一部隊であり、正道の所属する部隊の隊長、
樹はこれを快諾、自分だけでなく雅や姉妹たちも呼びたいといい、森川も了承する。
そして森川の当初の案ではどっかの居酒屋で宴会を開き、会計はブリゲードのほうが持つということだったのだが、仮面ライダーの正体は一応秘密にしといた方がいいという樹の頼みで宴会場所を『Fortuna』に変更した。(なお費用は自分たちが持つと森川は決して譲らなかった)
そして樹お手製の料理で盛り上がっている最中、事態は急変した。
樹のいつもの癖でたこ焼きのロシアンルーレットが開催されてしまったのだ。
あとは言わずもがな、正道が見事に引っかかった。
しかも質の悪いことに、素直にゲームだといえば正道がやらないことを見越してはずれがあることを黙って差し出したのだ。
正道が口にしてしまったのはワサビとタバスコが詰められたとんでもない辛さのもの。
その辛さに苦悶する様子を見て他の者たちは大爆笑しているのであった。
雅に至っては呼吸困難にまでなっている。
「ほら、帯刀さん。水飲みな」
「ゴクッ…ゴクッ……ゲホェ!おま、なんてもん食わせんだ!?」
「ロシアンたこ焼き」
「ふざけんな!せめて許可取ってからやれ!」
「だって聞いたら帯刀さんやらないって言うでしょ」
今にも掴みかかろうとせん勢いの正道を後ろから霧島と、正道の後輩である茶髪を刈り上げた青年、
しかしよく見るとその霧島たちの顔も爆笑を抑えるかのように、苦笑気味になっている。
とりあえず正道を霧島に任せて、樹は霞と一緒にカウンター席で突っ伏して呼吸困難となった雅を介抱しに行った。
「ほら雅、水飲んで」
「コヒュー…コヒュー…」
「雅ちゃん、深呼吸深呼吸」
ちなみに宴会に参加しているのは樹、雅、凪、霞、森川隊のメンバー10人(隊長の森川含めた実働部隊8人と霧島たちオペレーター2人)、雅のボディーガードの3人といった面子である。
その雅のボディーガードとは彼女が現当主になる以前、幼いころから彼女を支えてきた雅が最も信頼を置く部下たちだ。
恰幅のいいスキンヘッドの『マル』こと
言うまでもなく他の隊員たちと一緒に正道の惨状を見て笑い転げている最中である。
その一方で別のボックス席では
「もうさあ~~!!あんのハゲがさあぁ!!ネチネチネチネチ毎日嫌味しか言わなくてさぁ!!嫌味のパターン増やすくらいなら企画のアイデア考えろって!!」
「うんうん、そうですね~」
「後輩たちはいい子ばっかだから転職もしづらいんだよぉ!!」
完全にアルコールが入って泣き上戸になってしまった凪が森川相手に仕事の愚痴をえんえんと言い続けている。
「なるほどねー。それでさっきの話は断ったんだね」
「そうなんですぅ~、あのハゲがいなかったらこんな苦労してませ~ん!」
さっきの話、それは数時間前、宴会が始まる少し前のことだ。
仮面ライダーとドラグマの事について教えられることを話したい、という樹の呼びかけがあり、森川と正道、霧島、三井、安達の五人が『Fortuna』に他の隊員たちより早く来ていた。
樹は彼らを連れて店の裏口に案内する。
裏口から出た先は庭になっており、その一角には普通の住宅に置くようなものより少し横幅が大きい倉庫が一つあった。
その倉庫のカギを開けると中には骨董品がいくつも置かれていた。
「父さんと母さんの趣味だったんだ。俺は高校出てからすぐ店を継いだからもう6年目で、その後から二人は隠居生活で海外旅行しまくっててさ」
懐かしむような口調で壁にかけられた絵画をいじる樹。
するとカチッと何かが鳴る音がする、と同時に床の一部に穴が開く。
穴をのぞき込むとそれは螺旋階段となっていた。
樹に続いて一行が下に降りた先に見たのは、上の倉庫より明らかに広い空間に存在するラボだ。
ラボには数台のパソコンや計測器、モニターがあり、四方の壁には一台の巨大なモニター以外は様々なデータを記した資料で真っ白に埋め尽くされている。
その部屋で一番彼らの目を惹いたのが正面奥の壁の中心にかけられた円形の石板だ。
石板には円環状に10個穴が開いている。
そしてラボ内の一つのパソコンに向かい合って座っている人物が一人。
人の気配に気づきその人物は振り返った。
「姉ちゃん、連れてきたよ」
「やっ、帯刀さん。昨日ぶりですね。それとそちらの方は?」
「初めまして、ブリゲードの森川大吾と申します。帯刀の舞台のリーダーを勤めさせてもらってます。これはつまらないものですが」
「あ、これ駅前の大福じゃーん!ありがとうございます!」
「あ、ずるいです凪義姉さん!私も食べたいです!」
「ちょっと待って雅ちゃん動かないで!コード繋いだ状態だと危ないから!」
「大福は鮮度が重要なんですよ!?」
「すぐ外すから!待ってて!」
大福、という言葉に反応してパソコンの裏から雅が立ち上がる。
彼女の額や手には他の機材から伸びているコードが張り付けられており、急に立ち上がった彼女に凪は焦る。
雅につけられていたコードを外し終えたあとに霧島たち三人も自己紹介をする。
「見た感じで分かるんですが……ここで仮面ライダーの研究をしてるんですか」
「ええ、そうよ」
あっさりと言い切る凪に、霧島は分かってはいたがやはり驚く。
「そもそもどうやって仮面ライダーを作る経緯に至ったんっすか?ドラクマの関りとかも…」
「父さんの遺品なんですよ」
三井の質問に答えたのは樹だ。
彼は壁に貼り付けられた資料のいくつかを取り、全員で囲んでいるテーブルの上に置く。
それにはカジノドライバーの構造図と、カジノの全身を描き、その機能を詳細に記したものだ。
「3年前、父さんと母さんが死んだ。原因は飛行機事故。警察の人たちも覚えてるでしょ?結構派手に墜落したし」
「ああ、覚えてるさ。乗客もパイロットも誰一人助からなかった悲惨な事故だった。確か急な天候の変化で機体の制御ができず山間部に墜落したんだったね」
森川が反応を示し、樹が頷いて資料を手に取る。
「父さんたちの葬儀が終わった後、姉ちゃんのパソコンにデータが送られてきたんだ。俺が使っているリーヴコインの必要な調整のこと、カジノドライバーの設計図、そして俺と雅の身体データやバイタルを記したカルテ……これらがロックがかかった状態でね。そして俺の方にはこの地下施設を起動するためのと、データを閲覧するためのパスワード二種が送られた」
樹が語った過去に正道たちは息を吞み、樹や凪の苦々しい表情を見て察した。
彼らの両親はリーヴコインを利用した技術開発をしたことで、意図的に殺された可能性が高いということになる。
樹が正道に言った流通元や黒幕を知っているというのもほぼ間違いないのだろう。
そこで何か引っかかりを覚えたのか安達が尋ねる。
「ちょっと待ってください!樹さんだけじゃなくてなんで雅さんの身体情報まで送られてきたんですか!?」
「私と樹様が婚約を結んだのも3年前なんです。ずっと前に高校を卒業して私が独り身だったら婚約するという条件を交わしていましたので、その約束を果たさせていただいたのです」
「父さんたちが乗っていた飛行機には雅の親父さん、
桔梗家の先代当主もリーヴコインに関りがあった、その衝撃は森川達には予想すらしてなかったことだ。
が、同時にあの仁義に厚い先代当主が関わっているなら、この『仮面ライダー』というシステムは正しくドラクマに立ち向かうために作られた力だと信じられる。
しかしそれでも正道は納得できなかった。
「…んだよそれ……つまりお前らの親は自分の尻拭いを子供らに押し付けてるってことじゃねぇか!!」
「ちょっ、センパイ!?落ち着いてくださいよ!」
「落ち着いてられるか!こいつらの親がこんなもん残さなければこいつらは普通に生きていられたんだぞ!」
怒り狂う正道を三井が必死に止めようとするが、抑えきれない。
自身は第三者であっても、警察官として親のエゴで彼らが戦いに巻き込まれたことが正道にはどうしても許せないのだ。
しかも自分たちが死んだからしょうがなく送ったわけでもない。
彼らの親は元から樹たちを仮面ライダーにする前提で計画を進めていたのだろう。
人々を守るための大義名分に自分の子を差し出す親が、自分の親と重なってしまい正道は怒りを制御できなかった。
そんな正道に樹が語り掛ける。
「…確かに、帯刀さんの言う通り、仮面ライダーは父さんたちのエゴなのかもしれない。でも俺はそれでも、父さんと母さんの遺した願いに賭けてみたかった。仮面ライダーとして戦う道を選んだのは俺自身だ」
「……どうしてお前は、そこまでっ!」
「失くしたくないからだよ。大切な人も、街も、心も、この手で守る力があるなら迷いはないさ」
屈託なく笑う樹に、正道は押し黙った。
樹の覚悟が、自分の信念と重なった気がしたからだ。
市民の平和と笑顔を守るために警察官を志した正道にとって、この財部樹というギャンブラーと分かり合う気はさらさらなかったが、この瞬間根本にある願いは同じだということを知り、少しだけ、ほんの少しだけ彼を内心で認めた。
口を閉じた正道に代わって霧島が質問する。
「まだ聞いてないことがあるんだが、いいか?」
「なんです?」
「
「ああ、それですね。…実は正確に掴んでいるわけではないんですけど、一度だけ幹部らしい奴と戦ったことがあるんです。結局逃げられたんですけど……そいつは自分たちの事を『ドミネイター』と呼んでました」
「『ドミネイター』……支配者ってことか」
「自ら名乗ったってことは、そのドラクマは会話できるほどの理性があったのかい?」
「理性があるだけじゃないわ、適当な人間にリーヴコインを投入したり、眷属?戦闘員?そんな感じの弱いけど数で攻めてくるやつを自分の体から生み出していたわ」
森川からの疑問には凪が答え、さらにパソコンで動画を見せる。
そこにはカジノと戦う薄緑色の怪人が映っていた。
その上半身は先日のスキュラ・ドラクマのように人間の女性を思わせるものだが、その両肩からは無数の蛇が生えており、下半身に至っては蛇そのものである。
そのドラクマは動画内で確かに『ドミネイター』と名乗り、真っ白な体に羽を生やし槍を構えた怪人を量産してカジノへ仕向けていた。
「まるで天使みたいっすね……存在が天使とは真逆っすけど」
「でしょ?その緑の怪人もその眷属?を『アンゲロス』…ギリシャ語で天使って意味の名前で呼んでたわ」
緑色の幹部格に『ドミネイター』という組織、正道たちは小さくはあるがリーヴコインの発生源に近づいた。
他に何か手がかりになるかもしれないデータを凪が探そうとしたとき、ラボ内に警報が響く。
「樹!ドラクマが出たよ!駅の西側!」
「了解!姉ちゃんはここに残ってサポート頼む!」
「オッケー!任せといて!雅ちゃんの方もドライバーの調整終わったよ!」
「ほんとですか?ありがとうございます、凪義姉さん!」
先の会話でブリゲードの面々も薄々気づいてはいたが、やはり雅も仮面ライダーだったようでその手にドライバーを握り樹と共にラボから出る。
さらにその後を正道、三井、安達が追いかけ、森川と霧島は凪のサポートのためにラボに残る。
駅の西口近くの上空、そこに二体のドラクマが暴れている。
片方は人間の女の体に猛禽類のような爪に翼と化した腕、その顔は醜く獰猛に牙を見せつけている。
もう一方は二足歩行(恐らく)であること以外は人の要素を残していない、鷲のような風貌の怪物なのだが、よく見ると脚部は偶蹄類のようになっており頭部からは鹿のような角が生えている。
女のような怪人――ハーピー・ドラクマ――と鳥と鹿が混ざった怪人――ペリュトン・ドラクマ――は癇癪を起しているかのように電柱や屋根を蹴り壊して暴れている。
逃げ回る人々には目もくれない二体のドラクマだったが、偶々その目に人の波に押されて転んでしまった子供を見つける。
どうやら転んだ際に擦りむいたらしく、立ち上がることができずに泣いている。
ペリュトン・ドラクマはその子供目掛けて急降下して、襲い掛かる。
ペリュトン・ドラクマの嘴が子供を貫かんとしたその時、横から何かが飛来し衝突、ペリュトン・ドラクマを派手に吹っ飛ばす。
飛んできたのは樹が運転し雅がタンデムしている、カジノ同様に黒をベースに金のラインが描かれたバイクだ。
その名もカジノストライカー、ライダーシステムのアシストとして開発された専用バイクだ。
カジノストライカーから降りた樹と雅はヘルメットを外し、カジノドライバーを装着する。
「これまた随分と派手にやってくれたね」
「2体ですか……不謹慎かもしれませんが、私たちも二人なのでちょうどいいですね。女性型のは私が請け負いますよ」
「ん、頼むよ。帯刀さん!この子預かっててくれ!」
「おう!」
ケガをした子供の保護を正道に任せて、二人はリーヴコインを取り出す。
樹のは金色の『アースバカラ・リーヴコイン』とは違い緑色のもの、雅のは白いリーヴコインだ。
『Storm Roulette!』
『
『『What's your choise? What's your choise?』』
「「変身!」」
その掛け声とともに二人はリーヴコインをドライバーに挿入し、ダイヤルを回す。
『OK!That's sure!Raise Up!Storm Roulette!』
『承認完了!開幕!舞鶴花札!』
二人の身体をアンダースーツが覆い、2種の投影映像が流される。
樹の方は足元にルーレットの回転台が現れ、さらに彼の周囲をピンボールがくるくると回る。
ボールの軌道に合わせて緑色のラインが刻まれていき、関節部には赤と黒の2種のひし形のレリーフが左右非対称で刻まれる。
最後にピンボールの映像が実体化し、カジノの胸部に収まり変身が完了する。
カジノの第二のフォーム、『ストームルーレットフォーム』だ。
対して雅の方はアースバカラフォームのようにカードが彼女の頭上から舞い散っている。
しかしその絵はトランプではなく、花札だ。
白いアンダースーツに青いラインが刻まれていき、そのラインは胸部で一輪の桜の花に変わる。
複眼はラインと同様に青色で、背中には白い翼がとじられた状態である。
これが雅の変身した姿、仮面ライダー
「さあ、ゲームを始めようか」
「さて、推して参りましょう」
それぞれ決め台詞を言い、ドライバーから投影した武器を取り出す。
カジノはアースバカラフォームでも使用しているカジノブラスターと、刃の根元部分が空洞という変わった見た目のダガーナイフをそれぞれの手に握る。
一方の竜胆のは大型の弓のような武器だが、両方の先端部分から刃が伸びており、まるで薙刀のようにも見える。
竜胆は背中の純白の翼を展開、勢いよくハーピー・ドラクマの方へと向かう。
ハーピー・ドラクマは迎撃のために両翼から手裏剣のように羽根を飛ばす。
迫りくる羽根の弾幕を竜胆はその手に持つ弓と薙刀が一つになったような武器・
「はあっ!」
「ぐぎゃっ!?」
自分よりも飛行速度が上の竜胆にハーピー・ドラクマは動揺し、竜胆の一撃をもろに受けてしまう。
空中戦を得意とするハーピー・ドラクマが地上戦で上手く戦えるわけがなく、竜胆の連撃に追い詰められていく。
「あら、あなたはそこまで強くはないのですね。……このまま一方的に攻めるのも芸がないですし、調整の確認もしたいですからね…少し遊びましょうか」
『展開!舞鶴花札!』
竜胆のベルトのディスプレイから二人の頭上とその間に花札のゲーム画面が映される。、
例にもよって理性のないハーピーは自分に配られた札に困惑しているが、そんなことは露知らずといった感じの竜胆は淡々と札を手に取る。
花札の「こいこい」とは八枚ある自分の手札から札を一枚場に出し、出したものと同じ花あるいは月にあたる札があれば出したもの含めて二枚を自分のものとしてキープできる。
さらにキープ出来たら山札から一枚引き、同じ花・月の札があれば追加でとれる。
ただし一枚もない場合、その札を場に残さなければならない。
この流れを交互に繰り返し、キープした札で高得点の組み合わせとなる役を作っていくのだ。
そんなことなど知ったことかと言わんばかりにハーピーは突撃するが、竜胆は槍弓で軽くあしらいつつ、手札を場に出していき合札を作っていく。
ハーピーにはゲームに従う知能などもないため、システムがオートで役を作っていく。
手札を出し役を作るという繰り返しをしばらく行ったあと、竜胆は『終了』を選択し、それぞれの役が確定する。
竜胆の方は『桜に幕』、『芒に月』、『桐に鳳凰』の光札三枚で五点の『三光』。
一方ハーピーの方は0点である。
これはどちらかが「終了」を宣言した時、もう片方に役ができていようが0点と確定するためだ。
「ふふっ、多少味気ないですが私の勝利ですね」
竜胆側の画面に『勝利』の文字が浮かび上がり、竜胆の身体がダメージコインによる銀色のエフェクトで光り出す。
優雅に笑う竜胆にハーピーは一瞬警戒するが、再び飛翔し攻撃しにかかる。
両足の爪を前に向けて先程よりもスピードを上げて、竜胆の肩を捕まえる。
そのまま勢いを落とさずに近くの壁に叩きつける。
獰猛な笑みを浮かべるハーピーだが、直後動揺の表情を浮かべる。
叩きつけた壁には自分の足跡しかなく、周囲には白い翼が舞い散っているだけで竜胆の姿が見当たらない。
どこだと周囲を見渡し探すハーピーだったが、その真上から電子音声が聞こえてくる。
『承認!必殺上々!舞鶴 黄金撃!』
「はあああ!!」
「グゲッェェ!?」
見上げた先には白い翼を広げて右足を突き出している竜胆がいる。
その姿を一瞬見た直後、竜胆の必殺キックがハーピーの顔面に炸裂し、ハーピーの視界がブラックアウトした。
ハーピーの変身が解けたのを確認した雅は変身を解除し、別の場所で戦っているであろう恋人のいる方角を見つめるのだった。
風にかかわる能力を有するカジノ・ストームルーレットフォームは大気を操作して風圧で足場を作り、ペリュトン・ドラクマと空中戦を展開していた。
しかし素の機動力はペリュトン・ドラクマの方が上であり、カジノは翻弄されていた。
ハーピーのように飛び道具を持っているわけではなさそうであり、実際カジノの方は大したダメージを負っていない。
恐らく今はカジノのスタミナ切れを狙っているのだろう。
「なかなかすばしっこいな…こういう時は賭けるっきゃないね」
『Set! Storm Roulette!』
上空に投影されたのは赤と黒二つの色で構成された円盤の画面と、緑色の台の上にランダムに赤と黒の二色で書かれた1から36の数字や白色の0の数字が記されている画面だ。
ストームルーレット・リーヴコインはその名の通り、ルーレットのルールが内包されている。
客はディーラーに対してどこの数字に賭けるか、どっちの色に賭けるかなど自由に選ぶことができる。
そのため色で決めた場合は配当は少ないが、ピン挿しや4つのスポットなど賭ける場所が狭くなるほど配当が増えるのだ。
なお本来はカジノ側がディーラーなのだが、今回はペリュトン・ドラグマに理性がないためカジノが賭ける場所を指定することになる。
「そうだな……縁起を担いで様子見で赤に賭ける!」
カジノの宣言に合わせて円盤が回転、そこに回転方向の逆側からピンボールが打ち出される。
カジノの動向を伺っているペリュトン・ドラクマは攻撃を仕掛けない。
やがて回転盤が止まり、ポケットに落ちる。
入ったのは赤の23、つまりカジノの選択は当たりである。
ダメージコインのエフェクトで金色の光を纏うカジノにペリュトン・ドラクマは警戒心を高めるが、カジノは再び円盤を回転させる。
「今日の俺はいつもより強く出れる気がするな。強気にいくぜ、7・8・9の三目賭けだ!」
円盤が止まり、ピンボールがポケットに入る。
その先は赤の9,またもやカジノの勝利である。
しかも三目賭けはより配当が多く、その倍率は12倍、一回目の色賭けの6倍なのだ。
カジノから放出される光が一層強くなる。
その様子を見たペリュトン・ドラクマはさすがにまずいと思い攻撃を仕掛ける。
鋭い嘴でカジノを貫こうとするが、カジノは右手に持ったダガーナイフ・ストームダガーを一振りする。
そのたった一回の動作だけで突風が巻き起こり、ペリュトン・ドラクマは後方へ押し返されてしまう。
「そりゃあ!」
「ふぎゃっ!!」
さらにカジノは空中を蹴り、吹き飛ばされるペリュトン・ドラクマに接近する。
左手のカジノブラスターの連射で翼を狙い撃ち飛行能力を奪い、ストームダガーの間合いに入り込んだら胴体を素早く切り刻む。
哀れにも最大の武器である翼を失ったペリュトン・ドラクマは地上に落下し、路上に身体を打ち付ける。
そんな相手を上から眺めるカジノは、ベルトから取り出したリーヴコインをストームダガーの持ち手の下に装填する。
『OK! All In! Ending Time! Storm Golden Slash!』
「はあああ!!」
「ヒギャアァァァ!!」
カジノに背を向けて走って逃げようとするペリュトン・ドラクマだが、それをカジノが許すわけがない。
まずストームダガーを一振りすると、刀身から竜巻が発生して逃げるペリュトンの背中を巻き込み、宙へと浮かせる。
元は空を飛び回る怪人だったとはいえ、そのための翼を失った今はなされるがままだ。
その無防備な身体目掛けて、再びカジノがストームダガーを振るう。
ストームダガーから放たれた緑色の斬撃がペリュトン・ドラクマの胴体を真っ二つにし、爆発する。
ペリュトンの変身者の男が爆発跡から落下していくが、彼が地面に衝突するよりも先にカジノが下に行き受け止めた。
「おっとと…」
「樹様!大丈夫ですか!?」
「雅、全然大丈夫だよ。その様子だと雅の方も問題なさそうだな」
「ええ、久しぶりでしたが全然問題ないです。さすがは凪義姉さんですね」
「ははっ、次また無茶してベルト壊したら姉ちゃんも壊れそうだからな気をつけろよ?」
「うっ…その節は本当に…」
変身を解いた樹は小走りで駆けつけてきた雅にドライバーの使い心地を尋ねる。
以前ある使い方をしたことで彼女のドライバーに強力な負荷が掛かってしまい、しばらくの間使用できないでいたのだ。
カジノと竜胆のシステム開発をほぼ一人でこなしていた凪はその時ちょうど繁忙期であり、修理依頼をされたときの絶望した顔は今でも二人は忘れられない。
その顔を思い出した雅は申し訳なさそうに謝罪する。
その後、二体のドラクマの変身者の身柄を正道たちに預けて、樹と雅は『Fortuna』へと帰った。
その頃、ラボの壁にある一番大きなスクリーンで戦いの様子を見ていた凪は先程雅の体に貼り付けていたコードと繋がっているパソコンを操作していた。
「…うん、雅ちゃんのバイタルも、ドライバーの負担も安定してる。問題なく修復出来てよかった~!」
「なるほど、ドライバーを介して変身者のメディカルチェックも行っているわけですか」
「ええ、危険な状態に陥ったときにはこっちから通信を送って知らせたりするのよ」
「使用者とリンクさせているってことは同時にセキュリティの役目も兼ねているんですね」
「うん、認証データにない者は強制的に弾かれるようになってるの。すごい入念に準備してるよね、私たちの親って」
パソコンとスクリーンと紙の資料を交互に見ながら感嘆する霧島に凪は楽しそうに語る。
直接言いはしないが彼女はライダーシステムの調整をするのが結構楽しく感じている。
才色兼備ともてはやされてる一方で極めて普通の感性をしている彼女は死んだ両親からいきなり託されたときは面食らったが、今では自分の力が樹と雅のためになっていて、その力で多くの人が助けられてるのが嬉しいのだ。
だからといってベルトの二台目以降の開発とか修理は非常にキツイ作業なので勘弁してほしいのだが。
そんな凪の様子を見て森川はある提案を持ち掛けてきた。
「ふむ、財部凪さん、君の技術は専門でもない私から見ても実に素晴らしいよ」
「いえいえ、そんな。元々下地を作ったのは親だし、私はそれを形にしただけですよ」
「いや、こんな複雑なシステムを実装するだけで君の技術力の高さが分かるよ。そこでどうだ、『ブリゲード』の技術班に転職してみる気はないかな?」
「私が『ブリゲード』に、ですか?」
予期せぬスカウトに動揺する凪。
いくら仮面ライダーに関わっているとはいえ、それ以外では自分は平凡なキャリアウーマンだと思っていたから仕方ないだろう。
だがその話を聞いて霧島も森川に賛成する。
「俺もそうするのがいいと思います。ライダーシステムを一番理解しているのは凪さんで間違いないですけど、一人でできることには限りがあるし、作業をより効率化できますからね」
「先日の一件で樹君は我々と協力関係を結んでくれた。その礼というわけではないが、必要な人員がいるなら回そうと思うのだが…ああ、もちろん基本的な活動場所はここのままで構わないよ」
そっちの方が君もやりやすいだろうしね、と告げる森川だが、凪の顔は渋いままだ。
彼女の頭にあるのは今働いている会社の同僚や後輩たち。
ブリゲードに加入するのはもちろんシステムの管理者としては悪いことではないのだが、どうしても大切な仕事仲間をあの嫌味上司のもとに残しておくのは気が気でない。
そう思った凪はその誘いを一旦保留とするのだった。
という感じで第三話でした。
二号ライダーは雅/竜胆です。
豆知識ですが、リンドウの花言葉は「勝利」、「正義感」、「あなたの悲しみに寄り添う」などがあります。正義のヒーローっぽい感じですね。
雅本人を表しているのはどちらかといと苗字の「桔梗」の方です。
気になった方は調べてみてどうぞ。
感想、意見、このギャンブルの用語・ルールが分からないんだけどって人は乾燥に送ってください(乞食)
ちなみに私は未プレイのものに対してはほとんどがWikipediaとニンテンドーに載ってあるものとその他で調べてます。