仮面ライダーカジノ   作:楓/雪那

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日常回です。
そんでもってちょっとした過去回想回。


第四話:二人の始まり

「樹様、デートに行きましょう」

「急にどうした!?」

 

 

ある日の昼間の『Fortuna』、カウンターで食器の整理をしていた樹は唐突にデートのお誘いをしかけてきた雅に面食らった。

 

 

「むう、なぜそんなに驚くのです?私たち、恋仲でしょう?」

「ああ、そうだな。別におかしいことじゃないな。ただ最近はそういう要求がなかったから久しぶりな感覚がしたんだよ」

「むっ、それではまるで私が我慢のできないわがままな子みたいではないですか」

「実際そうなんだよなぁ」

 

 

常に夫の三歩後ろを歩き(なお変身時は除く)、どんなときでも夫を立てることを忘れない、まさに絵にかいたような大和撫子、それが桔梗雅という少女だ。

だからと言って最近こそその頻度は減ってきたが、少し前までは当たり前のように夜這いをしようと企んできた女子はおしとやかとは言えないだろう。

 

樹からしたら、雅が自分を立てすぎるのはやめてほしく、あくまで対等な立ち位置にいたいと思っているのでむしろ我儘を言ってくれるのは嬉しいのだが、それにしても我儘のギャップというか度合いは考えてほしい。

 

閑話休題(まあそれはそれとして)

 

最近は割と少なかった雅からのお願いにしては比較的優しいというか普通な内容だったから樹は少し驚いたのだ。

 

 

「だって最近の樹様、ずっと忙しかったじゃないですか。ドラクマの発生は増えたけど私は戦いに参加できなかったし、夏休み期間だったのもあって来店してくるお客様も多かったですし」

「確かにここ数日は忙しかったもんな。二か月前は雅も試験期間だったわけだし」

「そうでしょう?私たち二人とも中々一緒にいる機会がなくなってしまって樹様成分が足りないんですよ!」

「いや、毎日会ってるじゃん」

「二人きりという意味ですー!」

 

 

怒り方がだんだん幼くなっていく雅に少し呆れながらも、確かに二人の時間を最近取れてなかったなと思う樹。

普段の素っ気ない態度からはいまいち読み取りづらいが、彼もまた彼女に対しての好意は大きいのだ。

少し考えたあと、樹は結論を出す。

 

 

「そうだな。久しぶりだし行くか、デート」

「本当ですか!愛しております、樹様!」

「はいはい、俺も好きだよ」

 

 

嬉しさで抱き着いてくる雅の頭をポンポンと撫でる樹。

そのやり取りを見て、店内にいたお客たちは皆同じ事を思った。

今日のブラックコーヒーはとても甘いな、と。

 

 


 

 

翌週の日曜日。

樹は『Fortuna』を一日閉店とし、カジノストライカーである場所へ向かっていた。

その目的地は美しい檜の門を始めとした古き良き木造住宅、雅の住まいである桔梗家である。

門の前にカジノストライカーを停車させると、その音に気付いたのか敷居の中からサブが出てくる。

 

「おう、若旦那!いらっしゃいやせ!」

「若旦那はやめてくれよ、サブさん。まだ籍は入れてないんだからさ」

「でもいずれは入れるんでやしょ?」

「それは…まあそうだけどさ」

「それなら若旦那呼びでもいいじゃないですか!」

「いや、その肩書はまだ荷が重いっていうか……それより雅はまだ準備中?」

「もうそろそろじゃないですかね?お嬢ーー!!若旦那が迎えに来やしたよーー!!」

 

 

屋敷の方へ向けて大声で雅に知らせるサブ。

その数分後に今度はレイが姿を見せる。

 

 

「よっ、若旦那。いらっしゃい」

「レイさんまで、気恥ずかしいからやめてくれ……それで雅は?」

「いるわよ。ほらお嬢、何隠れてんの」

「うう…急かさないでください、レイ…私、だいぶ緊張してるんですぅ~…」

「「「何今更言ってるんだ((言ってるんです))、こいつ((お嬢))?」」」

「揃いもそろって酷くないですか!?」

 

 

観念して出てきた雅はいつもの和服姿ではなく、ワンピース、つまりは洋服を着ていた。

さっきの発言からして選んだのはレイなのだろうが、先週のテンションはどこへやら、着慣れていない服装のためにいつもの勢いがない。

一方の樹は普段の仕事服である白のポロシャツと黒いズボンとは異なり、ジャケットにジーンズという服装だ。

こちらもまた普段は仕事用のものしか着ないため珍しくはある。

 

 

「へえ、今日は洋服なんだな。よく似合ってるよ」

「っっ!あ、ありがとう、ございます…」

 

 

さらりと褒めてくる樹に赤面する雅。

加えてヒューヒューと揶揄ってくる外野の二人のせいですでにキャパオーバーが近いように見える。

流石にこのままでいさせるのも可哀そうかと思い、樹は予備のヘルメットを手渡す。

 

 

「それじゃ、行くか。いつも通り後ろ掴まってな」

「は、はい…」

 

 

いまだ赤いままの自分の顔を隠すかのように雅はヘルメットを被り、樹の後ろに座って彼の背に抱き着く。

それをしっかりと確認して、樹はカジノストライカーのエンジンを吹かす。

 

 


 

 

 

二人の今日のデート場所は海沿いの遊園地だ。

豊富なアトラクションとイベント、そして海に面している立地のために国内での人気度は常にトップ3に入っている。カップルにも子連れにも人気のスポットだ。

早い時間に出発して、かつ長期休暇期間はもう過ぎたが、それでも休日はやはり来客数は多くほとんどのアトラクションが30分以上は当たり前の待ち時間となっている。

 

 

「…休日の遊園地がいいって言ったのは雅だけどさ、ほんとによかったの?めっちゃ待つことになるよ?」

「むしろこういうのがいいんです。待っている時間も樹様と一緒なら楽しいのですから」

「そういうものなのか」

「そういうものなのです」

 

 

現在二人はフリーフォールの列に並んでいる。

雅は移動中にだいぶ今日の服装に慣れたようでいつもの様子に戻っている。

 

逆に樹はわざわざ今日、この遊園地を指定してきた雅に疑問を抱いていた。

自営業の樹と大学生である雅は、他の来場客と比べるとかなり時間に融通が利く立場だ。

そのため人が少ない平日ではなく敢えて休日に行く必要がないはずなのだ。

とはいえ、樹の方にも休日に行きたくない理由もなく、雅と並んで待つ時間が退屈ではないのでそれ以上言及はしなかった。

 

 

「そういえば出るときは聞かなかったけど、雅って洋服なんか持ってたんだ」

「ああ、これは私のではなくレイが用意したものです。私が個人的に持っているものではございませんよ」

「あっ、やっぱり?雅の洋服って学校指定の制服しか見たことないからそういうの持ってるとは思わなかったんだけど、レイさんが買ってきたのか」

「そうですねぇ、小さい頃から着物ばっかり着てたからだと思いますけど、どうしても洋服には慣れなくて……ちょっと待ってください。なんでレイが買ったって分かったんですか?」

「いや、だってレイの私物は着れないでしょ」

「んなっ…!私がちんちくりんだって言いたいのですか!?」

「自分で認めてるんじゃねーか」

 

 

そんな感じに他愛ない夫婦漫才を繰り広げながら、二人は自分たちの番が来るのを待っていた。

 

 


 

 

その後も二人は様々なアトラクションを楽しんだ。

 

 

「いやああああああ!!!樹様あああああああ!!!ゾンビですうううううううう!!!」

「ゾンビよりも恐ろしい怪人と戦ってるのになんでこんなビビってんだ!?」

「死霊の類はどうしようもならないではないですかああああああ!!!」

 

 

怖がらせ役のスタッフが追いかけてくる迷路型お化け屋敷で絶叫し、

 

 

「お、お客様!!お見事です!当園で5年ぶり9組目のフルスコアです!!」

「あら、満点とってしまいましたか」

「まあ普段から似たようなことしてるからなぁ~」

 

 

シューティングライドアトラクションでフルスコアを出して、

 

 

「まずい雅!!これやばい!!体がもっていかれる!!」

「見えちゃいけない景色が見えてしまう前に逆回転掛けましょう樹様!一刻も早く!!」

 

 

コーヒーカップを回しすぎて三半規管の限界を迎えかけたりしていた。

 

 

そんな感じで遊園地デートを満喫した二人はベンチに座っていったん休憩を取っていた。

時間的には昼食を取る時間なのだが、直前に乗ったコーヒーカップで二人とも碌に食事ができる状態ではない。

背もたれにぐてーっともたれている雅と、彼女の膝を枕として横たわっている樹を見れば、周囲から見ても明らかに酔っているのは分かるだろう。

 

 

「さすがに少しはしゃぎすぎたかもな……」

「そうですね~…ふふっ」

 

 

力なく呟いた樹に雅はクスリと笑う。

その微笑みを見て樹はなぜ笑ったのかを聞いた。

 

 

「だってこうやってはしゃぐの、久しぶりじゃないですか」

「まあね……ごめんな、最近時間作ってやれなくて」

「謝らないでください。樹様が多くの人のために日々精進しているのは、私が一番よく分かっています」

「ん……」

 

 

そう言われても樹の心には罪悪感があった。

元はと言えば二人の親が一方的に託してきた仮面ライダーとしての戦いの宿命、しかしそれを背負うのは自分だけでいいと樹は思っていた。

しかしその思いを知った雅は、初めて樹に対して怒りの感情をぶつけてきた。

 

 

『誰かのために立ち上がる樹様の優しさは美徳です。だからと言って一切合切を一人で抱えるのが正しいと思っているのですか!?』

 

 

全てを失いたくないために孤独で戦おうと決意した頃の樹が最初に失いかけたのは、他ならない最愛の彼女の心だった。

 

 

『ごめん、雅……俺、独りよがりだったな』

『そう思うのなら、ごめんよりも他に言うことがあるんじゃないですか?』

『そう…だよな。雅、俺と一緒に、戦ってくれるか?』

『迷うまでもありません。私の心は樹様と共にありますから』

 

 

傷ついてほしくないから戦う宿命を背負ってほしくないのは本心だ。

しかし、樹自身が気づかなかった、本心で覆い隠していた本当の願いは、

 

 

それでも一緒にいてほしい

共に戦ってほしい

 

 

泣きながら告げられた彼女の思いを聞いた樹は、自分の心の奥に抱えていた本当の願いを打ち明けた。

そして雅も『樹を支えたい』という自分の願いに従って、そして樹の願いを叶えるために戦うことを決めた。

 

仮面ライダーが二人に増えたことで、ドラクマの被害をより迅速に抑えられるようになったのは確かだが、しかし日に日にドラクマの出現率も増えていく。

そして当然私生活も送らなければならないため、二人は多忙を極めるようになっていったのだった。

表面上はなんてことないかのような振る舞いをしていても、短いスパンで連戦連勤となるとさすがに疲れも現れるというもので、特に昼夜逆転しかけていることには樹も雅も悩んでいた。

そして樹は雅の今回のデートの本当の目的にも気づいていた。

 

 

「ありがとうな、雅。今日のデート、息抜きさせるつもりで誘ってくれたんだろ?」

「…やっぱりわかってました?」

「当たり前だろ。これだけ一緒にいれば分かるよ。雅だって同じだろ?」

「ええ、もちろん。ああでもイチャイチャしたいというのも本音ですよ?」

「だろうな、知ってる……ありがとうな」

「え、それは公衆の面前でイチャついてもいいという返事ですか!?さすがに私でも恥ずかしいですよ~」

「そっちじゃないからな!?あの日、一緒に戦うって誓ってくれてってことだよ」

 

 

感謝の言葉を脳内ピンクな捉え方をした雅に樹がツッコミ訂正する。

「なんだそっちですか」とでも言いたげな顔で一瞬残念そうにするその変化を見逃さなかった樹は呆れてしまった。

 

 

「おまえ…今のにそんな顔するか?割と大事なこと言ったつもりだったんだけどな…」

「いえ、残念なのは確かですけど、今更ですねって思いまして」

「…どういうこと?」

 

 

今更、という言葉の意味を聞いてきた樹に、雅は少し考えてから話し出した。

 

 

「………樹様は、ここを、覚えてますか?」

「ああ、覚えてる。お前と初めて会った場所だろ」

「!…そうですか、覚えていてくれたのですね。うふふ」

 

 

答えの代わりに尋ねられた質問に即答した雅は驚いた顔をして嬉しそうに微笑む。

 

 

「なんだ?もしかして俺は忘れてると思ってたのか?」

「そうですね……失礼ながら、私しか覚えてないものかと思ってましたね」

「たった一度きりの出来事ならともかく、今までずっと続いてきたんだ。きっかけは忘れられないさ」

「それでも、大変嬉しいのですよ」

 

 

思い出すのは17年前、当時の樹は7歳で、雅は5歳だった。

両親とはぐれて迷子になってしまい泣いていた雅を助けたのが、その日初めて会った樹だった。

 

 

『どうしたの?なんで泣いてるの?どっか痛いの?』

『ぐすっ…お父さまと、お母さまが、ひっく…いなくなっちゃったの…』

『それなら俺がそばにいてやる。一緒に探してやる。だからもう泣くな!』

 

 

その言葉通り、樹は雅の手を握って一緒に彼女の両親を探した。

ただ実は樹自身もまた迷子、というかたまたま泣いてる雅を見かけて両親に何も言わず声をかけに行ってしまったため、両親がそれに気づかずはぐれてしまったのだ。

そして小さい子供二人だけでうろうろしているのを見かけた遊園地スタッフに保護され、園内放送で両家の親が呼び出されたというのが結末である。

ちなみに樹は雅の親から号泣されるほど感謝されたが、自分の親からは怒られた。

 

この一件で財部家と桔梗家は家がそれほど遠くないこともあって仲良くなり今に至るわけだ。

 

 

「生まれて初めて恋をしたあの時、樹様がかけてくれた言葉がずっと私の中に残っている……だから、一人で戦うと言われたのがとても悲しかった。私を危険な目に遭わせたくない、樹様の思いは分かっていました。けれど、それでも近くで支えたかったんです。だからあの日の誓いは、私の我儘なんです。ずっとそばにいたい、その我儘を通してくれて、むしろ私がありがとうって言いたいくらいですよ」

 

 

自分の膝上にある最愛の彼の頭を優しく撫で、微笑む雅。

樹へ告白した回数はとうの昔に数えきれないほどになっているが、こんなに言葉を紡いで告げる告白は少ない。(それでも一年に一回は最低でもあるかもしれない)

 

 

「我儘なのは俺も同じだよ。失うのが怖いから戦ってほしくない、けれどほんとは誰よりも近くにいてほしい。矛盾してるけど、これが俺の願いでそれを叶えてくれてる雅にはいつもありがとうって思ってる。だから今更どうとかじゃないよ」

 

 

真上に見える最愛の彼女の顔を見つめて、真剣に伝える樹。

プライベートのときはドライに見られがちな樹だが、自身の思いを伝えるときは本心でしか語らない。

(ブラフを張るときはあるが)

 

 

普段の忙しい生活の中では中々ない、穏やかな幸せな空気。

しかしそんな空気を読まずにぶち壊してくる無粋な奴がいないとは限らない。

 

唐突にどこからか破壊音が聞こえ、さらには悲鳴、そして走って入場ゲートの方へと向かう人々の波。

まるで何かから逃げているかのような様子にまさかと思った二人は立ち上がり、音がした方へと駆け出す。

 

向かった先、メリーゴーランドの近くで暴れていたのは犬のような顔をした怪人。

しかし犬らしさを感じるのは頭部だけで、それ以外はどっぷりと肥大化した胴体と二股の尾びれ、そしてその全体を覆う青い大きな鱗。

腹部分にある縦の筋と青い体色からクジラを思わせる見た目をしている。

その名はケトス・ドラクマ、ギリシャ神話に登場するクジラの怪物の名を関した怪人だ。

 

周囲の電柱やベンチを手の代わりである大きな二枚のひれで薙ぎ払い暴れるその様を見て、二人はいつも以上に腹立たしさを感じていた。

 

 

「ったく、久々のデートなのに戦わせやがって…とんだ迷惑だな」

「もう少し場の空気を読むことはできないのでしょうか……いえ、期待するだけ無駄でしょうね」

 

 

ぼやきつつも、仕方がないのでドライバーをセットしてリーヴコインを挿入しダイヤルを回す。

 

「「変身!」」

 

『OK! That's sure! Raise Up! Earth Bacarrat!』

『承認完了!開幕!舞鶴花札!』

 

 

樹はカジノ・アースバカラフォームに、雅は竜胆・舞鶴花札式に変身し武器を構える。

武器が実体化すると同時に真っ先にカジノがカジノブラスターで射撃する。

速射にケトス・ドラクマが怯んだ隙に光華槍弓を槍モードにして握った雅が一気に距離を詰め、薙ぎ払いを連続でお見舞いする。

 

いくら連日の戦闘で疲れているとはいえ、いや、むしろ疲れているからこそさっさと終わらせたい二人は先日のハーピー・ドラクマとペリュトン・ドラクマのコンビでは見せなかった息の合った連携を見せる。

竜胆の槍術の合間を埋めるカジノの精密射撃、二人の黄金パターンにはケトス・ドラクマも今までのドラクマと同様に反撃の隙を生み出せない。

武器が腕や足にしかないのならば。

 

ガバッとケトス・ドラクマの口が開く。

その大口は普通の人間や犬ではありえない、腰にまで届くほど異様に大きく開かれた口に警戒心をマックスにした竜胆はカジノに言われるよりも早く退避しようとするが時すでに遅し。

直後地の底から響くような爆音が放たれた。

 

 

「お”お”お”お”お”お”お”お”!!!」

「がっ……!?」

「うあぁぁ!?」

 

 

ケトス・ドラクマの特技は音波攻撃。

異常な大口から放出される爆音は自身が起きているのではないかと思うほどの振動を起こし、周りのアトラクションのボルトが外れてしまっていき、崩壊しかけている。

幸いにも樹と雅は仮面ライダーの強化スーツのおかげで初撃で鼓膜の破壊は免れたが、それでも耳を塞がないと耐えられないほどだ。

なお二人は知りえないことだが、逃げた来園者やスタッフたちもギリギリ鼓膜が破壊されない距離に避難していたため、苦しんではいるもののまだ死者は出ていない。

しかし鼓膜の破壊以上に危険な事態をカジノは予期していた。

 

 

(まずい……!ここのメリーゴーランドは園内でも海に近い位置……このレベルの振動が続けば最悪津波の被害が出るかもしれない…!)

 

 

脳を揺さぶられる痛みを耐えながら落としたカジノブラスターを拾い、ケトス・ドラクマに向けて発砲する。

しかしその弾丸は音の壁に阻まれて、速度を落として消滅してしまう。

 

あまりの威力にカジノは驚き、焦って他の案を考える。

 

 

(だめだ!カジノブラスターじゃ威力不足だ!アースマグナムなら……厳しいな、確証がもてない以上、うかつに攻撃するとこっちが死にかける…『あの方法』なら可能性はあるけど……両手を空けるのはリスキーだ。さっきの倍食らうし、照準もぶれて碌に撃てない……そうだ!)

 

 

ある手段を思いついたカジノは同じく両耳を抑えて耐えている竜胆の背を叩く。

ケトス・ドラクマの爆音のせいでお互いの声が聞こえず樹の伝えたいことがなんなのか一瞬考えるが、すぐに叩いた箇所でその意図を理解した。

そして竜胆はカジノの後ろに立ち、背中から白い翼を広げて、その翼でカジノの耳を塞いだ。

 

両手を自由に動かせるようになったカジノはドライバーからアースマグナムを投影し、さらにカジノブラスターと連結、大型のライフルへと変形させる。

ロングライフルとなったアースマグナムにリーヴコインを挿入し、構える。

竜胆に耳を覆ってもらっているため、カジノブラスターで撃った時よりも安定して照準を合わせられる。

 

 

『OK! All In! Ending Time! Earth Golden Smash!』

 

 

カジノが引き金を引き、ロングライフルから弾丸が射出される。

通常時のカジノブラスターやアースマグナムよりも早い弾速で音波の壁を突き破り、ケトス・ドラクマに炸裂する。

痛みに悶え、吠えるのをやめるケトス・ドラクマ。

それを見て竜胆はカジノの耳に当てていた翼と自分の耳に当てていた手を放す。

 

 

「ふう……さすがに今のは危ないところでしたね…」

「ああ、伝えたいことすぐ分かってくれてサンキューな」

「いえいえ、妻ですから」

 

 

軽口を叩きながらも、再び音波攻撃が来る前にカタをつけようと必殺技の準備に移ろうとするカジノと竜胆。

しかし追い詰められたケトスは隠し玉であるもう一つの攻撃を披露してきた。

なんと鼻から大量の水を放出してきたのだ。

 

 

「なっ……その攻撃は衛生的に汚くないですか!?」

「同感だな!変なところでクジラらしくしやがって!」

 

 

クジラと言えば頭の上に鼻があり、その呼吸は潮吹きとして知られているが、だからといって正面向いた犬の花から出された水を潮吹きだと言い張るのは無理があるだろう。

だが傍から見たら単なる汚い攻撃にしか見えなくても、カジノには弱点となる攻撃手段だ。

なぜなら今のカジノはアースバカラフォームは砂を操る能力を持ったフォーム。

そのため水を使った攻撃を受けると砂が固まってしまい、能力が弱体化してしまうのだ。

そして二人が高圧水流に手こずってる間に、ケトス・ドラクマは園から海へとダイブし逃走を図った。

 

 

「泳いで逃げるつもりか……でもここで見逃すわけにはいかないな」

 

 

飛沫をあげて逃走するケトス・ドラクマを見失わないようにしつつ、左腰のコインケースから青いリーヴコインを取り出す。

 

 

『Aqua Craps!』

『OK! That's sure! Aqua Craps!』

 

 

カジノの身体に刻まれていたラインと紋章が消え、変身直後の黒いアンダースーツ態に戻る。

そして新たにベルトのディスプレイから投影された、六面体のような奇妙な形状の泡が周囲に浮かぶ。

同時にアンダースーツを水色のラインが走り、両肩・両膝・胸の中央・背中の中央にそれぞれサイズの異なる球体が異なる数撃ちこまれていく。

胸部には巨大なものが一つ、背中には小さな球体が六つ、左肩には中くらいの球体が二つで右肩は同サイズのものが三つ、そして左膝と右膝は小サイズのものがそれぞれ四つと五つ埋め込まれた。

最後に胸部の球体を挟む形で『Ⅶ』のラインが上半身の前面を掛ける。

これがカジノ第3のフォーム、『アクアクラップスフォーム』だ。

 

さらにカジノはいつの間にか呼び寄せていた愛機・カジノストライカーに搭乗し、そのまま海へ突っ切った。

通常のバイクならば間違いなく水没しお釈迦になるが、カジノストライカーなら問題ない。

なぜならこのマシンは水陸両用の機体だからだ。

入水するより先に運転席にあるボタンを押すとホイールが機体に格納され、着水と同時にジェット噴射で推進しケトス・ドラクマを追いかける。

一方の竜胆は背中の翼を広げて上空から追跡する。

 

 

「雅!少し時間稼ぎを頼む!」

「かしこまりました!」

 

 

カジノは愛機をオート操縦に切り替え、竜胆へと声をかける。

カジノの作戦を読み取った彼女は光華槍弓を弓モードに変えて射撃を開始する。

ただし要求されたのは時間稼ぎなので、確実に撃破するように撃つのではなく、逃げ道を限定するように放つ。

 

その間にカジノはドライバー上部をなぞり、ゲームを開始する。

 

『Set! Aqua Craps!』

 

映し出されたモニターにはチップを置くテーブルと、二個のダイスがある。

 

クラップスとはダイスを使用したギャンブルであり、特殊なスキルは要されないが賭け方が複雑なゲームだ。

参加者の一人がダイスを投げる『シューター』となり、それ以外のプレイヤーはシューターが勝つか負けるかを考える。

そして特定の目によってシューターの勝敗が決まり、賭けた方法でその配当が決まるのだ。

 

モニターにはカジノのアイコンの上に『SHOOTER』の文字が出ており、彼が投げ手となったことを示していた。

 

「さて、一回目だしパスラインでいこうか」

「私も同じくです」

 

その宣言を受けて、カジノと竜胆のアイコンが『パスライン』のところに置かれる。

パスラインとはダイスを投げる前にできる賭け方で、合計が『7』か『11』になる目が出てシューターが勝つことに賭けることを意味する。

ちなみにこの逆の掛け方を『ドントパス』といい、合計が『2』か『3』となる目でシューターの負けに賭けることになる。

 

ダイスを投げる仕草に合わせてモニター上のダイスも投げられる。

出たのは『5』と『2』、合計数が7なので二人の勝利となる。

勝利報酬としてダメージコインのエフェクトが二人から放出され、次のゲームに移る

 

 

「もう一度パスラインだ。勝気にいこう」

「私もパスラインでお願いします」

 

 

再度宣言を受け、ダイスが投げられる

出た目は『4』と『6』、合計数は10である。

2,3,7,11,12以外の数は『ポイントナンバー』と言われ、テーブル上のそのポイントのマスに二人のアイコンが移り、シューターは二投目に移行する。

ここで一投目に確定したポイントナンバー、今回においては『10』が出たらシューターの勝ち、『7』が出たらシューターの負け、それ以外の目が出たらポイントナンバーか『7』が出るまで投げ続ける。

 

カジノは二投目を投げ、その出目が表示される。

合計の数は『10』、つまりは二人の勝利である。

 

よりエフェクトの輝きを増したカジノはこれで準備が整ったと言わんばかりにディスプレイから実体化させた長槍、アクアランスを掴み海面に突き刺す。

 

 

「アビリティ解放!」

 

『That'sure! Aqua Abilities!』

 

 

アビリティ発動の宣言を認証し、ディスプレイが青色に発光する。

すると海中に半分ほど浸かっているアクアランスを中心に渦潮が発生する。

海中を泳いでいたケトス・ドラクマはその渦の中に吸い寄せられ、渦の中に閉じ込められる。

 

 

「そおらぁ!!」

「ゴアアアァァ!?」

 

 

そのまままるで釣竿を引き上げるようにアクアランスを海面から渦ごと引き上げる。

当然渦の中から逃げられないケトス・ドラクマも渦と一緒に空中へと放り出される。

 

 

「決めるよ、雅。幕引きの時間だ」

「ええ、樹様に合わせます」

 

『OK! All In! Ending Time! Aqua Stab!』

『承認!必殺上々!舞鶴 黄金射(おうごんせき)

 

 

カジノはアクアランスにリーヴコインを投入し、青いオーラを纏ったランスを上空のケトスへと投擲。

竜胆は光華槍弓にリーヴコインを投入し、白く輝く矢をケトスへと放つ。

左右から繰り出された攻撃に同時に身体を貫かれ、ケトスは爆散、意識を失って落ちてきた変身者の男性をカジノが真下でキャッチし、カジノストライカーに乗せて遊園地に戻る。

 

 

「お前ら!先に来てたのか!」

「よっ、帯刀さん。先に到着したって言うか、プライベートで来てたんだけどね。あとこいつ、ドラクマにされてた人」

「一般人への被害はどうなってますか?」

「そこまで状態が酷い客はいなかったぜ。耳鳴りとか頭痛を訴えてる客は結構いるがな。ただ遊園地のアトラクションの被害のが大きいってスタッフが言ってたな。当分は閉めることになるってよ」

「……そう、ですか。…怪我人がいないのは、安心しました」

「雅……」

 

 

変身を解除した雅は無理やり笑顔を浮かべている。

時間としてはまだ全然楽しめる余裕があっても、楽しむためのアトラクションがないのではどうしようもない。

久しぶりのデートが潰されてしまって悲しいわけがないだろう。

それを察した樹は雅の手を取る。

 

 

「樹様…?」

「土産屋くらいは開いてるだろ。姉ちゃんや霞に買ってやりたいから、選ぶの手伝ってくれよ。それ終わったらお前の行きたい店に買い物行ったり、どっかで夕飯食べるなりして過ごそうぜ?」

「…!はい!ぜひとも!」

 

 

樹の誘いに雅は満面の笑みを浮かべて、彼の手を引き土産屋の方へ向かった。




分からない人用のクラップスの簡単なルール説明

基本的にこのゲームにはディーラー、つまりカジノの運営側の人間がいません。
参加者全員が一丸となって運営の金庫から金をむしり取るゲームだと思ってください。

シューター:投げ手のこと。各ゲームごとに参加者の中からランダムで選ばれる。

進行の流れ
①,シューターがランダムで決まる。
②,シューターが二個のダイスを投げる。この直前にパスライン、またはドントパスのどちらかに賭けることができる。
 パスラインとドントパスについては本編で解説した通り。
③,シューターが投げたダイスの合計の目が7か11の場合『ナチュラル』と言われ、そのゲームはシューターの勝ちとして終了。シューターとパスラインに賭けたものが配当を得る。
 逆に2,3,12が出た場合は『クラップス』と言われシューターの負けとなる。(12だけはなぜか引き分け)
④、上記の5種類の出目以外が出たら、その数字を『ポイントナンバー』とし、パスラインに賭けていた参加者はポイントナンバーに賭けを移される。
これ以降はシューターが勝つにはポイントナンバーと同じ出目を出さなければならない。そして7の出目を出してしまうと負けになり、ドントパスに賭けていた参加者が配当を得る。

これが1セットの大まかな流れです。
また一投目以降、ゲームが続行しているときに新たに参加した人ができる賭け方に『カム』と『ドントカム』がある。
カムを選んだ場合、賭けた直後の出目が7か11だった場合、その時点で勝利となり、違う出目でかつゲームが続行した場合、その出目が彼だけのポイントナンバーとなる。


Aさんが二投目の際に参加、カムに賭けたとする。(この時ポイントナンバーは5とする)
二投目の出目は10だとすると、3投目以降にゲームが終了するパターンは以下の③つがある

パターン1:5が出た場合→最初にパスラインに賭けたものが配当を得る。
パターン2:7が出た場合→シューターの負け
パターン3:10が出た場合→パターン1とは出目が違うがプレイヤーとシューターの勝ちということになりゲームが終了、カムに賭けた者だけが配当を得る。

クラップスの何が面倒かというと配当と賭け方です。ぱっと見だと賭け方はルーレットと似ているのですが、出目ごとに出る確率が変動する、つまり一律ではないのです。このほかにも多くの賭け方があり、中には同じ出目に賭けても名前が違うだけで配当が変化するといったのも存在します。

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