実に1年以上更新途絶えてて申し訳ないです。
環境が半年ごとに変わって鬱に片足突っ込んでいたような状態で執筆意欲が無かったのですが、アイデアだけはちょくちょく書き溜めていたのでスローペースですが少しずつ執筆再開していきます。
「バイタルは多少激しめ……変異した直後なら当然だが、肉体の再生速度が変異に追いついている……限りなく『旧式』に近づいているな」
ファントムの地下研究所、カジノに倒された直後に変異して復活を遂げたオルトロス・ドラクマこと帯刀正吾は、現在鎮静剤を投与されて人一人がちょうど収まるケースに入れられていた。
ケースの中は溶液で満たされており、正吾の全身にはコードが接着されている。
そこから得たデータを見て焔は怪しげに微笑む。
彼が新たに作ったリーヴコインは従来のものと大きく異なっていた。
従来のリーヴコイン、焔が『旧式』と呼ぶものは伝説や物語に登場する幻獣や怪物をモチーフにしたドラクマへと使用者を変異させるが、彼の『新型』は現在にも生存している動物や無機物を元にして作られている。
その性能は旧式よりも出力を高めに設定されている反面、仮面ライダーの攻撃で限界を迎えた場合使用者の肉体の許容量を超えて消滅するというリスクを抱えている。
なぜ彼がそんな危険なものを作ったのか。
それは自分以外のものを使い捨ての駒と見ているからではない。
『新型』には『旧式』につけられていたリミッターを解除している。
このリミッターがないから消滅の危険性があるのだが、逆にリミッターがないことでドラクマに成長の余地が生まれた。
今回のオルトロス・ドラクマがその成功例であり、焔の目的とは危険な『新型』を土台としたより強力なドラクマ、それこそドミネイター幹部のテュポーンやポセイドンと並ぶほどのドラクマを生み出すことである。
このプランは焔がドミネイター側についた時から立てていたものであったが、リーヴコインの製作が思いのほか難航したためつい先日ようやく完成したのだった。
「楽しそうですね、焔さん!」
「……何の用だ、照美さん」
ガラス越しのケースを眺めながらタブレットでデータを眺めていた焔の後ろから声をかけてきたのはドミネイター幹部の一人である、照美という名の女性だ。
他の幹部は焔の行動に警戒こそしているが直接接触してこないが、照美だけは例外であり結構な頻度で焔の実験室に訪問してくる。
特に何かを探りに来るわけではなく、ただの興味本位らしい態度であり、それ故に焔は彼女のことを他の幹部以上に警戒している。
「用、ですか……強いて言うなら焔さんの様子を見に、ですかね!」
「それが分からないんですがね…」
「まあまあ、いいじゃないですか!それよりそのケースの人が『新型』なんですか?」
「ええ、まさかこんなに早く成功モデルが手に入るとは思いませんでしたがね。とはいえ、戦闘能力を実践で計るため外に出さなきゃいけないから、他にもサンプルは欲しいんですがね…」
「ふーん……それなら私に貸してくれませんか?」
唐突に新型を貸してくれと要求してきた照美に焔は驚く。
そんな焔に自分の案を照美は伝える。
焔は少し思案するも、どっちみちどこかしらで使うのだからとその提案を了承する。
「ありがとうございます!大事に使わせていただきますね!」
「別にそこまで大事にしなくていいですよ。どうせ後で処分するんで、できる限り多く情報を取らせてくれればそれでいいです」
焔に感謝を伝えた照美は部下の黒服に正吾の移送を任せて笑顔で実験室を去る。
その姿を見送る焔のスマートフォンにメッセージが届く。
その内容を見ると、再び口角が無意識に上がった。
「『例のドライバーの製作、順調。実装化まであとわずか』ね……ピースは揃いつつあるな。存分に利用させてもらうぜ、仮面ライダー」
そのころ『Fortuna』の地下ラボ。
その場には樹、雅、正道、凪、霧島、三井、安達の7人がいたが、皆一様に難しい表情をしていた。
ファントムが告げた『新しいドラクマを倒すと変身者は死ぬ』という事実にどう対処していいのか悩んでいるのだ。
「隊長から連絡が来たっす。やっぱり上層部は生かしたまま逮捕を要求しているようッス」
「まあ、警察の方々の立場上そうなりますよね…」
三井が森川からの連絡を全員に伝え、雅がため息まじりに呟く。
ドラクマが周囲に被害を出していると言えど、そのほとんどがドミネイターによって無理やり変異させられた者、つまり彼らもまた被害者なのだ。
そのため死ぬことを分かったうえで倒すという選択肢は警察の面目としては受け入れがたいのだろう。
「今開発中のベルトとかアイテムに死なせない機能とか搭載することは…」
「出来たら苦労しないわ…今の段階まで持っていくのに結構時間かかったのに、そこからまだ4体しか出現してない敵のわずかな情報をもとに対策システムを組み込むなんて無茶よ。作るにしてもモデルケースは必要よ」
安達の質問に凪が疲れた顔で答え、霧島も首を縦に振って同意する。
ただでさえ難航していたパワーアップアイテムやベルトに後付けでピンポイントな対策をつけるなど中々に無茶な要求だ。
しかもその対策相手がデータ不足の新型の敵である。
なぜ今回のドラクマの変異者が消滅したのか、どのようにすればそれを防げるのか。
何もかも情報が不足しているのに、死なせないようにしろなど無理難題も甚だしい。
「つまり、もう何体かあの新種のドラクマを倒すしかないってことだよね…?」
「……そうなるわね」
樹の質問に凪は苦悶の表情を浮かべながら答える。
開発者としてのプライド故に、今の自分の技術では問題を解決できないのが悔しいのだろう。
ラボに重苦しい空気が漂う中、再び三井の形態に電話がかかってくる。
「すいません、隊長からッス………はい、三井っす…はい……はい…分かりましたっす」
「何の用事だった?」
「えっと、それが護衛の依頼らしいッス」
「「「護衛?」」」
通話を終えた三井に霧島が連絡の内容を聞く。
その内容とは人気アイドルグループの護衛依頼だった。
依頼主は最近凄まじい勢いで芸能界で頭角を現している三人組のアイドルユニット『
突如としてアイドル界に舞い降りた天使こと、圧倒的な歌唱力を誇る不動のセンター・ソレイユ。
海外の大会にも通用するダンスの技術を有するユニットの切り込み隊長にしてクールビューティ・ルーナ。
かつてはソロのミュージシャンとして活動していたが、ユニット加入以降は大黒柱へと変化した最年長・ステラ。
彼女たちは現在全国ツアー中でありここ、戸津辺市でも一週間後ライブを行うのだが、ここ最近のドラクマの出現の増加に不安を感じたマネージャーがブリゲードに会場の警備を頼んできたのだ。
本来なら危険と思うならば別の街でライブを行った方がいいのだが、メンバー三人とも戸津辺市出身のためどうしても生まれ育った街でライブを行いたいという意思を示したため事務所側もこのような行動を取ったのだという。
「『Cosmo』は三日後に戸津辺文化会館に到着、3日間の準備を終えた後にライブを行うッス。その間自分たちの隊が護衛を担当するとのことっす」
「4日間の護衛任務ね…分かった。それじゃ今日はここいらで解散して、俺たちは本部に戻るか」
「分かりました」「了解ッス」
「帯刀もそれでいいよな?」
「……ああ」
今まで一度も言葉を発さなかった正道も返事をして、四人はラボから去っていった。
残された三人は自分たちがどうするべきか悩んだまま、それぞれ別々に行動する。
一週間後、Cosmoの警備を任されていた森川隊の面々は二人一組で別々の場所に待機していた。
本来はオペレーションルームで活動する霧島たちオペレーターも今回は現場に駆り出されている。
というのも普通はもう一部隊警備に回したい状況でありながら、襲撃予告などドラクマが絶対に現れるという証拠がないため森川隊しか出せなかったのだ。
一応ブリゲード所属ではない一般警官も警備に回っているが、本当にドラクマが来た場合彼らでは太刀打ちできないだろう。
正道と霧島は舞台裏の警護を担当しており、安達と三井は控室周辺を警備している。
「なあ、帯刀…お前、親父さんのことどうするんだ?」
「どうするってどういう意味だ」
「言われなくても分かんだろ……倒されてもいいのか?」
霧島の予想では仮に襲撃してくるなら一番可能性が高いのが帯刀正吾だろう。
あの後樹から連絡が入り、ライブ当日は自分たちは客席の方から見ていると伝えてきた。
つまり彼らも本番当日が一番危険だと思っているのだろう。
そしてもしカジノと竜胆が正吾を倒さなくてはならない状況になった時、正道はそれを認められるのかと霧島は聞いているのだった。
正道は少し沈黙して、口を開いた。
「俺は警察官で、ドラクマの犯罪を防ぐためにブリゲードに入隊した。……だから市民に被害が増える前にドラクマは倒すべきだと思う。それが自分の親父ならなおさらな」
「……そうか」
隣に立つ霧島の顔は見ずに答えた正道にそれ以上何も言えなくなったか、霧島も一言だけ返して沈黙する。
一方、観客の指定座席に着いた樹・雅はすでにへとへとな状態だった。
「嘘だろ……長期休暇の遊園地と比にならないくらい混んでんだけど…」
「死ぬかと思いました……生まれてこの方人酔いなどしたことないのですが…
「あんたたち……ライブを舐めてたわね?」
その隣に座る凪・霞・焔の三人は呆れた顔で二人を見る。
この二人、なんと「当日にチケット取ればよくない?」などとほざき凪と霞にめちゃくちゃ怒られたくらいにはアイドルのライブの規模というものを理解しておらず、行列の波で満身創痍になっていたのだ。
元から兄と姉と義姉を誘ってライブに行くつもりだった霞がチケットを買っていなければ間違いなくこの二人も舞台裏行きだっただろう。
ちなみに焔もちゃっかりチケットを一枚抑えられていたらしい。
「飲み物も会場で売ってるだろって言ってたけど、お前らは野球観戦かなんかだと思ってたのかよ…」
「樹兄と雅ちゃんにとって人生初のライブだけどさ、あまりに準備が足りてなかったね」
「「おっしゃる通りでございます…」」
しかし体力は切れながらも、二人は周囲への警戒を怠っていない。
今のところは不審な人物は見えないが、自分たちより後に入場するかもしれないし変装している可能性もある。
だが観客が全員入るまでの間に問題が発生することはなかった。
凪の携帯にも入場前に警備に引っかかった者はいなかったというメッセージが届いた。
「このまま杞憂だといいんけどね」
「そうですね…」
「ま、とりあえず今はライブを楽しんだら?せっかくなんだしさ」
中々警戒を解けない樹と雅に凪はライブに集中するよう提案する。
彼女の提案も尤もなので二人はいったん頭の隅にドラクマのことを置き、舞台に上がってきた『Cosmo』に目を向けた。
「「「こんにちは!今日は私たち『Cosmo』のライブに来てくださってありがとうございます!」」」
『Cosmo』のパフォーマンスは芸能関係に疎い樹と雅から見ても圧巻の実力だった。
ダンスのギフテッドことネイビーブルーのロングヘア―に金色の瞳の少女・ルーナが先陣を切って踊り始めれば観客の視線は彼女に集められ、そうかと思えば他の二人のステップも引き上げる、まさしく切り込み隊長という名が相応しい行動だ。
最年長のウェーブがかかった黒髪に星を模したアクセサリを散りばめた女性・ステラはなんとショルダーキーボードを演奏しながらダンスと歌を同時に披露する。
なんでもその日によって使用する楽器を変えたりするなど事前情報一切なしのファンサービスを行うのだとか。
だがルーナとステラよりも目を惹かれるのはセンターの銀髪のショートヘアに燃えるような赤い瞳の少女・ソレイユだ。
彼女の歌声は会場の空気を一気に変えるような、ある種の破壊力を感じさせる。
一度歌い始めるとまるで別の世界に連れていかれたような感覚を全員に抱かせる。
まさしく超新星、神童だ。
樹たちが呆気に取られている間にライブは終わりを告げた。
実際の時間にして2時間ほどであったが、観客の体感時間では10分ほどの出来事だ。
ステージから去った『Cosmo』の三人を正道と霧島が控室まで誘導する。
今のところは何も起こっていない。
このまま何事もなければいいのだが、と思う正道に後ろからリーダーのソレイユが話しかけてくる。
「今日は警備をしていただきありがとうございました!」
「いえ、例には及ばないですよ。ドラクマから市民を守るのが我々の仕事ですから」
「警察の方々がいてくれたおかげで私たちも安心して最高のライブを届けられました!お二人も私たちのライブ、楽しんでくれましたか?」
「はは、楽しめたらよかったんですがどうしても任務中は厳しいですよ」
「……実際のところは」
「……がっつり聞いてしまいましたね」
「はは、めちゃくちゃ怒られそうですけど、どうせ上司たちも聞き入ってたはずだから多分相殺できますよ」
「ふふふ、楽しんでいただけたならよかったです!」
「それなら今度は俺と楽しいことしようぜ?」
「「「!?」」」
彼らの会話に割り込んできたのはボロボロの服を着た浮浪者みたいな男。
まさしく正道の父である正吾だ。
彼は下卑た笑みを浮かべながら近づいてくる。
「三人とも下がって!」
「親父!それ以上近づくな!」
正道と霧島は『Cosmo』の三人を後ろに下がらせ、銃を向ける。
だが正吾は一切怯える様子はない。
「おいおい正道。父親に銃を向けるなんてやっていいと思ってるのか?」
「俺たち家族を捨てて、ついこの前まで忘れてたやつが今更父親面するんじゃねぇよ!」
「悲しいこと言うじゃねぇか…躾をしてやらなきゃなぁ!」
『Orthros!』
リーヴコインを自身に投入した正吾は双頭の人狼の怪物、オルトロス・ドラクマへと変異し彼らに襲い掛かる。
正道と霧島は拳銃で応戦するが、しっかり命中してもオルトロス・ドラクマは怯むことなく突き進む。
霧島を裏拳で吹き飛ばし、正道を爪で薙ぎ払う。
「があぁっ!」
「ぐうっ…!」
壁や床に撃ちつけられた二人は苦痛の声を上げる。
そんな二人に目もくれず、オルトロス・ドラクマは舌なめずりをしながら、恐怖に怯える『Cosmo』の三人ににじり寄る。
だがその足を何かが掴む。
オルトロス・ドラクマが下を向くと、彼の足を掴む正道が目に映る。
息子の行動に苛立ちを感じたオルトロス・ドラクマはひたすらに正道のことを踏み潰す。
「クソ息子が!邪魔すんじゃねぇ!」
「ぐっ…誰がお前の好きなようにさせるかよ…!」
「だったら死ねよ!」
今の正吾には『Cosmo』も霧島も目に入らない。
自分をイラつかせる足元の息子を殺すことしか頭にない。
「帯刀さんを放せぇっ!」
「ごあっ!?」
そのため彼らのところへ走ってくる樹の声が聞こえるまで彼の存在に気づかず、彼の飛び蹴りを顔面で受けることになってしまう。
「今日は逃がさないからな!ここで倒しきる!」
「執念深い野良犬さんですことね!」
「「変身!」」
『OK!That's sure!Raise Up!Earth Baccarat!』
『承認完了!開幕!舞鶴花札!』
正道たちを庇うように立ちはだかった樹はカジノ・アースバカラフォームに、後からついてきた雅は竜胆・舞鶴花札式へと姿を変える。
先手必勝でオルトロス・ドラクマは双頭の口から火炎を放射するが、それを竜胆が背中から展開した翼を羽ばたかせることで突風を起こし防ぐ。
火炎を吐いたことによって生まれた隙を正確に見極めたカジノはアースマグナムから弾丸を撃ちだし、右の頭の眼を撃ち抜く。
「ぎゃぁ!?」
「進化しても戦闘能力が上がったわけじゃないな!」
肉薄したカジノがアースマグナムの銃口をオルトロス・ドラクマの腹部に押し当ててゼロ距離で発砲する。
さらに続けて光華槍弓を弓モードで構えた竜胆が光の矢を発射、オルトロス・ドラクマの肩を貫いた。
カジノと竜胆の隙を作らせない抜群のコンビネーションの前にオルトロス・ドラクマは一方的に追い詰められる。
よろよろと立ち上がり何とか攻撃の嵐の中から抜け出そうとするオルトロスだが、そうはさせないと言わんばかりにカジノは膝を狙撃、さらにベルトから取り外したリーヴコインをアースマグナムに装填する。
「これで幕引きだ……っ」
「樹様…?」
しかし樹はその引き金を引けなかった。
視界の端に映った正道の姿を見て、自分が彼の父親の命を奪っていいのかと迷いが生じたのだ。
だがその葛藤はオルトロス・ドラクマが逃げる隙を作るには充分であった。
「グルルル………アオォォォォーーーン!」
「「!?」」
オルトロスが雄たけびを上げて、本物の犬のように両手を地につけ前傾姿勢をとる。
すると彼の身体が一回り大きくなる。
ジャイアント・オルトロスと呼ばれる形態に変貌したオルトロス・ドラクマは前足になった腕でカジノと竜胆を薙ぎ払う。
「うわぁっ!?」
「きゃあっ!!」
通路の壁に叩きつけられた二人がなんとか立ち上がった時には、オルトロスはその場からいなくなっていた。
しかし外に出てみると地面に巨大な足跡があること、そして少し遠くに目を凝らすと黒煙が昇っているのがちらほら見えることからまだそう遠くに逃げていないのだろう。
「……急げば追いつきますね。樹様、先に行ってください。私は姿を変えてから追いかけます!」
「……っ、ああ、分かった!」
雅に先に行くよう頼まれた樹は迷いを抱えながらもカジノストライカーに乗ってジャイアント・オルトロスを追跡する。
「さて…私も急がなければですね」
『月光闘馬!』
雅は新たに黒色のリーヴコインを取り出しベルトにセットする。
『承認完了!開幕!
ベルトの音声とともに竜胆の隣に流鏑馬で活躍するような黒い毛並の馬のホログラムが出現、馬が嘶くとともに彼が纏っていた馬具が変形し紺色のアンダースーツに変わった竜胆の上に装備されていく。
胴体や手足は武士の甲冑のような装甲を纏い、その上から馬に指示を出す縄が金のラインとして上塗りされる。
これこそが競馬の力を内包した竜胆の4つ目の姿である月光闘馬式である。
「さぁ、駆け抜けていきましょう」
「クソっ!待てぇ!」
片手でハンドルをきりながらもう片方の手で持ったアースマグナムでジャイアント・オルトロスを攻撃するカジノだが、不安定なバイクの上ということで命中が安定しない。
しかも射線が逸れた先に一般人がいるかもしれないと考えると、中々思い切った攻撃は出来ない。
「まずは足を撃ち抜いて、逃げられないようにするしか…「待ちな、カジノ!」っ!」
突如としてカジノの背後から射撃が飛んでくる。
バックミラーに映っているのはあのオルトロス・ドラクマを生み出した元凶・ジェイルファントムである。
ジェイルファントムが乗っているのは真っ黒な車体の上から彼の身体と同じく鎖が幾重に巻かれているバイク・ホロウストライカーだ。
カジノと並走するファントムは彼に挑戦を仕掛ける。
「あれは貴重なサンプルだ。簡単にお前に倒されちゃ困るんだよ。適度に暴れさせてやってくれ?」
「ふざけるな!ドラクマの被害でどれだけの人が苦しんでるのか、お前は考えたことがあるのか!?」
「そんなこと言うまでもないさ。考える必要なんてねぇよ」
「お前……!」
あっけらかんと犠牲なんて知ったことではないと言い切るファントムにカジノは怒りを露わにする。
この男だけは早急に倒さないといけない。
だが、ここでファントムを相手にすると彼の思惑通りジャイアント・オルトロスはさらに暴れて被害を拡大させるだろう。
しかしこの男は前回、適当な一般人を無理やりドラクマに変えた。
ここで放置したらそれはそれで被害者が増えるだろう。
「ははっ、やっぱり迷うか?俺か、
「黙れ!」
ファントムの挑発に激怒したカジノはアースマグナムの銃口をオルトロスから彼の方へ向け、発砲する。
だがファントムはファントムチェーンを解いて銃弾を弾き、お返しとばかりにファントムブラスターで射撃を見舞う。
「なんだ、俺の誘いを選んでくれるのか?」
「……くっ」
カジノは苦々しい表情を浮かべる。
しかし樹個人の感情としてはファントムを今倒さなくてはならない。
自分の判断に疑問を覚えている樹は銃口を向けたまま動けなかった。
その時、ライブステージの方角から声が聞こえてきた。
「問題ありません、樹様!」
「雅!?」
声の主は雅が変身している竜胆である。
月光闘馬式になった竜胆だが、なんと彼女は一頭の馬にまたがっていた。
しかしその馬も本物の生物ではなく、ホログラムの馬である。
これが竜胆・月光闘馬式の固有能力、リーヴコインに内包されたデータから一頭の競走馬を呼び出し、乗り物として扱うことができるのだ。
「あの駄犬は私が追いかけます!樹様はその殿方を任せます!」
「っ!任された!」
カジノからの返事を聞くや否や竜胆は手綱を勢いよく振るい、馬のスピードを上げる。
一方のカジノはカジノストライカーを停車させ、ファントムと向かい合う。
同じくホロウストライカーから降りたファントムは少しめんどくさそうに舌打ちをする。
「ちっ、舞鶴花札以上に機動力があるフォームがあったとは知らなかったな。あれじゃ実験体は終わりか」
「終わりなのはお前もだよ。これ以上好きにはやらせない」
「ハッ!だったら粘ってみせろよ!」
売り言葉に買い言葉、同時に発砲。
両者共に手に握った銃でを連射し、相手の射撃をかわす。
ファントムは射撃にあわせてファントムチェーンで追撃するが、カジノはアビリティ解放を使い砂の盾で射撃を防ぎつつ姿を隠す。
「ソレ、鬱陶しいな」
『Cannon』『Monkey』『Wind』
『Tuning Weaponize』
ファントムは愛銃から新たな武器を生み出す。
出現したのは緑色のラインが刻まれたカノン砲、所謂バズーカである。
カノン砲を両手で抱えたファントムはそのマズルを砂の壁に向けて弾丸を打ち出す。
しかし打ち出されるのは実弾ではなく、空気の砲弾だ。
「ちっ、外れたか」
空気の砲弾をぶつけられた壁の一つは脆くも崩れ落ちるが、その奥にはカジノの姿は見えない。
別の壁の裏からその威力を見たカジノは作戦を練る。
(アビリティのおかげであの壁は結構硬いはずだけどそれを一瞬で崩すか…だけどあの大砲は早撃ちはできないはず。それなら一気に攻める!)
残された砂の壁を解除して、砂の人形--自分の分身を生み出すカジノ。
4人に増えたカジノはそれぞれカジノブラスターとアースマグナムを構えて一斉に攻撃する。
溜めの大きいファントムに対して素早さで勝負するカジノの判断は正しく、分身を生み出した時点でファントムもバスーカを放り捨ててファントムブラスターで対応する。
「ちっ、運がねぇな」
「日ごろの行いなんじゃないか!?」
『Storm Roulette!』
『OK! That's sure! Storm Roulette!』
必要最小限の動きで関節を狙い撃ち動きを封じるファントムだが、先に崩れた3体は分身。
読みを外して舌打ちするファントムに肉薄したカジノはストームルーレットフォームへと姿を変えて、ストームダガーで切り裂く。
だがファントムは即座に全身の拘束具を左腕に集中させて即席の盾として攻撃を防ぐ。
「お前はっ!無関係の人を巻き込んで何がしたいんだ!」
「何がしたいか、ねぇ…強いて言うなら人類の成長過程、か?」
「ふざけんなぁ!」
ファントムの飄々とした受け答えに怒りを滾らせたカジノがストームダガーにリーヴコインを挿入し、必殺技の構えを取る。
一方のファントムも仮面の下で薄く笑いながらファントムブラスターにカードを挿しこむ。
『OK! All In! Ending Time! Storm Golden Slash!』
『Explosion』
ストームダガーからは特大の風の刃が、ファントムブラスターからは紫色の光弾が放たれる。
両者ともに特大のエネルギーを内包し、衝突しあうその瞬間。
「そこまでだ」
「なっ!?」
二人の攻撃の間に何者かが割り込み両手を突き出す。
するとその人物をも飲み込まんとしていたエネルギーが跡形もなく消滅する。
間に割ってきた人物---否、カラスのような羽根にペスト医師のマスク、胴体部分は歯車やカメラのレンズなどの意匠がちりばめられているスチームパンクを思わせる容姿の怪人はカジノのことなど気にも留めず、ファントムに話しかける。
「あっちの準備は整った。もう時間稼ぎは必要ない」
「…そりゃ興味深いな、わざわざ渡した甲斐があったってもんだ」
「準備だと…?一体何を!」
「知りたかったらさっさと助けに行ったらどうだ?俺はもうここでお前と戦う理由はなくなったから止めねぇよ?最も、お前が俺を止める前に俺は帰るがな」
カジノの質問に答えることなくファントムとカラス怪人は射撃で目くらましをして、その場からいなくなる。
仮面の下で苦虫を嚙み潰したような顔をするカジノだが、すぐにカジノストライカーに乗って竜胆を追いかける。
「待ってろ、雅……!」
大通りを疾走するジャイアント・オルトロスとそれを追いかける竜胆と馬。
弓モードの光華槍弓から撃ちだされた光の矢がオルトロスの背に突き刺さるが、鋼鉄の毛皮には大したダメージにはなっていない。
樹はバイクに乗りながらの射撃は精度が落ちるため苦手としていたが、逆に雅は乗馬と流鏑馬を嗜んでいたため不安定な場での弓術は得意としている。
とは言えここまで有効打を与えられずにいるのも事実。
だが竜胆はまるで焦っている様子を見せない。
「さて、そろそろ次の手を打ちましょうか。凪義姉さん、どの辺りで止めれば被害を抑えられますか?」
『ここから2㎞先の信号からしばらく先は警察の人たちが人除けしてくれてる!止めるならそのちょっと前!』
「助かります、ではそこをゴールに決めましょう!」
『展開!月光闘馬!』
凪からの情報を聞いた雅は月光闘馬に秘められた競馬の機能を起動させる。
竜胆が指定した『今回のレース』のゴール地点は凪から聞いた地点より少し先の3km先、そのラインを先に越えた方が賞金のダメージコインを大量獲得できるように設定した。
そして光華槍弓の狙いを背中から脚に変えて、必殺の一撃のために集中する。
『承認!必殺上々!月光 黄金射!』
5本の矢が不規則な軌道を描いて射出され、さらに途中でそれぞれが5本の矢に分裂する。
計5本の光の矢がオルトロスの4本の脚と喉元に突き刺さる。
先ほどまでのダメージにもならない矢とは異なり、生物として致命傷になり得る部位を、しかも必殺技の威力で打ち抜かれたオルトロスは悲鳴も上げられないまま道路をえぐりながら倒れ伏す。
その巨体が地面に打ちつけられるよりも先に竜胆は馬を駆り、オルトロスを追い越してその先のゴールラインを越える。
これで竜胆は一着優勝、先ほどより必殺技の出力が高まっていく。
馬をUターンさせた竜胆は薙刀モードに変えた光華槍弓にリーヴコインを挿入して、オルトロスに正面から突撃する。
「さぁ、これでお上がりですよ」
『承認!必殺上々!月光 黄金斬!』
「はあぁぁ!」
トップスピードで走る馬がオルトロスの右側を駆け抜け、竜胆が黒色のエネルギーをまとった刃で頭から尾まで綺麗に両断する。
鋼鉄の皮膚を持つオルトロスだが、さっきまでのチェイスで受けたエナジーアローの箇所をなぞるように切り裂かれてしまい、強固な防御も意味をなさなかった。
喉をやられたため声を上げられないオルトロスの代わりに爆発音だけが周囲に響き渡り、巨体が消滅する。
焼け跡には人間の姿に戻った正吾がボロボロの姿で倒れ、周囲で待機していたブリゲードの隊員たちが捕まえようと集まりだす。
「中々手間取らせてくれましたけど、あとはブリゲードに引き渡せばおしまいですね」
「ダメですよ~、こんな簡単に終わらせちゃ!」
「っ!?」
直後、変身を解除しようとベルトに手をかけていた竜胆が弾かれたように焼け跡の中心地へ駆ける。
感じたのは悪寒、ファントムやこの前戦ったテュポーンとも異なる別種の威圧感。
武道を学んでいた雅が残心を怠らなかったのは幸運と言わざるを得ない。
なぜなら生身であったら真上から落ちてくる太陽のごとき熱波には耐えられなかったから。
「あぁぁぁぁぁ!!??」
太陽が落下し、灼熱の爆風が周囲に吹き荒れる。
爆風は20秒ほどで収まったため、雅はギリギリライダーシステムの装甲によって守られるが、変身は解除させられる。
痛みで立ち上がることができずうつぶせの状態で周囲を見渡す。
視界にとらえるよりも先に焼け焦げた肉の臭いが漂い、次に真っ黒な炭や焼け落ちた布が目に入る。
そして正面、爆心地には真紅に燃える炎に全身を包んだ怪人が立っていた。
どうやったのかは分からないが全く燃えていない正吾を抱えて怪人は楽しそうに笑う。
「わぁ~、さすがにライダーシステムは一撃では全焼しませんね!素敵です!」
無邪気な女性の声。
自分の攻撃、いや、おそらくは攻撃とも言えない動作に耐えきった相手に喚起するのは常人の考え方ではない。
「う~ん、ほんとは今すぐ戦いたいんですけどぉ、今がその時!ではないと思うんです!ほら、お料理だっていきなり強火でやるよりも弱火でじっくりコトコトでやる方が美味しいじゃないですか!」
雅に話しているようで、実際はまるで会話として成り立っていない。
平然と大量の人を殺して悪びれもせず生き残った人間にしか興味を向けないその精神は、前に会った幹部級2人よりも明らかに歪んでいる。
今見せられている感情はその姿の通り炎のように激しく燃えているのに、それでいてどこか消えてしまいそうな謎の危うさを感じさせる相手。
そんな相反する不気味さをから強い恐怖を雅は感じるが、身体を少しも動かすことができない。
「私がここに来たのはぁ、
そう言った炎の怪人は手から生み出した炎で正吾を包み込む。
意識のない状態で丸焼きにされた正吾は業火の中で姿を変える。
最初に変化させられたドッグ・ドラグマからオルトロス・ドラグマへ、そして二つの頭の間からさらに新しい頭が生える。
両手の爪はさらに鋭く、尾は蛇の頭に変わっていく。
炎をかき消して中から現れた正吾―――ケルベロス・ドラグマは復活した声帯で咆哮を上げる。
その雄叫びと炎の怪人の高笑いを聞きながら雅の意識はシャットダウンした。
ストーリーの都合で前に登場したペストマスクをゴーストマスクに変更しました。
ここでカラスモチーフ含んだ怪人出したらこっちがペストの方がいいかと思ったので。
ゴーストマスクは映画『スクリーム』のあれだと思ってください。