テラにて空を仰ぐ   作:Kokomo

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 対価とは、裏社会に生きていれば知っている隠語。主に、雇い主との契約で大きな問題を生じさせてしまった時に雇い主もしくは、保証人などが要求できる落とし前のことを示す。

 


黒い瞳

 002

 

 

 

 

 場所は変わり古びた公園のベンチ。辺りに他の人影は見当たらない。

 爆弾のような厄介ごとを抱えて、民間ホテルに入るのはさすがに不味い。一般市民を巻き込みかねない。

 

「それで依頼の話なんだがーー」

 

 お互いの自己紹介を済ませ、今回の目的について話す。こちらの勝利条件はシンプル。この町から逃亡し、俺の事務所のある龍門に無事につくこと。なぜ俺の事務所なのかは分からないが、おそらく帰る場所が無いのだろう。ただ、それを難しくしている資料に再び目を通す。

 

「はぁ.......」

「……どうかしたか?」

 

 隣に座った不審者こと、クラウンが不安げに聞いてくる。

 ため息の一つや二つ、つきたくなるだろ。休日だと思っていたら自分の終活をしているのだから。永眠なんてことで、これからの人生が休日になったらたまったもんじゃない。

 アタッシュケースから取り出された敵の資料には黒いガスマスクで顔を覆い、背中の方から黒いチューブのようなものがガスマスクに付けられたヤバそうな奴が。さらに、右腕にはごつい刃物が付いた謎の武器をもっているときた。

 

 

 どっからどう見ても、帝国の精鋭兵団だ。何やったらこんな所に目をつけられたのだろうか?

 

   

 まぁ、人のことを言えないが。

 

 

「見知った顔でな、こいつらから逃れながら雇われた暗殺者を撒くのはなかなか骨が折れる」

 

 クライアントの依頼はあくまで逃亡だ。帝国の人数は20人、暗殺者の数は不明。敵の雇い主も不明。なんだ、とっくに詰んでるじゃないか。ウルサス兵とか本当に無理。

 しかしなつかしい。あれは、確かカジエミーシュとウルサスの辺境に仕事で行ったのだが、森林火災監視員と帝国兵の戦争中だった頃か。

 

 納期の為とはいえ、ボストンバックを引っさげて戦場のど真ん中突っ切ったのは、我ながら馬鹿だと思う。しかし、この頃から名前が売れ始めて、帝国には笑われ始めた。ウルサスに行くと警備員が震えを堪えながら露骨に顔を逸らしてくるのだ。

 

 

.....少しだけ心が辛かった。そんなヤンチャなことをしていた時期に思いに浸っているとクラウンがそんな様子を察したのか、また不安そうな顔になる。いかんな、クライアントを不安にさせるのはよろしくない。

 

 

「安心してくれお客さん。」

 

 これが最後になるだろうし、カッコつけても許されるだろ。

 

「俺の命を賭けてでも、ここから出してやる」

 

 

 

 

 

 

 

 「どういうことだ!!」

 

 

 高そうなスーツを着た、大柄なエラフィアの男が、手元の資料を叩きつけ怒鳴り散らしていた。会議室は荒らされており、もぬけの殻。

 肝心のループスの女は仕留め切れておらず、姿を見失ってしまった。今日という日に備え、あらゆる準備を行ってきたつもりだった。ウルサスに貸しを作ることで精鋭たちの部隊をこちらに寄越せ、と協力を仰いだ。 

 他にも暗殺者業を営んでる者達を雇った。この付近の警察には、札束を握らせた。

 

 

 商売を邪魔した挙句、すべてをパーにしてくれたやつ等に復讐する為に。

 

 

 男は元々人身売買をしていたのだが、ある日突然商品がなくなっており、商談に影響が出た。この手の世界では信用が絶対だ。一度失えば、対価を払ったとしても取り戻すのは、難しい。だから躍起になっていた。何としてでも対価を払っておき、せめて自分の首は繋いでおきたいからだ。

 

 そんな時に耳に入ったのがループスの変わり者たちの情報だった。同胞たちや身寄りの無い子供たちを集めている民間軍事企業の噂を。人数はそれ程ではないが部隊も出来ていた筈。そういえば、商談の前に無くなったのはループスの少女だったはず。自分の人脈を使い、その会社情報をさぐった。あのループス少女も成長し働いていた。

 

 

 

『お前があの時逃げてていなければ....』

 

 

 そんな見当違いな復讐心を抱いたのだ。そこからの行動は早かった。自分と同じ様にあの会社に恨みを持つ者を集め、ここまで来た。会社自体をつぶし、部隊もつぶした。それなのに肝心の女は殺せていない。そんな状況が男を怒り狂わせた。

 

 コンコン

 

 返事をする前にドアが開き入ってきたのは帝国兵の一人だ。

 

 

「いきなり何「はめたな?」はぁ?」

「なに訳わぁかんねこと.....ガァハ」

 

 要領の得ない言葉に聞き返そうとした時にはすでに壁に押さえつけられていた。

 

「この男に見覚えはあるか」

 

 見せられた写真には黒髪の男が写っており、特別な点は種族が分からない程度。この世界に足を踏み入れたのなら、知らない物などルーキー位だ。それ程に有名で、嫌でも耳にする。

 彼の二つ名は周りが呼び始めた。約6年前のことだ。この業界で名前を自分で名乗ることは、あっても、二つ名が送られたことはほとんど無い。元々、名乗っていた偽名と送られた二つ名を合わせることで、悪魔の名が完成する。

 

 

 名をパラベラム・クリープ。

 

 

 ウルサスの帝国兵ですら顔が真っ青になり、どんな悪党でも恐れている男。最近ではなりを潜めているが、まさかこんな場所にいるとは、思いもしなかった。

 一度だけこの目で彼を見たことがあり、助けられたことがある。目の前で見せられた特殊なナイフをもちいた近接戦闘を忘れたことなど無い。

 

「クリープがこの町にいる。奴がいる場所で騒ぎなど、これ以上はごめんだ。我々はこの一件から降ろさせてもらうぞ。そしてこれは忠告だ。もし、奴を巻き込めば最後、お前とこの町はポップコーンの様に弾け飛ぶぞ。今すぐこの町から去れ」

 

 帝国兵はそれだけ伝えると男を放り投げ、どこかに去っていった。

 

 生まれたての小鹿のように足を震わせへたり込む男。床から伝わってくる冷たさと、物音一つしない空間は、興奮した頭を冷やしきるには充分だろう。

 

 

 

 

 

 朝の三時。まだ不気味な静けさがあり、日が昇る気配は無い。雇われていた同業者達は、先ほどこの町を出て行った。

 

「チッ。腰抜けどもが。たかが男一人にびびりやがってよ」

 

 雇い主は依頼を取り下げた。当然、同業者達は納得できる理由が無ければ、手ぶらで帰らない。罵倒などが飛び交い、混乱を極めていた時ぽつりとその名が呟かれたとたんにあたりは静まり、時が止まったかと思うほど微動だにしなかった。

 

『クリープが、この町にいる』

 

 たったこの一言だ。その名を聞いただけで、殆どが無言で、出て行った。

残ったのは、四人のルーキー。このメンバーでターゲット及び、クリープを暗殺すると伝えた。すると雇い主は哀れなものを見る目で、こちらを見てきた。それにイラついていた一人が、思わず殺してしまったが問題は無い。準備は整っているのだから。他にも集まる予定だ。

 

「ケヒヒ、たのしみだなぁー」

 

 

 青年の口元が酷く歪む。しかし、目だけは年相応に相応な目であった。

 

 暗闇に包まれた路地に、日が差し込むことは無いだろう。

 

 

 

 

 

 辺りが少し明るくなった頃、目の前で無防備にベンチで寝ていたクライアントに声を掛け、予め用意していた菓子パンとペットボトルの水を差し出す。

 

「おはようさん。朝食にしては、少ないが食べておけ。これから動くことになるかもしれんからな」

 

 重たそうに体を起こし、目を擦りながらパンと水を取ってちびちびと食べている。

 ふむ、目の前で食事や睡眠を取っているあたり、トランスポーターとしての信用はしてくれたはずだ。さすがに仲間が死んでるのでプライベートな会話はせず、これからの逃走経路の話や計画について深く話しといてよかった。お陰で、物事がスムーズに運べそうだ。

 

「何も聞かないのか?」

「ああ、厄介ごとは、嫌いなんでね。他人の過去なんて気安く聞いたりするもんじゃないしな。クラウンこそ、聞いてこないじゃないか。まぁ、聞いても大したことなんて話せないぞ」

「じゃあ、クリープは生きていることが辛いって感じたことはあるのか?」

 

 おい、スムーズに運ぶとかいった奴誰だよ。いきなりガチな相談だぞ。しかも、昨日会ったばかりの奴の地雷を避けながら会話するとか、難易度高いし。心理療法の知識なんてないのだが。

 しかし、だ。逆に考えれば好感度を稼いで、対価を払わないで済むのでは?

 

「まぁ、無いと言ったら嘘になるな」

「そうか……」

 

 おかしいな、空気がめちゃくちゃ重く感じる。もしかして、俺ここで殺されるの?

 

「おまえは、どうなんだ」

 

 あまりの重さにとっさに出せる言葉が、これ位しかない。

 

 

「死んだほうが楽だとか、考えたことは、あるか?」

「……ある」

 

 駄目だな。こうゆうところで、切り捨てられれば楽なんだろうが、な。

 

「これは、俺の自論なんだがーー」

 

 

 

 朝起きるとクリープが朝食を用意してくれていた……変わった奴だ。いきなり出会った奴の依頼を詳しく聞かないまま受け、こちらに深く干渉しない。距離のとり方がうまくて、貫禄を感じる佇まいはとても頼もしい。昨日は依頼とそれに関することしか話さなかったが、うまく話せるだろうか。

 

 

 会話していくことで分かったがクリープはどこか危なっかしさを感じる。そして自分に似ているとも、思った。そんなことを考えているとーー

 

「死んだ方が楽だとか、考えたことはあるか?」

 

 ああ、やぱりどこか似ている。こんな感情を向けるのは、失礼だとわかっている。

 

「……ああ」

「これは、俺の自論なんだが、死んだからといって、楽になることはない」

 

 この言葉が言われるまでは、一緒だと思ってた。分厚い壁があるなど知らずに。

 

 

 

 

「これは、俺の自論なんだが、死んだからといって、楽になることはない(現に苦しんでる)。死ぬことをどんな風に捉えるかで変わるが、実際死んだ後に何があるかなんて、分からない(転生して平和ボケしてたらテラに放り出されたし)。まぁ、こっから先は宗教染みた話だ。」

 

 ほんとに、苦労してる。もし、これが神様転生なら神を呪い殺したいまである。しかし、こういう生き方も悪くないと思えた。

 

「それに、変に着飾って生きるよりも醜く汚く足掻いてるほうが美しいって感じたんだ。ああ、生きてるんだなって、感じるしな」

 

 うん、旨くまとまったな。少し悪い感じで笑ってみたが、どうだろか?(おもいっきし着飾ろうとしてる)こんなことしてるからウルサスに笑われんだろうな。嫌われてるよりはマシだが。

 

「なんだよそれ...ハハ」

 

  苦笑しながらだが、少しほぐれたか。よかった。これで俺の生き残れる確立が少しは上がったかな。

 

「それと、ありがとう」

「クライアントにサービスするのは、当たり前だからな。どういたしまして」

「対価は...ちゃんと」

 

 あっ、やっぱり対価は支払わなきゃ駄目なんですね。

 

 

 

 

 朝日が昇り人の活動がやや多くなった頃、裏路地に二人の人影。

 

「それで、最初は、人混みにまぎれて移動で良いのか? クリープ」

「ああ、駐車場までは、そうする。それとあそこのビルには気をつけろ。他の通行人とは、相手が素手でもぶつかるなよ」

「ビルは狙撃を警戒してるのが分かるが、通行人はどうして?」

「ぶつかった時に、首の骨を折られるからだ」

「えっ?」

 

 なるべく人が多い時間帯を選んだのには理由がある。暗殺業はターゲットを暗殺する。当たり前の決まりだが、逆に言えばそれ以外の人物は理由無く巻き込んではいけない。そのような決まりがある。守らなければクライアントに信用されなくなり、情報が出回って居場所が無くなる。

 中には、本当に足を洗って、まともな生活を送っている奴もいるが、こちらに馴染みきってしまっていたものは、表社会に馴染めず自殺してしまう方が多い。

 

 だからこの状況で、下手に手を出せない。この裏社会以外に居場所なんてないことを良く分かっているからだ。

 ウルサス帝国兵もさすがに、人様の国民に出さないはずだ。というか、頼むから出さないでほしい。 

 

 しかしどうしようもない問題が一つある。     

 

 

 俺、どうしよう。

 

 

 テラの住人は、俺と比べ頑丈だ。力も強く、厳密には違うが、アーツを用いた魔法みたいな攻撃までありときた。

 もちろん、クラウンにもアーツがある。相手の背後へ瞬間的に周り込むアーツらしい。これが本人の機動力と相まって、めちゃくちゃ強い。つまり近接担当だ。得物はナイフ一本でヤーボローナイフに似ている。

 そのため、彼女の方は大丈夫だ。これで中距離担当がいたらバランスがいいのだが、俺の得物もナイフ。しかも2本なのだ。いや、本当は遠距離から攻撃できる銃の方が良かった。

 一年立てばトランスポーターでも武器が必要と気がつき、闇市に行ったことがある。しかしこの世界の銃は、アーツを用いて感覚で射撃を行うのだ。

 

 構造が複雑で発明されたのでは無く、発掘されたものだ。当然魔改造などもしてみたが、使い物にならなかった。おまけに、銃弾が高い。

 何より、転移して来た人間などに当然アーツが扱えるはずが無く、論外だった。

 

 他にも弓やボウガンなども試したが、先ほども言ったようにこの世界の住人は力が強い。そんなような奴らが使っている弓など扱いきれず、断念せざるを得なかった。

 因みに射程は本人の技量によって代わるが、平気で100ヤード以上から撃ってくる。うん、どう考えたって無理だ。  

 まぁ、一番理解不能なのはその威力に耐える建築物や木なのだが....。

 

 他にも武器は試したが殆ど大きく、携帯してくおくには不向きな物ばかり。選択肢など殆ど無く、消去法でナイフになった。一応オーダーメイドで頼んだのだが、発注ミスで全然違うのが届いた。しかも種類が違うもので、なかなか癖が強い。デュアルフィンガーリングカランビットナイフとガーバーMarkⅡだ。

 

 おい誰だよ、こんな玄人向けなナイフしか使わない奴。返品しようと一応電話を掛けてみたが、案の定繋がらなかった。

 そんなこんなで使い始めて六年。しっかり手入れを怠らずに使い、数々の戦場で救われた。愛着が湧き、気が付けば体にすっかり馴染んでいる。あれ、おかしいな? 俺、トランスポーターだよな?

 

 そんなことを考えながら駐車場に着いたわけだが。まぁ予想どうりになにやら、たむろしている集団がいた。数は六人。上着の左脇が膨らんでおり、拳銃を携えていることが分かる。向こうがこちらに気が付き、銃を引き抜こうとした瞬間にクラウンが自分の得物を引き抜き、瞬時に3人の首が飛んでいた。

 

   なんで?

 

 たしかに、やられそうになったら全力で走れといったのは俺なのだが、やられそうになったら逃げろという意味だ。決して相手を殺せ、とゆうことでは無い。

 六発ほどの銃声が響いたが、あの調子だと直ぐに方がついてしまうな。

 

 

 目の前には悲惨な光景が広がっており、暇そうに自分の得物で遊んでいるクラウンがこちらに気が付き、笑顔で手を振っている(血まみれで)。何であんな活き活きしてるの?

 

 思わず顔が引きつり、目を逸らそうと後ろを振り向くと青年が刀でこちらの首を狙って、フルスイングしている最中だった(白目)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (なんだたいしたことないじゃあないか。これがパラベラム・クリープ?あの女の方が、いやオレの方が強い。)

 

 青年には、自覚があった。自分には人を殺す才能があると。オニであったため、力強く早い。戦闘において重要な才能を持っていることが原因だろう。   

 特に刀を好んで使っていた。相手の首を切りやすく、軽かったからだ。

 相手の切り落とされていくときの表情が、好きでたまらなかった。故に楽しみでしかったなかった。パラベラム・クリープがどんな顔するのか。ウルサス兵達すら震え上がった悪魔の絶望する顔が。そんな期待に身を任せ、後ろからすばやく接近し、首を狙うため横に刀身を流す。左手はあの女に対応できる様に投げクナイに掛けておく。

 

 (ああ、残念だ。正面から表情が見えないのが。だがあの女の表情は、よさそうだ。)

 

「クリープ!」

 

 この男に叫んだところで、もう遅い。女の焦燥感にかられた、恐怖と絶望の表情がたまらない。今までで、一番最高の気分だ。

 

 目の前でこちらを見つめている黒い瞳の男をーーーーは? 

 

 こちらを向いている? 

 

 いつの間に?

 

 まあ、いい。どうせ死ぬことに変わりはない。さぁ、絶望をー

 

 その時だ。思いもよらぬ痛みで右手に持っていた刀があらぬ方向に飛んでいったのは。

 

 

 

 

 後ろにいるクラウンに叫ばれた気したが、それどころじゃない。このままでは絶命してしまう。相手の左手にはクナイを取り出せるように、腰に手を掛けている。今から後ろなどに避けても、当たってしまうだろう。

 

 うん、詰んだな。しかし悪足掻きはさせて貰う。逆に考えるんだ、当たっちゃっても良いさと(良くない)。 

 肉を切らせて骨を断つ。腕の一本ぐらい犠牲になるが、致し方ない。方針が決まれば、話は早い。

 

 自分で前に倒れるような体勢で一気に懐に飛び込む。飛び込む最中、右手でカランビットナイフに手を掛ける。今回はガーバーMarkⅡを使わない。

 この世界の人は、頑丈で首を切っても8秒ほど動く。その間に自分が殺されたら、ひとたまりも無い。だからこそ、最初は確実に無力化をはかる。襲撃者は一人。ゆっくり、丁寧に仕留めなければ。ナイフだと意味が違うが、ストッピングパワーは重要だ。 

 

 そして、ここで漸く気が付いた。

 

 あれ、これ普通にいけるな。

 

 懐に飛び込んでも、左から脅威が迫ることに変わりは無い。しかし、飛び込んだことで脅威が少しずれていた。

 相手の刀を持っている方の手首に、左手の手根で弾く。

 

 突然の痛みと関節の構造上、曲がりきっていなかった手首が急な動きで曲がり、相手の刀はすっぽ抜けた。

 

 飛び込んだ勢いを利用し、相手の重心が乗っているであろう膝に上から下に体重を乗せるような感じで蹴りを放つ。すると、相手の膝が曲がってはいけない方向に曲がり、こちらに倒れ落ちてくる。それでも尚、左手で腰からクナイを抜こうとするので相手の左脇下が来るであろう場所にカランビットナイフを構え一気に引き抜く。  

 

 そして、そのまま相手の首を滑らせる様に数回斬りつけ、仕上げに首にナイフを刺した状態で軽く捻る。

 

 久々に嗅いだ匂いに、思わず顔を顰める。やっぱり、この匂いにはなれない。得物を軽く拭いてからケースにしまう。

 血の付いたジャケットを脱ぎ、肩に掛ける。匂いを誤魔化すために、タバコを手に取った。

 タバコをふかせながら、この後のことを考えていると鬱になる。検問に帝国兵と問題は山積みだ。これで7人は死体になったが、正直自分要らないのでは? だって、クラウン一人で6人とも倒してたし。今すぐ帰ってシャワーを浴びたい。

 周りには、7人の死体が転がっており、飛び散った鮮血などがなかなかの量で目も当てられない。そんな状況から早くずらかるため、クラウンに声をかけたが放心状態であった。

 

 

 

 

 足りない部分を手数と相手を無力化し、確実に殺すための最小限の動きと技術でカバーしたこの動きは僅か2秒以下で行われた。

 

 クラウンは先程の出来事に舌を巻いた。動きに無駄が無い。素早く、効率よく相手を殺していく姿は普段の様子からはまったく想像できなかった。なによりも、あんな技術を見たことがなかった。それと同時にとてつもない恐怖感じたのだ。

 出会って間もない奴の依頼を断らず、内容を聞かないまま受ける変わった奴。

 ナイフを持てば、殺人マシーンの様に冷酷になる。

 一体どちらが本当の彼なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 やらかしたかも知れない。暗い夜道を車で走り抜ける。時期的にも少し肌寒い。とても静かで風流を感じ、大変素晴らしいドライブになっただろう。

 

 車内の空気がどんよりしてなければだが。駐車場での戦闘が終わったあと、普通に検問を通れたし、帝国兵は姿を見せなかった。また死体などの後処理は向こうの警察に任せた。検問でもそうだったが、妙に震えていたが。

 様子がおかしかったので、声をかけたんだが走って逃げてしまう始末。お陰ですんなりと、逃亡に成功した。

 クラウンってそんなやばい奴なのか? 帝国兵に目をつけられていた位だし。まぁ今、助手席で外を眺めているクラウンのせいで空気が重いのだが、原因を作ったのはおそらく俺だ。

 駐車場で俺が一人しか、倒せなかったことだと思う。そりゃそうだ。対価を払う奴が一人しか倒してない。おまけにクラウンが倒した数の方が多い。

 しかし、一つだけ言い訳したい。俺はトランスポーターだ。決して傭兵などでは無い。と、言いたかったがカッコつけて、命を懸けて守ってやる、なんて事を言ったのでそんなことを言えるはずが無い。

 

「なぁ....どっちが本当の姿なんだ?俺は、どっちでもいいけど...」

 

 質問を投げかけてきたのだが、考えごとをしていて殆ど聞いていなかったぞ。いかん、運転中にこれはマズイ。とりあえず質問は、推測で答えなければ。どっちが、的なことを聞いてきたのだから、おそらくナイフの話だ。戦闘になる前ではナイフについて雑談してたし。

 そういえば俺のナイフについては、話してない。きっと先程の戦闘で、腰に携帯していたのを見たのだろう。しかも種類が違うわけだから、どちらをメインに使うか気になるはず。クラウンにだけ話させて、自分が話してなかった事を謝罪しておくとしよう。これは確かに不公平だし。

 

「すまないな、どっちもだ」

「いや、謝らなくていい...どちらもクリープだって分かったからさ。この世界でそうゆうのは、必要って再認識させられたから」

 

 .....何だろう。絶妙に会話が噛み合ってない気がする。クラウンと話してみて分かったが、あまり多くを語らないタイプだ。そのせいか、認識の食い違いが発生する。

 今回は聞いてなかった俺が悪かったのだが、このシリアスな空気で切り出す勇気はない。空気を読んで、黙って聞くことも仕事では重要だ。

 

「俺ってこの後どうなるんだ?」

 

 なるほど、確かに。しかし、だから俺の事務所に行くと言ったではなかったのか?俺をそこで殺すのでは、無いのだろうか。

 

「もし、よかったらだけどさ...」

 

 急に改まってどうしたのだろうか。さすがに、ここで殺したいなんて言わないよな?

 

「俺を雇ってくれないか。」

 

 え?そんな事でいいの?対価って。むしろ嬉しいのだが。好感度稼ぎ作戦が、成功したのか?あれで?

 とりあえず、返事をしなければ。

 

「ああ、いいぞ」

「え?...い、いいのか!本当だよな。嘘じゃないよな!」

「ここで、嘘をついても、意味が無いだろ。それに人手が増えるのは、ありがたい。とりあえず、落ち着け」

「ああ、それと」

 

 ん?なにやらこちらに身体を向き直しーーー

 

 

 

 「ありがとう」

 

 

....それはずるいだろ。

 

「どういたしまして、よろしくな、クラウン」

 

「よろしく、クリープ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅ、やっとついた。龍門裏通り。車を止め、助手席のクラウンを起こし事務所に入る。元々はマフィアの事務所だったんだが、少しお願いして譲ってもらった。なかなか大きく、中は簡素で、来客用のソファーが二つにデスクと椅子が一つずつ。ソファーの間にはテーブルが置いてあり、右の方には棚とレプリカの観葉植物がいくつか置いている。奥にあるドアの向こうが居住区だ。

 クラウンには、悪いが。住み込みで働いてもらう。ああ、これからまた忙しくなる。後ろで部屋を見渡していたクラウンに部屋を紹介し、事務作業を教えた。それから数日間は家具を新しく買ったり、居住区を業者に頼んで個別にしてもらった。

 

 クラウンは一緒でも気にしないと言ってたが、さすがにアウトである。クラウンにもっとちゃんとした常識を教えなければ。特に苦労したのが、龍門近衛局へ申請表を出しにいった時だ。何でか知らんが、旧友のウェイと会食しながら、根掘り葉掘り聞かれた。あいつ暇なのか?

 

 

「クラウン、少し出かけてくるから掃除を頼む」

「ああ、まだ寝ないのか?」

「ちゃんと取ってるさ」

 苦笑しながらこちらを向き、事務作業をこなす彼女はすっかり馴染みきっていた。覚束ないところはあるが、ほとんど心配が要らなくなった。

 

 

 

 

 さて、俺がいなかった間、龍門でなにがあったか聞かなければ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 


 
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