テラにて空を仰ぐ   作:Kokomo

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 いつもこの作品に目を通して下さった方や感想を書いてくれた方、そして誤字報告をしてくださってありがとうございます。私はハーメルン初心者でして、評価バーの存在やUAの存在を知りませんでした。ましてや、趣味と勉強を兼ねて書いている作品が、こんなに評価させて貰えて感謝の気持ちで一杯です。二次創作に手をつけるのは初めてでして。
 色々な方にこの作品を通してアークナイツを知ってもらえれば幸いです。これからも精進していきますので、何卒よろしくお願いします。

 

 長文失礼しました。それでは、本編をどうぞ。



※本編に出てくるクラウンの髪の色を訂正させていただきました。資料を見るとこちらの表現の方が正しいと、判断したためです。申し訳ありません。

 
 


クラウンスレイヤー

  003

 

 

 

 

 

 

 

「それで、俺のとこに来た訳かぁ」

 

 そう切り出したのは目の前にいる服を着たペンギン。名をエンペラー。ペンギン急便のボスだ。愛くるしい見た目に反して、声が渋い。出会って間もない頃、その事を弄りすぎたせいで本気の飛び蹴りを喰らったことを切っ掛けに仲良くなった。今では数少ない友人だ。

 

「そう言われてもな。強いて言うなら、ごろつきが撃ち合いになった程度だ」

「そうか......」

 

 グラスを傾ければ、中の氷がグラスとぶつかった。カランとした音が店内に木霊する。オレンジ色の照明がカウンター席の奥にある、色とりどりのボトルを照らし続けている。反射した光はどこか妖艶な雰囲気を晒け出していて、魅力的だ。初めてこの店に踏み入れたものは未知の世界に興奮して、さぞかし酔いしれるだろう。

 雅趣に富んだストレートのエバークリアを呷る。澄み切った液体が喉を通るとピリッとした辛味が喉を熱くし、すっきりとした味わいがフワッと広がった。おもわず舌鼓を打ち、早々にボトルを空にしてしまう。

 

 しかし、なぜこの酒がこの世界にあるのか分からないが旨いことに変わりは無い。次のボトルを開けて空になった自分のグラスとエンペラーのグラスに注ぐ。

 

「相変わらず酒に強いな。お前の肝臓は、どうなってんだ。そういえば、ウェイ長官と会食したんだろ? そん時に聞かなかったのか」

「耳が早いな。新入りについて根掘り葉掘り聞かれてたんだよ。会話が殆ど一方通行で、コース料理を楽しめなかった」

「は? 新入り? お前の事務所にか? 冗談だろ」

「いや、さすがに個人で動くのがきつくてな。色々訳ありだが雇うことにした。今度紹介するさ」

「よく言うぜ、クソネズミとウェイ長官に引け取らなかった癖によ」

 

 いや、必死に逃げ回ってただけだが。そもそも衝突しようとしてたところに偶然遭遇してしまったのだ。それを宥めようとしたら、いきなり斬撃と砂嵐のお祭り騒ぎだ。それが引き金となり、龍門全域を使った鬼ごっこをすることになった。おまけに、その後の事故処理は、ほとんど俺がやった。お陰で顔が悪い意味で広まってしまうし、踏んだりけったりだ。

 

「まだ恨んでるのか、事務所壊されたこと。金は、しっかり払ったぞ」

「当たり前だろ。それで腕は、どうなんだ? その新入りとやらは」

「いいぞ、伸び代があって将来が楽しみだ」

 

 そんな他愛のない会話をつまみにしながら、適度に酔ってきたところでお開きになった。

 

 

 

 

「ただいま」

「おかえり」

 

 彼女が住む前にただいまと言っても、薄暗く冷たい部屋に虚しく自分の声が木霊するだけなので作業と化していた。薄暗かった部屋は打って変わって、明るく暖かさに包まれている。

 今では当たり前だが、返事が返ってきた時は感動したものだ。クラウンは雑務を終わらせ寝る支度をすでに整えていた。普段は黒いパーカーのフードを深く被って見えにくい緋色の髪は軽くまとめられ、耳がピクピク動いている。ご機嫌がいいのか尻尾を左右に振らしながら、彼女が着ている白いパジャマを整えている最中だった。そんな彼女の格好にも馴れ始め自分のパーソナルスペースに同居人がいることを再認識し、こんな生活も悪くないと思えていた。

 

「先に寝てるからな」

「ああ、お休み」

 

 薄暗くなった事務所の中。自分のデスクの前に座り、クラウンが終わらせたであろう書類の見直しをする。特に問題なく訂正する必要も無かった。特にやる事が無かったので、ナイフの手入れを行い軽くネットでニュースなどを調べる。この時間が一番落ち着く。自分も寝る支度を終わらせ、ベットに横たわる。目を閉じ、暗闇に包まれながら意識を落とした。

 

 

 

 目が覚めると頭の中でシンバルが鳴り響き、思わず眉間に手を当てる。二日酔いなんて何年ぶりだろうか。重い身体をベットから起こし、軽いストレッチで身体をほぐす。部屋を出て事務所の外を見ると、クラウンが朝の鍛練をしていた。

 

 自分の朝食をとり、彼女に軽く一言掛けるために覚束ない足取りで外に出た。しかし、一声掛けるだけではすまないと分かっているので、本音を言えば行きたくない。

 

「おはよう、クラウン」

「おはよう。昨日の資料は、問題なかったか?」

「ああ」

 

 彼女は、ほっとしたような様子だ。今日の商談に彼女を連れていくことはできないが、この調子なら大丈夫だろう。

 

「さて今日は、勝たせてもらうぞ」

 

 彼女はそんなことを言うと、手に持っているダミーナイフとは別のダミーナイフを投げてきた。ああ、今日も()()()()が始まるのか。正直軽い二日酔いであまり動きたくないが、そんなこといってられない。

 襲って来る敵は、こちらの都合などお構いなしだ。そういったことはカジミエーシュや炎国で、さんざん経験した。そんな炎国の移動都市に住んでるわけだが、本当に人生何があるかわからない。本当に良く生きてるな俺。

 そんなことを呑気に考えながらダミーナイフをキャッチして前を見ると、クラウンの姿はすでに消えていた。多少動揺したが、落ち着いて対処する。恐らく、ある程度走ってアーツを使い、背後に回り込んだ可能性が高い。直感的に背後を見ないで、ダミーナイフを後ろに向けたときだ。

 

 

 目の前が突然緋色に覆われた。

 

 

 彼は、何処か甘い気がする。判断基準が曖昧で、いまいち分かりにくいが、自分が刃を向けるべき相手を選んでいるのだろうか?それを確かめるべく、彼に鍛錬をつけてもらう事にした。最初は断られたがしつこくお願いをしたら、早朝にやる事を条件に承諾してくれた。たぶん、俺の寝ぼけ癖を改善するためだろう。

 毎朝30本程模擬戦をしている。一試合が15秒ほどで決着がつくので、時間はかからない。今のところ俺が全敗だ。そして彼が本気で戦ってくれたことは、一度も無い。

  あのオニの青年に向けたドス黒い瞳をむけられたことが、まだ一度も無い。俺ではクリープが本気で刃を向けられないと、遠まわしに告げられているのだ。その事実が悔しくてたまらなかった。

 彼が事務所にいない時間を利用して、アーツの訓練をした。ナイフをもったクリープの動きをイメージしながら、彼の動きを真似てみたりする。

 彼からどうしてもあの瞳を向けられたい。そんな思いと訓練が功を奏したのか、何とか形に出来た。一度きりだけ通用するかもしれない。少々卑怯な気もするが、彼が『使えるものは、とことん使え』と言ってくれたことで、そんな迷いは吹き飛んだ。

 

 

 そして、奇襲を仕掛けた。彼がナイフに気を取られてるうちに、自分のアーツで回り込める範囲に近づく。そこから一度アーツを使って後ろに回り込み、彼がこちらに気を取られるまでギリギリまで引きつける。     

 

 彼の反応速度は異常だ。スピードとパワーは俺の方が上だが、瞬間的なスピードと技術に関しては圧倒的に劣る。タイミングを少しでも間違えれば、負ける。この刹那がとてつもなく長く感じる。

 そして、その瞬間が来た。

 

(今だ!)  

 

 ()()()()()()()を使い彼の正面に回り込めた。後は懐に飛び込んで、ダミーナイフを彼の首に最速で押し当てるだけ。しかし、彼の首に押し当てる前にクリープの二つの瞳が俺を捉える。

 

 ドス黒くて、どこまでも落ちていきそうな深み。濁り切ったその瞳にはきっと、何も写っていないのだろう。

 

(ああ、やっとだ。やっとその(本気)を俺にむけてくれた。)

 

 全身を駆巡る血がさらに加速し、全身が燃やされるような興奮を一瞬で冷ます。それだけでは駄目だ。(本気)を向けてくれるだけじゃ駄目なのだ。俺は彼に自分のを(人生)を渡したのだ。

 

 クリープの噂を調べ、彼自身に聞いた。『大した事じゃない』たったその一言で話は終わった。彼の二つ名はパラベラム・クリープだが他にも呼ばれ方がある。本人はそのことを気にしてないようだが。

 

 彼が一人で成功させた依頼や成し得たことは凄まじく、まさしくこの業界の頂点(キング)と呼ばれるにふさわしい人物だ。純粋な接近戦で彼と張り合える者などほんの一握りだろう。でも、俺がその一握りに入ってるだけじゃ納得できない。満足できない。

 

       彼の瞳に写りたい。何も写らせること許さない黒に、俺を写らせたい

 

 そのためにはクリープを、頂点(キング)を、殺せるぐらいにならなくてはならない。

 

 そんな遥かに手の届かない目標を己に定めた。丁度、黒に組み伏せられて彼女が地に這いつくばってるときの事だ。

 

 

 

 

 

 

 正面から迫り来るナイフをなんとか、右に避ける。ここぞとばかりに追撃が放たれてくるクラウンの右足の衝撃をいなした後、足を右脇下で掴み引きずり込む。抵抗される前に自分の身体の軸を意識しながら重心をずらす。すると、一本の足で支えていた彼女の身体は崩れ落ちていく。そのまま、背後から馬乗りの状態で組み伏せることで状況は落ち着いた。

 

「くっ......」

「今の奇襲は良かったが、追撃の蹴りは駄目だ。奇襲が失敗したら即撤退。これが基本だ」

 

 そんなことを涼しい顔で言って見せるが、内心冷や汗が止まらない。思わず真顔になり、保険金のことを考えてしまった。よくよく考えたら自分に保険など適用されないが。しかし、とうとう恐れていたことが起こった。

 

 早朝に練習しているのは、クラウンが朝に弱いからだ。この世界の住人は基本頑丈だ。力も強く、スピードも当然速い。

 

 さて、万全の状態の獣人と人間で模擬戦をやったら俺はどうなるのか? 下手したら死ぬ。彼女にとっては模擬線だろうが、俺にとっては死闘だ。ダミーナイフの一撃や蹴りは致命傷になる。だから模擬戦をしたくなかったが押されに押され、つい頷いてしまった。

 

 せめてクラウンが寝ぼけてる早朝に鍛錬する様に頼んだのだが、最近では動きが格段と良くなり目がぎらついてる。君、成長早過ぎない?ジョ○・ウィックでも目指してるの?

 

 とりあえず、クラウンを解き残りの模擬戦を淡々とこなしてく。

 

「はぁ......はぁ......相変わらず強いな。また勝てなかった」

 

 心底残念そうに言ってるとこ悪いが、負けるつもりはない。負けたら最後、その日が俺の命日になる。クラウンには言ってないが事務所を空けていたのは、もしもの時に備えて密か終活していたからだ。

 

「そりゃな、伊達に生き残ってきた訳じゃない。そう簡単に超えられても困る」

「でも......いつか勝たせてもらうぞ」

 

 頼むから勝たないで下さい。死んでしまいます。俺が。そんな言葉を飲み込み、適当に返事を返しとくのだった。

 

 

 

 

 

 一旦事務所でシャワーを浴び、今日の商談準備を整える。時間はまだ充分にあるのでコーヒーを飲む。香ばしい香りが肺と胃を満たしていく。今日のクラウンを見て分かったが、そろそろ仕事の護衛役を任せてもいいだろう。その前に彼等に紹介しなければ。予定変更だ。

 

「クラウン、今日空いてるか?」

「ああ、特に予定は無いぞ。それがどうかしたか?」

「そろそろお前の挨拶を済ませとこうと思ってな。今日行われる商談に連れてこうと考えてたんだ」

「え! つ、着いていっていいのか!」

 

 なんだか嬉しそうに尻尾を振ってるが、そんなに雑務が嫌だったのか?

 

「ああ、向こうも会いたがってたからな。ちょうどいい機会だ。それと名乗るコードネームを考えといてくれ」

「そ、そうかコードネームか......わかった考えとく。服装は、どんなものがいいんだ?」

「何時も通りで問題ないぞ。今さら、気にするような相手じゃないし」

「わかった」

 

 彼女は急いで自分の部屋に戻っていた。本来、そこらのごろつきなどであれば挨拶など必要ない。ましてや、個人営業のトランスポーターとなれば尚更だ。しかしどういうわけか、この事務所の新入りとなれば話は、別らしい。

 

 突然、ポケットに入っている携帯が震えた。エンペラーからだ。

 

「もしもし、どうした」

「どうした、じゃねぇよ。今どこに居るんだよ」

「事務所だが?もう、揃ってるのか?」

「あとは、お前だけだ」

「三十分前から集合して暇なのか?」

「お前のせいだろうが!」キーン

 

 なぜそこで俺が出てくるんだ。召集を掛けた、ウェイ長官に直接文句を言ってほしい。

 

「分かった。それと挨拶を済ませようと思ってな。新入りを一人連れてくが大丈夫か?」

「あ?護衛としてなら大丈夫だろ」

「そうか。じゃあ後で落ち合おう」

 

 そんなこんなで電話を終えると、準備を終えたクラウンがすでに待っていた。......相変わらず口元を隠してフードを被ってる不審者コーデだが大丈夫だろう。

 

 

 

 

「はぁー。今からくるってよ。新入りと一緒だそうだ」

 

 サングラスをかけたペンギンが振り返ると、そこには煙管を吹かせ座っている龍の様な男が一人。身なりが整っており、中華服のような物で隠れているが体格ががっしりとしていることが分かる。煙を吐き終えたところでエンペラーに視線を合わせ、煙がゆるりゆるりと消えるとようやく口を開く。

 

「そうか。また騒がしくなりそうだな」

 

 ウェン・イェンウー。この龍門の執政者である。なかなかの切れ者で世間からは、現代の優秀な統率者の一人として認知されている。今の龍門があるのは彼のお陰だろう。そんな彼が柄にもなく、口元を歪めていた。

 

 

 

 

 

 交通の便がいいのだが、そのせいで渋滞が発生しやすい。その証拠に、濃い排気ガスの匂いが鼻にこびりついてくる。

 

 事務所をかまえている所には、めったに車が通らないせいで、敏感になってることもあるだろうが。肌を焼くようなジリジリとした日差しと、クラクションの音が相まって居心地が悪い。近くに居た近衛局の警備員に声をかける。

 

「少しいいか?」

「はい? 本日このビルは……ク、クリープ様! も、申し訳ありません。ただいま、案内の者をお呼びしますので、少々お待ちください!」

 

 そんなことを言うと、走って屹立しているビルの中に行ってしまった。まぁ、いつものことだ。それより後ろに居るクラウンが、妙にそわそわしてるが大丈夫だろうか。案内役が走ってきて、そのまま荷物検査を済ませる。

 

 警備員や途中ですれ違う時に、毎回会釈してくるは何なのだろう。自分の胃がきりきりしてくるからやめてほしいのだが。というか、後ろに居るクラウンはうんうん頷いてないで止めてほしい。部屋の前に着くと案内人は何処かに去っていった。無駄にデカイ扉の向こうからは、なにやら話し声が聞こえる。

 

「クラウン、大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ。問題ない」

「それと今回は、挨拶だけだ。そのあとは、おそらく別部屋で待機だ」

 

 とりあえず、扉を開け中を見渡す。天井にはシャンデリアが吊るされており、少し眩しく感じる。大きな窓から見える景色は龍門を見渡せそうだ。ここより高いビルは、龍門内に無いだろう。赤いカーペットに一歩踏み出せば、気分はさながら王族だ。エンペラーやウェイ長官と目が合う。とりあえず謝罪しなければ。

 

「すまん、遅れた」

「気にしなくていいパラベラム。それより、席についたらどうだ。」

 

 ウェイ長官との関係は良好。敬語を使わない程度に気安く話せる。相変わらず濃い面子だ。ウェイ長官が後ろに居るクラウンを品定めしている内にエンペラーと話す。

 

「後ろの奴が新入りか?」

「ああ、護衛役としてな」

「お前に護衛なんかいらないだろ。」

「なんでだよ。ちゃんと首が飛ばされれば、俺だって死ぬんだよ。」

「ボストンバックだけ持って戦場のど真ん中つっきってく奴がか? 想像できないな」 

 

 そんな会話を流し、自分の席に座る。さて、本来ここに居る面子が表立って顔を合わせることは殆ど無い。しかし、一ヶ月に一回だけ集まることがある。では、なぜ集まるのか。

 

 それは龍門の防衛協定にある。この防衛協定は俺とエンペラーが、ウェイ長官や鼠王(ソオウ)さんに持ちかけたものだ。

 

 この3人は、それぞれが独立した勢力だ。ウェイ長官は、龍門の執政者であり近衛局を。エンペラーは、ペンギン急便と言う大きな運送会社を。ソオウさんは、スラム街の住人たちと裏社会を。そんな三人に結ばせた契約内容は簡単だ。龍門が関わる危機には協力体制を引くこと。そして、牽制の意味が含まれているらしい。

 

 本来、龍門のトップに契約を持ちかけるなどあり得ないが、エンペラーに嵌められた。ウェイ長官とソオウさんの勢力が争うし、ペンギン急便の面々は荷物じゃなく問題ばかり運んでくる。そんな荒れた状態を近衛局の警備隊やスラム街の住人と協力して事後処理をしていた時のことだ。やることが多すぎて手が付けられなくなり、自分が過労死(ボランティアで)を覚悟していた。

 

 そんな時、エンペラーから一本の電話が掛かってきたのだ。お前の望む状況を整えてやったやら、旨い飯を食わせてやるなど、身に覚えの無いことを話していた。しかし、龍門の飯は美味しく魅力的な提案だ。急いでジャケットを脱いで、スーツ姿に身包んだ。本来は自分の視線を隠すためのサングラスをファッションとして身に着けた。

 

 高級料理の専門店と知った時は、やはり持つべきものは友だなと感動したものだ。ウキウキしながら指定された店に向かった。店に入ると、従業員がやたら奥の方に案内していく。豪華な中華風の内装が綺麗で見惚れているうちに、扉の前に着いていた。  

 

 店員は小走りで消えてしまった。エンペラーとは親しい仲なので、軽い挨拶と共に扉を開けた。

 

「待たせたな.........」

 

 扉を開けてみればなんとこの前鬼ごっこをした既婚者二人組みが、自分の美人な奥さんを引き連れて優雅に食事をしていた。ペンギンの姿など見当たらず、四人の視線はこちらに釘付けだ。そりゃそうだ。いきなりサングラスの不審者が部屋に入ってくれば俺だって目を向ける。きっと部屋の間違いだろうと部屋を出ようと思った瞬間にネズミさんがこちらに言葉を掛けてくる。

 

「お主が皇帝の言っていたものか。少し話をせんか」

「アッ……ハイ」

 

 拒否権など存在しなかった。そこから必死に胃痛を抑え、細心の注意を払いながら話をした。そんな時に話したのが、防衛協定らしい。はっきり言ってあまり記憶が無い。記憶してるのは仏面を保ちながら拷問を耐え切ってベッドの上に倒れたことと、エンペラーに苦情を入れようと連絡先を開くと見知らぬ電話番号が二つ登録されていて、開いた連絡先をそっと閉じたこと位だ。

 

 俺のコース料理と胃の犠牲あってか翌日からは、目立った事件は起こらなかった。

 

 やがて、ウェイ長官の外交が成功して龍門は発展していった。あくまで中心部の話しだが。感染者など貧困層は、ソオウさんが纏め上げてスラム街で暮らしている。そんな光と闇で成り立っている。と、思われているのが龍門だ。スラムといっても衣食住がちゃんと確保しており、住民票などがちゃんと登録されている。これはソオウさんとウェイさんをお互いに説得させた結果だ。 

 

 実際は互いの存在の必要性を認め、絶妙なバランスで感染者や裏社会の人間、そして非感染者が共存している珍しい移動都市だ。本当に苦労した。おもに巻き沿えを食らって。

 

 そんな立役者の一人、ソオウさんがこの場に居ないのは事情がある。ソオウさんはあくまでスラム街の代表者。そして、裏社会の顔といってもいい存在だ。そんな存在が都市の中心にあるビルに出入りして、ウェイ長官と話をしていたら沽券に関わる。そこで、個人営業している俺に白羽の矢がたった。俺がソオウさんに雇われる形で、スラム街及び裏社会の代表の代理人としてこの椅子に座っている。そんな事を利用してウェイ長官にも、ちゃっかりと個人的な契約も結んでもらっている。

 

 もちろんこの商談は、ソオウさんに追々連絡する。特に問題が無ければ、他愛無い話で終るが。そろそろ、クラウンに挨拶させねば。

 

「クラウン、今俺と喋っていたのがペンギン急便のエンペラーだ。そして、お前のことじろじろ視ている既婚者がウェイ長官だ」

「私の紹介の仕方に悪意を感じたのだが?」

 

 じと目で見られたって、忘れもしないぞ。昨日の質問攻めでコース料理を食べさせなかったことを。

 

「よう、新入り。よかったらウチに来ないか?」

「人の社員を引き抜こうとするな。お前の会社なんかに入ろうとしたら一番最初に書くのは、履歴書じゃなくて遺書だろ。命がいくつあっても足りないぞ」

 

 二人の挨拶を終えたタイミングでクラウンに、お前も挨拶しろという意味を込めて目配せをする。すると彼女はコクリと頷き、一歩前に出た。

 

「お初にお目にかかります。私は、クラウン」

 

 教えたことの無い丁寧な言葉使いで話してることに驚いたが、そこで一旦止めて俺の目に視線を一瞬よこした。 

 

「クラウンスレイヤーと申します。以後お見知りおきを」

 

 一礼してから後ろに下がった。前の二人を見てみるとエンペラーはあんぐりと口を開け、ウェイ長官は「ほう」と意味深に呟いている。確かに俺も丁寧な言葉使いには驚いた。ウェイ長官は、礼儀正しい人だからなにやら通じるものがあったんだろう。しかし、スレイヤーなんて物騒な単語どこで覚えてきたんだ?というか護衛の名前じゃないだろ、それ。

 

「お前……これから大変だな」

 

 なにやら、気の毒そうにエンペラーが言ってくるがどういう意味だ。むしろ礼儀正しく、よく出来てる護衛だと思うのだが。

 

「そうか……精進したまえ」

「はい」

 

 そんなクラウンことクラウンスレイヤーとウェイ長官の会話を聞き流す。ウェイ長官にしては珍しい反応で少し驚いた。しかし、クラウンスレイヤーねぇ。なにやら聞き覚えのある名前のような気がする。そんな思考はウェイ長官に遮られた。

 

「さて今日の契約更新は、終了だ。あとは、好きにしてくれ」

 そんな事を述べると、ウェイ長官はこの部屋から出て行った。

「いくらなんでも、早すぎないか?」

「ああ、ウチとの契約更新が終わった時に、お前らが来たからな。お前の事務所の新入り紹介がメインだ」

 

 えっ、そうなの?じゃあ今日は、もう解散?マジか。

 

「ここ最近の龍門は、お前とクソネズミのお陰で平和だからな。それとクソネズミには、俺のほうから連絡しといてやる」

 

 いや俺は何にもしてないだが。これじゃ、俺が虎の威を借りる狐みたいだ。......今さらか。

 

「クラウン、帰るぞ」

 

 クラウンスレイヤーだと長いので、前と同じように呼ぶことにした。彼女はコクリと頷く。

 

 

 

 外に出ると太陽が真上に昇っていた。日差しが強く、ジャケットの上から肌をジリジリと焼く。思わずジャケットを肩に掛け、腕につけている時計を見れば丁度お昼時だ。しかし、こんな暑さのせいか、あまり食欲が湧かない。思わず、テラに無いそうめんに思いを馳せてしまう。

 

 こういう時は海に行きたいが、テラの「海」は碌なもんじゃない。バミューダ海域も真っ青な、人ならざる者が住んでいる。

 

 しかし、商談が早く終わってしまった。事務所に帰っても浮気調査やちょっとした相談事位しか、仕事が無い。仕方ない。

 

「クラウン、先に事務所に戻ってくれないか。雑務をこなしといてくれ。俺は、少し調べ物をしてから戻る」

「ああ分かった」

 

 彼女が帰った後、ぶらりぶらりと歩いていると、露店に気になる新しいゴシップ雑誌があった。値段は、安く良心的で簡単に財布の紐が緩んだ。パラパラとページを捲ると、ふと目が留まった。ページの見出しには、()()()()()()()()()()の謎と書かれている。丁度、俺がウルサスのチェルノボーグ市でとある仕事をしていた頃に起こった事件だ。  

 

 普通はあまり公表されない筈だが、おそらく情報漏洩だろう。まぁ、過ぎたことを気にし過ぎても意味はない。

 

 そう切り捨て立ち上がるとポツリポツリ、と雨が降ってくる。この時期に雨が降るのは、珍しい。喜雨と言う奴か。突然の雨でバックなどを傘代わりしている人が多い。

 

「帰るか」

 

 

 空に広がる乱層雲はあまりにも暗く、喜雨と言うには似つかわしくない。彼の呟きと背中はクラクションの音と、篠突く雨の中に掻き消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
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