テラにて空を仰ぐ   作:Kokomo

4 / 13
 お久しぶりです。最近使わせてもらった新コーデのマウンテン、尻尾がものすごいブンブンしていて、いつも取れないかと気になって仕方ないkokomoです。
 
 危機契約、もうすぐ終りますね。初めての危機契約でしたが、無事に勲章をとることができて安堵しています。人の攻略動画を見るのも楽しいですが、自分で練った作戦でクリアできた時の快感は、忘れられませんね。
 

 それでは、本編をどうぞ。


地上の騒ぎ

 

 

 

 

 004

 

 

 

 

 

 

 

 自分のデスクで一息つく。事務所の窓から外を見れば、朝日が昇っていた。ここ最近は大きな山が無かったため、比較的平和だ。肌寒い季節になったせいで、ベットから出るのはなかなかに苦労した。肌寒いといっても炎国は暖かいほうだ。雪なんて降ることは無い。

 棚からフミヅキさんにもらったお茶の葉を取り出し、二人分のお湯をポットで沸かす。しじまな室内に、コトコトと聞き心地の良いおとが木霊する。準備をしていると事務所の扉が開いた。丁度帰ってきたか。

 

「おつかれ。頼んだ物は買えたか?」

「ああ、ちゃんと買えたよ。それと、ポストの方に手紙が届いてたぞ。お前宛だ。」

「手紙?」

 

 クラウンはこちらに封筒を渡すと、買ってきた物の整理を始めた。とりあえず、沸かしていたお湯をゆっくりと急須に入れてく。お湯が急須に流れ落ちてゆくと、ぶくぶくと茶葉が這い上がってくる様に膨れ上がってくる。お茶特有の甘い馥郁の芳香が部屋を満たす。

 一分程時間があるので棚から茶菓子を取り出す。ソファーには荷物整理を終えたクラウンがすでに座っていた。

 二人分の湯飲みを机に置き、改めて手紙を手に取る。差出人は書かれておらず、封筒は触り心地が良い。やたらと高そうなことだけが分かった。

 この世界で今時手紙とは珍しい。依頼であれば直接会うか、事前に連絡してくるはず。となると、知り合いからだろうか。

 今までしかし手紙を送って来るような奴はいなかった。そんな考え事をしていると、丁度一分後になるようになっていたタイマーがピピ、ピピ、と鳴り響く。お茶の濃さを均等にするために、最後の一滴まで絞るように注ぎまわす。

 

「なぁ、その手紙は誰からなんだ?」

「分からない。差出人が書かれて無くてな。いままで手紙を送られてくるようなことは、無かったからな。」

 

 罠の可能性もあるが、どうしたものか。いたずらの部類だったらいいのだが、この高そうな封筒がいたずらに使われるために用意されたとは考えにくい。そんな事を考えながら、封を開いた。

 出している途中でよく分からない文字がチラッと見えて、思わずそっと封筒の中に戻してしまう。見覚えのある文字だ。たしか、AUSなどが使っていた様な気がする。他には仕事でたまたま会ったアビサルハンター位だろうか。

 

 彼女とは度々会っていたが、苦手意識が今だに拭えない。大きな得物を携えて突然目の前に現れた時は心臓が止まるかと思った。そんな状態で会話を始めてくるので、彼女の機嫌を損ねないように必死に頭を動かしたものだ。確か名前はーーーー 

 

「どうかしたか?」

「いいや、なんでも無い」

 

 彼女の名前を思い出そうとしているとクラウンに声を掛けられた。心配させてしまったようだ。しかし、どうやって処理しようか。恐らく送り間違えたのだろう。この都市にエーギル語を使う住人など聞いたことが無い。もう一度封筒から手紙を取り出し、一通り目を通す。うん、やっぱりエーギル語だよなこれ。まったくもって読めないが、形で判別できる。

 まぁ、誰が送って来たにしろ、触らぬ神に祟り無しだ。本来送られるはずの人には悪いが、捨てさせてもらおう。住所を書き間違えた方が悪い。

 

 そう結論づけ、一息落ち着くために先程入れたお茶を手に取り、一口含む。少し苦味があるが、後味がまろやかでみずみずしい。茎茶は久々に飲んだがこれは落ち着く。やはり日本人。こういった極東の味は日本を思い出す。値段は怖くて聞けなかったが。

 

「クリープ、この茶菓子うまいぞ。黄色と茶色の奴。どこで買ったんだ?」

「それは、フミヅキさんから貰った物だ」

「フミヅキ? 誰だその人。」

「ウェイ長官の奥さんだ。元々は、極東の姫さんでな。俺がウェイ長官と契約を結んでいて、よく会うんだよ。お偉いさんたちのパーティーで、フミヅキさんの護衛として傍に立っていたのさ。いつもウェイ長官が傍に居るわけじゃないからな」

「えっ。初耳なんだが」

「ああ。もうその仕事はやめたからな」

 

 本来、俺みたいな裏社会の人間と契約を結ぶなどあり得ないがすんなりと契約が通った。理由を聞いてみたところ、抑止力とか言ってた様な気がする。

 そんなこんなで話が進むと、成り行きでフミヅキさんの護衛役もするようになった。個人営業のトランスポーターになぜそんな事をさせるのか、と疑問には思った。

 しかし、契約を持ちかけたのは俺だ。結ばせてもらっている側が、そんな事を発言できる訳が無い。それにクライアントの依頼理由をむやみに聞こうとするのは、この業界ではナンセンスだ。

 

 護衛につく前日にフミヅキさんの護衛達と自己紹介をした。特に印象的だったのがシラユキという忍者だ。隠密に長けており、いきなり天井から降って来た時は驚いた。

 シラユキのように腕の立つ護衛がいるため、俺の仕事といったら後ろの方で突っ立てるだけの楽な仕事だ。 

 

 そんな考えとは裏腹に、一度だけ襲われたことがあった。フミヅキさんは強力なアーツを使って返り討ちにして、シラユキも肉弾戦と大型の手裏剣で無双していた。

 俺は巻き込まれないように後ろの方に下ろうとしたら、いきなりステルスゲリラ軍団に襲われた。なんとか撃退してからフミヅキさん達に合流したが、返り血がすごくて会話が殆ど頭に入って来なかった。なによりも、元姫様の強さに驚愕した。

 これなら俺いらないだろとか、ピーチ姫もこれくらい強かったらクッパを撃退できそうだなとか、くだらない考えで現実逃避をしていた。

 

 そんなフミヅキさん達と一緒にパーティ会場に入った途端に静かになった。あれでは、パーティーというより葬式だ。まぁ、確かにフミヅキさんの実力を知って居れば、そうなってしまうのも納得だ。それ以来、やたらとフミヅキさんから色々送って貰えるようになり、契約が終った後も関係は良好だ。

 

「その黄色い菓子は、カステラだ。極東で良く売ってるぞ。」

「へぇー。ところでさ、その仕事は何でやめたんだ?クリープなら自分を売り出して、正規の護衛としてやっていけたんじゃないのか」

「それは無理だな。俺は裏社会の存在だ。その事実は、この龍門のトップに近い存在の正規の護衛になったとしても消えることはない。正規の護衛にわざわざ爆弾の様な存在を置くことは、ウェイ長官が良しとしなかっただろう」

 

 あの人は、あくまで龍門存続のために動いている人だ。だから防衛協定にも利益を見出し、契約してくれた。この龍門の危機が迫るなら、どんな手を使っても食い止めるはずだ。

 何より、自分の妻の横に殺人等をこなしているトランスポーター(?)を、置く訳がない。護衛中にフミヅキさんと会話することがあったが、殆ど惚気話だった。

 それ位夫婦仲がよろしいのは結構だが、身内に甘すぎる気がする。そう感じてるのは、俺だけじゃ無い筈だ。まぁ、護衛にならなかったのは、個人的な理由もあるが。

 

「それに」

「それに?」

「こっちの方があってるのさ、俺には」

 

 これは、間違いないはずだ。トランスポーターは危険な職業でもあるが、少なくとも護衛より安全、だと思いたい。それに護衛は、護衛対象を守り抜く仕事だ。自分の獲物は盾ではなく、二本のナイフだ。襲ってきた相手を速攻で倒している間に、護衛対象が殺されたら本末転倒。

 

 自分の命を守るのに精一杯な奴に出来る職業では無い。そんな職業で生計を立てていくのは、性に合わない。

 そんな時丁度、備え付けの電話が鳴った。冷めたお茶を一気に飲み干して受話器を取る。

 

「もしもし、依頼ですか?」

 

 この事務所に名前など無いので、これくらいしか聞くことが無い。いい加減決めた方がいいか。社員増えたし。

 

「相変わらず冴えない声ね」

 

 受話器から、高温でやや幼さを感じられる女性の声が聞こえた。

 

「冴えなくてすまないね。それでご用件は?」

 

 電話をかけてきたのは龍門近衛局のスワイヤー上級警司。予算管理や戦術立案が優秀で、本人の腕前もなかなか。たまに無茶な依頼を押し付けてくるが、金額がいいので不満はない。

 

「......今回の依頼なんだけど、スラム街の裏通りにある、クラブの調査を頼みたいのよ。最近、変な薬が出回っていて、出所が判明したの。近衛局が調査したいんだけど、それ絡みの案件で手が回らくて。あなたに依頼を出す様にウェイ長官から頼まれたってわけ」

「なるほど。国際関連か。ウェイ長官は他に何か言ってたか?」

「話が早くて助かるわ。ウェイ長官は何も。それと、その薬を鑑定にかけたんだけど原石(オリジニウム)の成分が微量だけど検出されたの。触れるだけじゃ、なんとも無いだろうけど体内に取り込めば感染するリスクが高いわ。恐らくだけど、人工的に感染を起こすのが目的だと思う。気をつけなさいよ」

 

 しかし、ソオウさんからそういった話は聞いてない。ウェイ長官のお陰で龍門はある程度他の国に融通が利く筈だ。

 よし、後処理はウェイ長官に任せよう。政治関連となると、俺の出番は無い。となると迅速に問題を解決した方がいいな。

 

「分かった。引き受けよう。報酬は後日、口座に送ってくれ。」

「えっ。あ、あなた今日中に終らせるつもりなの!?」

「ああ、早いに越したことは無いだろ。それじゃ、アダムスさんによろしく伝えといてくれ」

 

 一方的に電話を切り、準備をする。

 

「クラウン、仕事だ。今回はだいぶ危険で、国際問題絡みだ。なにやら怪しい薬が出回っていて、その薬の成分にオリジニウムが含まれているらしい。情報収集をするから、着いて来てくれ。何事も経験が大事だからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひりつく様な冷たい空気を裂いて走る黒いセダンが一台。車内の助手席には、緋色の髪を隠すようにフードを被ったループスの女が。運転席には、黒髪黒目の種族不明な男が運転している。

 暖房をつけたままだったためか空気が淀んで、いささか気分が悪い。そんな淀みきった空気を外に出すために、女は助手席のガラスを半分ほど下げる。冷たい風が入り込むと、先ほどの淀みはわずかに抜け、幾分か心地よくなった。そんな空間の中で、クリープが放った言葉について考えていた。

 

 『こっちのほうが合っているのさ。俺には』

 

 何処か諦めている印象が強い言葉だったが、そんな考えは否定された。

 ここ四ヶ月同じ屋根の下で暮らして分かったが彼の評判は良い。主にスラム街や感染者からだが、この都市の近衛局からも好印象な者が多く感じられた。

 

 買出しをしている最中、八百屋の店主に呼び止められ彼にお礼がしたい、と新鮮なフルーツを貰ったことがあった。時間もあったためちょとした世間話をしていると話題はクリープのことに変わっていた。彼は五年程前から住み着いたらしく、この辺りでは変わり者だったようだ。荒れた居住区を住民と協力して直したり、無償で炊き出しなどを行っていたらしい。

 トランスポーターに関係ない依頼も断らないでどんな仕事も真剣に取り組む。そんな姿勢もあってか彼は、徐々に馴染んでいた。だからこそ、不思議だった。彼の言葉が。

 彼は裏社会に足を踏み入れなくても、間違いなく生きてける人間だ。そんな彼が示す『こっち』という言葉が分からない。彼の種族を指すのか、裏社会を指しているのか。それとも、彼の秘密に関係しているのか。

 

 命を預けた身として、本当は良くないのだろうが彼の情報について調べた時期があった。彼は殆どの場合契約書をつくる。勿論、契約書に残らないような仕事もこなしているため、あてには出来ない。彼の噂と契約書の日付を頼りにしながら、過去について調べた。六年程前からトランスポーターとして活動していることが分かったが、それよりも前の経歴が一切不明だった。

 

 当初はそれ程気にしていなかったが、ある時少し可笑しな点に気がついた。

 

 確かに経歴が不明なことは珍しくない。国家の戦争や天災によって戸籍などは、吹き飛ぶことだってある。そういった者達は、劣悪な環境で暮らすか、町などを見つけて生活していくしかない。

 

 しかし、彼は非感染者だ。劣悪な環境で生活していればオリパシーに感染する可能性があるはず。ならば村や町、もしくは移動都市を見つけ生活していたことになる。そうなれば、彼の難民手続きが行われていることになる筈だ。野宿できる様な環境が整っている移動都市や町なんて殆ど無い。 

 

 彼の過去を遠回しに聞いてみようと質問したことがある。そういった類の書類の手続き方法を聞いてみたが、『ん?書いたこと無いからなぁ。パソコンで調べれば出てくると思うが......』と言っていた。

 この時に違和感を持った。もし、その発言が本当ならばならば、種族不明で非感染者の彼が、今までどこで生活してきたのか。その技術は、どこで身につけたのか。

 

 隣で運転をしている彼に顔を向ける。背を伸ばしていて、戦闘時のドス黒い瞳ではない。覇気が無く、目の端が吊り下がっていて見方によっては、気だるそうな印象を受ける。いったいどうしたら、その瞳が黒く染まるのだろうか。もしかしたら、元からドス黒かったのかもしれない。いつかクリープを超えて、ゆっくりと彼の生い立ちをきけるだろうか。そしたらきっとーー

 

 車内の淀みきった空気はすでに無くなっていた。未来に思いを馳せて、己を焦がしきってる女とは裏腹に、男は車内の冷たさとこれから起こるであろう事態に肝を冷やすばかりだ。

 

 

 

 太陽のお陰で暖かく感じるが、肌を突き刺すような冷たい風で季節を実感する。車を近くに止め、きらきらと太陽の光を反射させているオフィス街を抜ける。十五分程歩くと目的地が見えてきた。目的地の前で止まるとクラウンが声を掛けてくる。

 

「なぁ、何で探偵事務所なんだ?」

「ただの探偵しか居ないのなら、こんな所に来ないさ」

 

 建物自体は古いが改装されてる様だ。階段を上り、扉を開く。部屋の中は少々狭く感じる。椅子やソファーの置き方が荒れていて小汚さを感じるが、机の上に置かれた盆栽は見事なものだ。窓辺には、大きめな水槽に赤と白の金魚がゆったりと泳いでいた。

 

「よう、クリープの旦那。リーさんとウンなら丁度出かけてるぜ。ワイフーは、大学だ」

「リーさん達じゃやなくて、お前に頼みがあってな、アー。ワイフーは学生だからそんな危険なことを簡単に頼んだりしないさ」

「へー。オレなら良いって訳かい?」

「信頼の証だよ。お前の仕事の速さには、いつも感謝してるからな」

「おー! そいつは、嬉しい限りだ。それで、本日のご用件は?」

 

 目に映っているのは、顔がニヤニヤしているフェリーン。髪が天然パーマのようで左目が隠れている。そんな隠れてしまっている目は見えないが、片目はまん丸と大きくて瞳孔を縦に細長くしながら此方を見据えている。オレンジと白と黒を貴重にした服は、なかなか似合っていて、服の細さから体格がやや小さめである事が分かる。全身の毛並みは、少し荒れているが基本的に整えられていて清潔的な印象だ。要するに直立している猫だ。

 出会いたての頃に猫じゃらしを出したら飛びついてきたことを鮮明に記憶している。なんだかんだで仲の良い友人だ......今さらだが、俺の友人モフモフ率高すぎないか?

 

「最近、裏町にできたクラブがあってな。そこで変な薬が出回ってるらしい。クラブの土地の売買履歴と監視カメラのハッキング。それから、クラブ周辺の見取り図を頼む。あと装備をつけてくれ。何時間で出来そうだ?」

「おいおい、オレを誰だと思ってんだクリープの旦那。これくらいなら一時間で出来るぜ。」

「さすがだ」

 

 頬の端をつりあげ、ドヤ顔を決めているアー。大抵こう言う時は自信がある時か、ご機嫌がいい時だ。これなら任せて大丈夫そうだ。思わず此方の頬も上がってしまう。

 

「それでクリープの旦那。()()は、どの位だ?」

 

 相変わらず良い性格をしている。しかし、何処か恨めない。無言で懐からクラブの住所と、金額と()()を書いた紙を取り出して投げ渡す。

 

「よっと、どれどれ......相変わらず気前がいいねぇー。いいぜ、これくらいの案件ならオレの独断でやれる。アンタの頼みとなれば、断るわけにはいかねぇ。ところで、後ろの女性は?」

「最近ウチの事務所に入った護衛だよ。自己紹介は、改めてさせてもらうさ。それじゃ頼んだぞ」

「あいよ。大体一時間で終るから好きにしてくれ」

 

 アーは、そんなことを言うと奥の部屋に入っていった。特にやることが無いので、来客用の椅子に腰を掛ける。やや古いのかギギ、と音が鳴る。クラウンは金魚が珍しかったのか、観察しながら水槽を優しく突いていた。

 

「................」チョンチョン

 

 楽しそうでなによりだ。彼女ほどの実力になれば、これから起こることなど気にせず余裕なのだろう。そんなことを考えながら、彼女を見つめていた。

 

「ッ……す、すまない。」

 

 どうやら、此方の視線に気がついたようだ。しかし、どうして気がつけるのだろうか。水槽に反射している訳でもないのに。やはりここの世界住人は、どこかおかしい。

 

「いいや、かまわないさ。一時間ほど時間がある。それに見取り図と装備を受け取ったら、そのまま事務所に戻って寝るつもりだったからな。今日の仕事は、夜中になる」

「なるほど、奇襲するのか。それで装備を……」

 

 ゑ? どうしてそうなるんだ。しかも、俺は分かってるみたいな顔で語っているけど違うからね。あくまで保険だと言うことを伝えなければ。

 

「いいや、あくまで穏便にすませるためだ。これらは、もしもの時の保険だよ」

()便()に、ね。そういうのは、大好きだ。ウェイ長官がクリープに依頼を頼んだ意味がようやく分かったよ。」

 

 ダメだ、深読みしてるよ、この子。目が完全に殺す時の目だよ。とりあえず、話が進まないので適当に合わせて無理やり進めるか。

 

「まぁ、俺に潜入なんて合わないしな。それに準備しておくに越したことは無い。夜に備えて、今は英気を養っとけ」

「ああ、それとクリープ」

「ん?」

「俺が言えたことじゃないが、背中は任せてくれ」

 

 なんだこのイケメン。やはり、護衛をつけておくと安心感が違うな。椅子に背中を預けて、瞳を閉じる。椅子は安物だが不思議と心地いい。安心して眠れそうだ。

 

 

 

 

 目が覚めるて、時計をみると55分ほど経っていたのが分かる。重い肩を上げて軽い柔軟をする。筋肉が解れていく感覚が心地いい。短い睡眠だったが快眠だ。クラウンは、すでに仕事を終えたであろうアーと喋っていた。軽い足取りで近づいて、軽く手をあげる。

 

「おはよう、クリープ」

「ああ、おはよう。それで進捗は?」

「ご注文通り全部用意しといたぜ。机の上にまとめて置いといたから、近くの車をこっちに持ってくればいつでも運べる。それと、あの薬はなんだかきな臭い。実物をこの目で見たわけじゃないが、気をつけた方が良いぜ。」

 

 机の真ん中には、クラブの見取り図や数十枚の資料。それから謎の薬品が無造作に置かれている。良かった、ちゃんとガスマスクも用意してくれてたようだ。しかし、何だこの薬。毒々しい紫色の薬は、どう見ても怪しい。まぁ、いつもサービスに新薬を付けてくるから今回もそれだろ。とりあえず礼を言わなければ。

 

「ありがとうな、アー。報酬は、後日送っとくよ」

「楽しみに待ってるぜ、これからもリー探偵事務所をご贔屓に。それと、ド派手な花火を期待してるぜ」

 

 

 

 

 不穏な言葉を聞かなかった事にしようと、早々に探偵事務所から帰ってきた。荷物も無事に運び込め、寝る前にクラウンと共に情報を整理する。クラブの見取り図と監視カメラの映像を照らし合わせ、ターゲット付近の警備などを把握しておかなければ。そこで、手元にあった資料に目がつく。

 

「どうかしたか?」

「いや、ここのクラブの両脇の飲食店なんだが、去年買収されたらしい。問題は、ここを買収したマフィアだ」

「マフィアが?」

「ああ、パラボンドマフィア。2年程前から勢力が衰えてきていて、多種族で構成されている。ここのルールは、しっかりと弁えてるマフィアなんだが...まさかな」

 

 もう一度クラブの方の映像を見てみる。服装が違うが隣の方の飲食店に入った組員がクラブにも出入りしていた。予想していた事態よりも遥かに悪い。さては、このことを敢えて言わずに依頼してきただろ、ウェイ長官。

 

「はー。こりゃ大仕事になりそうだ。クラウンここの組織は、元々はマフィアじゃなかったんだよ。元は極道だったんだ。バラボンドは、極東にパイプがあるから、ちょっとした交易で儲かってたのさ。そしてそんな極道は、どこからやってきたと思う?」

「極道?確か極東の方にいるマフィアみたいなもんだろ......あっ」

 

 どうやらクラウンも気がついたようだ。ウェイ長官の奥さんは、極東の元姫様。龍門と極東は親密な関係だ。それはウェイ長官とフミヅキさんの長い努力の末に手に入れたものだ。

 仮に龍門で元極道のパラボンドマフィアがただの暴力事件を起こした程度では、捕まったりするだけで友好関係に大した影響は無い。だが、今回は別だ。勢力が劣ってきているにも関わらず、店を買収して例のクラブに出入りしている。おまけに、そのクラブでは源石(オリジニウム)入りの薬が売られてると来た。問題は、その資金はどこから湧いてきたのか。恐らくその薬を売買している筈。

 

「そして、事態をややこしくするこの薬の登場だ。まぁ、薬に見せかけてるんだろうが」

 

 源石(オリジニウム)は危険な品物でありながら、移動都市の動力や家電などに用いられている程の万能資源だ。当然、細心の注意を払いながら加工される。鉱石病や天災が発生する原因にもかかわらず、テラの人々はオリジニウムに依存しながら生活しているのだ。それ程の莫大なエネルギーを秘めているなら、当然戦争にも使われる。

 

 オリジニウムアーツ。原石の形や性質を変化させることで魔法のような現象を起こすことが出来る。しかし、この現象を引き起こすにあたって「アーツロッド」や「アーツユニット」等の道具が必要不可欠となる。例外もあって病状が深刻であれば道具無しでアーツを発動できるが、そういった場合は長生き出来ないの者が大半だ。

 

 さて、ここからが本題だ。そんな危険な物を極東にパイプがあるマフィアが、わざわざ粉末にして売っている。おそらく武器関連。粉末にするとなれば、心当たりがある。まだ、確証は得られないがこれ位しか思い浮かばない。他の可能性も考慮して、色々探っているが目ぼしい情報は得られなかった。どちらにしろ、火種は早く消しておきたい。戦争に巻き込まれるのは、ごめんだ。

 

「クラウン、今夜は気を張れ。龍門、極東、ラテラーノ、炎国の4つの国際関係が掛かってるかもしれない」

「ちょっと待ってくれ。なんでラテラーノがでてくるんだ?」

「極東で北の勢力と、南の勢力で内戦が起きてるんだ。そのことは、知ってるか?」

「ああ、でも今は落ち着いてるんじゃないのか?」

「表向きだがな。そこで、この資料に写ってるクラブの薬の出番だ。これは、薬じゃなくて火薬に近いものだ。使用用途は主に爆弾や銃弾などに使われる」

「その火薬ってのは、そんなに危険なのか?爆弾ならまだしも銃じゃ殺傷能力が低いぞ」

「そこだよ、問題なのは。クラウンは銃の撃ち方を知ってるか?」

 

 自分に合う武器を模索していた経験は、こういった時に役に立つ。例え自分が使わなくても、自分を殺そうとしてくる輩が使ってくるかもしれない。情報戦で負ければ戦場では、生き残れない。長いトランスポーターの経験で学んだことだ。

 

「いや、知らない」

「俺は撃てないが、知人から聞いた話によると、腕を銃の内部につなげるイメージをすることが多いそうだ。そこから弾丸の装填状態を把握し、撃鉄を活性化させて撃つ。これが基本だとか。だが、このオリジニウム入りの火薬を使えば、火薬をアーツで起爆して撃つことができる。要するに、従来の銃と違って過程をすっ飛ばしてアーツさえ使えれば簡単に撃てる様になる。源石(オリジニウム)の火薬で撃てる弾丸がな。源石(オリジニウム)と長い間触れていた弾頭を体内に撃ち込めば、非感染者はどうなると思う?ましてや、殺傷能力の低い銃で撃ちだせば」

「感染者を手軽に増やすことが出来る。殺さずに......」

「勿論、これは憶測に過ぎないし、まだそうと決まったわけじゃない」

 

 そもそもこの世界の銃の構造が違うし、パウダーだって使わない。有ったとしても、銃の種類によって使うパウダーは違う。だが問題は、そこじゃない。

 

「一番の問題は、そういった可能性があるかもしれないってことだ。もしそれが実現可能で、極東の内戦に使われれば、感染爆発が起こる。弾丸を作れる奴なんてラテラーノ関係者位だ。あそこの銃や弾丸を模造したりする技術は、他には真似できない。当然、白羽の矢が立つ。弾薬の原料や製造元を洗いざらい調べれば、龍門だって名前が見つかるかもしれない。そうなれば炎国内の都市だから炎国にも目をつけられる。こうやって負のループが続いて4つの勢力で対立が起きれば、それこそ龍門の終わりだ。あくまで予測だがな。そうでなくても、わざわざ粉末状にした物を極東や他の都市に売り出されるのは、火種に成りかねない。否が応でも、今回の仕事は早急に方をつけたい」

 

 さて、そうなると万全の準備が必要だ。これ程の火種をウェイ長官が易々と放置する筈が無い。近衛局が動けないなら、暗部が動いてる筈。となると......

 

「クラウン、確かクラブの裏口の警備は手薄だったよな。」

「ああ、二人しかいない。進入するなら此処だろうな」

「よし、現場にいくぞ。行動を起こすのは、警備が薄くなる22時半からだ。それまでは相手の出方とウェイ長官からの連絡を待つ」

「了解」

 

 

 

 

 

 

 日が沈み、墨色の様なキャンパスに赤、青、白の光が爛々と灯る。人々が来るであろう明日に備え、寝静まった十時三十分頃。

 スラム街を越え、奥深くにある場所。龍門裏市街地。欲望を満たそうとする者。陰謀を図る者。そういった者達が、夜な夜な這入り込む夜の街。裏社会の一端が見れる楽園は、今宵も糸を張り巡らせ不気味にきらめいている。

 

 そんな市街地を切り裂くように走る黒いセダンが一台。怪物の雄叫びの如く、轟くエンジン音は此処に訪れた人々をどよめかせるには充分だった。時速百キロ以上出ているであろう車はとある店に向かって一直線。その店の前にいた警備員達が異変に気がつき車を止めようと、はちきれんばかりに叫んでいた。

 

「おい! 止まれ! クソ!」

 

 そんな事を叫んでいるが、あの爆音のエンジンに掻き消されて聞こえる筈も無い。仮に聞こえたとしても、百キロ以上の速さを出している様な輩は止める気も無いだろうし、今更止められる筈がない。そんな事を思い付かないのも仕方の無いこと。自分の店にとんでもないスピードの車がホールインワンを決めようとしていたら、焦燥感に駆られて他の事など考えられる者なんて少数だ。幸にその少数に当たる用心棒が車の異変に気がついたようだが。

 

「ボ、ボス呼びかけても無駄です! 人が乗ってやせん!」

 

 車が突っ込もうとしている店はクラブの様子だが、客が店内で呑んで、踊って、騒いでいる様子は覗えない。両脇に飲食店の様な建物もあるが、ドアの方には「Close」と掛かっている。

 

「退避だ! 退避!」

 

 黒いセダンは勢い良く突っ込み、クラブの入り口を壁もろとも吹き飛ばした。ガシャンといった鉄とコンクリが激突した音がなかなかに豪快。アクションやカーチェイス映画のワンシーンで有れば、盛り上がる場面と言ったところか。

 

 すると大破した筈のセダンが突然破裂した。ドゴォーーンと地面を揺らす様な音が鳴り響く。クラブからは、大きな火柱が上っている。激しく紅蓮に燃え盛る炎は、鎮火することはなさそうだ。やがて両脇に有った飲食店には、火が燃え移って行くだろう。幸いその店の周りは、殆どが廃墟であった。なにかあっても、このクラブ以外問題は無い。その様子を遠巻きに捉えたものは逸早く危険を察知して、わき目を振らずに逃げていく。普段から暗い部分に身を浸してる賜物か、危機管理能力が長けた者達が多かったようだ。そんな中逃げようとしないクラブの用心棒達。

 

「消せ! 早くしろ!」

「無理に決まってんだろ!」

「“龍門スラング”」

「そ、そんな」

 

 狂乱怒涛、阿鼻叫喚、周囲狼狽。そんな中、逃げようとしなければ火を消そうとすることもしない男女二人組がクラブの裏口付近に居た。近くには、二つの死体。返り血からして二人とも女がやったのだろう。

 

「うまくいったな。クリープ、次はどうする?」

 

 クリープの視線の先には激しく燃え上がり、天高くまで届きそうな火柱。いや、開戦の狼煙と言った方が適切かもしれない。そんな狼煙をドス黒く、深く、光の無い不気味な瞳で見据えていた。この目を覗いてしまった常人は、脱兎の如く逃げ出してしまうだろう。

 

「..................」

「クリープ?」

 

 そんな瞳とは裏腹に男の背中は冷や汗でびっしょりだ。こんな惨状を起こした龍門のトップに心の中でひたすら呪詛を吐いていた。誰だって自分の車がオカシャになれば、気分は最悪だ。しかもそれが開戦の狼煙に使われれば尚更。自分の中で立てていた計画が破綻して、帰りの足も無くした。

 思わず、空を仰げば満点の星が見えた。自分の車が炎上してるのに良くもまあ見えることで。一端落ち着くために、何故この様な事態に陥ったのか記憶を遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 P.M.22:15

 

 

 

 クラブから一キロほど離れた場所。崩れることが無いことは確認済み。誇りっぽく壁の所々に穴が開いていて、室内に冷たい風が流れ込んでくる。床には雑草が覆い茂っており、少し軋んでいる。人が暮らしていたのか、時代遅れな古びた家電がちらほらと確認できる。床の軋む音しか聞こえない廃墟は何処か不気味で考え深いものだ。

 そんな廃墟から、クラウンとクラブを監視し始め4時間が経った。特にこれといった動きはない。敵の数や地形の把握をもう一度確認して、車には必要なものを積んできた。あとは行動時刻を待つだけだ。

 

「クリープ」

「どうかしたか?」

「いや、今回は大きな山だろ。もし良かったらだけどさ、ご、ご褒美とか出るのかな~って。ほら、一応だけど俺社員だろ」

 

 ああ確かに。いくらなんでも今回の仕事は、危険だ。クラブを見れば人に向けちゃいけない様な武器を持っている用心棒が巡回している。となれば、ボーナス位あった方がいいだろ。

 

「ボーナスは出るぞ」

「ほ、本当か? やった!」

 

 何か欲しいものでも有るのだろうか。珍しい。今まで積極的に欲しがる事なんてなかったのに。

 

「俺、頑張るよ!」

「......期待してるぞ」

 

 何を? と、いう言葉を呑む。あれだけ警備が強固だ。必然的にクラウンの力が必要になる。だから落ち着いてくれクラウン。さっきからブンブンと振られている尻尾がこっちに当たって痛いから。

 

「さて、そろそろ準備するか。クラウン、しっかり装備を整えたか?」

「ああ、ばっちりだ」

 

 そんな時に電話が掛かってきた。俺の携帯だ。着信を見ればウェイ長官からだ。やはり掛けてきたか。

 

「すまない、クラウン先に裏口付近で待機していてくれ。先に電話を済ませる」

「了解」

 

 彼女は、自分の得物とガスマスクを腰に携え、軽い足とりで去っていく。段々と小さくなっていく背中を見送りながら自分の携帯を取り出す。ふと、彼女が放った言葉が頭をよぎる。『俺が言えたことじゃないが、背中は任せてくれ』か。ありがとう。その一言を心の中で吐き、携帯片手に目的地までゆっくりと歩く。

 

「もしもし、クリープだ。それで、何か問題でも」

「いや、私の部下が裏市街地で君を見かけた、と聞いたものものでな。大したことじゃない。少し手を貸そうと思っただけだ。君ならこの依頼の意味に気がついているのだろう」

「......ああ」

 

 白々しいことを随分と。とりあえず、元個人営業のトランスポーターの手に余る依頼だということ位だ。基本的に依頼は断らないスタンスだが、さすがに今回は、断れば良かったと後悔している。いくらクラウンが強いとは言え、とんでもない仕事に巻き込んでしまった。

 

「それで、君は如何するつもりだ」

「穏便に済ませるつもりだ。車に荷物を積んでいてね。運が悪いと風通しが良くなるが、その程度で済むならお釣りが来る」

 

 今回の作戦は、シンプルだ。金の力を使う。バラボンドマフィアには、これで引き下がってもらう。本来こんな方法で依頼を解決しようものなら赤字になって商売にならないが、命あってこそ使える金だ。今回のような大き過ぎる仕事は、何としてでも穏便に済ませたい。唯一つ問題があるなら、相手が金が欲しい可能性が低いと言うこと。金が目的で薬を売っているならまだしも、別の勢力が糸を引いてなにかしら策略しているなら話は変わってくる。その場合、金を積んだ車なんて盾にしかならない。そういった場合は、武力行使と脅しでどうにかするしかない。

 

「成程。()便()、ね。パラベラム・クリープの名に恥じないな。相手からしてみればたまったもんじゃない」

 

 何故、俺の知り合いや社員は俺の言葉を信じずに深読みしていくのだろうか。時々会話が成立しなくて困るのだが。しかも、わりと致命的な場面が多い気がする。というか自分の名前の意味なんて知っている筈がない。パラベラム等勝手に周りが呼び始めたのだ。それを含めて今回の作戦について話そうとしたが、それは叶わなかった。

 

「なに、もう下準備は済ませておいた。感謝の言葉は無用だ。」

 

 はい? 思わず思考が停止する。

 

「安心しろ、君の車にちゃんとあの薬品も乗せておいた。うちの工作員は、手先が器用でね。それでは、健闘を祈ってるよ」

 

 ちょっと待て。人の車になにしてくれたんだコイツ。問い詰める前に通話は、オフにされてしまった。クラブの裏口が目視できる距離になると、なにやら聞き覚えのあるエンジン音が鳴り響いている。音が段々と近づいてくるのは、気のせいだろうか。

 

「おい! 止まれ! クソ!

「ボ、ボス呼びかけても無駄です! 人が乗ってやせん!」

 

 正面入り口の方から怒号が聞こえる。その車は一体誰の所有物なのだろうか。しかし、今から正面に回って確かめる時間など無い。うちのセダンからは、こんな怪物じみた轟音など聞いたことが無いぞ。そうだ!きっと違う車なんだ!と、いうかそうじゃないと困る。トランクには、万単位で四桁ほどの龍門弊がみっちりと詰まってーー

 

  ガシャン!

 

 ........まだいける。トランクは、きっと無事だ。早足で裏口へと向かう。裏口に居た二人の用心棒が何か言ってるが今は、それどころじゃない。ひっそりと忍び込んで確認できーー

 

  ドゴォーーン!

 

 ご丁寧に人の車に爆弾まで乗せてダイナミック入店をかましてくれたのか。火薬を作っているかも知れない場所に。基本的にアーツを使わない限り大丈夫だと思うが。...........どうしよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだ! 今の音は!」

「爆発だろ ! 一体誰がこんなことを......おい誰か向こうから歩いてきてないか?」

「は?  おい!  そこで止まれ!」

 

 用心棒たち視線の先には、暗闇が広がっている。街灯が一つも無い中、かろうじて分かったのは人型であることだけ。しかし、覗いてしまった。深淵の様に深くて形容しがたい瞳が二つ。

 

「ッ......」

「……」

 

 暗闇の中、見える筈の無いもの。思わず言葉を失い、本能的に理解してしまう。あれはヤバイ、と。二人が取った行動は、長年の経験で染み付いたものだ。一人は、アーツロッドを構え目標(かいぶつ)に風のアーツを放つ。一人が応戦している間に正面入り口の仲間に応援を要請するため、もう一人が無線を取り出した。動きが早く、無駄が無い。歴戦の動きと言うものだろうか。怪物に対して最大限の注意を払っていた。油断などしない。

 

 だから気がつけなかった。後ろから、その首落とさんと迫り来る狼に。スパッと、横に一線。鮮血が飛び散る様は、まるで彼岸花が咲くが如く、ぐあッ、と広がる。無線機を持った手がダランと垂れるよりも頭が落ちる方が先だった。

 

「なッ......クソ!」

 

 それに気がついたアーツを使う用心棒は、横に回避行動を行う。この距離でやりあうならば、(ナイフ)を持った狼の方が有利だ。横に回避した後、狼が来るであろう正面に風のアーツを放つ。そして此処で漸く気がついた用心棒。正面に狼など居ない。時すでに遅し。その頭は、宙を舞っていた。その瞳で最後に捉えたのは狼か、それとも怪物(諦観した男)だったのか。

 

 

 

 

「うまくいったな。クリープ、次はどうする?」

「.......」

「クリープ?」

「すまない、少し考え事をしていた。この規模の火災だと龍門消防局が来る。中に入ることはできないから予定変更だ。残党狩をする」

 

 いや、やばいな。もう滅茶苦茶だ。残党狩をするって言ったは良いが帰りの足が無い。さすがにウェイ長官が用意してくれるよな……はぁ。そんな思考をクリアにするべく、別のことを考える。

 

 

「クラウンは西を俺は東の方を探す。北と南は、大丈夫だろう。合流地点はさっきの廃墟だ」

「了解」

 

 彼女が居なくなったので、自分もクラブを離れタバコを一本取り出す。マッチで火をつけて、軽く吹かしながら歩く。

 さて、あの爆発で何人死んだのだろうか。情報では80人程いたはず。裏口付近に居たにもかかわらず衝撃波が来なかったのは、クラブの裏口付近が補強されて頑丈だったのだろう。となればあの粉は、裏口付近で製造されていたはず。でなければあれ程頑丈に作られる理由が無い。火が燃え移ってしまい、中には入れなかったがある程度の事が分かった。

 

 解せないことが一つだけある。クラウンがやったあの二人。車の爆発音に驚きながらも対応が早すぎる。暗闇で見えない筈の人物に正確にアーツを放ってこれるだろうか。あれは、そこいらの用心棒がする動きじゃなかった。そこで一旦足が止まる。周りに人の気配は無い。恐らく気のせいだろう。そう思い直し、足を一歩踏み出そうとした時。

 

「驚いた、我々に気付くとはな。パラベラム・クリープ」

 

 いや、気づいてないから。丁度歩き出そうとしてたら勝手に出てきたんだよ、お前らが。目の前には、17人ほどの人影。迷彩のアーツが使えるのか、顔が靄がかっていて喋っている奴は醜い顔をしている。間違えた。見にくい顔だ。

 

「我々がお前を探して早数年。ワーニャ公爵を......」

 

 なにやら長々と喋っているところ申し訳ないが、今はそういう気分じゃない。自分の車をワイルド・スピードに出てくる様なカースタントに使われ、大金を失った。おまけにタクシーを呼んで帰れるような金は、家に置いて来ている。依頼達成なのかは、爆破落ちでなんとも言えない。仕舞いには、よく分からん不審者どもに絡まれる。踏んだり蹴ったりでもう疲れた。

 吸った煙をゆっくり吐き出せば、煙は月光に照らされ淡く光った後、揺ら揺らと風に乗って消えていった。タバコは、好きじゃないがこの世界に来てから吸うようになった。やめようと思えば辞められるし、普段は吸わない。むしろ嫌いだ。

 

「貴様! 聞いているのか!」

「ん? ああ、そうだな。それでお前は、俺を如何したいんだ?」

 

 徐にタバコを棄てる振りをしながら、後ろのポッケにある小さなビンを取り出す。あの爆発は、恐らくこれの仕業だ。ウェイ長官から話を聞いた時とアーの言葉で思い出した。

 

「決まっているだろ。お前を殺す」

「そうかい」

 

 さすがにこの人数をナイフで相手にしたくない。いささか数を減らそうか。毒々しい紫の液体が入った液体を相手に投げる。タバコだと思っていたのか、何人かが動揺して目を見開いている。その隙にカランビットナイフを抜く。放射線を描きながら、怪しく光る薬品。ちょっとした八つ当たりだ。今更手ぶらで帰れない。

 

「その薬、悪い奴を更正させる効果があるそうだぜ。今世かどうかはお前ら次第だがな」

 

 ボン! と、爆発した瞬間に前に倒れるような体勢をすることで、倒れる勢いを使って一気に距離を詰める。煙が消えた頃には、5人倒れていた。爆弾の威力に舌を巻いたが、それどころじゃない。残りの12人を目視で確認し、一番近い相手に目処をつける。

 敵が複数人の場合、相手の陣形を崩すことが最優先だ。それが出来なければ、ひたすら回避する良い的だ。何より一人一人を確実に殺しながら、時間を掛けないことが重要になってくる。

 

 懐に入り込むと、大腿部分をなぞるように素早く斬っていく。敵が悲鳴をあげる前に首に一刺し。敢て殺しきらない程度にしておく。こうしておけば、大きな肉壁として使える。ヒュー、ヒュー、と懸命に生きようとしている呼吸音が聞こえるが無視する。敵が攻撃してこないことを確認し、一思いに首捻る。一人。

 

「き、貴様よくも!」

 

 相手が喋っているが、気にせず駆け出す。さすがに危険を感じたのか陣形を組もうとしている様子だ。前の方から剣を構えた敵が左から振りかぶってきたので、此方に届く前に右に回避し、左足で相手を躓かせて転ばす。いちいち前衛に構う必要はない。

 クロスボウが此方に向けられた。距離は二十メートルと行った所だろうか。人数は三人。射線に被らないように二人の術士が展開していた。一方的に撃たれると厄介なので、シールドを構えた敵に飛び込む。こうすれば射線が被って撃てまい。前の重装兵がシールドバッシュを此方に放とうとするが、相手のシールドの下に出来た隙間に入り込むことで問題は無くなった。相手の体格が大きくて助かった。装備が厚い重装兵は、装備に刃が通りにくいので、装備が薄い関節部分を重点的に攻撃する。まずは、腕。ひじ周りを削ぐ様に切ると腕がだらんと垂れる。このまま足を攻撃して確実に仕留めたいが、もたもたしていると後ろで転んでいた前衛に切られてしまう。そうなる前に首を何回も素早く刺し捻る。二人。

 

 飛び散る血の量が激しく、視界が赤一色に染まる。片腕で顔を拭えばクロスボウや術士が、此方に遠距離から攻撃を仕掛けてくる姿が確認できた。それを地を這う様にして不規則に走ることで、矢やアーツを回避する。イメージは蛇だ。今日はなかなか冴えてるな。流れ弾が後ろで転んでいた前衛の頭を吹き飛ばした。三人。

 

 大体五メートル程の距離に詰めると、五人いた後方支援組が散開。四人の前衛が前から襲い掛かって来る。主にナイフや直刀で一人は槍だ。ナイフを持った二人が同時に襲ってきた。左右に回避できず、後ろに下れば遠距離攻撃で牽制されてしまう。こういった場面は何度も経験した。対処法は、簡単。勢いの乗った身体をピタっと止める。俺が来るであろう場所を予測して振られていた二本のナイフは、目の前を空ぶった。

 

「なっ」

 

 動揺している隙に乗じて、片方の首を刎ねながらナイフを奪い取る。四人。

 

 奪い取ったナイフでもう一人のナイフ持ち前衛の腹に刺し捻り、突き刺さったナイフ目掛けて膝蹴りを放ち、そのまま首を切る。五人。

 

 残りの槍と直刀の二人は、武器的にやりやすい。槍が突いてくる場所にナイフを滑らせながら懐に入る。横から違う敵が直刀で突きを放とうとしてきたので、槍兵の鼻辺りをひじで殴り、槍を右脇で挟み込んで槍兵を押し出して襲ってこようとした敵に突き飛ばす。槍を放してくれたので、それを二人の首に強引に突き刺さんと、突きを放つ。自分の力だけじゃ、貫通しないので全体重を掛けながら勢いで穿つ。グシャリ。七人。

 

「か、怪物め」

 

 敵の後方支援組みが罵ってくるが、事実なので仕方ない。これだけ返り血を浴びてしまっているのだから。

 一気に加速し、長物のボウガンを撃ってこようとしたタイミングで逸らし、奥の呪術師の頭を射抜く。そのまま、ボウガンを撃てないようにしながら、心臓辺りをナイフで突いてから首を刺す。九人。それに狼狽えた二人の首をほぼ同時に数度突き刺す。十一人。

 

 最後の一人は接近戦を持ちかけてきた。相手の素振りを避け、左手で相手の顎を思いっきり押す。そのまま右に回り込み、相手の膝裏を蹴れば弱点の首をさらけ出す様な体勢になるので、そこに最後の一刺し。十二人。

 

 

 

 

 

 僅か十秒で作り上げた惨劇。立っているのは、真っ赤な男一人。鎧袖一触。この言葉に尽きる。

 

 

 

 ナイフにこびり付いた血を軽く落としてからしまう。先程地面に落としたタバコをしっかりと拾って、持ち運びできる灰皿に棄てる。自分から漂ってくる血の匂いをしっかり受け入れた後、懐から新しいタバコを取り出す。マッチで火をつけ、吹かしながらその場を後にした。

 

「あ~。シャワー浴びてぇ~」

 

 

 

 

 

「はぁ.....はぁ......スー......クソクソクソ! なんで、クリープが居るんだよ」

 

 北に向かって走る男が一人。このままいけば、裏市街地を抜け出すことが出来るだろう。男の格好は、ボロボロ。コートは原型を保っておらず、スーツには所々穴が開いている。しかし、この男はクラブに居たわけではない。違う店でちょっとした商売を行っていたところ、何者かに襲われた。ここで行われる商売なんて大半が違法だ。勿論、細心の注意を払っていた。結論を言うなら彼が襲われたのは、近衛局の暗部。いわば、特殊工作員だ。

 ウェイ長官は、龍門の火種を一掃しようと策略していたのだ。そのために顔が有名で腕利きのトランスポーターを雇い、今回の騒動を引き起こした。本来ならば裏社会に積極的に介入なんてしない。しかし、龍門の存続が危ういならば、話は別。灰色のリーには話をつけており、関係の無いものは避難が完了している

 

 そんなことを知る由の無い男はこの裏市街地で何が起こったか分からず

本能に従って逃げている。この路地を抜ければ裏市街地を抜け出せる。走る、走る、走る。

 

「よっし!」

 

 抜け出した瞬間、パッと周りが光る。暗いところから明るいところにでたときに起こる眩しさでは無い。

 

「武器を棄てろ!」

 

 凛とした言葉が、あたりに透き通った。余りの眩しさに思わず腕で顔を隠す。この声は間違えない。龍門近衛局の特別督察隊のチェン隊長。ようやく光に慣れてきた目で確認した。傍には、大きな盾を持った鬼人が一人。男を囲い込むように配置された隊員達。ここで漸く気がついた。自分は嵌められたのだと。おとなしく膝を突き、両手を挙げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 身体にこびり付いた血が固まり、動きにくさを感じながらも何とか廃墟に帰ってきた。クラウンは、まだ居ないようだ。近場の石に腰を下ろす。すると向こうから数人の人影が走ってくる。一番前に居るのは、クラウンだが。はて、後ろは誰だろうか。目を凝らしてよく見ると近衛局の警備隊だと思われる装備姿だった。

 あーやっぱりか。到着するには、速すぎる。予め待機していたのだろう。大方予想はしていた。ウェイ長官はこの騒ぎを利用して、この裏市街地で龍門に良からぬ事を策略していた者達をまとめて排除しに掛かったのだろう。表向きに行動できないが、今回の様に理由を作ってしまえば動けるようになる。あの人の作戦は、なかなか大胆でぶっ飛んでいる。巻き込まれ、振り回される身にも成って欲しいもんだ。

 

「クリープ、西の方は特に問題なかったぞ。そっちは……中々だな」

「ひっ......」

「おい、失礼だろ」

 

 しかし、クラウンは驚かないか。後ろに居た何人かは腰を抜かしているみたいだが、それが普通だ。俺自身も気分が良くない。こんな姿では徒歩で帰ることも出来ない。

 

「ああ、ここから東に三十分行けば死体が十七人転がってる筈だ。処理を頼む」

「は、はい! 今すぐに」

 

 二人の隊員がこの場から居なくなる。残ったのは三人。クラウンと俺、そして先程腰を抜かしていた隊員を咎めていた隊員。少々気まずいので話題を振る。

 

「クラウン、お前は近衛局の車に乗せてもらえ。俺は近衛局で話をしてから帰る」

「いや、俺が事情を話すよ。そんな姿じゃ、話を聞く側も辛いだろ?」

 

 そんなことを近くにいた近衛局の隊員に話しているが、君も返り血着いてるからね。俺よりは、マシだけど。

 

「そ、そうですね。クリープさんは先にお送り致します。後日改めて、話をお伺いしますね(クリープさんの返り血、座席にこべりつくんだろうなぁー。はぁ)」

 

 ほら、クラウン。近衛局も引いてるぞ。血まみれの俺が言えたことじゃないので、口には出さないが。

 

「クリープさんは此方に」

「ああ、クラウンまた後でな」

 

 コクリと頷き返し夜空を見上げ散る姿は返り血が付いてなければさぞかし映えただろう。そんな姿に背を向け、冷たい風を浴びながら歩くこと五分程。近衛局の車が見えてくる。助手席に座り、ちょっとした雑談で盛り上がる。やれ上司が煩いだの、やれ既婚者の癖して落ち着きが無いなど。そんな会話をしていれば、事務所についた。だいたい20分程だろうか。

 

「それでは。また後日」

「気をつけてな」

 

 自分の事務所の階段をカツン、カツン、と上って扉に手を掛けた。……窓を閉め忘れたのだろうか?中から風が吹き抜けるる様な音が聴こえる。クラウンが帰ってくるにも早すぎる。いつでも、自分の得物を抜けるように手を腰に添える。一瞬入らないという選択肢も思いついたが、今の自分の姿で外に居ると良からぬ噂が流れかねない。いい加減、シャワーを浴びたい。そんな欲が鍵をゆっくりと開け、勢い良く扉を開く。

 

「ごきげんよう、クリープ。久しぶりに顔を会わせましたけど、相変わらずのようで何よりですわ。初めて手紙を送らせて貰ったけど、いかがでして?」

「.........」

 

 やっべ。超帰りたい。あ、帰ってたわ。

 

 

 

 

  to be continued

 

 

 

 




 ちなみに、この小説の終着地点は考えているのですが、その道のりがまぁ長い。書きたいことが多いせいですかねぇ。一応、時系列も整理してはいるんですが、中々大変ですねこれ。自分の持ってないキャラは、プロファイルバレ起きちゃいますし。
 しかし、そんな設定など読み返すごとに感心させられる作品でして、創作意欲がどんどん湧いてきますね。
 自分が納得いくまで書き直してしまい、決まって投稿できなくて申し訳ないです。次の投稿も不明慮ですが、これからも自分なりに楽しんで書いていこうと思います。



 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。