テラにて空を仰ぐ   作:Kokomo

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 すべての人間の一生は、神の手によって書かれた童話にすぎない。


青と緑と緋色と黄色

 

 

 006

 

 

「いらっしゃいやせー」

 

 祝日であれば大抵の店は賑わっているものだが、どうやらこの飲食店は違うらしい。かといって、店が営業していない訳ではない。その証拠に店員が快く出迎えてくれたし、丸見えの厨房の方からコトコトと何かを煮ている音が店内を踊って胃袋が刺激される。

 店の外に出来るであろう行列は無く、店内には誰も座っていない紅くて丸いカウンター席が秩序よく並んでいた。テーブル席も同様で、すっからかんなコンサートだ。

 

 では、祝日である日に何故無観客なのか。

 

 それは目の前で出迎えてくれた店員の風貌が原因だろう。

 片手には包丁。彼が身につけている青であろうエプロンは、赤黒く染まっていた。そんなファッションと彼の人相が相まって、映画に出てくる殺人鬼のような迫力がある。店の外からそんな奴が見えたら、常連客以外は入らないか。

 本人にとっては、いつも通り生活してるだけで面倒見の良い奴なんだがなぁ~。まぁ、人って第一印象で決まるって言う位だから、仕方ないのかもしれない。

 

「どうかしやしたか?」

「いや、なんでもないよ、ジェイ。二名だから、テーブル席で頼む」

 

 ちらり、と後ろを見れば物珍しそうに店内をきょろきょろとしている、不審者コーデのクラウンが目に入る。そんな俺の視線を辿ったのか、ジェイは少し目を丸くした様子だ......うん、やっぱり第一印象は大事なんだな。

 ジェイは一瞬だけ視線を俺に寄越し、そのままいつもと変わらない様子で接客してくる。

 

「あー、分かりやした。てきとうな所にすわってくだせぇ」

「ああ、ありがとう。クラウン、行くぞ」

「うん、分かった」

 

 奥のテーブル席に二人向かい合う形で腰を掛ける。クラウンはこれといってジェイを気にしてない様子。

いやー、育ちが良いのか、感覚が麻痺してるのか、判別がつかない。

 

「注文がきまったらぁ、よんでくだせぇ」

 

 ジェイはそのまま厨房に戻っていく。少し落ち着いてから、机に置いてあるお品書きを手に取った。とはいえ、今更俺は見る必要も無いのだが。とりあえず、新メニューが増えてないかチェックすることで、クラウンの注文を待つとしよう。

 

「クリープ、お勧めとかあるか?」

 

 あー、お勧めを聞いてきたか。この店、いかんせん料理が多いから何とも言えん。しいて言うならやはり魚団子スープだろうか。

 

「......あるぞ、この店の魚団子スープが滅茶苦茶うまい。まぁ、時間はまだあるからゆっくり決めていいぞ」

「ふーん、そっか。じゃあ、お言葉に甘えて。クリープはそのスープを頼むのか?」

「ああ、ボリューミーで暖まるし。この店に来ると大抵これだな」

「そっか、じゃあ俺は別の頼むからお互いに一口交換しないか?」

「いいぞ」

 

 特にこれといった問題も無いので、メニューを見ながら適当に返事をしておく。

 お、新メニュー増えてる。達筆な字で堂々と「チキン」と書かれていた。それ以外は特に書いていないし、焼いてるのか、煮ているのか、燻製してるのかも分かったもんじゃない。冒険はやめとくか、やさしい味のスープで暖まりたいし。

 しばらくすれば、クラウンもメニューが決まり、「すみませーん!」、とクラウンが元気はつらつにジェイを呼んだ。クラウンはラーメンを頼み俺は魚団子のスープを。

 

「注文は以上ですかい?」

「はい」

 

 尻尾を悠々自適に揺らしながら返事をするクラウン......取り敢えず、一安心か。机隣に立っているジェイの格好には不安を覚えるが。

 

「分かりやした」

 

 ジェイはぶっきらぼう答えてから、早々と厨房に向かっていった。

 

「クリープ、明日は仕事あるのか?」

「ん? いや特には。しいて言うなら書類整理くらいだ。明日どっかに出かけたいのか?」

「えっと、......鍛練に付き合ってほしくて。ほら、今日と朝の運動も出来てないし。だから明日丸一日、な」

 

 やや遠慮気味にお願いしてくるクラウン。だからといって、俺は簡単に首を縦に頷くことは出来ない。

 彼女の精神状態も心配だが、丸一日付き合った後の俺の容体も心配だ。そもそも、丸一日俺が付いて行けるかどうかの体力勝負だろ? うーむ。どう考えても、土に首を垂れてへばってる気がする。

 申し訳ないが、断――

 

 ――ガラガラガラ

 

「いらっしゃいやせ、今日はお連れさんも居るんですね」

 

 おお、良いタイミングで客が来たもんだ。ジェイが「今日は」と言っていたから、常連客だろう。取り敢えず鍛錬の話は棚に上げて――

 

「よう、ジェイ。そうなんだよ。うちの隊長様が、どうしても、と言うから」

「おい。どうしてそこで私が出てくるんだ?」

「ハハハッ、いや、すみません。ついつい」

 

  Oh my goodness!

 

 背中を叩くような、豪快な笑い声の鬼。そして、凛とした声で鋭くつっこむ龍の声。龍門で最強の盾と矛。

 なーんで、龍門ハッピーセット(追われたらアンハッピー)が、この店に来てるんだよ。黙ってれば、やり過ごせるかな? いや、どう考えたって無理か。

 

「相変わらずそうで。何かご注文はありやせんか?」

「私と、チェンにスープを。席は、......おっ」

 

 あー、やっぱりハッピーセットの声だ。相変わらず仲のいいことで何より。こちらに気が付いたぽっいが、知らん知らん。せめてもの抵抗で、後ろは振り返らない。そんな意思表示を無視して、彼女達の会話は一方的に盛り上がっていく。

 

「なぁ、チェン。相席でも構わないか?」

「構わんが......」

「そうかそうか!」

 

 あー駄目ですねぇ、これ。相席ゆうてるし、アルハラの声が活き活きしてるし。ロックオンされましたわ。

 

「相席って言ってるけど、店内の客って俺達だけだよな。クリープ、あの二人って知り合いか?」

「......そうだな。ほら、龍門近衛局の特別任務隊だ。本人達は知らないが、裏ブラックリストに載ってるぞ。クラブの騒動が終わった後、見かけなかったか?」

「いいや、見てないな。事情徴収は別の人だったし.........というか、裏ってなんだよ。非公式ってことか?」

「そう、近衛局の隊員とか観光業経営者、その他住人たちのお墨付き。青い髪の奴は特にそうだな。なんてったって、公務員が一生働いても買えない名画を一刀両断にしたからな。犯人を捕まえるためとは言え、ちょっとな」

 

 いやー、ウェイ長官が甘いからなぁ~。ほんと。一緒に後処理をした隊員が懐かしい。今じゃ死んだことになって暗部に入っているが、元気だろうか。天井のシミを一つ一つ数えながら、昔に思い耽る。現実はしかし残酷だった。

 

「よう、クリープ」

 

 突然、群緑色の髪が視界に広がる。彼女はニヒルな笑みを浮かべて、鬼の金眼を気味悪く輝かせた。

 

「.........ああ、こんにちわ」

 

 アルハラ、もとい鬼のホシグマの身長は百八十を超える。と、なれば座っている俺を当然見下ろしている状態な訳だが。

 

 ああ、そういえば、彼女も百八十位だったか。彼女にも、こんな風にされたことが何度あったことか......

 

 ふと、プクプクと浮かんできた泡のように思い出したのは、そんなくだらないこと。

 

「クリープ?」

 

 此方の様子に異変を感じ取ってか、クラウンが声を掛けてきた。

 あー、いかんいかん。まだ肉体的にはボケてないはずなのだが、精神に引っ張られたせいかな。

 

「......いや、すまない。考え事だ。それより、ホシグマとチェンは良く此処に来るのか?」

 

 思考の海から抜け出して、チェンとホシグマに話題を投げる。やや間を置いた後、チェンが「いや、今回が初めてだ」と不機嫌そうに答える。彼女の顔が不機嫌そうに見えるのは、何時ものことなので特段気にしない。初めて会った時はびびったが、ウェイ長官の教育の賜物だと知って色々納得した。

 そこに、補足するようにホシグマが説明してくれる。どうやら、ホシグマはジェイの様子を見に来たらしい。なんでもジェイに此処の店を紹介したのはホシグマらしく、彼女はジェイの様子を見るため、度々この店に訪れているそうだ。

 なるほど、だからジェイがあんなファッションでも店に入ってきたのか。常連というよりも保護観察官みたいな......いや、ジェイは犯罪者じゃないし、むしろホシグマのほうが......まぁ、この二人ならそもそも人の格好がホラー映画状態でも気にしないか。

 

「それよりも、だ。早く座ってしまおうか」

 

 彼女はそんな事を述べて、群緑色の髪をなびかせ俺の隣にどかどかと座ってきた。

 

 こいつ。図太い性格してるな。

 

「すまない、隣に座ってもいいか?」

「......どうぞ......」

 

 チェンを見習え、チェンを。眉間に皺を寄せながらも、申し訳無さそうにクラウンに声を掛けた上司殿を。

 横をちらりと見れば、ホシグマはニコニコした顔でチェンとクラウンの事を見ていた。

 

............。

 

「......良いのか? 後で怒られるぞ」

「いいんだよ」

 

 ホシグマだけに聞こえるように呟けば、彼女は嬉しそうに一言を零す。その横顔はどこか哀愁が漂っていた。

 

「おい、そこ! 聞こえてるからな」

 

 ......あーりゃま、さすがに聞こえるか、って「なんで俺を睨みつけるんだよ」と抗議の声を上げてみたものの、チェンの眉間は深くなり、睨みは鋭くなるばかり。

 

「はっはははは! あー。っといけない。自己紹介がまだだった。私はホシグマ。今は勤務外だから気軽に呼んでくれ。よろしく」

 

 隣は隣で、一人大爆笑したあと平然と話題を逸らすアルハラ。この鬼め、俺をスケープゴートにしたな。

 

「......よろしく、ホシグマさん。俺はクラウンだ。えっと、隣の人は」

「チェンだ、よろしく頼む」

 

 と、軽い自己紹介を彼女達は済ました。それからはお互いの様子見で、最初こそ口数は少なかったものだが此処はテーブル席。互いに距離感を掴めば会話は流れるように弾むし、女子三人は気が合うのだろう。

 やや、女々しさ感じる会話を適当に聞き流して、存在感を消しながらひたすら料理を待つ。そんな時間はやたらと長く感じ、少々居心地は悪くなってきた。主に隣に座っているアルハラのせいだが。まぁ、此方の事情に深く踏み込まない辺り、気は利く方だしクラウンにも良い経験になるか。

 

 さて。それは置いといてだ。クラウンの横に座っているチェンの視線がさっきから痛い。なんていうか、チクチク刺さってくるような感じ......やっぱり、この世界可笑しいと思うんだ。普通視線でそんな訴えてくるようなこと出来ないと思うんだよ。ウェイ長官がそっち方面の技術とか教えたのかもしれないけど、それを加味しても――――

 

「ご注文の品、お持ちしやした。スープ三つに、ラーメン一つ。以上、ですかね」

 

 隣のアルハラが、「ありがとう」と伝えるとジェイは料理を並べていく。目の前にきた黄金色の魚団子スープからは湯気がゆらゆらと。魚介だしがきいた匂いは、魚特有の癖がなくて優しい芳香。

 初めてこの店に来たチェンとクラウンの様子を窺う。クラウンは唾を飲み、チェンは心なしか眉間の皺が浅くなった気がする。

 

「これは......すごいな」

 

 隣のチェンの言葉に頭を振りながら激しく同意するクラウン。どうやら、ジェイの作ったスープは龍の胃袋を掴めるのかも知れない.........こんどウェイ長官を誘ってみるか。あの人大衆料理の方が好きだし。

 

「うん、この店は何度きても飽きないな。では、お先に。いただきます」

 

 お前の場合酒の締めだろ。なんて、口が裂けてもいえない。彼女の少突き一つで俺のアバラは消し飛ぶのだから。自分も黙って、スープを食べようと、手を動かしたときにふと気が付く。

 ああ、そういえばそうだった。

 ジェイの背中に一声掛ける。

 

「すまん、ジェイ。取り皿を二つ頼む」

「分かりやした。深皿でいいですかい?」

「ああ、ありがとう」

 

 彼から深皿受け取り、黄金色のスープと魚団子を少し入れてクラウンの前に出す。

 

「え? いいのか?」

「ああ、クラウンが食べる前に言ってただろ? 一口交換しよう、って」

 

 クラウンは一瞬だけハッ、とした表情に。

 そんな俺たちの様子を興味深そうに隣から眺めてるホシグマ。

 脇目も振らずスープにご熱心なチェン。

 

 .........。

 

 まぁ、なんというか。

 この殺伐とした世界でもこんな光景があるんだな、と。

 いや、こんな世界だからこそ、この光景に価値が付くのか、と。

 我ながら、今更過ぎるが。

 当たり前すぎて笑えてくるが。

 

 

 

    うん?

 

 

 

 

 

「うん、ありがとうクリープ」

「......どう致しまして、クラウン」

 

 まぁ、いいか。些事だ。

 

「なんだなんだ、二人だけで良い雰囲気なって。私も混ぜてくれよ」

 

 と、隣の鬼が割り込んでくる。

 こいつ、酔わない筈なのに酔っ払いみたいなテンションだな。

 

「目の前の上司に構ってもらえ」

「ああ、彼女ならもうつぶれてるぞ。ほら、酔うといつもああなんだ」

 

 は?

 

 視線をずらせば、無防備にテーブルに頭を預けてる彼女が。幸なことに、スープを完食してから酔い潰れたようだ。はえー、あんなに呂律回っていたのに? ちょっとした興味本位で寝顔を覗く。

 眉間の皺が取れ、穏やかに、規則正しい寝息で眠りについている顔。起きてる時は不機嫌の権化みたいな顔つきだが、こうして寝てるだけだと案外眉目秀麗なものであった。いや、近衛局の隊長というレッテルが取れた状態、といった方がしっくりくる。

 

「えっと、どうするんだ? ホシグマさん」

 

 当然の疑問を、控えめな声で投げかけたクラウン。

 

「そうだな、どうしようか」

 

「困った困った」などといいながらもさぞ楽しそうな彼女は頭を掻いて軽く答える。そんな様子を尻目に、自分のスープを一口。

 暖かくは無いが冷たくもない、おいしいスープだった。スプーンを丁寧に置き、ホシグマにお前が持ち帰れ、といった視線を送るつもりだったが、

 

「驚いた」

 

 その一言で遮られてしまった。ホシグマにしては素っ頓狂な声だったので思わず横を見上げた。彼女のまん丸とした瞳には俺が写っていた。

 

「クリープ、そんなに行儀が良かったのか?」

 

 うーん? 要領を得ない会話に眉を顰める。クラウンならまだしも俺のこと言ったよな、こいつ。あー、皮肉か。人のバイクをスクラップにした癖になんでテーブルマナーはできてるんだ、的なことを言っているのか? 

 だとしたら耳が痛い話で、目も当てられない事実だから黙るしかない。と、いうかこれ以外の選択肢って死ぬのではないだろうか、俺が。あのときだって人の話を聞こうとせず、問答無用で殴り殺そうとしてきたし。

 いや、謝った方がいいか。

 

「悪かったよ」

「......いや、褒めたつもりだったんだが。まぁ、いい。そうだな今日は引き上げるよう。彼女は眠ってしまったし、と」

 

 彼女は席を立ち、自分の上司を片手でヒョイっと担ぎ上げた。この世界の物理法則は理不尽が過ぎる。

 

「料金は私が払っておいとくからあとは二人で水入らず楽しんでくれ。ああ、それとクリープ」

「なんだ」

 

 思いもよらぬタイミングで名前を呼ばれて、反射的に返してしまう。

 

「......いや、今は間が悪いか。すまない、忘れてくれ」

 

 俺とクラウンの顔を交互に見たあと、勝手に一人頷きホシグマは帰ってしまった。あれ、なんか勘違いしてるだろ。

 

「なぁ、クリープ。あれ、勘違いしてないか?」

「奇遇だな、俺もそう思ってたところだ。ましてや奢るつもりが奢られてしまった」

 

 そんなことを聞いて、クスリと笑ったクラウン。ふーむ。まぁ、うん。楽しそうで何よりだ。

 

「ところでさ、あの人が例のアルハラ? って人?」

「......ああ。本人に絶対言うなよ。面倒なことになるから」

「あー、うん。頑張るよ。チェンさんに怒られそうだし」

 

 クラウンは少々やつれた顔つきで、ため息と共に吐いた。

 ......クラウン、多分だがお前も誤解してるぞ? ま、面白そうだから黙っておくか。

 

 残ったスープをいっきに飲み干す。先程とは違って完全に冷たいスープは、何とも言えない物足りなさがあった。

 もっと食事に集中しとけばこんなことにならなかったのだが、これも悪くない。なにより、クラウンも少しだけではあるが良くなってるはず。ほんと少しで、微々たるものだがこの調子なら、きっと――――

 

「大丈夫かクリープ? さっきから上の空っていうか......」

「ああ、問題ないから大丈夫だ。さて、速く帰ろうか」

 

 ジェイに一言、美味しかったと伝え店を後にした。

 二人で夜道を歩くのは中々に新鮮で、少なくとも彼女意外と経験したことは無かった。

 

「クリープ、本当に大丈夫か? なんかいつもより変だぞ」

「ん? そんなにか......」

 

 そんな会話に和みながら、一瞬だけ天を仰ぐ。

 夜空には何時もとなんら変わらない星がポツポツと。

 

 ただ、今だけは。

 

 今だけはどうしても美しいと感じられなかった。

 

 それは何気ない日常の方が価値があると感じたのか、それともクラウンや人魚の様に美しい彼女のお陰なのか......

 

 

 

 なんて、考えすぎかな。

 ところでクラウン、俺お前のラーメン一口貰ってないんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 安息の地に古臭い木造建築の居酒屋が慎ましく佇んでいた。店内に入れば、真正面にカウンター席があり、奥の方にテーブル席といった奇想天外な構造。そんな店の主人は黄色いエプロンを身につけていて、中性的な美しくて儚げな顔立ち。

 後ろにある酒棚を一人で甲斐甲斐しく整理していた。

 

「ん? ああ、お帰り。どうだった?」

 

 戦争から自分の子供が帰還してきた、というような声は店主最大の労い言葉。

 

「へぇ~、なるほどなるほど。やっぱり、いきなり表に立てたりしたら駄目だったかぁ~」

 

 返事が無いのに一方的に話つづける店主。

 

「ふーん。そっか。いや、悪くない成果だね」

 

 もし、この店に他の客がいれば肉体的に、生理的に、本能的に、脱兎の如く駆けて出してぼや騒ぎになっていただろう。

 まっとうな客が居れば、という前提だが。

 

 店主が話していた相手の格好は重装備で紛うことなき歴戦の傭兵。ただ首から上にある筈のものが無く、血が出ているであろう場所は黒い何かが充満していた。

 店主はそんな発声器官が無い相手、動いていいはずの無いものと会話しつづけ、店主は死体であるはずのものから無線機を受け取る。

 

『『――――――』』

「わかった、わかった。その話はもういいから。魔がさしたんだよ、魔が。さっ、帰った帰った」

 

 店主が手をたたけば目の前の死体は『風』のアーツを纏って、空間に消えてく。

 

「でも、そうだなぁ~。うん」

 

 店主は一人呟く。それが面白いと、言わんばかりに。

  

 だが、感情は感じられない。人格があるのか分からない。本当に面白いと思ってるのかも。探究心なのかも。

 

 この光景を一度見てしまえば、正気ではいられない。

 

 酔った客はまず自分の譫妄を疑うだろ。いや、この店主が酔っているのかもしれない。

 

「やっぱり君は面白いよ。ほんと、つくづく思うよ。運命のいたずらは僕でも予想できない。いや、この場合は万物の創造主というべきかな」

 

 本人に自覚なんて無く、人格なんてなく、ただただ楽しそうに独り踊っていた。

 

 

 

 この世界に存在し無い安息の都市『カルコサ』にて、黄色の襤褸布は独り歓喜し永劫に踊った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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