テラにて空を仰ぐ   作:Kokomo

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 新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 最後の方に重要なご報告があるので目を通して貰えるありがたいです。


にちじょう

一幕上がる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍門の夜の帳が上がり始めた頃。

 裏通りにある事務所の外では輩が立っていた。

 空気はひりつき、翳っている。あたり一面を氷河のような冷たさが五メートルの距離を空けて対峙している二人を起点として漂ってゆく。

 

 一人は青い髪の龍。己の得物を腰に携え、くっきりとした赤の双眼で目の前の黒を射抜いていた。

 一方で黒は前が開いたトレンチコートのポッケに手を忍ばせて、龍のことをただただ覇気の無い瞳で見つめていた。

 そしてぐったりと地面の上に寝転んだ緋色の狼が一匹。どちらがこの沈黙を破るのか、遠巻きから静かに見守っていた。

 

「いくぞ......」

 

 ただ龍がそう呟いただけで、寒気は飛散し、沈黙を保っていた空間が震えあがる。

 

「斬!」

 

 突発に抜刀され、黒へ紅い一閃。それは一秒にすら満たない音を置き去りにする迅速の一撃。大抵の武器は防御不可能。

 

 

 紅い死が黒に迫る。

 

 

           彼は表情を崩さない。

 

 

 いよいよ紅い刃先が黒に届く。

 

        

      それでも尚彼の瞳は変わらない。

 

 

 切っ先が彼を捉えるまで残り数センチ。

 

 

 ――黒は漸く表情を崩した。

 

 彼女の一撃を黒い瞳で見据える。紅い死はもはや目前。避けようの無い理不尽。

 

 そんな理不尽は呆気なく終わった。彼女の赤霄は黒を穿つことなく、虚しく空を切る。

 

 それは最初からそこに居なかったように、まるで夢のように黒は忽然と姿を消した。彼女が横に顔を向ければ澄まし顔の彼が居た。

 

 たった数秒の戯れを眺めていたクラウンは喉を鳴らし、クリープは彼女達に気づかれないように胸を撫で下ろす。

 

「また、か」

 

 チェンはそう呟いてから、赤霄を乱暴に鞘へ納刀した。

 

「......そりゃ、当たったら死ぬからな。死ぬ気で避けるさ」

「何時からそんな冗談が得意になったんだ?」

 

 クリープが放った言葉にチェンは噛み付く。赤霄の訓練とはいえ、彼女にとっては本気に近い一撃。それを掠り傷一つ無く避けた男が吐いた言葉に切歯扼腕(せっしやくわん)するのも仕方の無いこと。

 彼女は一旦冷静になってから、眉間が深いままクリープにすまないと詫びた。彼女自身が訓練を頼み込んでる身として自覚していたからだろう。

 

「いや、別に気にしてないさ。俺の方こそ悪かった」

 

 クリープは普段の覇気のない目で答えた。そんな様子に彼女の眉間は更に深まる。唐突と相手の眉間が断崖絶壁のように割れれば誰だって気になる。クリープも例外ではなかった。

 

「どうした?」

「......いや、なんでもない。なんでもないんだ」

 

 チェンはばつが悪そうに口を閉ざした。

 

 

 

 チェンにとって、クリープは苦手な存在であった。

 奇人、変人、才人、友人、狂人......。

 

 彼女の人生経験の中でどのカテゴリーの人種にも属さないのがクリープだった。何を考えているのか分からないし、感情があるのかも定かではない。明確に分かっていることはウェイ長官や灰色のリン、かつて自分の上司だった人が一目を置いているということだけ。

 

 ――そんな人間もいる、掴みどころの無い人間

 ――不思議な人だから、浮世離れした人間

 

 と、周りと同じように一蹴してしまえば事は足りる。簡単なことだが、そんなことは彼女には出来なった。

 考えれば考えるほど、底なしの沼に嵌っていくような感覚。

 一時期、そんな状態に日々を悶々と過ごして来た彼女として、そんな結論に納得できなかったのだ。

 

 ――何ともいえない、言い表しがたい存在。

 

 それが彼女の抱いた、彼女の途中式。法則性が無くて、型破り。どんな公式にも当てはまらず、解を導き出せない人間。

 結局のところ周りと同じような結論になり、クリープそのものが深淵のような存在に固定化され、苦手になったのだ。

 それ以来彼女の脳裏には苦手意識と、深淵のような黒い瞳がはっきりと焼き付いた。

 

 

 そんな苦手な相手と対峙してるわけで、彼女は煩悩を切り捨てられていなかった。いつもの彼女ならそんな事態には陥らないが相手が悪い。

 彼女は頭を左右に振り、自分の両頬を容赦なく叩いた。

 

 ――人が切り捨てられないなら、煩悩が切り捨てられないなら、打ち消してしまえばいい。

 

 そんな安直な考え、もといい師の教えを実行した彼女の頬には薄紅色の手形がくっきり付く。

 彼女は目を瞑り、静かに息を吐いた。

 白い息は天に昇らず、地に流れて雲散霧消(うんさんむしょう)した。

 準備が整い、彼女は再び黒を射抜く。

 

「クリープ、これで最後にしよう」

「.........ああ、そうだな。最後には良いかも知れない」

 

 両者の赤と黒の視線は交差する。

 

 龍にとっては師以上の巨大な川。そしていずれは乗り越えなければならない壁。

 

 黒にとっては何が何でも避けなければならない。だがいずれは――――

 

 

「クリープ、彼女は強いか?」

 

 龍の突拍子の無い質問が黒の身を硬直させた。龍はその隙を狙うわけでもなく、己の得物に手をかけたままだった。

 黒はその様子に眉を顰めながらも、「彼女とは」と言葉を返した。

 

「クラウンのことだ」

 

 その一言に黙り込んだ黒は暫くして、口を開いた。

 

「強いぞ、この業界にはもったいないくらいだ」

「そうか」

 

 龍は微笑み、遠くにぐったりと寝込んだ狼に視線をちらりと瞳を移した。

 視線を黒に戻し、龍は静かに剣を抜いて構える。

 

「行くぞ!」

 

 朝の陽は彼女達を照らし出し、それぞれを色染めた。

 

「閃!」

 

 紅い一撃が龍門裏通りに放たれた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 簡素な事務所には独りパソコンを打ち続ける者がいた。覇気の無いだらしない座り方でモニターと睨めっこ。時折目を細めたり見開いたり、なにやら忙しそうに手を躍動させていた。やがて、キリが良くなったのかパソコンの手を止め一息。

 

「ふぅぃ~。あー、あ」

 

 おっさんのような声を出しながら伸びをしている姿は、到底二十台後半には見えない。彼はそのまま腰を数度たたき、覚束無い足取りでキッチンに向かった。

 

「あー、チェンの奴本気でやりやがって......覚えとけよ」

 

 彼はそんなことをほざいているが事の発端はクリープの因果応報である。

 

 一つ、彼が非通知の電話に出てしまいチェンの頼みを聞いてしまったこと。

 二つ、ウェイ長官からも密かにお願いをされてしまったこと。

 三つ、クラウンとの朝の鍛錬に被せたこと。

 四つ、禄でもない交友関係。

 五つ、原作を憶えていない......。

 

 彼自身の問題を挙げればキリがなく、もはやどうしようもない。そもそも一般人の手に負えない世界にきてしまった時点で彼はなるようにしかならない。

 そんなどうしようもない彼は冷蔵庫に掛かっていたエプロンを身につけ、料理を始めようとした矢先ーー

 

 ーーガチャ

 

 事務所の玄関から音が聞こえた。彼はつけていたエプロンを投げて早足で玄関に向かう。

 

「――ああ、お帰りクラウン。買い出しを任せて悪かったな」

「いやいや、流石にそれくらいやんないと。俺の場合クリープの家に住まわせてもらってるわけだか

ら」

 

 両手に袋を持ったクラウンが帰ってきたようだ。

 

「おい、私の事は無視か」

 

 凛とした声が事務所に木霊し、クラウンの背後からひょっこりとチェンが顔を出す。眉間の皺を寄せて、いかにも不機嫌と言いたそうに。

 

「.........ありがとう」

「......ああ」

 

 クリープは渋々ながらも礼を言う。

 買出し自体はチェンが勝手に志願したこと。クリープは「仕事は?」等と聞いてやんわりと断ろうとした。が、チェンは頑なに譲らず押しに押されてクリープはクラウンとチェンの会話という急流に流され登りきれず、今の状況に至った。

 

 近衛局特別隊隊長が買出しをしてくれる。

 

 そんな状況にクリープの内心は複雑だった。ましてやウェイ長官の愛弟子。

 彼女が使う大半の技はウェイ長官直伝一撃必殺。クリープには碌な思い出が無く、裏路地でひたすらあの技を繰り出し、惨い反響音は耳に残っていた。

 

 そんなトラウマ、もといハッスル既婚者のせいで、同じ技を使うチェンを恐怖の象徴として彼の記憶に上書きされた。

 とはいえ頼みを聞き入れたのは彼自身。

 

「えっと、クリープ」

 

 クラウンが控えめに声を掛ける。こういった時、彼女は大抵お願い事をする時だ。

 

「......どうした、クラウン?」

 

 それを察してか、クリープの声は少し震えていた。それは本当に僅かで、彼女達には気がつけないクリープの悲鳴だった。

 

「よかったらさ、チェンと一緒にお昼を食べたいっと思って、駄目かな?」

 

「「.........えっ」」

 

 クラウンが言ったことに対して奇しくも声が被った龍と黒。

 

 

 

 この場で間違いなく一番振り回されているクリープは、この後一人追加分の食材求め近場の店に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事務所にポツンと取り残された私と彼女。

 彼が居なくなった後の事務所には静寂が訪れ、玄関から見える簡素な事務所は虚しく感じた。

 

「取り敢えず、荷物を片付けてお茶でも飲むか?」

 

 クラウンの方から沈黙を破り、気まずい空気が払拭される。

 

「本当に私が家に上がっても良いのか?」

 

 罪悪感を抱き、私が質問してしまうような形で答えてしまった。本当ならば彼女に聞いても意味が無いとわかっているのにも拘らず、聞くべき相手には食材確保に走らせてしまった始末。クリープという存在に教えを乞うておきながら買出しさせているという事実が無ければこんなことを考えずに終わった筈なのに。

 

「ああ、俺から誘ったのに嫌だなんて言わないさ」

 

 まるでこの状況が楽しいといわんばかりに彼女は微笑みながら口ずさんだ。彼女と私の仲は可もなく不可もなく、顔見知りのようなもの。

 

「なぁ......いや何でもない」

 

 一体全体何が楽しいというのか。そんな疑念は勝手に湧き上がったが言葉を呑む。今の状態で聞いても可笑しな空気になるだけ。

 彼女が楽しいならそれでいいのだろう。私の様子に一瞬頭を捻らせたクラウンは少し間を空けて声を掛けてくる。

 

「先に椅子に座って待っててくれ。お湯を沸かしたりするから」

「いや、手伝う」

「いいよ椅子でくつろいでくれて、今はお客さんなんだからゆっくりしててくれ。俺はクリープじゃないし、っと」

 

 彼女は奥のキッチンと思わしき空間に入り、身の丈以上の位置にある棚から何かを取り出した。

 彼女の姿を視界の端に捉えながら、来客用と思わしきソファーに身を預ける。ひんやりとした素材が肌に触れ、熱くなった身体に水を打ったように心が落ち着く。

 

「ふぅー、座り心地が良いな」

 

 呟いた一言。その一言に彼女は返事を寄越してくれた。

 

「だろー、その椅子良い奴でさ。クリープが知人用に買った奴なんだよ」

「そうなのか」

 

 それは......意外、というわけでもないか。

 

「うん。ただ全然使ってくれないから来客用になったらしいけど」

 

 足音が段々と此方に寄って来る。やがて緋色の絹糸が再び私の視界に写った。

 

「はい、粗茶ですが」

「ありがとう」

 

 目の前に置かれた湯飲みを取り、少しだけ飲む。

 豊かな香りは身に染み渡る。

 

「これ、本当に粗茶って言っていいのか?」

「えっと、一回だけ言ってみたかったんだよ。そんなセリフを」

 

 少し恥ずかしそうに頭を掻く彼女。クリープと彼女の鍛錬を見た後だと戦闘狂じゃない一面に面を食らった。彼女は私の様子を気にすることなく話を続ける。

 

「今までこんな風におもてなし?、って奴をやったことが無くて」

「私にやる前にクリープにすればいいじゃないか」

 

 私の提案に「うーんそれとは違うんだよなぁ~」と彼女は頭を横に振った。どうやらそういった問題ではないらしい。

 

「今回はクリープに仕返しも兼ねてるから......」

「なるほど、私は雪辱を晴らすために利用された、と」

「えっ、あ、違うから! それだけの理由で呼び止めた訳じゃないから!」

 

 眉を八の字にしながらあたふたと説明している姿にクスリとした笑いをついこぼしてしまった。ホシグマも私を弄ってくる時はこんな感じなのかもしれない。

 彼女は少しムッとしながらも事情を説明してくれる。

 

「クリープが前に知り合いを此処に招いたらしくて。丁度俺が住み馴れた頃なんだけど、知らないうちに夜な夜な招いたらしくて」

 

 やや強めな口調で会話に切り込む。

 

「それで仕返しとして私を呼んだのか?」

「はい。あと一緒に話してみたかっただけなんです」

 

 申し訳無さそうに語る彼女に少々罪悪感が湧く。

 健気な少女相手に私は何をしてるんだか。

 彼女に「気にしてないから大丈夫だと」伝え、話の続きを促す。暫く聞いていると何やら引っかかる点が一つ。どうやらその夜な夜な訪れている『知人』とやらは女性らしい。彼女が匂いで判別したそう......私は大丈夫だろうか? 汗臭くないよな?

 

「チェン? 話聞いてるか?」

「えっ、ああもちろん聞いてるとも」

 

 猛烈な不安に頭がトリップ仕掛けたが多分大丈夫。だから私の汗も大丈夫(?)。

 

 ――要点を纏めると夜な夜なクラウンが知らない間に『知人』を招いていて、幾ら聞いてもはぐらかされている。

 

 .........この問題、私が関わっても大丈夫か? 燃え盛る業火の中に半身浴なんて笑い事じゃない。

 

「なあ、顔色が青いけど大丈夫か?」

 

 大丈夫な訳が無い。どう考えたって......説明しにくい内容だし。

 

「ああ、大丈夫だ。大丈夫。問題しかない」

「えっ?」

 

 不味い。話題をそらさなくては(迫真)。

 

「取り敢えず、そうだな。彼にも事情があるのだからそっとしてあげると良い。意外な一面に少し驚いたが彼だって男。そういった火遊びの一つや二つしたくなるものさ。だから今ひたすら見守ってあげようじゃないか。なんなら私の方から声を掛けておこう。近衛局の地位があれば簡単なことだ。彼はこの都市にとって重要な人物だから――――」

 

「ちょ、ちょっと待った! 話が早いし支離滅裂だぞ、俺から言うのもなんだが一旦落ち着いて、な」

 

「「.........」」

 

 沈黙が場を支配する。

 

 やってしまった。

 顔が熱いのに体が凄く冷たいし、場も冷たい。私が片足突っ込んだのは業火ではなく永久凍土のようだ。

 

「その、すまない。熱くなりすぎた」

「いや、うん。突然のことでビックリしただけだからそんなに気に病まないでくれ」

 

 彼女の優しさで、何とかなった。

 はぁー。こんなことなら早々に引き上げるべきだった。私は口が上手い訳じゃない。こういったプライベートな話はいかんせん無理がある。

 

 ......そして何より、だ。この原因だって奴が根本にいる。

 

 やはり私は強靭な精神を持った龍より、虎のように噛み付いてくるアイツよりも、パラベラム・クリープがこの世で何よりも苦手だ。

 

 

 

 

 

 ――ガチャ

 

 玄関の扉が開く。

 

 

「ただいまー」

 

 覇気の無い、疲弊しきった声が事務所に木霊した。

 

 気まずい空間。思考中の最中。突然の出来事。

 

 龍門近衛局特別隊隊長は湯のみを手に取り、ゆっくりと立ち上がる。

 

 そしてノンモーションで湯飲みは彼女の手から勢い良く弾け飛んだ。

 

 放物線を描かず、一直線に。

 

 どうやら、赤霄の訓練は無駄ではなかったようだ。

 

 理不尽な鈍い音と狼の声にならない悲鳴が事務所を跳ねた。

 

 

 

 

 

 

「本当に申し訳ない。いくら()()だからといってさっきのはやり過ぎた。この通りだ」

 

 目の前で地に頭を垂れ、小さく背を丸めた近衛局隊長殿もといいピッチャーがいた。休日だからはしゃぎ過ぎたのだろう(頭打った後)。

 少なくともあの一撃は当時の彼女よりも強い一撃だった。どうやら彼女は赤霄ではなく、べつのものを持った休日の方が強いらしい(苦手な相手に限るが)。

 湯飲みを顔に当てられたんだ。これくらい怒っていいだろ。

 

「大丈夫だ。ただちょっと気を失っただけで料理は出来たし」

「ほっっとうに、申し訳ない!」

「うまかったか? 嫌いな奴の料理は」

「はい、大変美味しゅうございました!」

 

 素直に嫌いと言えるその度胸と馬鹿真面目な性格にはもはや感心だ。クラウンはキッチンから此方の様子を覗いてるらしく、時々目が合う。何故か申し訳無さそうに目を逸らされるが。

 

「そんな敬語使わなくていいぞ。似合わないから。それで、今日はもう帰るのか?」

「ああ、そろそろさすがにな」

 

 チェンはゆっくりと立ち上がり、クラウンに騒がせたなと一言述べた。食事では気まずかった様子だが、なんだかんだ上手くやってるらしい。

 さて。

 

「チェン。徒歩だが送り届けるぞ」

「は?」

 

 俺の一言に目を丸くする彼女。

 

「いやd」

「断れると思うなよ」

 

 自分の赤く腫れた顔を指しながら、彼女に睨みを利かせる。彼女は渋々ながらも頷いた。

 まぁ、これを理由にすれば付いていけるとは思っていたが此処まで効果的だとは思わなかった。っといけない。クラウンに声を掛けなければ。

 

「クラウン。すまないが留守番を頼む」

「ああ、分かった。チェン、また今度」

「またな」

 

 

 

 

 

 

 苦笑しながらも見送ってもらい、肌寒い風に赤みがかった顔を冷やしながら彼女の後ろを歩く。

 

「それで、どうして唐突に訓練なんて頼んできたんだ?」

 

 付いてきたのはこのため。理由聞かずに頼みを聞いた訳だが、それはウェイ長官の頼み(脅し)を受けたからだ。彼女自身が理由も無く頼んできたら訓練なんてやらないし、この件にウェイ長官が一枚噛んでると知れば彼女はウチに来なかっただろう。

 まぁ、脅しは自業自得で、アーの()()のため仕方なかったが――

 

「――普通の訓練なら、わざわざ赤霄を抜く必要は無いだろ」

「......事前にいった筈だ。赤霄の訓練がしたいと」

「それにしては、妙に焦ってイラついてたな。らしくない。それとも顔面に湯飲みを思いっきり投げられるような相手だったからか?」

 

 帰ってくるのは沈黙。この場所なら、人が少ないから大丈夫だろう。

 

「別に答えたくないなら良い。ただ今回の件ホシグマに伝えてないだろ」

 

 この一言に彼女は足を止めた。

 

「......近いうちにこの都市に『船』がくるんだ」

 

 船?

 

「製薬会社が来るらしい」

 

 はぁ。

 

「私達は龍門近衛局しト¥てク@が動?――――」

 

 彼女の話が入ってこない。

 知らない。そんな情報は聞いてないし、見つけられなかった。何より、この時期に来るとなると些か時期が悪い。

 茫茫たる記憶の底から知識を引っ張り出そうとするが、妙な胸騒ぎが邪魔で集中できなかった。

 

「おい、聞いてるのか?」

「――ああ、すまない少し考え事を」

 

 彼女はため息を吐き、呆れる様な目で見てくる。

 

「そんなんだから、クラウン心配されてるんだぞ」

 

 うーん。耳が痛い。

 

「今日は助かった。送るのはもう良いだろ?」

「ああ、すまないな」

 

 彼女は振り返らず手を振りながら、彼女の背中は烏合の衆に消えていった。

 自分も帰路について、独り歩く。

 

 気分は余り優れない。周りの風景がモノクロとなって流れてく。

 

 

 気がつけば事務所の前に立っていた。無機質な階段を登り事務所の中に入る。

 

「お帰り、クリープ。チェンの様子ははどうだった?」

「ん? そうだな。少し心配だがアイツなら大丈夫だろ。部下に恵まれてるし」

「そっか……ちょっと外を散歩してくるよ。日がくれるまでには帰ってくる」

 

 いってらしゃいと送り出して、独りパソコンの前に座る。

 画面を立ち上げて、独りで買出しに出たときにアーから送られてきた()()の解析結果を開いた。

 機械的な黒い羅列に目を通して最後の資料に目が止まる。

 

 

【該当データ無し】

 

【源石濃度不明】

 

【使用用途不明】

 

【成分不明】

 

 “追記”

 

サンプルからは事前情報のように源石の成分は検出できない。ありとあらゆる検査及び実験を行った“現状の科学をもってしても解析は不可”……特殊な方法を用いて処理する……。

 

 

 自分の知識、記憶が可笑しいのか。

 

 自分の整理の付かない頭を一旦落ち着かせる。

 

「どういうことなんだよ。これは」

 

 説明が付かない。スワイヤーにそれとなく確認を取ったが、彼女はそもそも俺のところに依頼をしていないらしい。

 

 ――ではあの日、電話の向こうで、話していたのは、一体誰なのか。

 

 ウェイ長官にこの事実はある程度伝えたが、良い結果になるか解らない。彼の話によれば彼の部下に、俺に依頼を出すように、と命令を出したとのこと。

 

「......駄目だな。専門家に頼るしかないのか?」

 

 一人だけ思い付く人物がいるが、これが『海』関連なのかと問われると微妙なところ。

 確信を持てず、あやふやなところが不気味で仕方ない。

 

 ーーそして何よりもーー

 

 画面に再び眼を向ける。

 

 黒く輝く粉末。画像のはずなのに嘲笑うかの如く蠢いている"ナニカ"。見る者を戦慄させ、此方を引き込もうとする魅力を放っていた。

 嫌悪感は感じないが、じっと見つめていると無性に憎たらしくなってくる。

 

 どうしようもない胸騒ぎを胸に押し込み、席を立つ。

 

「一から洗い直すしかない、か。()()()()()()()()()が来るかもしれないってのに全く」

 

 ……。どうしてこの時期なのか。頼むから大きな火種にならないでくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 感想の方でこの作品が他の作者様の書いた作品と似ているとのご指摘を受けました。私自身はその作品の存在を知らずに書き始めました。この作品自体のモデルや参考資料は確かにありますが、今回のご指摘を受けた作品を真似て作った訳ではありません。
 しかし、これは自分の知識の無さとオリジナリティの欠如したことが原因です。不快に感じた方々には深くお詫び申し上げます。

 今後この作品の創作活動は続けて行く予定です。過去作品の修正につきましては、この作品に関わる重要な文なので修正は考えておりません。
 もし、読者の方などで辞めて欲しいといった声が多ければ辞めることも考慮しています。遠慮なく感想欄などに書いてください。

 そして最後に。この作品の物語はまだ物語の序章に当たる部分です。リアルでは予定してなかった自体が起きてしまい、投稿頻度が落ちていますがなるべく早く丁寧に完結させ、評価させてもらえるような作品になればと思っています。

 長々と長文失礼しました。
 
 
 
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