テラにて空を仰ぐ   作:Kokomo

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 お久しぶりです。


貴方の呼び声

――懺悔――

 

 

 

 

 

「あー駄目だ。思い出せないし、見つからない」

 

 目の前の積み上げた資料を一旦どかし、デスクトップのカレンダーを開く。

 

 チェンからもたらされた衝撃の事実、製薬会社がこの都市に来るということが分かってから七日目が過ぎようとしていた。

 

 あれからというものクラブの一件や、ロドス・アイランドについて洗ってみたものの、大した収穫が得られてない。しいて言うなら、自分の周りに無駄な紙の束が積み上がってくだけ。最初が肝心だってのに。ちょっとした今後の計画は立ててみたが……。

 

「どーだかなぁ」

 

 ロドス・アイランド、黒い粉末。前者は大歓迎だが問題は後者だ。『海』関連の知識は齧った程度だが、これが『海』関連に当てはまるのかすら不明。アビサルハンターの意見が聞きたいが連絡方法や名前だってほぼ知らない。

 

 じゃぁ、ペンギン急便に依頼しようかと連絡してみれば新しい契約を結んだらしくて断られ、灰色のリンさんは電話に出ない。ウェイ長官にと思ったが、スワイヤーに扮していたことを考えるとここで掛けてしまうのは愚策。アーツで声だけじゃなく見た目を変えられたら溜まったもんじゃない。纏めると、俺が疑心暗鬼に陥ってるのが現状。

 

 何よりもこんな状態で何かあった時に龍門防衛協定が機能するかどうか。龍門防衛協定はあくまで利益と目的が一致することによって足並みが揃う。逆に言えば、この口頭による約束は目的が一致しなければ何の役にもたたない。

 

 そんな状態で世界における重要な役割を持った箱舟がこの龍門に来る。龍門ではウェイ長官と俺を出し抜いた正体不明の存在と謎の黒い粉末があるときた。

 

 

 うん、危険な香りがプンプンするぞ。死亡フラグが幾つも立っている気がする。なんなら俺はもう詰んでるのかもしれない。

 

 直感的だがあの黒い粉末に関係してるかも知れない奴を野放しにするのは危険だ。

 

「はぁー。しかし、どうしたもんかねぇ」

 

 思わず吐き出してしまう程問題は深刻。

 

 いや、それよりもだ。

 頼れる仲間がいないとなると残りは......

 

「......」

 

 手を後に組んで天井の点に焦点を当てた。

 暫く熟考したが結局結論が出ず、奥の生活圏と事務所を区切る扉を見つめる。

 

「取り敢えず、手を動かすか」

 

 一人パソコンの光だけを頼りにした空間に秒針の音が響く。無機質で規則的な音は何時までも耳からこびり付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冷たいベットに深くもぐり込んで、両手で自身を包む。

 

「俺って、役に立ってるのかな」

 

 返事が欲しい訳じゃないのに、勝手に口から吐き出てくる言葉。返ってくるのはがらんとした部屋の反響音だけ。

 

「クリープ、クリープ。どうしちゃったんだよ」

 

 自分をいっそう強く抱きしめ、瞳を強く閉じる。

 

 ここ一週間近くパソコンにかじりつき、良く分からない資料を積み上げて行く彼。最初はそういった仕事なんだろうと納得した。

 

 けど、けどさ。やっぱり、分からなくなる。

 

 手伝うって言っても任せてくれるのは殆ど家事とかで、彼が今行っている仕事には一切関わらせてくれないし、内容を一切教えてくれない。それは遠まわしに俺が使えないってコトを告げられてる訳で......。

 

 仕方ないってのは分かってる。今まで俺がクリープに任された事務処理なんかより難しいなんて一目瞭然。ましてや、ここ最近のピリピリとした空気を感じ取ればいやでも分かる。

 

 でも俺は、彼の社員で彼の道具だ。彼が動くなといえば動かないし、人を殺せといわれれば殺す。

 

 だから彼を、パラベラム・クリープを信じて......。

 

 そう、分かってる。分かってる筈なのに――――

 

 ――――モヤモヤとして、なんかイヤだ。

 

 彼を超えたいという願い。彼を殺せるほど強くなって隣に立ちたい気持ちは今でもある。ただそれと同時に彼の『知人』という存在を知ったときと同じような感覚にもとらわれる。

 

 これはたぶん感情の問題だ。ぐちゃぐちゃとして、今すぐ吐き出してしまいたい。

 でも、これは我侭であって、独善っていうやつだと思う。

 そう、独りよがり。だけど彼との約束は......。

 

 

 

「ハァー、スゥー」

 

 淀んだ空気を吐き出して、冷たい空気を肺に放り込む。

 

 自分の不安とモヤモヤは募ってくばかりで、頭がクリープのことで一杯。

 

 脳を揺らされるような感覚にあたまが――イタイ。

 

「クリープ」

 

 名前を呼ぶ。彼の名前を。

 

 呼んだってこないのに。何も解決なんてしないのに。そう分かってるのに。

 

 寒さに身体を震わせながら、瞳を閉じて意識を無理やり沈めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い事務所にタイピング音が木霊する中、居住区を分かつ扉がゆらりと開く。

 

「おはよう......クリープ......何してるんだ」

「ん? ああ、ちょっとな。仕事だよ、仕事」

「一週間前からずっとその調子じゃないか」

 

 クラウンの視界には無造作に詰まれた資料の束とクリープがぼんやりと写った。崩れることを見越してか、束は幾つかに分けられ雑多に置かれている。

 

 肝心のクリープは資料片手にパソコンと奮闘中。後ろの朝日が差し込むであろう窓に重なるようしてキャスター付きの大きなホワイトボードが鎮座している。ボードには無機質な数列が規則的に交差し、黒い装飾がつらつらと綴られていた。

 

 薄暗い事務所に彼の顔が浮き上がって、時折細められる目を手の甲で擦っていた。

 

 彼の様子を視認したクラウンは尻尾を足の近くまで降ろした。

 

「......ちゃんと寝たのかよ」

 

 掠れたような声が事務所にポツリと浮んだ。

 

「あー。仮眠はとったぞ」

 

 クリープの返答に一旦間を置いてから、再びクラウンは彼に問いかける。

 

「それって仕事か?」

「......まぁ、そんなもんだな」

 

 クリープは彼女の顔が見えないまま反応を示し、デスクトップの画面を閉じた。二人はその場から一歩も動かず、口すら開かなくなった。

 

 冷たい事務室には秒針が刻む音だけ木霊する。

 

「ふぅー。実のところ、この勉強の方は丁度クラウンが起きて来た時に終わってだな。まぁ、まだやることがあるんだが――」

 

 暗い静寂を破ったクリープはそのまま言葉を紡ぐ。

 

「――手伝ってくれないか......クラウン」

 

 その一言に彼女は反応した。

 暗晦(あんかい)の中、クリープの方へと足音が近づく。

 

 一歩、一歩、また一歩......やがて、足音が止まる。

 

 大きなホワイトボードの後ろからは僅かに光が漏れ始め、彼の目の前に止まった存在を淡く炙り出した。

 

「おそいよ、ばか」

 

 声を震わせた彼女。彼は座ったまま彼女を見上げる。

 

 向き合った両者の下瞼には、こげ茶色の跡が浮かび上がっていた。

 

「それと、ごめん。クリープとの約束守れなくて」

 

 彼女の一言に彼は背中を丸めながら反応した。

 

「お前は謝んなくていいだろ。だから、すまないクラウン」

 

 彼の謝罪をしっかりと聞き届けた彼女は微笑む。 

 

「クリープ、俺を――」

「――俺を使いつぶしてくれ。今度こそ信じきって、約束を守りたいんだ。正直に伝えれるようになりたいんだ。アンタに俺の気持ち、いや私の気持ちを」

 

 彼女は彼の前に膝を就き、そして、

 

「だから、だからさ! 私を本当の意味で、あなたの相棒にしてください」

 

 零れる朝日に身を染めた純粋無垢な少女の告白(ほんしん)

 

 その姿は黒い瞳にしっかりと焼き付いた。

 

 

 

 

 クラウンに膝枕をねだられ、来客用のソファーで和むこと三十分。

 

 自身の膝の上で穏やかに眠るクラウン。緋色の髪を手でとかしてやればむず痒そうに頭の位置をずらして「ん」と、彼女が小さく喉を鳴らす。

 

 いかんいかん。危うく起こしてしまうところだった。

 

 一旦手を止め、片手で近くの資料を取り適当に眺める。至る所が黒く塗りつぶされ、殆ど読めない紙屑。    

 

 黒に溺れていた単語に自然と目が吸い寄せられる。

 

 

   ――“石棺”――

 

 

 あの粉末はこれ自体には関係ないはず。まぁ、製薬会社自体にも関係しないだろう。あんな負の遺産を利用しようなんてものなら、なにが起こるか分かったもんじゃない。せいぜいチェルノボーグが動力源として消費しつつげるか、あの仏頂面女医が活用するかのどちらか。美形のリーベリ少年も大丈夫だろう。

 

 思考をそこで終わらせ、資料を握り潰して遠くに投げる。放物線を描いた後、ホワイトボードに音を立ててぶつかった。

 

 あっ。しまった。

 

「う、んー。く、りーぷ?」

 

 耳を小刻みに動かしながら、目を何度も擦る彼女。さっきの物音が原因だとしたら、悪いことをしてしまった。

 

「あー。すまん、ちょっと落ち着かなくてだな」

「んーん、ちゃんとそばにいるか、なって」

 

 彼女は寝言のようにふわふわと呟いて、再び規則正しい呼吸を繰り返す。こういった姿は朝の鍛錬している時からは想像できないほど年相応で、豊かな表情をみしてくれた。

 

 少しずつ、少しずつだが彼女は前に進もうとしてる。

 

 それに比べて、俺ときたら。

 

「......ごめんな、クラウン」

 

 彼女の絹糸を掬い上げる。太陽のような暖かさとやわらかさが手に伝わって、

 

「ずっとは一緒に居られないんだ。俺もお前も」

 

 ゆっくりと指の隙間から零れ堕ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――淡い(あわ)夢を見た。

 

 ―――貴方(アンタ)(おれ)が出会う夢を。

 

 ―――。

 

 ―――あの暗闇(せかい)から(おれ)を見つけてくれた。

 

 ―――鼬雲(いたちぐも)が過ぎ去った満月の暮夜。

 

 ―――親身(しんみ)のように貴方(アンタ)(おれ)と笑って、語り合ってくれた。

 

 ―――テラという広くて小さな鳥かごのありふれた話。

 

 ―――傷んだ(おれ)孤独(こころ)を埋めてくれた貴方(アンタ)

 

 ―――毎晩思い出す、手が届かない貴方(アンタ)

 

 ―――酔狂な貴方(アンタ)に、感謝を込めて。

 

 ―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そろそろクラウンを起こさなければ。

 

「クラウン。クラウン」

 

 彼女の名前を呼ぶ。

 

「んっ。うん?」

「そろそろ、時間だからな」

 

 クラウンの目が細く開いた。まだハッキリとした意識が無いであろう彼女に今の状況と今後の準備を軽く伝える。時折、クラウンは複雑そうに顔を歪めたが構わず話を進めた。俺の膝上で彼女は数秒頭を捻らせてから「ありがとう」と述べて起き上がる。

 

 尻尾を揺らし、背伸びするクラウンの姿は心なしか動きが何時もより鈍い。恐らくソファーで寝ていたことで睡眠が浅かったのだろう。

 

 彼女の後ろ姿を暢気に眺めていると、急に此方に振り向いた。

 

「ごめんクリープ! 俺ばっかり寝ちゃって」

 

 ああ、そういう。

 

「そんな謝ること無いぞ。今回は俺の禊みたいなものだし、一応俺も仮眠は取れたからな」

「本当か?」

「ああ」

 

 それでもなお心配してくる彼女をてきとうに言いくるめ、話を一旦纏めることで解決。

 

 この後すぐに出かけるということを伝えれば「俺も一緒に行く」とクラウンは高らかに宣言したが......本人はまだ寝ぼけてるらしい。

 

「その格好でか?」

「へ? あっ」

 

 間抜けな声を出してから、自分の格好に気がついたようで急いで自分の部屋に駆け込んでいった。彼女の背中が見えなくなってから、座ったまま一息つく。

 

「――支度終わったぞ!!」

 

 勢い良く開け放たれた扉。何時もの不審者コーデで元気はつらつと飛び出してきたクラウン。いや、いくら何でも速過ぎない? 

 

 そんな疑問を口に出さず、慎重にソファーから立ち上がる。が、突然両足に奔った痛みに顔を顰めてしまう。

 

「クリープ? だ、大丈夫か!」

 

 焦燥とした様子で駆け寄ってきた。クラウンはそのまま有無を言わさず俺のことを抱きしめ、顔をのぞかせてくる。

 

 心配してくれているのは分かるが、ちょ、いたいいたい。両足がし、しまって――

 

「――ク、クラウン。離してくれないか? かえって痛いから。痺れたせいで」

「痺れた!? まさか心臓!すぐに医者を呼んでくるから「違う、両足が痺れたんだよ。お前の枕になってただろ!」」

 

 俺の抗議に「へ?」と腑抜けた声を出したクラウン。フードの隙間から見える肌色が赤みががる。徐々に締め付けていた力が弱くなった。彼女の腕を解いてからゆっくりとソファーに座って今度こそ一息。

 

「えっと、ごめん。早とちりだった」

 

 背中を小さくしながら、頬を染めて視線を合わせてくれない。なんだか、こんな反省の仕方をされるのは新鮮だな。

 

「別に気にしてないから、大丈夫だ」

「ほ、本当か」

 

 俯いてた顔をあげて、しおらしく聞いてくる。

 

「ああ。本当だ」

「じゃ、じゃあ、また膝枕してくれるか?」

「しない」

「えッ゛」

 

 先程の表情とは打って変わって、青みががっていく顔。そんなところが面白くて、ついつい頬が緩んでしまう。

 

「ハハ。冗談だから、そんな顔をするなって」

「う、うぅぅ。からかったこと、忘れないからな」

 

 うなり声に喉を震わせながら、またもや頬を赤くして此方を睨む少女。しかし、彼女は突然此方に近づいてくる。それはそれは、まるでスキップを踏みながら鼻歌を歌うかのように尻尾を揺らしながら――

 

「――クリープ。今、動けないよなぁ。だって、両足が痺れてるんだから」 

 

 あっ。やりすぎたかもしれない。

 そう悟った時にはすでに遅かった。

 

「待て。何する気だ?」

 

 ソファの横へ横へと逃げていくが、彼女はジリジリと詰め寄ってくる。

 

「なにって、そりゃーねぇ。それじゃ」

 

 とびっきりの笑顔で俺の脚に飛んでくる。

 

「ば、ばっか、やめろ!」

 

 力に関しては彼女の方が圧倒的。何とか引き剥がそうと、ソファーの上で試行錯誤したが最終的に押さえつけられる。俺の上にまたがったという事実に優越感があるのか彼女の顔は歪んでいた。いや、こんな状態で膝枕しなきゃいけないの?

 

「いいじゃんいいじゃん。減るもんじゃないし」

「おい、そのセリフどこで覚えてきた」

「ホシグマさん」

 

 あのアルハラ! 健気な少女になんてことを!

 

「それじゃ、いただきます」

 

 彼女は両手を合わせた。普段の食事の時に極東の文化として教えてたが覚えてたらしい。いや、違うそうじゃない。そんなことを内心思ったって、目の前の狼は止まらない。

 

 あ、あ、あ。

 

「ああああぁあぁあっぁ」

 

 

 

 

 

 

 今にも息切れしそうな状態で自分の椅子に腰を掛ける。そんな俺に対して、ソファーの上でご機嫌に尻尾を揺らすクラウン。先程の膝枕で納得してくれたようで、何よりだ。彼女自身も楽しめたようだし、まぁ、ああいった馬鹿騒ぎは悪い気はしない。

 

「クリープ」

 

 彼女の呼び声。まだあどけなさを感じさせる音色。

 

「どうかしたか」

「ううん。呼んでみただけ」

 

 そう呟き、ソファーの上で見つめてくる。彼女はさも楽しそうに顔を綻ばせる。彼女の弾けたような笑顔はいつもよりも眩しく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ 

 

 

 お・ま・け(読まなくても本編には大して影響しません)

 

 

 

 

 龍門中心にある高層ビルの一室。煌びやかとした装飾が施され、天井には大きなシャングリラが爛々と光を放つが、漂う煙に揺らめいていた。そんな豪華な室内に独り足を組んで座っている男が独り。美しいオレンジと白い髪の毛をたらし、炎色の角を生やした姿はまさに龍。がっしりとした体格は見る者を畏怖させる。

 

 この都市の執政者、ウェイ・イェンウー長官はキセルを吹かし一面ガラスから龍門を一望していた。暫くすると、大きな扉からはコンコンと小さくノックオンが伝わる。

 

「ウェイ長官。少し宜しいでしょうか?」

 

 扉の向こうから聞こえた声に「構わんと」ウェイ長官が述べた。扉が開くと声の主が入ってきた。

 

 全身を灰色の布で覆っており、右肩から左腰に掛けて黒い直線が走ったデザイン。頭部には布と同じ色に染められた低円錐形の笠を被っていた。

 

 灰色の人物は椅子に座らず微動だにしない。灰色は一分経った頃に口を開き、ウェイ長官に話しかける。

 

「ウェイ長官、準備が整いました」

「ご苦労」

 

 その一言を聞くと、灰色はウェイ長官の隣にある机まで移動する。灰色は机の前に到着すると、一つのノートパソコンを置いた。

 

「しかし、良かったのですか? いくら何でもパラベラム・クリープの事務所を盗聴するなんて......」

 

 灰色の述べた事実はウェイ長官も良く理解していた。それすなわち、下手したら龍門全域を巻き込んだ大乱闘になることだと。

 

「今のような状況だ。出来ることはすべてやる」

「そう、ですね」

 

 灰色は口を噤み、ウェイ長官はパソコンに手を動かす。

 

「それにだ。フミヅキが居ない今が、絶好のチャンスだ」

「はい?」

 

 ウェイ長官の覚悟を聞いて、口を噤んで居たはずの灰色は思わず声を漏らす。そんな様子を気にせず、灰色の上司は語る。

 

「フミヅキがいる前でやろうものなら、ひっぱ叩かれてしまうが――「ウェイ長官」なんだ」

「先日、噂話になっていたのですがチェン隊長の部屋から盗聴器が見つかったらしいです」

 

「「.........」」

 

 今度はウェイ長官が手を止め、黙る番であった。

 煌びやかな部屋には気まずい沈黙が訪れる。

 

「そうか」

 

 ウェイ長官の一言で会話は終わる。ウェイ長官はそのままパソコンから音声を再生した。

 

 

 “――クリープ。今、動けないよなぁ。だって、両足が痺れてるんだから”

 

 部屋には少女の声がハッキリと反響した。

 

 “――待て。何する気だ?”

 

 そして、クリープの声も大きく反響する。

 

 “――なにって、そりゃーねぇ。それじゃ”

 “――ば、ばっか、やめろ!”

 

 ウェイ長官は目を見開き、灰色は微動だにしない。いや、正しくは激しい眩暈に堪えているだけである。

 

 “――いいじゃんいいじゃん。減るもんじゃないし”

 

 余りにもテンプレな少女のセリフはこの場に居る二人を勘違いさせるには十分だった。

 

 “――おい、そのセリフどこで覚えてきた”

 “――ホシグマさん”

 

 出てきた名前に灰色は天井を仰ぎ、ウェイ長官は画面に食らい付く。

 

 “――それじゃ、いただきます”

 “――ああああぁあぁあっぁ”

 

 ウェイ長官はそこで再生をストップし、灰色に話す。

 

「この場で起こったことは全て忘れろ。分かったな?」

 

 そういってウェイ長官は睨みを効かせ灰色に釘を刺す。が――

 

「――いくら何でも、無理があるかと......」

「そうか」

 

 再び沈黙の訪れた部屋。龍はキセルを吹かし、灰色はこの仕事やめようかと本気で考えた。

 

 

 

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