東方短話録   作:puc119

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もしこの話を食べることができたとしたら、水みたいな味がすると思います

約1900文字です
それでもよろしければどうぞ




巫女と桜と

 

 今日も彼女は縁側に座ってお茶を飲んでいる。

 たぶん、また明日も縁側に座ってお茶を飲むんだろう。

 いつもの紅白の巫女服を着て、どこか眠たそうな顔をして、いつものようにまたお茶を飲むんだろう。

 

 季節は春。

 神社のあちこちで桜が咲き、僕も負けないよう必死で花を咲かせる。

 

 

 僕は桜だ。

 神社に沢山生えている桜の中の一本の木。

 

 神様の気紛れか、はたまた小さな奇跡か、僕はいつの間にか自我を持っていた。とは言っても、動くことはできない。

 だって僕、桜だもん。

 

 

 春に花を咲かせ

 夏に葉をつけ

 秋に葉を染め

 冬はじっと耐え

 

 また、春に花を咲かせる。

 

 僕にはそれくらいしかできない。

 

 

「ふむ、今年も綺麗に咲いてくれたわ。やっぱりお花見は家でやるのが一番ね」

 

 彼女が僕に向かって、何かを言った。

 でも、僕にはその言葉の意味がわからない。

 もしかしたら、僕のことを褒めてくれているのかもしれない。

 もしかしたら、こんなに咲かれて鬱陶しいと思っているのかもしれない。

 

 少しの不安と大きな期待。

 

 それでも彼女の言葉は、僕まで届かない。

 僕の言葉も彼女に届かない。

 

 こんなにも近い距離にいると言うのに、彼女と僕の間には、破ることも超えることもできない壁がある。

 

 だから僕は花を咲かすのだ。

 彼女が喜んでくれるよう、必死に花をつける。

 もしかしたら、迷惑かもしれない。

 それでも、彼女の偶に見せる笑顔が見たくて花を咲かすのだ。

 

 夏になったら、葉を伸ばし木陰を作る。

 秋には葉を染め、彩り飾る。

 冬には……えと……春、花を咲かせるために力を溜める。

 

 

 彼女は気づいてくれるだろうか?

 僕のこの気持ちに。

 ここまで僕が頑張ろうと思うのは、君のためなんだということを。

 

 気づいて欲しいかなと思う。

 気づかなくても良いかなとも思う。

 

 彼女は人間で、僕は桜。

 このどうしようもない差。

 だから、このままで良いとも思うんだ。

 

 

 気づいてる?今年は去年よりも花の色が濃いんだよ?

 そのせいで咲くのが、いつもより少しだけ遅れちゃったね。

 

「なんか、今年の桜は綺麗な気がするわ。どうしてかしら?」

 

 彼女の声がする。

 

 ふふっ、きっと彼女は気づいていない。

 僕の小さな頑張りは、彼女に気づかれない。

 たぶん、これで良いと思うんだ。

 

 

 彼女が白黒の友人と楽しそうにお喋りしているのを見ると、僕も楽しくなるし。

 彼女がお賽銭箱を確認して、悲しそうな顔をすると、僕も悲しくなった。

 

 恋心――とは違うと思う。

 この感情が何なのか、僕にはわからない。

 

 いつの日か、この感情が何なのか、分かる日が来るかもしれない。

 それはちょっと怖いけれど、多分嬉しいことなんだと思う。

 

 彼女が描く物語の中に、僕も入っていると嬉しいな。

 

 そのためにも、僕は頑張って花を咲かすのだ。

 彼女に見てもらいたくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は流れて季節は巡り、僕が僕でいられる最後の年がやって来た。

 

 気紛れは終わり、奇跡は続かなかった。

 流石に自分のことくらいはわかる。

 僕の自我は今年で消える。だから今年が最期の年。

 

 

 結局、何年経っても彼女の言葉はわからなかったし、僕の言葉も彼女には伝わらなかった。

 きっと僕の気持ちだって届いてはいない。

 やっぱりそれは悲しいけれど、それでも僕にできることを精一杯やってみる。

 

「むぅ、今年は元気がないわね。ほら、今のうちにその葉で栄養を蓄えなさいよ」

 

 彼女の声がする。

 けれども、その言葉は僕まで届かない。

 ごめんね。

 もう少し君を見守っていたかった。

 

 僕が消えたあと、この桜がどうなるかはわからない。

 けれども、僕の代わりに彼女を見守ってくれると嬉しいな。

 

 

 さぁ、最期のお仕事だ。

 ちょっとだけ無理をして、ちょっとだけ頑張ってみよう。

 その準備のせいで、今年の春は綺麗に咲けなかったから、その分も頑張ってみようと思うんだ。

 

 ふふっ、彼女は喜んでくれるかな?

 喜んでくれたら嬉しいな……

 

 そんなことを思いながら、僕は永い眠へと落ちていった

 

 

 

 

 

 

 

「よう、霊夢遊びに来てやったぜ」

 

 幻想郷の東の端にある、なんとも寂しい神社では、今日も楽しげな声が響く。

 

「あら、魔理沙いらっしゃい。素敵なお賽銭箱ならあっちよ」

 

 紅白の巫女が、白黒の魔法使いに言った。

 

「ははっ、また今度な……って、なんだそれ?なんで桜がこの時期に咲いてるんだよ?」

 

 季節は夏の終わり、秋の始まり。

 

「私に聞かれても知らないわよ。今年は元気がないと思っていたけど、こんなことを考えてたのね」

 

 何処か、抜けた答えをした巫女。

 

「いや、桜はそんなこと考えんだろ」

 

 呆れ顔で言う魔法使い。

 

「ふふっ、わからないわよ?」

 

 巫女はそう言って、優しげに桜を見つめた。

 

「そうかなぁ……でも、まぁ、たまにはこういう桜がいても良いかもな」

 

「そうね」

 

 二人は、その後も暫く季節外れの桜を眺めていた。

 

 






読了ありがとうございました

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