東方短話録   作:puc119

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塩素臭の残る水で紅茶をいれるときっとこんな味です

約7000文字です
それでもよろしければどうぞ




紫煙くゆらせぼやける景色の先で

 

 

 どうしてとか、何故とかそんなことを聞かれても、私にはちゃんとした答えを返すことはできない。

 たぶんなんとなくで始まって。なんとなくで終わったんだろう。

 

 ただこの永い人生の中で、たまにはこんなことがあっても良いんじゃないかって、アイツの煙草を吹かしながらそんなことを思った。

 私は不老不死で、アイツは弱いただの人間だった。ただそれだけのこと。

 

 それだけのことのはずなのに、目から溢れる雫が止まることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

「おや? これはちょうど良い。ちょいとそこの美人さん。よろしければ助けては……ああ、待て待て。人助けはしておいて悪いことじゃあないはずだ。ちょいと俺を引き上げてくれるだけで良いんだ」

 

 アイツの第一印象は変な奴。

 こりゃあ、関わっちゃダメだろうな。なんて思ったことを今でもよく覚えている。

 

 フラフラと迷いの竹林の中を歩いていると、肩下まで埋まった男が一人いた。何やってんだコイツ。

 何も見なかったことにして立ち去ろうとしたが、一度目も会ってしまったし、立ち去ろうとするとギャーギャー騒ぐし非常に面倒臭い。

 

 

 このまま放っておいて死なれても、後味が悪くなりそうだから、引き上げてやることにした。

 引き上げるのも大変だろうと思ったが、予想以上に簡単に抜けてくれた。

 

「おおー、すまんな。いやぁ助かったよ。見事に嵌ったせいで自分じゃ抜けられなくてね」

 

 服に付いた土を手で叩きながら、ソイツは言った。

 初めて会った時からソイツはよく笑うような奴だった。私とは大違いだ。まるで死んだ魚のような目でボサボサの髪。顔色だって良くは見えない。そうだと言うのによく笑った。

 

「それで、君のような美人さんがどうして一人でいるんだ?」

 

 それは私のセリフだ。此処は迷いの竹林。お前のようなただの人間がいて良いような場所じゃない。私は簡単に死なない体質だけど、普通の人間は違う。だって簡単に死んでしまうのだから。

 

「そうかい、そうかい。良くわからんが、まぁ人それぞれ事情ってもんがあるしな。とにかく今日は助かったよ。んで、人里で君を見かけたことはないが、もしかして此処に住んでいるのかい?」

 

 ホント、よく喋る奴だ。

 私は喋ることがそれほど得意ではないから、こう言う時どうして良いのかがわからなかった。

 

 そして、アイツの質問に一言うんと私が返すと――

 

「はぁ……君も随分と物好きな奴だな」

 

 だなんてため息混じりに言葉を落とされた。

 余計なお世話だ。

 

「そう言や、君はなんて名前なんだい?」

 

 初対面だと言うのに、どうしてコイツはズカズカと人の領域へ踏み込んでくるのだろうか?

 ソイツに対してどうにも良い印象は持たなかったが、もうどうせこれで会うことはないだろうと、自分の名前を教えることにした。

 

「へぇ、妹紅って言うのか。良い名前じゃあないか」

 

 ホント、よく笑う奴だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

「やぁ、妹紅じゃあないか。また会うなんて奇遇だな」

 

 次の日、またアイツと会った。

 また埋まっていた。しかも昨日とほぼ同じ場所で。

 

 もう会うことなんてないだろうと思っていたんだけどなぁ……

 てか、会いたいなんて微塵も思っていなかった。

 

「気づいたら埋まってしまってね。すまんが、また引き上げてくれないかい?」

 

 どうして学習しないのだろうか。

 それにもし私が此処へ来なかったら、コイツはどうするつもりだったんだ? まぁ、どう仕様も無さそうだけど。

 

 仕方無いから、昨日と同じように引き上げてやる。

 けれども、やはり簡単に引き上げることができた。これなら自分でも抜けることができるんじゃないか?

 

「いやぁ、助かったよ。あのままじゃ死んでしまうところだった」

 

 ソイツを引き上げると、やはり昨日と同じように笑った。

 死ぬだなんて少々大袈裟な気もするけれど、確かに私が此処へ訪れなかったら、妖怪に襲われていた可能性だって十分ある。それがわかっているなら、もう少し慎重になれば良いのに。

 

「引き上げてもらったばかりだけど、煙草を吸っても良いかい?」

 

 まぁ、別に構わないけど。

 

「おお、そりゃあ良かったよ。最近はどうにも煙の匂いを嫌う人が多くてな。肩身が狭くなるばかりだよ」

 

 そう言ってソイツは懐から紙煙草を取り出し吸い始めた。先端から出た紫煙は少しだけ上へと進み、また直ぐに消える。

 煙草、か。私は吸ったことがないけれど、本当に美味しいのだろうか? 身体には悪いそうだし、中毒になるとも聞いた。別に煙の匂いは嫌いではないけれど、確かに嫌う人は多そうだ。でも、この煙草はあまりキツイ匂いはしないな。昔嗅いだ時はもう少しキツかった気がする。

 

「そりゃあ、俺だって吸わない方が良いことはわかっちゃいるんだけどな。こればっかりは止められないんだよ」

 

 なるほど、これが中毒って奴か。

 ただの煙に振り回される人生など私は遠慮したい。

 

「まぁ、美味しいことには変わらないがな。これが無くなったら生きていけないくらいには美味しいよ」

 

 そう言うものか。

 

「妹紅は、こう……楽しみとかそう言う物はないのか?」

 

 楽しみ……いや、特にないかな。強いて言うならアイツとの殺し合いって事なんだろうけれど、それが生きがいと言うのはちょっと違う気がする。それになんだか気に食わないし。

 

「容姿だって良いんだから、恋愛とかしてみれば良いじゃあないか」

 

 恋愛? 私が? そんなこと考えたことがなかった。別に自分の容姿が優れていると思ったことはない。それに性格だって褒められたものではないだろうし、そもそも私は不老不死だ。

 絶対に超えることのできない壁がある。

 

「そりゃあ、もったいない。別にそんなこと関係ないと思うけどねぇ」

 

 なんだよ。じゃあお前は私をもらってくれるのか?

 

 私がそんな冗談を言うと、ソイツは少し驚いたような顔をしてから言った。

 

「はっ、10年おせえよ」

 

 その言葉に憤りを覚えないでもなかったけれど、どうしてなのやら悪い気分ではなかった。

 うん、たまにこう言うのも悪くはないと、一人静かに笑った。

 

「なんだ。君もちゃんと笑えるじゃあないか。そっちの方がよっぽど……ああ、コラ。そんな照れるようなことじゃあ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからは毎日あの場所へ訪れた。別に待ち合わせをしているわけでもなかったけれど、あの場所へ行くとアイツは必ずいた。

 流石に学習をしたのか埋まっていることはなく、だいたいいつも竹を背凭れにして腰掛けていた。

 

「やぁ、また会ったね。奇遇じゃあないか」

 

 そう言っていつもの挨拶をし

 

「ちょいと煙草を吸っても構わないか?」

 

 そう言って懐から煙草を取り出し、何時ものように吸い始める。

 奇遇も何も、此処でしかアイツと会ったことはないし、煙草だって気にしないと言っているのに……

 

 アイツのする話は、やれ彼処の団子屋は美味しいとか。やれ竹林に住む医者は美人だとか、全てが全てどうでも良いようなことばかりで、次の日には何を話したのかなんて全く覚えていない程度のもの。

 

 もう少し実のある話はできないのかと聞くと

 

「会話ってのは、次の日に忘れるくらいがちょうど良いんだよ」

 

 なんて言われた。

 いや、そうではないだろうと思ったけれど。アイツの笑う顔を見て反論する気も起きなかった。

 

「それに何も無いように思えることだって、大切かもしれないだろう? 俺はそんな器用な奴じゃあないからなぁ。他人と同じようなことしようとしても、上手くいかないんだよ」

 

 まぁ、見るからに適当そうな性格だしそうなのかもね。

 

「生きていくにはそれくらいがちょうど良いんだ」

 

 同感だよ。

 

 

 アイツはよく煙草を吸っていたから、お酒だって好きなんじゃないかと思い、一度お酒を持っていったことがあった。慧音の奴もちょうど良いタイミングでくれたものだ。

 

 普段の私なら絶対にやらないようなこと。けれども、まぁ、たまには良いかもしれないなんてお酒を持っていったが

 

「ああー、酒かぁ。悪いけど酒ばっかりはダメなんだ。悪いなわざわざ持ってきてくれたのに」

 

 なんて言って謝られた。

 別に謝るようなことじゃないのにな。私が事前に聞いておかなかったのもいけないのだし。

 

 そう言えば、私はアイツがどんな奴なのか全く知らなかった。たぶん人里に住んでいるのだと思うけど……

 よく話をする奴だけど、自分のことはなかなか話さなかった。まぁ、アイツだって私のことをよく知ってはいないだろうし、おかしなことではないが。

 

 それでもやっぱり気になってしまって、普段は何をやっているんだ? なんて聞いてみた。

 

「ん~、そうだなぁ。人里で基本的にはのんびりしているよ。んで、たまにこうやってフラフラと此処へ来ている」

 

 結局、何をしているのかわからない答えだった。

 

「さて、煙草も吸い終わったしそろそろ帰るとって、あら?」

 

 そう言ってから立ち上がったソイツは急にフラリと傾いた。

 何をやっているんだと思いながら仕方なく、倒れないように支えてやる。

 

「おお、すまんな。煙草を吸った後に立ち上がると、こうやってフラつくことがあるんだよ」

 

 だったら煙草なんて止めれば良いじゃないか。そんな調子じゃ本当に体を壊すぞ?

 

「わかっちゃいるんだけどねぇ、やっぱり煙草は美味しいのさ。それにもう身体のことは諦めているよ。コレを吸ってる奴なんて皆そんなもんだ」

 

 そう言ってソイツはやっぱり笑った。

 なんだかなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイツがあまりにも煙草を美味しい美味しい言うものだから、どれほどの物かと思い、人里へ行くことにした。この身体ならどうせ壊れることなどないだろうし。

 それに、以前もらったお酒のお礼を慧音へ言わなければいけない。

 

 そう言えば、アイツも人里にいるんだよなぁ。とか思いながらフラフラ歩いていると、慧音とは直ぐに会うことができた。

 

「おや? 妹紅が人里にいるなんて珍しい。今日はそうしたんだって、うわっ」

 

 此方に気付き、小走りをしながら慧音が近づいてきたが、私の目の前で足を縺れさせよろけた。

 まるでアイツのようじゃないかと思いつつ、倒れないよう支えてあげようとした時だった。

 

 

 うん? ……あれ?

 

 

「っと、すまない。助かったよ。って、どうしたんだ?」

 

 いや、その何と言うか……

 

 

 ――慧音、太った?

 

 

「んなっ、失礼な。別に私は太ってないんかいないぞ! そりゃあ最近ちょっと、甘いものを食べ過ぎた気がしないでもないけれど、決して太ったわけじゃない!」

 

 そ、そんなに怒ることじゃないだろうに、どうしたのやら。

 それにふくよかな方が男性からはモテるんじゃないのか?

 

「妹紅にはわからないだろうけど、私だって頑張っているんだ!」

 

 いや、そんなこと言われても……

 だって私、絶対に太らないし。

 

 って、違う。そんなことはどうでも良いのだ。

 

「どうでも良くない!」

 

 ちょっと黙って慧音。

 

「あっ、はい」

 

 そうだ、慧音は重かった。

 いや、そんなに重くはないけれど……そう、アイツと比べて圧倒的に重かった。アイツの方が慧音より身長は高い。そうだと言うのに、アイツは軽かった。

 慧音が太っていることもあるだろうが、アイツは異常なほど軽い。今思えば、埋まっているアイツを引き上げる時だっておかしかった。そりゃあ霊力を使えば力は出るけど、あの時はそんなことをしていない。そうだと言うのに、あの時は簡単に引き上げることができた。

 

 嫌な汗が流れた。

 

 最初からヒントはあった。

 どうしていつもあの場所にいる? どうしてあの煙草はキツイ匂いじゃなかった?

 アイツは何も言わなかったが、それでも充分予兆はあったじゃないか。

 

「ねぇ妹紅。そろそろ喋っても良い? あと、人のことを重い重い言われると傷つくのだけど……」

 

 もしかしてアイツ……

 

 何かブツブツと言っていた慧音を残し、全力であの場所目指して駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

「やぁ、また会ったな。奇遇じゃあないか」

 

 いつもの場所にアイツは居て、いつもと同じ挨拶をした。

 

 良かった。間に合った。

 

「おや? 随分と急いで来たみたいだけどどうかしたのかい? ああ、あと煙草吸っても良い?」

 

 

 ……なぁ、聞きたいことがあるんだ。

 

 

「うん? どうした?」

 

 

 もう――助からないのか?

 

 

「……えと、いきなりどうしたんだ? そりゃあ確かにこの身体は諦めているが、そんな助からないとか言われてもなぁ」

 

 私の問いにソイツは困ったように笑って答えた。

 

 いつもコイツには誤魔化されてばかりだった。けれども今回ばかりは誤魔化されないよう、色々と考えてきたことをひたすら言葉に出した。

 違うならそれで良い。私の勘違いならそう言ってくれ。

 

 コイツがいつも此処にいるのは永遠亭へ行ってるからじゃないかと言うこと。その煙草は普通の煙草じゃなく薬なんじゃないかって言うこと。そしてその身体はお酒すら飲めないくらい弱ってしまって……

 

 あまりにも支離滅裂。けれども、そんな言葉は全てが全て繋がっていた。

 

 

「ああ……なんだ。気づいちまったのか」

 

 私が話終わると、ソイツは静かに静かに言葉を落とした。

 

「どうやらな、魔法の森で倒れていたんだってよ。それも莫迦なことに、毒の胞子を出す化け茸の真ん前で。人里の医者に診てもらったが、無理だって言われたよ。もう毒を抜くことはできないってさ。でも、竹林の医者ならなんとかなるかもしれんって言われた。んで、実際に其処へ行ってみたんだが、其処でも無理だって言われた。流石に遅すぎたらしい。ただコレを吸えば、少しだけ延命することはできるんだとさ」

 

 そう言ってからソイツは取り出した煙草を吸い始めた。

 

 

 ――あと……あと、どくらい生きていられるの?

 

 

「これが最後の一本だ」

 

 

 静かに落とされたその言葉は残酷なほど、私の頭の中で響いた。

 だって、つまりそれは、その言葉の意味は……

 

 なんて声をかけて良いのかわからず、どんな顔をして良いのかもわからず、ただひたすらアイツが煙草を吸う姿を見ていた。

 赤くなった煙草の先端は、アイツが息を吸う度にその根元へと近づいていく。ゆっくりと。けれども煙草は長くはない。

 

 そして、その赤くなった部分が半分を過ぎた時、急にアイツが笑い始めた。

 

 

「はっ、ははっ。なんて言う顔をしているんだよ。そんなわけないだろうが」

 

 

 は? えっ?

 

 

「だからさっきの話は嘘ってことだよ。そんな上手い話があるわけないだろう? 確かに永遠亭には行っているけど、それは煙草をやめるための薬をもらっているだけ。んで、その薬がこれだ。だから他の煙草と匂いが違っただろ? んで、酒を飲めないのは元々そう言う体質なんだよ。ちょっと飲むと直ぐ赤くなって寝ちまうんだ」

 

 

 んなっ、なんだよそれ。

 それじゃあまるで私がバカみたいじゃないか。一人で勘違いして、勝手にそんなことを……

 

「いやいや、俺のせいではないでしょうが。いや、もういきなり何を言いだしたのかと思ったよ」

 

 はぁ、もういい。なんか今日は疲れたから帰ることにするよ。

 

 

「ああ、じゃあまたな」

 

 

 そんな言葉を交わしてから、逃げるようにアイツと別れた。

 

 これ以上は一緒になんて居られるわけがなかった。

 またな、か。

 

 

 

 ホントお前は――嘘……下手だね。

 

 

 

 次の日、何時もの場所へ行ってもアイツはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 もうどうせ来るとこはないとわかっていながらも、毎日あの場所へは行き続けた。

 そしてアイツが来なくなってから4日後。あの場所へ行くと其処にはあの医者がいた。

 

「あら、本当に来るとは思わなかったわ」

 

 嘘をつけ。どうせわかっていたことだろうに。

 

「彼の話、聞きたい?」

 

 この医者が此処に来たと言うことは……まぁ、そう言うことか。

 

 アイツの話かぁ。どうせ禄な話じゃないんだろうな。

 

「そうね。貴方への言葉は残していなかったわ」

 

 じゃあ、何故聞いた。

 いったい何がしたいのだろうかと思っていると、あの医者が私へ小さな箱のような物を投げてきた。

 

 少々驚きながらも、なんとかそれを落とさないように掴む。

 

 これは?

 

「外の世界の紙煙草だそうよ。貴方がもらってあげなさい」

 

 それだけ言うとあの医者は行ってしまった。

 なんだと言うのか。

 

 暫くその煙草が入っている箱を見つめていたが、なんとなく箱を開け一本取り出してみた。

 そのまま口へ加え、先端に火を点ける。

 

 その先端からはゆらゆらと紫煙が出てきた。出てきた煙は私の目へ入り視界をぼやけさせる。

 以前アイツに教わってように、煙草を加えたまま口の中へ空気含み、煙草を離してから息を吸った。チクチクと喉が焼かれ、思わずむせ込む。

 

 ……なんだよ、ホントにアイツは嘘ばっかじゃないか。目から溢れる涙は止まらないし、全然美味しくもない。

 煙草を吸ってみれば、アイツの気持ちがわかるんじゃないかって思ったけれど、そんなことは全くなかった。

 

 ――煙草なんて嫌いだ。

 

 ただただ、そう思った。

 

 様々な思考が紫煙と共に浮かんでは消えていく。

 どうしてアイツのことばかり考えるのか、何故アイツのことばかり考えてしまうのか。そんなことを聞かれても私は答えることができない。

 

 人生なんてそんなもんだって割り切るのは簡単だ。

 アイツは弱い人間で私は不老不死。たったそれだけのこと。そんなことはわかっている。

 

 わかってはいても、涙は止まらなかった。

 

 

「やぁ、また会ったな。奇遇じゃあないか……って、あら? なんだよ煙草なんて吸っちゃって俺の真似か?」

 

 

 ぼやけた視界の先にアイツが見えた。

 夢や幻では……ない。

 

 

「煙草は身体に悪いんだがなぁ……ちょうど良いや。俺も久しぶりに吸いたくなった。その煙草、一本もらえないかい?」

 

 袖で涙を拭う。

 はっきりと見えるアイツの笑う顔。

 見間違えるはずもない、いつものあの笑顔

 

 そして、色々な感情が溢れ出してきたから、その顔へ向かって煙草の箱を投げつけることにした。

 

 






なんかどんどん長くなってますね……


読了ありがとうございました

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