七星と、七銘のルーデウス 作:マブダチ
サウロスとの話し合いが終わり、俺たちは二階のゲストルームへと案内された。
部屋にはいくつかのベッドが少し離れて並んでいる。
大きさとしては、人が三人寝れそうなくらいだった。
そのうちの一つにナナホシが座る。
『とりあえず、俺たちは無事に王都アルスへとたどり着くことができた。ひと月と経ってしまったが、身体は大丈夫か?』
『はい。おんぶしていただいていましたので』
初めてにしてはそこそこの長旅になってしまったが、ナナホシに不調は見受けられない。
治癒魔術も、最初の靴擦れを治したぐらいで、その後彼女に使うことはなかった。
『これから、どうするんですか?』
当初の目的――王都アルスへの到着は成された。
よって、新たに行動の指針となるようなものを決めておかなければならない。
『最初は、タントリスに言ったように持ち物を売って、その金でしばらく活動するつもりだったが……タイミングよくうまい話が転がり込んできたからな』
『さっきの、サウロスさん……フィットア領の領主様、ですよね? その方に雇われる、ということでしたが』
『ああ』
サウロスは俺が水魔術を扱えることを知っていた。
まあ、旅の途中、のどが乾いたら特に隠さず使っていたからな。
それからいくつか質問を受けた。
水魔術、特に天候を扱う魔術はどうだ、土魔術についても問題はないか、とか。
『フィットア領の復興に向けて早速動き出すみたいだ』
『それとルードさんと、何の関係が?』
『復興の拠点として開拓村が作られるだろうから、その村の防壁を作ったりだの、消えた川の堤を作り直したり……色々だな。こういう時に魔術師がいないと、いちいちどっかで石を切って運んでくるか、そもそも後回しにされるか、ってなってしまう』
実際、俺がフィットア領に戻ってきたとき、そういったところの設備はまったく整っていなかった。
国がまともに動かなかったから、というのもあるか。
だから魔術師である俺を見つけたのは、サウロスにとって幸運だったのかもしれない。
ちょっと不用心すぎる気もしないでもないが。
『なら、また向こうに戻るんでしょうか』
『いや……』
もちろん、それが確実だし、一番楽だ。
だが、王都アルスでやるべきことがある以上、ここを離れるわけにはいかない。
しかし、サウロスの誘いを断るということも、できなかった。
向こうが提示した報酬としては、金銭と、住む場所。
要は、この屋敷に滞在することを許す、ということだ。
宿屋で過ごすよりも、この辺りなら兵士の数も多いし、油断は禁物にせよ、そこそこ安全だろう。
それに、サウロスの処刑を防ぐ必要があった。
一介の冒険者がどうにかできるようなものじゃない。
政治の世界に口出しするってことだからな。
なら、ここで貴族のパイプを持つことは今後にとって重要な布石となるに違いない。
よって、受けることにはした、のだが。
『俺はフィットア領へ運ぶ石材を魔術で用意すればいい、ってことになった』
正直、土魔術と水魔術を復興に適したレベルまで習得している魔術師は俺以外にもいる。
サウロスがなぜ俺にこだわるのかはわからないが、俺のその提案を二つ返事で了承した。
一応、俺の用事が終わるまでは、ってことなのだろうか。
結局運ぶ手間が生じるわけなのだが……まあ、石材を用意してくれるだけでも助かるんだそう。
聞くところによれば、一人の魔術師に全部やらせてしまうと、面倒くさいことが起こるかもしれないとか。
いろんな所に協力を要請して、復興し、最終的に「みんなの力でやり遂げた!」として、変に褒賞などを出させないように、みたいな。
サウロスは納得していなかったが。
「恩人に対しての礼すら渋るのか」とお怒りだった。
アルフォンスの「これもルード様が迷惑を被らないために」というフォローが無ければ、王城にでも突っ込んでいってたかもしれない。
彼は俺たちについてあまり良く思っていないようだが、主の決定に従うというスタンスを貫いている。
ならば、その流れをどう良くしていくか、という指針で行動するのがあの執事なのだろう。
ありがたいことだ。
ちなみに、貰う報酬に関して、金については最低限度だけ貰うことにしている。
サウロスはフィットア領復興のため、ボレアス家の全財産を使おうとして不満を買ったからな。
その辺、俺の頑張り次第でどうにかなる……といいのだが。
『石材なんて用意できるんですか?』
『ああ。満足いく出来かどうかは確認するまでわからんが、ほら』
手のひらより小さめな石を作り出す。
俺お手製の黒くて硬い奴だ。
『こいつをどう思う?』
『すごく……硬いです』
あまり本気で作ると硬さ重視で異常に重くなってしまうので、その辺を気を付けなければいけないが。
これを使って壁などを作ってくれる職人たちがしっかりしてくれれば、相当ひどい災害でもない限り壊れることはないだろう。
今後の予定としては、まずこの石材を用意する仕事をこなす。
そしてサウロスの処刑を防ぎ、アリエル派の失脚を阻止する、ということになる。
言葉にすれば簡単だが、行動に移すのは容易じゃない。
サウロスを生かす方法については、一つ考えがある。
処刑に大きく関わった者の一人、ピレモン。
奴は第二王女アリエル派の筆頭貴族である、とされている――が、アリエルたちのクーデターが失敗したのち、奴は失脚することなく、それどころか重鎮の座を手に入れていた。
第一王子派筆頭貴族のダリウスに取り入って、どちらに転んでもいいように動いていたのだろう。
だが、奴はそれでも第二王女派の筆頭貴族である。
ならば今のところ、アリエルにつくことのほうがメリットがあると考えているはずだ。
もうすでに第二王女派が明確に勢いを落とした、ということはなさそうだし、現在もどちらかといえばアリエル寄りではあるだろう。
なら、サウロスが第二王女派になれば?
かつ第二王女派が盤石であれば、ピレモンはそうやすやすとサウロスを処刑しようとはできないのではないだろうか。
だから、これがサウロスを生かす方法の一つ。
問題はある。
第二王女派がサウロスを必要とする可能性が低いことだ。
国にとっては、領地を失ったこと以上に、それに伴った利益の損失がかなり痛手となっているはず。
また、サウロスは災害の不満の避雷針のような役割も持っている。
領民の怨嗟ごとサウロスを引き取るようなことをしてくれるか?
難しいだろう。
サウロスは今一人だ。
この屋敷を貸してくれているという貴族も、切り捨てるときはあっという間だろう。
サウロスは弱みだ。
それを覆すような材料がない限り、第二王女派が振り向くことはない。
……裏を返せば、その材料が手にはいれば、もしかしたらうまくいくかもしれない。
ただ、それに加えてアリエルの失脚も防がなければ、ピレモンにとってサウロスの処刑が不利益だとは思われないだろう。
どちらも、こなさなければいけない。
出来るか?
やってみるしかない。
とにかく動くしか、ないんだ。
『……ルードさん』
ふと、
『……私にも、何か手伝えることはありませんか?』
ナナホシがそう聞いてきた。
『どうしてだ?』
『何から何までおんぶにだっこでしたから。少しは私も役に立とうかと、思って』
『……そうか』
……まあ、恩を作りすぎるというのも、気になるものだ。
俺からすれば、そんな意識しての行動というわけでもなかったし、軽く捉えてほしいものなのだが。
『とにかく、まずは言葉を覚えないとな』
『……そうですね。……はい。今日もよろしくお願いします、ルード先生』
今日はやることはない。
夜になったら水神流の道場に行ってもいいが……いや、やめておこう。
わからないところで疲れは溜まっているものなのだ。
今晩はゆっくり休むべきだろう。
『どこまで話したか……ああ、そうだな、確か――』
いつも通りアイスブレイクを行い、授業を始めた。
……時間がどれくらいあるかはわからない。
サウロスに近づけても、それ自体が処刑の抑止力になるわけじゃない。
もっと、食い込む必要がある。
この国の、政界へ。
まずは一歩踏みしめることができたことを喜ぼう。
その次の一歩。
何のピースが必要か、俺にはまだ分かりかねた。