七星と、七銘のルーデウス 作:マブダチ
一晩考えた結果、俺たちはクルーエル兄妹と共に王都アルスへ向かうことに決めた。
ナナホシは俺の判断に一任しているようで、反対はしなかった。
言語の壁があるからか、ナナホシはあまりクルーエル兄妹と関わろうとしない。
が、それほど問題にはならないだろう。
というか、知らない人に苦手意識があるのは普通のことだ。
ただそれが、言葉がわからないから払拭できないままでいるだけで。
ともかくこれで、旅の仲間ができて、行動の指針が決まった。
ナナホシは『ローファーで大丈夫かな』と心配していたみたいだが、俺がおんぶすることを伝えると見たことのない顔で固まった。
……当たり前だろう。靴擦れを起こすたびに治癒魔術をかけてたらすぐにドライン病に罹るかもしれないんだから。
というのを説明してもわからないだろうから、適当にでっち上げでごり押した結果、
『そんなに私をおんぶしたいんですか?』
誤解が生まれた気がする。
いや、バシェラント公国の魔術師、ルード・ロヌマーは誤解を恐れない!
俺は鷹揚に頷いた。
ナナホシはドン引きしていた。
朝。
朝食を終え、俺たちは旅の支度を進めていた。
とはいえ、ほとんどすることがなく、忘れ物がないか確認するくらいだったが。
普通なら野営の道具だったり、食料だったりを巨大なバッグに詰め込むのだが、クルーエル兄妹の荷物は転移に巻き込まれて無くなってしまっており、俺たちはすかんぴん。
結果として持ち物らしい持ち物は剣だの杖だの、そんなのしかなかった。
ここ、ムケハ村から王都アルスまでは、馬車を使っても2、3週間かかる。
だが、それほど悲観することもない。
ここは魔大陸じゃないんだ。
隣町との距離なんて、どれだけ遠くても1日あればたどり着ける距離にあるはず。
野営する場面なんてほとんどないだろうし、餓死するなんてこともそうそう起こらない。
魔物も弱いやつしかいないし、整備された街道を使えば、そもそも遭遇する可能性が少ない。
心配なのは路銀だが、そこは大丈夫そうだった。
タントリスは金品を肌身離さず持ち歩くタイプのようで、そちらは無事だったようだ。
……しかし、道連れとなったとはいえ、そんな金銭感覚で良いのかと思ったが。
「魔術師の方、特に水魔術を扱える方であれば、旅で重宝されると聞きます。いつでも腐っている心配のない水を飲めるのは大きいですからね。ですから、これは私たちがルードさんたちを雇っているという形で」
とのことだ。
彼はかなりのお人よしなのだろうか。
そこのところ、イゾルテと一緒にいることでバランスが取れているのかもしれない。
「お、もう出るのかい?」
旅の準備が済み、宿を出ようとしたところで、マスターに声をかけられる。
相変わらず朗らかな笑みを浮かべたままだ。
「ええ、夜にならないうちに隣町に着いておきたいものですから。……しかしマスター、本当によろしいのですか?」
「ん、ああ……昨日のことかね」
タントリスは昨夜、マスターにも俺と同じような誘いをしていたらしい。
というのも、ムケハ村の住人は彼を除いてみんな避難しており、この村には彼一人しかいないのだという。
マスターはクルーエル兄妹を休ませておくため、一人残っていたのだ。
フィットア領転移事件は未知の災害だ。
二次災害なんてものがあるかもしれない。
そう考えて、自分の身を守るために行動するのは当然のことだろう。
そして、タントリスも同じようなことを考え、マスターと一緒にアルスへ向かおうとしたのだが。
「やっぱり、遠慮しておくよ」
マスターは困ったような笑みを浮かべて、頭の後ろを掻く。
「確かに坊主の言うとおり、ここが明日も無事な保証はない」
「なら、どうして?」
「……娘と、妻……2人ともロアにいてな。今日ぐらいに帰ってくる予定だったんだが、あの災害でな」
……しばし沈黙が続く。
クルーエル兄妹はそのことを知らなかったようだった。
無理もない。
マスターはそれを悟らせないように、俺たちを元気づけていたのだ。
「娘もいねぇ、妻もいねぇ、そんで住んでた場所まで無くなっちまったら、俺、どうしようもねぇからよぅ。でもよぅ、ここで待ってたら、そこの爺さんみたいにひょっこり顔を出してくれるかもしれねぇだろ?」
「マスター……」
「だから、俺ぁいかねぇよ。でも、すげぇうれしかったぜ! 坊主、お前大きくなるぞぅ!」
「わ、私はもう成人していますから」
大きな手でタントリスの頭をなでる。
マスターは間違いなく、この災害の被害者である。
だけど、それでも折れない人間というのはいるものだ。
でなければフィットア領の復興なんて無かっただろうし、捜索団も結成されていなかった。
「……と、そうだそうだ、忘れるところだった。ちょっと待っててくれよ!」
そう言うとマスターは部屋の奥に入っていってしまった。
向こうは調理場か? かすかに昨日食べたシチューの匂いがする。
マスターはすぐに戻ってきた。
両手にたくさんの干し肉を持って。
「空腹ってのは色々暗い気持ちにさせてくるからなぁ、ちょっと小腹が減ったかな、ぐらいでもかじってみると良い」
「よ、よろしいのですか、こんなにたくさん……」
「いいのさ! 余らせちまうぐらいだったら、胃の中に入れてもらったほうがこいつらも喜ぶ!」
どさっと袋に干し肉を詰め込み、有無を言わさずタントリスに渡す。
イゾルテとともに中を覗き込み、同じような反応をしていた。
だけど彼らはすぐに姿勢を整え、マスターに向き直る。
「「ありがとうございます!」」
そうして俺たちは、マスターに見送ってもらったのだった。
ムケハ村を離れていく。
今日は雲一つない晴天だった。
とりあえず、全員が干し肉を一つかじってみた。
『しょっぱ』
だけどまあ、うまいものだった。
旅のお供、というわけではないが、干し肉は旅の定番の食糧だ。
だというのに、同じ味、というものはほとんどない。
どれも1つ1つ違った味だ。
だから旅というのは、面白いのかもしれない。
いざ、出発。
目的地は王都アルスだ。
『さあ乗れ、ナナホシ』
『うぇぇぇ』
そんな旅のお供は、目が死んでいた。