七星と、七銘のルーデウス   作:マブダチ

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第六話「ナナホシの勉強会」

 表立って街道を歩いたのは何年ぶりだろうか。

 人の目を気にせず歩けるというのがここまで清々しいとは思わなかった。

 

 戻ってきた、という実感がわく。

 旅の道連れは背中に背負ったナナホシ姫と、剣士のクルーエル兄妹。

 エリスでも、ルイジェルドでもないが、懐かしさを感じてしまう。

 あの時もこうして、誰かの背中を見ながら歩いていたっけな。

 思わず口が軽くなり、聞かれてもいないままナナホシにアスラ王国のことを説明する。

 彼女はそれでも、少し楽しそうだった。

 

 旅は順調そのものだ。

 

 


 

 

 二日目。

 昨日のうちに隣町へと到着した俺たちは、そのまま宿に泊まり休むことにしていた。

 俺もクルーエル兄妹も疲労が溜まった様子はなかったので、そのまま次の街へと進むつもりだ。

 だがどうやら次の街までは、歩いて半日もしないところにあるという。

 クルーエル兄妹はこの街の知り合いに生存報告を兼ねて会いに行ってくるということで、午前中は自由時間となった。

 

『ということでだ、ナナホシ』

『はい』

 

 ベッドの前に立つ俺に対し、姿勢よく座るナナホシ。

 

『これからお前のための勉強会を開く』

『……勉強会、ですか。それはもしかして、こちらの世界の言語の?』

『それも含め、一般常識……例えば通貨とか、文明レベルとかから、地理とか、いっぱいだ』

『いっぱいですね』

『ということで、この時間、俺のことは”ルード先生”と呼ぶように』

『はい、先生』

 

 ……変なところでノリ良いよな、こいつ。

 

 ナナホシ自身も色々知りたいことがあったのか、興味津々な様子。

 これなら大丈夫そうだ。

 どこかの山猿とまで言われた赤髪の姫君と違って、苦労することはなさそうだな。

 

『教えることは多いが、何においてもこの世界の言葉がわからなければ不便で仕方ないだろう。よって、今日の授業は”こくご”とする』

『先生』

『なんだ』

 

 ピン、と優等生のようにナナホシが手を挙げた。

 

『語学学習には絵本の読み聞かせなどが有効だと聞きます。そういったものはこの世界には無いのでしょうか?』

『絵本はどうだろうな……ほとんど小説みたいなものしかないと思うぞ。それに、製本技術がまだまだ未熟だから、単純に高価だ。いつか買う機会はあるだろうが、今はさすがにな……』

 

 絵がついているものと言えば、図鑑が当てはまるだろうか。

 大昔の誕生日に、ゼニスからプレゼントされたのが、たしか植物図鑑だったはず。

 全ページ手書きで、挿絵ももちろん手書き。

 そりゃあもう高いに決まってる。

 絶賛ひも状態の今、クルーエル兄妹にねだるなんて出来るわけがない。

 

『あ……そうね、えっと……ルードさんは』

『先生だ』

『せ、先生はもともとは日本人だったんですよね? どうやってこの世界の言語を習得したんですか?』

 

 どうだったかな……さすがに昔すぎて微妙なところではある。

 ああ、そうだ。たしか、言葉を聞き取れるようになったのは、自然とだった気がする。

 しかもそれは俺が赤ん坊だったからだ。

 ナナホシには役立たない情報だろう。

 

『そうだな……結局、本を読み聞かせてもらったりして覚えていたな』

『本、高価って話でしたけど……もしかして、結構良いお家の生まれだったんですか?』

『ああ、これがな、俺も驚いたんだが、実は親父が上流貴族のお坊ちゃんだったらしくてな』

『すご!』

 

 小さい頃は家の外に出るのが怖くて、自分の家とほかの家を比較することもなかったしなぁ。

 どのタイミングで知ったのかは忘れてしまったが、驚いたことだけは覚えてる。

 

『やっぱりメイドさんとか、執事とかがついてたりするんですか?』

『いや、多分お前が想像しているのとはちょっと違うぞ。別に豪邸に住んでたわけじゃない。広いのは広いが、いたのは家族だけだ』

『そうなんですか……』

『あ、いや、一応いたな。メイド』

『そうなんですか!?』

 

 もう感覚的に家族だったからなぁ、リーリャは。

 

『これが複雑なんだ。俺を生んでくれた母親が、妹ができた、ってお祝いムードの中で、そのメイドの妊娠が発覚してな』

『……お相手は』

『親父だ。家の空気は最悪だった』

 

 わぁー、とナナホシは興奮しっぱなしだった。

 こういう話をすると引かれるかもと思ったが、彼女は嫌いじゃないらしい。

 

 ……パウロの浮気より俺のおんぶのほうが忌避感あるの納得いかねぇ!

 

『この世界でも、やっぱ一夫一妻制なんですか?』

『実はそうでもない。親父が結婚した相手が、”ミリス教”って宗教に入っててな。そっちの教義で”一人だけを愛すべし”みたいなことが書いてあるんだ』

『なるほど、宗教』

『価値観とかは中世そのままだから、貴族は妾とか作りまくってたりするぞ』

 

 ナナホシはメモを怠らなかった。

 こんなことに貴重な紙を使うなよ。

 

『それで、どうなったんですか、そのメイドさんは!』

『それはだな……ん?』

 

 待てよ。

 俺は何でこんな転生トークで盛り上がってるんだ?

 

 い、いかんいかん。

 いつになくテンションが上がってしまった。

 今は勉強会だ。

 俺は厳格な先生なのだ。

 ここでビシっと言わねば、先生としての威厳が崩れてしまう。

 そう、ビシっと!

 

『……それは、また今度だ!』

『えー!』

 

 ……こ、これは授業の最初のアイスブレイクだから。

 ノーカンだ、ノーカン。

 お互い、楽しい気分でやれたほうがいいからな。

 

 ――しかし、先生か。

 また、その日にやる授業の内容に頭を悩ませることになるのだろうか。

 それは、いいな。

 俺はそれが嫌いじゃなかった。

 

 当初の予定通り、俺はナナホシに言葉を教える。

 メモとペンを借りて、簡単なものから覚えさせていこう。

 まずは「ありがとう」と「ごめんなさい」だ。

 

 クルーエル兄妹が帰ってくるまでの間、俺たちの授業は続いた。

 

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