七星と、七銘のルーデウス   作:マブダチ

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第七話「友好」

 7日目。

 ナナホシはやはり優秀だ。

 日常会話のうちでも一部の単語くらいだが、聞き取ることができるようになった。

 母国語に埋もれると新しい言語の習得は難しい、というのをどこかで聞いた覚えがあるが、それ抜きにしてもこのスピードは凄まじい。

 人間、やる気があれば大抵どうにかできてしまうということなのか。

 

 授業の始めの転生トークについては、色々脚色を加えつつ話している。

 まるっきり記憶の通り話してしまうと、本来のルーデウスに会った時に面倒くさいことが起こるだろうからな。

 まあ、こういうのは真実だろうが嘘だろうが何だっていいのだ。

 友人と馬鹿話をするようなノリだから、楽しさ優先じゃないとな。

 

 旅のほうも、これといったアクシデントも無く。

 最近は、ナナホシもおんぶに慣れてしまったようで、旅の途中はほとんど背中でぐーすか寝るようになった。

 その代わり、夜更かししているみたいだが……明かりの少ない夜にすることなんて何もないはずなのに、何をしているのだろうか。

 聞いてもはぐらかして答えてはくれなかった。

 宿の外に出たりとかはしないみたいだし、危険がなければそっとしておけばいいか。

 そういう結論になった。

 

 今日は旅を中断して休むことになっている。

 雨が降ってきたからだ。

 しとしと、と窓が濡らされる。

 クルーエル兄妹はそこそこ良い宿に泊っておいて良かった、と言っていた。

 辺鄙な村の安宿とかだと、雨漏りがひどく、場合によっては荷物が駄目になってしまうんだとか。

 ナナホシは朝から、湿気で髪がぐちゃぐちゃになってたり、気圧の関係か反応が鈍かったりと、大変そうだ。

 体調面は治癒魔術を使えると楽なんだが、彼女には我慢してもらうしかない。

 

「そろそろ、馬車が拾えると良いんですがね……」

 

 俺たちの旅は徒歩から始まったが、さすがにそれは時間がかかりすぎる。

 ということで、行く先々で馬車を探すのだが、見つからない。

 街の小金持ちなんかが、家財道具を持って王都アルスの別荘へ避難するのに使ったりしているため、出払っているんだとか。

 まったく、迷惑な話だ。

 

「この街の知り合いのところには昨日のうちに顔を出してしまいましたし……」

「やることがありませんね」

 

 急に時間が空いてしまったので、俺たちは暇を持て余していた。

 この時間を勉強に充ててもいいのだが、クルーエル兄妹がいるからかナナホシはあまりやりたくなさそうだ。

 転生トークだの先生呼びだの身内ノリ的なところがあるからだろう。

 ナナホシは俺の隣に座って、ぼーっと窓の外を見ていた。

 

 ……あんまり、良くないよな。

 旅の仲間ができたとはいえ、宿代だとかを出してもらって、こうも関係が薄いままでいるのは。

 知らない人にあまり関わらないのは、この世界では正解と言えるが。

 でも、ナナホシ自身は、少しずつ心を開いているみたいで。

 あまり態度には出さないが、仲良くしたがっている。

 なら。

 

『ナナホシ』

 

 タントリスとイゾルテも近くに呼ぶ。

 一つ手をたたいて注目させた。

 

『自己紹介をしよう』

 

 


 

 

「わた、しは……サイレント、えーっと、サイレント・セブン、スター……です」

「おお! すごいですね!」

 

 メモを見ながらナナホシは自分の名前を人間語で口にした。

 メモには”私はサイレント・セブンスターです”と人間語で書かれており、その上に日本語訳とカタカナで発音が書かれている。

 アクセントだの抑揚だのない、たどたどしい言葉だったが、クルーエル兄妹は微笑みながらそれを聞き届けた。

 それを見て、ナナホシも少し笑顔になる。

 

「私は、タントリス・クルーエル、です」

「たん、とりす……」

「はい」

 

 タントリスはナナホシに分かりやすいよう、ゆっくりとはっきり自己紹介をした。

 聞いたままオウム返しでナナホシは名前を呼ぶ。

 ずいぶんとやりやすそうだ。

 

「私は、イゾルテ・クルーエルです」

 

 イゾルテも兄に倣ってゆっくりと口にした。

 彼らのことはすでに日本語で紹介しているのだが、『こっちが兄で、こっちが妹だ』と補足する。

 一応俺は翻訳係兼進行役ということで、クルーエル兄妹は俺の進行をにこやかに笑って待っていた。

 

「まあ、知っての通り、サイレントは人間語がわからない。だが今後中央大陸で活動することになるだろうから、鋭意勉強中だ。それにあたって、まずは世話になったお前たちと仲良くなっておきたい、と思っているらしい」

 

 実際にそう言ったわけではないが、そういうことにしておこう。

 彼らもナナホシに対しとっつきにくい印象を持っていたのかもしれないが、俺の言葉に肩の力を抜いた。

 

「今日は、二人のことを教えてやってほしい」

 

 サイレント・セブンスターについて教えるべきことなんて、ただ俺が考えただけの設定でしかないからな。

 今日はクルーエル兄妹のことを知るだけでいい。

 俺は翻訳に徹することにする。

 

 


 

 

「――なんていったってお師匠様です。あんな巨大な魔物なんて見たことない、そう驚いてたところ、たったの一太刀でその魔物を両断してしまうんですから」

『水神ってすごいのね……!』

 

 いや、しかし、驚いた。

 クルーエル兄妹、彼らは水神の孫というのもあって、こういうときの話題には事欠かないだろうと思っていたが。

 途中まではタントリスが年長者らしく話題を出していたりしたのだが、水神レイダ・リィアの話になった瞬間イゾルテのスイッチが入ったようで。

 老婆がどんな相手にも冷静沈着で無双する、そんなロマンある話に今度はナナホシまで熱が入ってしまったのだ。

 あまりにもマシンガントークすぎて翻訳が追い付かん。

 

 ちなみに、タントリスはほとんど蚊帳の外だった。

 ……まあ、家族関係だの、生まれた場所だの、あまり興味をそそらないものだ。

 今は白熱する水神トークを尻目に、暖かな目線を妹に注いでいた。

 

「世の中には剣神流、水神流、北神流の三流派がありますが……やっぱり水神流が世界一の流派だと思います。剣神流は脳筋ですし、北神流は卑怯ですし」

『そうね、言葉巧みに相手の攻撃を誘い、後手に回りながらも、確実に相手に勝利する。カウンターってやっぱ、ロマンよね』

「ええそうですそうですよねそうですとも。サイレントさんは物分かりが良い。どうですか、水神流に興味はありませんか?」

 

 勧誘するな。

 そしてナナホシ。

 迷うな。断りなさい。

 

『それはまあ、おいおい……。それで、イゾルテさんも水神流なのよね? どれぐらい強いのかしら?』

「それはもう天才ですよ!」

「あ、兄上?」

 

 今度はタントリスにスイッチが入った!

 

「私はイゾルテが小さいころから親代わりとして育ててきました。でもそんな小さいころからイゾルテは水神流の剣士として頭角を現していたのです」

『やっぱり、天才ってちっちゃな頃から人と違うのね』

「ええそれはもちろん。なんたって初めて歩いた時には水神流の歩法を使っていましたし、イヤイヤ期の時は水神流の奥義『流』に似た構えをとっていたりして、近づくのに苦労したこともありました」

『あら、そうなの』

 

 さすがに嘘だよな?

 冗談だと思っているのか、ナナホシはくすくすと笑っている。

 イゾルテは顔を真っ赤にしたままだ。

 兄の定番のジョークなのか、はたまた……。

 

「兄上、そろそろ止めていただけると……」

「ああそれと、あの時ですね。イゾルテがおねしょをした時の――」

「兄上ってば!」

 

 ナナホシは笑いながらメモを取る。

 

 ――イゾルテはおばあちゃんっ子。タントリスはシスコン。

 まあ、悪口ではないのだ。紙がもったいないから、最小限で表現しただけに過ぎないのだ。

 たぶん。

 

 とにかく、三人とも打ち解けられたみたいだ。

 分かり切ったことだが、質問を投げかける。

 

「友達には、なれそうか?」

 

 三者三様の笑みで、全員が頷いた。

 ……作戦、成功、でいいんだよな?

 

 そんなこんなで、雨が上がるまで、クルーエル兄妹のことを根掘り葉掘り聞いたのだった。

 

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