キラ、脚付き、イザーク、ディアッカが地球に降下してからしばらく経ち、俺とアスランはヴェサリウスの待合室で整備と補給を受けているソウル、イージス、ブリッツの3機の様子を見ている。
「…ダン」
整備中のソウルの様子を見ている俺にアスランが話しかけてくる。
「何だ?」
「あいつは…キラは無事に地球に降りられたんだろうか…」
おそらく、第8艦隊との戦闘でキラが爆風で吹き飛ばされ、地球に落ちていった事が気になっているんだろう。
アスランの気持ちはよく分かる。俺も同じだからな。
「分からない。今は祈るしかないな」
「だが、無事だったとしても…その時は、また戦う事になるんだろうな…」
もしキラが無事なら、おそらく脚付きも無事だろう。その時は、あの艦を討つまでまた追撃を続ける事になるだろう。
そして、またあいつと戦う事も…。
アスランはそれを気にしているんだろう。
「…アスラン」
俺はそんなアスランに対し、静かに口を開く。
「今は敵としてではなく、友として、あいつの無事を信じてやったらどうだ?」
「…ダン…」
俺の言葉を聞いて落ち着きを取り戻したのか、不安そうな表情も少し柔らかくなっている。
「二人共、ここに居たんですか」
俺達がキラの話をしている最中、待合室のドアが開き、ニコルが入って来る。
「…ニコルか」
「イザーク達、無事に地球に降りたようです。さっき連絡が来ました」
「そうか…」
「あの大気圏を突破して、よく無事だったな」
「そうでもないですよ。二人共地球に着いた時は、かなりフラフラだったと言っていましたから。しばらくは、ジブラルタル基地に留まることになるようです」
「…そうか」
「…」
アスランは無言で下を向いている。まだキラの事を考えているんだろう。
「…アスラン?」
「え?あ、ああ…」
ニコルに声をかけられ、我に返ったアスランは少し慌てながらも俺達の方を向く。
「また一人で考え事か?余り一人で悩むな」
「ああ…。すまん」
「…ところで、出撃していたイザークは大丈夫だったのか?」
「ああ、それは…」
ニコルの話によると、どうやら傷が完治する前の状態で出撃したらしい。全く無茶をする奴だ。
「…でも心配ないですよ。あの時もあれだけの戦闘をやってのけたんですから」
「…そうだな」
「まあ、あいつはプライドが高すぎる事もあるが、粘り強いところもあるからな」
イザークの話をしていると、ニコルは整備中のソウル、イージス、ブリッツの方を見る。
「…でも、大丈夫なんでしょうか?」
「何がだ?」
「結局僕らはあの最後の1機、ストライクと新造戦艦の、奪取にも破壊にも失敗しました。この事で隊長は、また帰投命令でしょう」
「クルーゼ隊長でも落とせなかった艦だ。委員会でも、そう見ているさ」
第8艦隊を壊滅させたのは良いが、肝心の脚付きを墜とせなかった事で、クルーゼ隊長は委員会から呼び出しを受けたらしい。
「クルーゼ隊長の事だ。ただで帰投する程、何も考えずに行動するような人じゃないさ」
「そうですよね。ダンの言う通りかもしれません。僕、ちょっとブリッツを見てきます」
「ああ。後でな」
ニコルは待合室を出て、ブリッツがあるモビルスーツデッキに向かう。
「…アスラン」
ニコルが去ったのを確認した俺は真剣な顔でアスランに声をかける。
「…ダン…」
「さっきも言ったが、余り一人で背負うな。キラの事は、俺も一緒に考える」
「ああ。いつも心配かけてすまんな、ダン」
若干無理をして笑顔を見せているが、考え事をしていた時よりはマシになったのは見て分かる。俺はそんなアスランの肩に手を置いて笑みを見せて答える。
その後は俺の予想通り、帰投命令を受けたヴェサリウスは、再びプラントに戻る事になった。
しばらくしてプラントに戻り、ヴェサリウスから降りた後、本部から休暇を貰った俺は、クルーゼ隊長と家族の所に帰るニコルと別れ、アスランと一緒に“ある場所”に向っている。
その“ある場所”とは勿論、クライン邸である。
ラクスが自宅にいると聞き、久しぶりに三人でゆっくり話をしようと思ったからだ。
「ダン、着いたぞ」
アスランの運転で車を走らせ、ようやくクライン邸に辿り着いた俺とアスランは、邸宅の手前にある門に設置されているカメラ付きのインターホンに自分達の身分証を見せる。
「クルーゼ隊所属、ダン・ホシノ」
「同じくアスラン・ザラ。ラクス嬢と、面会の約束で来ました」
《確認しました。どうぞ》
俺達の身分証が認証され、門が開いたのを確認した俺達は、車を進めて門を通り抜ける。
車を降り、インターホンを鳴らすと扉が開かれ、一人の執事が俺達を招く。
「お帰りなさいませ、ダン様」
執事が俺に一礼をする。その執事は、俺がシーゲルさんに預けられた時からよく世話をしてくれている人だ。
「ただいま執事さん」
俺は執事さんに久しぶりに挨拶をしていると…
「お帰りなさい、ダン。アスランも、よくいらっしゃいましたわね」
上の方から覚えのある声が聞こえてくる。
「ただいま、ラクス。久しぶりだね」
「はい。本当にお久しぶりですわ。お元気そうで安心しましたわ。」
階段で二階から降りて来るラクスに声をかけると、彼女は笑顔で返事をしてくれる。
「すみません。少し、遅れました」
「あら、そうですか」
『ウォン、ウォン』
『ダーン。アスラーン。ハロゲンキ!』
ドルフもハロも元気そうで何よりだ。
「そうだ。ラクスに渡す物があるんだ」
「ラクス。これを」
俺とアスランは、クライン邸に来る前に用意しておいた綺麗な花束をラクスにプレゼントする。
「まあ!ありがとうございます。ダン。アスラン」
受け取ったラクスは、とても喜んでくれている。彼女の喜ぶ顔を見ると、俺達も用意した甲斐があった。
しかし、一つ気になる事がある。
「ところで…この大量のハロは何?」
「はい。毎年私の誕生日にアスランがプレゼントしてくれるおかげで、こんなに集まって賑やかになりましたの♪」
ラクスから理由を聞いた俺は、大量のハロ達に囲まれながら呆れながらため息をつく。
「…アスラン」
「…すまん。まさか、そんなにプレゼントしていたとは気付かなくて…」
アスランは冷や汗をかきながら俺に謝っている。
まさか自分が気付かない程にハロをプレゼントしているとはな…。
俺達のやり取りを見て面白かったのか、ラクスの方を見るとクスクスと笑っている。
「さぁ、お二人共どうぞ」
「ごゆっくり」
ラクスに招かれて一緒に庭に向かう俺とアスランを執事さんは一礼をして見送る。
ドルフとハロ達も俺達に続くようについて来る。
「でも、いいのかい?」
「何がですか?」
「せっかくの婚約者同士の水入らずに、俺がいると邪魔になるんじゃないかな?」
俺は挨拶だけを済ませたら、二人がゆっくり話ができるように、久しぶりに自分の部屋でゆっくりしようと思っていた。
ラクスはさっきの俺の言葉に対して笑顔で首を横に振る。
「邪魔だなんて…そんな事思っていませんわ。むしろ、ダンも一緒にいてくれた方が楽しいですし、わたくしはとても嬉しいですわ」
正直、二人に悪いと思ったが、ラクスは逆に俺がいる方が嬉しいと言ってくれた為、彼女の言葉に甘え、ラクスとアスランと一緒にいる事にした。
「オカピー」
庭に着くと、ラクスはドルフとは異なる犬型ロボットを呼んで、さっき俺達がプレゼントした花を預ける。
ラクスが呼んだ犬型ロボットの名前はオカピ。食事やお茶を運ぶ為に作られた給仕用ロボットで、人間が乗るように設計もされている為、幼い頃のラクスはよく乗って遊んでいた。アスランとの婚約後まで乗っていた為、一度は壊れてしまった事があり、ラクスはかなり落ち込んでいたが、俺とアスランがオカピを修理して直し、それがきっかけで俺はドルフを、アスランはハロを造ってラクスにプレゼントした。
「お花を持って行って。アリスさんに渡してね。それからお茶をお願いって」
アリスさんとはクライン邸に仕え、執事さんと同じ、俺達の世話をしてくれるメイドさんだ。
ラクスに頼まれたオカピは背中に花を乗せてアリスさんのところに向かっていく。
お茶を頼んでから少し経ち、オカピが持ってきたお茶と洋菓子を味わいながら雑談を楽しむ。
こういう時間を過ごすのは本当に久しぶりだ…。
「ネイビーちゃん、おいで」
ラクスが庭で遊んでいる複数のハロから一機を手招きして呼び出すと、名前を呼ばれた濃紺色のハロがラクスの所にやって来る。
『ハロ、ゲンキ!』
「今日はお髭にしましょうね」
ネイビーを手に取ったラクスはペンを取り出し、何とネイビーの顔に髭を書き始める。
「これでよし、っと。出来ました!」
書き終えたネイビーを見ると、顔に白い髭が書かれている。ネイビー………ドンマイだ。
「さぁ、お髭の子が鬼ですよー」
ラクスは席を立って、持っているネイビーを庭で跳び跳ねているハロ達の方へ放すと、鬼であるネイビーを先頭に次々とハロ達がついて行く。
『ウォン!ウォン!』
ドルフもこの中に加わっており、ハロ達よりも速い速度でネイビーを追いかけて行く。
「あらあら、ドルフが一番にネイビーちゃんを捕まえちゃうかもしれませんわね♪」
クスクス笑うラクスは再び俺とアスランのところに戻ってくる。
「追悼式典には戻れず、申し訳ありませんでした」
「いいえ。お二人のご家族の分、私が代わりに祈らせていただきましたわ」
「そうか。ありがとう、ラクス」
俺が礼を言うと、ラクスは笑顔で答え、皿から洋菓子のクッキーを取って細かく崩し、近くにいる小鳥達に与える。
「お戻りだと聞いて、今度はお逢いできるのかしらと楽しみにしておりましたのよ。今回は少し、ゆっくり御出来になれますの?」
「どうだろうね…」
「休暇の日程は、あくまで予定ですので」
「この頃はまた、軍に入る方が増えてきてるようですわね。
私のお友達も何人も志願していかれて…。戦争がどんどん大きくなっていくような気がします」
「そうなのかもしれません……、実際…」
俺もアスランも、一刻も早く戦争を終わらせる為に尽力して戦っているが、それでも戦争が終結する様子は見当たらない。
何を討てば、戦争は終わるのか…あの時のラクスの言葉通り、戦争とは難しいものだ…。
「そう言えば、キラ様は今頃どうされてますのでしょうね。あのあと、お会いになりました?」
戦争について悩んでいると、ラクスがキラの話を切り出してきた為、俺がそれに答えるように口を開く。
「キラは地球にいるよ。無事だとは思うけど…」
イザークとディアッカが無事に地球に降りたんだ。キラもきっと無事な筈だ。
「小さい頃からのお友達でいらしたのですか?」
「えぇ。5歳の頃から。ずっと月に居たのですが…。開戦の兆しが濃くなった頃、私は父に言われて先にプラントに上がって……」
「俺もアスランに続いて、両親と一緒に移動したけど…」
「…あいつも後から来ると聞いていたのに……」
あの時の俺とアスランはプラントに着いた後、キラも来るのを待っていた。しかしキラが来る様子もなく、連絡も取れずに時が流れ、あの血のバレンタインという悲劇が起きてしまった…。
そして俺達が軍人となり、初の任務でキラと違う形で再会をした…。
「そういえば」
「?」
「ハロとドルフのことをキラ様にお話したら、あなた方の事、相変わらずなんだなって」
「キラが?」
「嬉しそうに笑っておられましたわ。自分のトリィもあなた方に作ってもらったものだと。キラ様も大事にしてらっしゃるようでしたわ」
「…トリィ?」
「あいつ、まだ持って…?」
「ええ。何度か肩に居るのを見ましたわ」
「そう…ですか…」
「…」
幼い頃にプレゼントしたトリィを、キラはまだ持っていてくれていたのか…。正直嬉しかった。友情の証であるトリィをあいつは今でも大事にしてくれていた事が。
「私、あの方好きですわ」
「…えっ!」
アスランはラクスの発言を聞き、動揺している。
「ラクス。いくら冗談でもそんな事を言ったら、アスランが嫉妬するよ」
「な、何を言ってるんだダン!?」
俺が言葉にアスランは更に動揺する。
「うふふ。そうですわね♪」
「ラ、ラクスまで!?」
アスランの反応をラクスと楽しんだ後、ゆっくりお茶を飲んだり、三人で話をしたり、庭を歩き回ったりと、色々と楽しい時間を過ごした。
そうして時間を過ごす内に、いつの間にか外は夕方になっている。俺はアスランと一緒にクライン邸を後にしようとしたが…
「お前はせっかく家に帰って来れたんだ。本部からの呼び出しが来るまでは、家族との時間を大事にしろ」
…と言われた為、俺はクライン邸に残り、アスランだけが帰る事になった。
「…行くのか?」
「ああ。ずっとここにいる訳にもいかないからな」
「議会が終われば父も戻ります。アスランにもお会いしたいと申しておりましたのよ」
「やることも色々ありまして…。その、あまり戻れないものですから…」
「そうですか…では仕方ありませんわね…」
「時間が取れれば、また伺いますので…」
「本当に!?お待ちしておりますわ」
「じゃあな、ダン。ラクス、おやすみなさい」
「おやすみなさい、アスラン」
「気を付けてな」
挨拶を済ませたアスランは車に乗りクライン邸を後にする。俺とラクスは車が見えなくなるまで見送り、クライン邸に入る。
「…アスランには感謝しないといけませんわね」
「何で?」
「だって、アスランがああ言って下さらなかったら…ダンも向こう戻ってしまわれたのでしょう?」
「…そうかもしれないね」
「ですから…アスランのお言葉に甘えて、次の任務が来るまでは、ゆっくりなさって下さいな」
「うん。ありがとう」
確かに、ここ最近プラントに戻る事があっても、こうしてラクスと話をする機会が少なくなってしまっている。
今の内に、この穏やかな時間を味わっておかいと…。
「それでは、お父様が戻って来るまで私とお話でもして待っていましょう♪」
その後、しばらくしてシーゲルさんがクライン邸に帰って来る。
「お帰りなさいませ、お父様」
「シーゲルさん。お帰りなさい」
「ただいま。久しぶりだね、ダン。元気そうで良かったよ。今度は、いつまでここにいられるのかね?」
「分かりません。いつ任務に戻るかは、まだ決まってませんから…」
「そうか。とにかく、呼び出しが来るまでは、ゆっくりしていきなさい。ここは君の家であり、私達は家族なのだから…」
家…。家族…。父さん達を失って絶望していた時に、シーゲルさんとラクスがくれた俺の新しい居場所。
そのおかげで、今の俺がある。
「はい。ありがとうございます」
俺はシーゲルさんに礼を言うと、シーゲルさんは俺の肩に手を置いて微笑む。ラクスはその様子を笑顔で見守っている。
「さあ、久しぶりに家族全員で夕食にしようじゃないか。
ラクスも、君に話したい事がたくさんあると言っていたからね」
シーゲルさんがそう言うと、いつものようにラクスが俺の腕に引っ付いてくる。
「さあダン、行きましょう♪」
「うん。そうだね」
俺は軍本部からの呼び出しが来るまでの間、シーゲルさんとラクスと一緒に久々の家族の時間を過ごした。