ジブラルタル基地を出発し、俺、ニコル、イザーク、ディアッカの輸送機は、無事にカーペンタリア基地にたどり着いたが、アスランの輸送機がまだ到着していない…。
現在俺はカーペンタリア基地内の通路を通り、待機室の前まで来ている。
入室すると、そこには心配そうな表情のニコル、腕を組んで座っているイザーク、いつもの軽い感じで雑誌を読むディアッカの三人が俺の知らせを待っている。
…いや、正確には報せを待っているのはニコルだけで、イザークとディアッカはそれほど心配はしておらず、平然な顔をしている。
あれほど足つきを追わせろとクルーゼ隊長に主張しておきながら…無責任な奴等め…。
「ダン!アスランの消息は!?」
俺は心の中でイザーク達への怒りを燃やすが、それを一旦抑え、駆け寄って来たニコルに現状報告を説明する。
「アスランが乗っていた輸送機は、偶然遭遇した地球軍の戦闘機の攻撃を受けて墜とされたが、アスランは先にイージスで脱出して、輸送機のパイロット達もその後に脱出した後、無事に保護されたみたいだ」
俺の報せを聞いて、ニコルは安心な表情を浮かべるが、まだ報告は終わっていない。
「だが…先に脱出したアスランは、まだ発見されてないみたいだ」
「そんな…」
俺の説明でニコルは再び心配そうな表情に戻る。
すると今まで説明を聞いていただけのイザークが話に割り込んで来る。
「つまり、栄えある我がザラ隊の、初任務は…“隊長の捜索”、という事になるな」
“隊長の捜索”を強調し、にやけながら言うイザークの言葉を聞いたディアッカは大笑いし、ニコルはそんなディアッカを少し睨んでいる。
俺はそんなイザークとディアッカを無視して、ニコルを少し気にかけながらも話を再開させる。
「上層部にこの事を報告したが、ジブラルタルでクルーゼ隊長が仰った通り、スピットブレイクの準備で今は手が離せないらしい。となると、俺達だけでアスランを探す事になる」
「やれやれ、なかなかさい先のいいスタートだねぇ」
俺の説明を聞き、ディアッカはため息をつきながら言う。
「探すと言っても、もう日が落ちる。捜索は明日だな」
「そんな!」
イザークの発言を聞いたニコルは反論しようとするが、ディアッカが話に介入してくる。
「イージスに乗ってるんだ。落ちたって言ったって、そう心配する事はないさ。大気圏に落ちたってわけでもないし」
「ま、そう言うことだ。今日は宿舎でお休み。明日になれば母艦の準備も終わるってことだから。それからだな」
ニコルに反論の余地を与えないように発言したイザークとディアッカは、ソファーから立ち上がり宿舎に向かう為に待機室を後にしようとする。
イザーク達の発言を黙って聞いていた俺は呆れながら…
「そうか。なら勝手にしろ」
「ダン!?」
俺の言葉を聞いたニコルは驚愕しながらこっちを見ている。それもそうだ。言葉的には、投げやりのような言い方をしているからな。
イザーク達はドアの前に着き、俺の言葉を聞いていたのか、イザークは一度俺を見て鼻で笑った後、待機室を出て行こうとする。
「ただし」
俺はそんなイザーク達に対し、念を押すように口を開く。
「クルーゼ隊長と合流した時は、しっかりと報告させてもらうぞ。お前達二人の……
“隊長不在中の身勝手行為”を…な」
俺の言葉に反応したディアッカが驚愕し…
「…何だと…」
イザークも驚愕しているが、怒りも含めて俺を睨んでくる。
俺はそんなイザークを冷静に睨み返しながら、更に話を続ける。
「クルーゼ隊長の言葉を忘れたか?
隊長であるアスランが不在の時は、隊の指揮権は隊長代理である俺にある。その俺の許可もなく、独断行動を取るという事は…命令違反としての報告には十分だからな」
「貴様…!」
イザークは歯を噛み締めながら俺をに睨んでくる。
今度は俺が反論の余地を与えないように話を進める。
「さあ、どうする?そのまま出て行って自分達の評価を下げるか…大人しく俺の指示に従い、一緒にアスランを探すか…俺はどっちでもいいがな」
俺のとどめの言葉にイザークは悔しそうに歯を食い縛りながら俺を睨み、ディアッカはそんなイザークを心配そうに見ている。
「…ちっ!いいだろう、付き合ってやる!」
イザークは舌打ちをしながらも了承し、ディアッカも両手を軽く上げ、観念したように笑っている。
それを確認した俺は待機室の窓から外を見る。
「この沈みようだと…だいたい2、3時間だな。すぐ行動を開始するぞ」
時間は既に夕方になっている。
俺はニコル達を連れて、残された時間を使い、アスランの捜索に向かう。
準備を行ってから数十分後。
俺とニコルは中型輸送機に収納してあるソウルとブリッツを発進位置に移し、出撃の準備をしている。
『やれやれ…。何で俺達が基地でレーダーによる探索なんだよ』
ディアッカはため息をつきながら、面倒くさそうに言う。
イザークとディアッカは、レーダーでアスランの探索をさせる為にカーペンタリアの指令室に残している。
「イザーク。ディアッカ。俺達が戻って来た時、お前達がいなかった場合は…」
『しつこい!何度も言われなくても分かっている!』
俺が釘を刺すように言うと、イザークが反論してくる。この様子なら問題なさそうだな。俺にあれだけ言われ、そのまま帰るのは、奴自身が許せないだろうからな。
「ならいい。ニコル、準備はいいか?」
『はい。いつでも行けます』
「よし。なら、行くぞ」
ニコルとの通信による確認を終え、先にソウルを発進させる。
「ダン・ホシノ、出撃する!」
モビルスーツ用のサブフライトシステム・グゥルに乗って空に飛び出すソウルとブリッツ。
外が暗くならない内に、アスランの捜索に取りかかる為、オレンジ色に染まった大空を翔け出す。
捜索から二時間が経ち、カーペンタリアから少し離れ、ストライクと足つきとの遭遇に警戒しながら、周辺の海域と無人島を見渡すが、イージスらしき機体はどこにも見当たらない。
『ダン…。そろそろ、時間です…』
ニコルからの通信を聞き、コックピットに設置してある時計を見ると、すでに2時間が経ち、外も暗くなってきている。
一応、連絡を試みるも、通信が妨害され、全くアスランのイージスに連絡が繋がる様子がない。
何故ならこの地球には、“ニュートロンジャマー”が設置されているからだ。
ニュートロンジャマー。
血のバレンタインで地球軍の核ミサイルによる被害を受けた事で核を脅威と見たザフトが地球に降下後に設置した兵器である。
地上全体に設置した事により、核分裂が抑制され、核ミサイルを初めとするあらゆる核兵器を封じる事ができる。
しかし、副作用として電波が阻害され、それを利用した長距離による通信は使えなくなってしまう。レーダーも同様に撹乱されてしまう。
その為、現在もアスランの捜索が困難している。
「…仕方ない。戻ろう」
『…わかりました』
俺とニコルはアスランの捜索を中断し、カーペンタリアに戻る事にした。
カーペンタリアの格納庫に到着し、モビルスーツから降りると、すでにイザークとディアッカが待っていた。
「ふん!やっと戻って来たか。で、捜索の結果はどうだ?まさか、あれだけ大口を叩いて、手ぶらで帰ってきた訳じゃないよな?」
嫌味の含んだ笑みを浮かべて言うイザークをニコルは睨んでいる。相変わらず、いけ好かない奴だ。
「よくもそんな事が言えるな。自分達の隊長の心配もせず、捜索を明日にしようとした奴等よりはマシだと思うがな…」
「っ…!貴様…!」
俺の仕返しにイザークは怒りを露にして近づいてくる。
そんなイザークを俺は冷たく睨み返し、いつでも迎え撃てるようにしていると…
「よせイザーク!今騒ぎを起こしたら、後が面倒だ」
イザークが俺に返り討ちにされるのを見てきたディアッカは、イザークの肩を掴んで止める。イザークはディアッカに止められるが、目は俺を睨んだままだ。
「捜索続行は明日の夜明けからだ。それまで、ゆっくり体を休めとけ」
俺はイザークの睨みを無視し、俺の後についてくるニコルを連れて格納庫を後にする。
軍服に着替え、休養を取る為に宿舎に向かう途中、俺は捜索に付き合わせたニコルに謝る。
「すまんなニコル。あれだけ付き合わせておいて…」
「気にしないでください。あの時、ダンがアスランの捜索を主張してくれた時…すごく嬉しかったです」
「…ありがとな」
俺の言葉にニコルは微笑んで頷いて答え、色々と話をしている内に俺達が休む部屋に到着する。
「じゃあ、また明日な」
「はい。また明日」
そして、夜明けにアスランの捜索を再開する為に早めに休養を取る。
数時間の休養を終え、俺達の母艦となる大型潜水母艦・ボズゴロフの準備とモビルスーツの収納が完了し、外も明るくなり初めた為、俺達はすぐにアスランの捜索を再開する。
母艦を出航させてからしばらく経ち、海中を潜水しながら通信連絡を行いながらレーダーでの探索をしていると、突然通信が反応する。それを確認したニコルが呼びかける。
「アスラン、アスラン!聞こえますか?応答願います!」
『……ニコルか?』
「アスラン!良かった!」
アスランの声を聞いて安心しているニコルに続き、今度は俺がアスランに呼びかける。
「アスラン。無事か?」
『ダン!ああ。なんとかな』
「もう少し待ってろ。今電波からそっちの位置を特定する」
『わかった』
アスランとの通信を終え、その電波を辿ってアスランとイージスの位置を特定した俺達は、すぐにそこへ急行する。
アスランがいると思われる島に到着した母艦が浮上すると、島に紛れて隠れていたイージスが現れ、コックピットからアスランが降りてくる。それを確認すると、ニコルが先にアスランの元に駆け寄る。
「アスラン!」
「ニコル!」
「無事で良かったです」
俺もニコルに続いてアスランに歩み寄る。
「心配したが、どうやら無事のようだな」
「ダン!すまなかったな。心配をかけて…」
「気にするな」
「アスラン。ダンに感謝してくださいよ。昨日はイザーク達が捜索を今日にしようとしたのを、ダンが隊長代理として限られた時間を使って捜索を主張して、一緒に探してくれたんですから」
ニコルから聞いたアスランはかなり驚いている。
「そうだったのか…。ありがとう、ダン」
俺に礼を言うアスランに対し、笑みを見せて小さく頷いて答える。
「ほら、いつまでもそこにいないで早く入れ。島で一晩過ごしたとはいえ、余りゆっくり休んでいないだろ?」
「ああ」
アスランは返事をするが、何故か後ろを振り向いている。
後ろにあるイージスではなく、更に向こうを見ている感じだ。
「…どうした?」
「え…。あ、いや。何でもない。すぐにイージスを持ってくる」
「わかった」
俺がアスランに声をかけると、少し慌てながらも返事をしたアスランは、イージスの元に走っていく。
さっきアスランが後ろを見ていた事を気にしながらも、無事にアスランと合流した後、アスランを部屋でゆっくり休ませ、一足先にストライクと足つきとの戦闘に備えて準備を進めながら、足つきの追跡を始めるのだった。