マルキオ導師の訪問、そして安静中のキラが目覚めてからしばらくして、遂にラクスの新曲披露のコンサート当日を迎える。
玄関前には会場に向かう為の車が用意され、護衛の為のボディガード達も配置されており、執事さん達が見送りに来てくれている。
「ではマルキオ導師。しばらくの間、留守をお願いします」
「マルキオ導師。キラの事、よろしくお願いします」
「わかりました。道中お気を付けて」
「ドルフ、ハロちゃん達、ちゃんと良い子にしているんですよ?」
『ウォン、ウォン』
『『『ハロハロ、ハロハロ』』』
それぞれの会話を終えた俺達は用意された車に乗り、執事さん達の見送りを受けながらコンサート会場に向かう。
クライン邸を出発してから十数分後。
俺達の乗る車がコンサート会場の手前まで来ると、数えきれない程の観客、ファン達が歓声を上げながら手を振っている。
それに答えるようにラクスは車越しから観客達に笑顔を見せて手を振って答える。
会場入口に到着した後、俺は車から降りてボディガード達と一緒にラクス達の護衛をしながら会場内に入場する。
シーゲルさんを他のボディガード達に任せ、俺は数人のボディガード達と一緒にラクスを専用の控え室に送り届ける。
控え室前に着くと、既に女性マネージャーとメイク担当者が待機している。
「ラクス様、お待ちしておりました」
「衣装とメイクの準備は整っております」
「ありがとうございます。では皆さん、よろしくお願いします」
「じゃあ、俺達はここで見張りながら待っているよ」
「はい。しばらくの間、待っていてくださいね」
ラクスはそう言って女性マネージャーとメイク担当者と一緒に控え室に入っていく。
俺はボディガード達と一緒にラクスの準備が整うまで、不審者を近付けないように見張りながら待つ事にした。
ラクスが控え室に入ってから30分が経ち、準備を終えたのか、女性マネージャーが出てきて声をかけてくる。
「ラクス様の準備が整いました」
それを聞いた俺とボディガード達はラクス護衛の為、更に周囲の警戒を強めていると、女性マネージャーが俺にしか聞こえない声で話しかけてくる。
「ラクス様が貴方に用があるとお呼びです」
「(ラクスが俺に…?)…了解だ」
俺が女性マネージャーと一緒に控え室に入ると、そこには、いつものロングヘアーと髪飾りではなく、ツインテールの髪型、空をモチーフとした水色のドレスを着用したラクスの姿があった。
いつもと違うラクスの姿を見て俺は言葉が出なかった。
いつものラクスも綺麗だが、コンサート用の別のドレスを着ているラクスは更に魅力的だった。
「うふふ。どうなさったんですかダン?」
そんな俺の思考を読んだようにラクスは優しく微笑みながら声をかけてくる。
「え…?いや…なんでもないよ」
少し顔を赤くしながら言う俺の表情を見て、ラクスはクスクスと笑いながらも笑顔を見せてくれる。
さっきまでいた女性マネージャーとメイク担当者は、いつの間にか空気を読むように退室している。
「それで…いかがですか?」
アピールをするように横にクルッと回りながらコンサート用のドレスを纏った自分の姿を俺に見せてくれる。
ラクスに声をかけられ少し焦りながらも、俺はすぐに自分の思ってる事を伝える為に返事をする。
「ああ。似合ってるよ、とても」
嘘偽りのない俺の返事を聞いたラクスは嬉しそうに微笑む。
「ありがとうございます。正直、ダンに喜んで頂けるか心配しましたが、そう言って下さってとても嬉しいですわ」
互いに笑みを見せ合った後、ラクスは静かに語り出す。
「いよいよ…ですわね」
「そうだね。色々あったね…」
ラクスの護衛…
プラントへの帰還…
地球軍の進攻によるプラントの防衛…
そしてキラとの再会…。
色々あったが、ようやく無事にコンサートを向かえる事ができて安心している。
後はラクスがリハーサルの成果を本番で発揮できるように、俺は自分にできる事をやるだけだ。
「さあダン、参りましょう」
「うん。行こうか」
ラクスと一緒に控え室を出た俺は、待機していたボディガード達と一緒に周囲を警戒しながら彼女の護衛をしながらコンサートの舞台裏への移動を始める。
舞台裏に到着すると、カーテン越しからでも聞こえる程に観客の声が聞こえてくる。
ラクスの方を見ると、緊張しているのか、深呼吸をしている。
緊張しているラクスが少しでも落ち着くように、励ましの言葉を伝える為に彼女の肩に手を置くと、ラクスは少し驚きながら俺を見る。
「…ダン」
「大丈夫。ラクスは今日まで一生懸命頑張ってきたんだ。なら、後悔しないようにそれを全力でやればいい」
俺の言葉を聞いて緊張していたラクスの表情に笑顔が戻ってくる。
「ありがとうございます、ダン。私、頑張って歌いますわ。今日来て頂いた観客の方々と…私を守って下さる貴方の為に」
強い決意を瞳に宿しながらも優しい笑顔を俺に見せてくれるラクス。そんな彼女にスタッフが駆け寄ってくる。
「ラクス様、お時間です」
「わかりました」
ラクスはスタッフに返事をした後、一度俺に笑顔を見せて舞台に移動して配置に着く。
10分後。
司会の注意事項が会場内に流れ、遂にコンサートが始まる。
注意事項が終わると、ラクスがいる舞台の幕が開かれる。
俺はボディガード達と一緒に万一の場合に備えて周囲を見渡しながら警戒する。
ラクスのコンサートが無事に終わる事を心の中で願いながら…。
照明が舞台を照らし、その光がラクスへと集まってくる。
いつもと違う姿のラクスを見ただけで、観客達は歓声と共に彼女に拍手を送っている。
ラクスはコンサートに来てくれた観客達に感謝の言葉を伝える。
『皆さん、本日は新曲披露のコンサートへ来て頂き、ありがとうございます。皆さんへの感謝と共に、私も思いを込めて歌わせて頂きます』
ラクスが挨拶を終えると、観客達の拍手が更に大きくなる。
観客達の拍手が止み、曲が流れ出した事を合図にラクスは歌い出す。
コンサート開始から50分後。
ラクスが最初に作曲した『静かな夜に』から始まり、その後は他の歌が披露されるが、それはコンサート限定に彼女が作曲した歌である為、メインである“新曲”はまだ披露されていない。
ラクスが歌い終わったのか、観客からの拍手が響き渡り、彼女はそんな観客達に笑顔を見せながら語りかける。
『ここまで私の歌を聞いて頂き、ありがとうございます。名残惜しいですが、次の曲で最後となります』
「(遂にここまで来たか…)」
ラクスの言葉を聞いた観客達は残念そうな表情を浮かべたり、名残惜しそうな声を出すが、彼女は続いて観客達に優しく語りかける。
『次に歌う曲は…戦火が徐々に広がりながらも、可能性を信じ、希望を諦めない想いを込めて作曲しました。どうかお聞き下さい。その先の未来を信じ、平和への祈りを込めた、私の新曲を…』
ラクスの言葉を合図に曲が流れてくる。
水の音をイメージさせる音楽が流れ、ラクスは静かに歌い出す。
『水の証』
この曲こそ、今回のコンサートで披露する為にラクスが作った新曲だ。
リハーサルでよく聞いていたが、改めて聞くと歌っているラクスの世界に対する優しさと平和への願いが伝わってくる。
俺はラクスが無事に歌い終える事を願いながらボディガード達と一緒に周囲を警戒しいると、遂に彼女は新曲を歌い終える。
その直後、観席から大きな拍手が響いてくる。
ある観客は嬉しそうに。
ある観客は涙を流しながら感動している。
拍手している観客達の中にはシーゲルさんの姿もある。俺達と別れた後、ボディガード達に守られながら特等席でラクスの歌を聞いていたらしい。
しかし、ある方向を見て俺は驚愕する。
何故なら、観客の中にジャン・エクシーグの姿もあったからだ。
彼もラクスの歌を聞く為にコンサートに来ていたらしい。
彼は優しく微笑みながらラクスに称賛の拍手を送っている。
ラクスの方を見ると、観客達の笑顔を見てとても喜んでいる。
ラクスは観客達に感謝の気持ちを伝える為に口を開く。
『どうか、皆さんが歩む未来が平和でありますように…その想いと願いを胸に、私も頑張って歌い続けますわ。本日はコンサートに来て頂き、誠にありがとうございます』
挨拶を終え舞台の幕が閉じていく最中、観席からの称賛の拍手が鳴り続ける。
ラクスを護衛しながら控え室に向かう途中でも観席からの拍手が止む事はなかった。
控え室に到着したラクスは緊張から解放されたように深呼吸をしている。あれだけ大勢の観客の前で歌ったんだ。今もかなり緊張しているはずだ。
ラクスが落ち着いてきたのを確認した俺は彼女に声をかける。
「…お疲れラクス。とても良い歌だったよ」
「ありがとうダン。そう言って頂けると私も頑張って歌った甲斐がありましたわ」
俺の言葉にラクスは嬉しそうに笑顔で答えてくれる。
その直後、控え室のドアからノックする音が聞こえてくる。
「ラクス、ダン。私だよ」
ドアをノックしたのはシーゲルさんのようだ。俺達が返事をするとシーゲルさんが控え室に入ってくる。
「ラクス、よく頑張ったな。ダンも、ラクスを守ってくれてありがとう」
「ありがとうございます、お父様」
「いえ。軍人としての責務を果たしただけです」
シーゲルさんの労いの言葉に俺とラクスは返事をして答える。
しかし、俺は心の中で“ある事”を気にしている。
「ダン。キラの事が気がかりですか?」
ラクスが俺の考えている事を見抜くように声をかけてくる。
「ああ。安静にしてると思うが…」
心配そうな表情で俺を見るラクス。そこへシーゲルさんが俺に話しかけてくる。
「そうだな。コンサートも無事に終えた事だし、そろそろ帰ろう」
「…はい」
その後、ラクスとシーゲルさんを護衛しながらコンサート会場前に配置されている車に乗った俺は、彼女達と一緒に観客達、スタッフ達の見送りを受けながらキラが待つクライン邸に戻る事にした。