それでは、ゆっくりお楽しみ下さい。
アークエンジェルに到着してからしばらくして、俺はキラとアスランと一緒に、アスランが乗る為のシャトルに移動している。
シャトルの近くに着くと、アスランは見送りに来たディアッカに話しかける。
「もし戻らなかったら、君がジャスティスを使ってくれ」
「…いやだね。あんなもんにはお前が乗れよ」
万一の場合備え、ジャスティスを託そうとするアスランに対し、ディアッカはいつもの皮肉を入れた言葉で断る。
しかし、その口調はアスランを気遣うようにも聞こえてくる。
キラの方は心配そうにアスランの様子を見ている。
俺が無言でアスランの肩にそっと手を置くと、それに気付いたアスランは少し驚きながらこっちを向く。
そしてしばらくして、アスランは自分は大丈夫だと伝えるように、落ち着いた表情で頷く。
俺もそれに頷いて答える。
「ちょっと待てお前!アスラン!」
聞き覚えのある声の方を見ると、カガリがこっちに近付き、そしてアスランに詰め寄る。
おそらくクサナギのメンバーから聞いて、急いでアークエンジェルまで来たんだろう。
「お前、どうして?」
「…カガリ…」
「なんでプラントなんかに戻るんだよ!」
どうやらカガリは、アスランがプラントに行く事に反対らしい。
「ごめん」
「ごめんじゃないだろ?だってお前、あれ、置いて戻ったりしたら…」
謝罪の言葉をかけるアスランに対し、カガリはジャスティスの方を見ながらアスランに問いかける。
「ジャスティスはここにあった方がいい。どうにもならない時は、キラとダンがちゃんとしてくれる」
「そういうことじゃない!」
アスランの説明を聞いても、カガリはまだ納得できない様子らしい。
「でも…俺は、行かなくちゃ」
「アスラン!」
「このままには…できないんだ…俺は」
必死に止めようするカガリ。
それでも自分の意思を変えないアスラン。
そんな二人のやり取りを見兼ねたのか、キラはカガリに声をかける。
「カガリ」
「キラ…」
キラに便乗するように、俺もに加わる。
「アスランの性格は、お前も少しは知っている筈だ」
アスランの性格を多少は知っているカガリは、心配そうにアスランを見ている。
一方アスランは、カガリを安心させるように笑みを見せる。
カガリを落ち着かせた後、アスランがノーマルスーツを着た姿で戻り、シャトルに乗り込んだのを確認した俺は、キラと一緒にそれぞれの愛機のコックピットで発進準備を進める。
『シャトル護衛のため、発進します』
「しばらく留守になる。念の為、警戒を」
『分かったわ。気を付けて』
ラミアス艦長との通信会話を終え、モビルスーツを発進させた後、アスランの乗るシャトルと一緒にプラント方面に向かう。
『キラ。ダン』
しばらくプラント方面にモビルスーツを進めていると、アスランからの通信がやって来る。
『そろそろヤキン・ドゥーエの防衛網に引っかかる。二人共、戻ってくれ』
「…そうか」
ヤキン・ドゥーエ。
元は資源採掘用の小惑星だったが、C.E.70年に起こった第一次ヤキン・ドゥーエ攻防戦後に造り変えられ、現在はプラントの最終防衛の要となる宇宙要塞となっている。
『分かった。じゃぁこの辺で待機する』
『…いや、戻ってくれ』
「…アスラン」
アスランの言葉に少し気になり、俺はアスランに声をかける。
「万一父親との会話が無駄に終わった場合、自分だけで何とかしよう等と考えていないだろうな?」
『っ!!』
俺に図星を突かれたのか、アスランは少し驚愕している。
『アスラン…君はまだ死ねない。
解ってるよね?』
『…』
驚愕しているアスランに、キラが再び話しかける。
『君も、僕も、ダンも、まだ死ねないんだ』
『まだ…』
『うん。まだ』
「キラの言う通りだ。お前の帰りを待っている奴等がいる事を、忘れるな」
『俺の帰りを…』
俺とキラの言葉を聞いたアスランは、少しの間を空けた後…
『分かった。覚えておく』
『忘れないで』
「全くだ。お前はいつも一人で何もかも抱える、悪い癖があるからな」
『ああ。気を付けるよ。今度こそ』
会話を終えた俺とキラは、シャトルを繋ぐ通信用のワイヤーを外し、シャトルから距離を離す。
そしてヤキン・ドゥーエに向かうシャトルを見送った後、俺達は周辺の小惑星に潜伏し、万一の場合でも動けるように待機する事にした。
しばらくヤキン・ドゥーエの防衛網範囲外付近で待機していると、突然コックピットのレーダーが複数の反応を見せる。
『ダン!これって…』
「ああ。おそらくザフトのモビルスーツ部隊だ」
しかし、モビルスーツの反応以外に、戦艦級の反応もあり、モビルスーツの部隊はその戦艦を追っているようにも見える。
『ダン』
「…分かってる。アスランの可能性もある。調べに行くか」
『うん。行こう』
俺とキラは状況を確認する為に、現場に急行する事にした。
反応がある現場に到着した俺達が見たのは、鳥をイメージしたような一隻のピンク色の戦艦が、ザフトのジン部隊によるミサイルの攻撃を、迎撃しながら振り切ろうとしている光景だった。
ジン部隊が放つミサイルを次々と撃ち落としていくピンク色の戦艦。
だが、多勢に無勢の状況である為、徐々に追い込まれ、数発のミサイルがピンク色の戦艦に向かっていく。
「戦艦の方が不利のようだな。どうする?」
『とにかく、助けに行こう』
方針を決めた俺達はフューチャーとフリーダムの機動力を生かしてピンク色の戦艦付近まで近付き、ルプス・ビームライフルで一部のミサイルを撃ち落とす。
更に向かってくるミサイルを次々と迎撃していき、全てのミサイルの撃墜に成功する。
『ダン!』
「ああ。あっちも片付けるぞ!」
それを確認した俺達は、マルチロックオンシステムで全敵機に狙いを定め、ハイマットフルバーストでヤキン・ドゥーエ防衛部隊を無力化させる。
ヤキン・ドゥーエ防衛部隊の全モビルスーツの無力化を確認した後、フューチャーとフリーダムをピンク色の戦艦に近付ける。
『こちらフリーダム。キラ・ヤマト』
「こちらはフューチャー。ダン・ホシノだ。そちらの戦艦、応答願いたい」
通信で戦艦に声をかけると…
『…ダン!』
聞き覚えのある声が俺の名前を呼ぶ。
今の声…
この戦艦に乗っているのは、まさか……
そう思った俺は、今度はモニター通信を戦艦に繋げる。
『もしかして…』
「…ラクス、君なのか?」
『はい!ご無事で良かったですわ』
思った通り、コックピットのモニターにラクスの姿が映る。
しかし彼女は、いつものドレス姿ではなく、和風の着物を着用している。
そんな彼女は俺の顔を見た瞬間、嬉しそうな表情を俺に見せてくれる。
俺だけでなく、キラもラクスが戦艦に乗っている事に驚いているようだ。
『よおー少年、助かったぞ。君にも感謝するよ。プラントを救ったエース君』
『っ!…バルトフェルド…さん?』
「…砂漠の虎、アンドリュー・バルトフェルド…」
アンドリュー・バルトフェルド。
「砂漠の虎」という異名を持つ北アフリカ駐留軍司令官で、指揮官としてもパイロットとしても一流で、ザフトでは知らない者はいないほどだ。
無論、元ザフトの俺も知っている。
そんな人物を見た瞬間、驚愕するキラ。
しかしそれは俺も同じだ。
噂では、アフリカ砂漠でキラと戦い、戦死したと聞いていたからだ。
「とにかく、ここは危険だ。急いで離れよう」
『そうだな。またザフトの追撃隊が出てくるかもしれないからねぇ。歌姫様もそれでよろしいですかなぁ?』
『はい。ではお二人共、ご案内お願い致しますわね』
バルトフェルド隊長とラクスの了承を得た後、アークエンジェルとクサナギが先に向かっているスペースコロニー・メンデルに向かう事にした。
しばらくしてメンデルに到着し、ラクス達が乗っていた最新艦エターナルを入港させる。
エターナル。
ザフトが開発した最新戦艦で、戦艦の中でも速いナスカ級を上回る程の高い機動力を持っている戦艦らしい。
その後、バルトフェルド隊長とラミアス艦長が挨拶を交わす。
「初めまして、と言うのは変かな。アンドリュー・バルトフェルドだ」
「マリュー・ラミアスです。しかし驚きましたわ」
「お互い様さ。な、少年?」
ラミアス艦長への挨拶を終えたバルトフェルド隊長が近くにいるキラに話しかける。
話を振られたキラは複雑な表情を浮かべる。
「…貴方には、僕を撃つ理由がある」
キラの言う“理由”とは、おそらくアフリカでの戦闘の事だろう。
これも噂で聞いた話だが、その戦闘にはアイシャというバルトフェルド隊長の恋人も参加しており、モビルスーツの爆発に巻き込まれたと聞いている。
ここにいないという事は、おそらく……
「…戦争の中だ。誰にでもそんなもんあるし、誰にだってない」
普通なら愛する者を奪った相手が目の前にいれば、殺しにかかってもおかしくないだろう。
しかし、軍人としての心得を持っている為か、バルトフェルド隊長は冷静な表情で笑みを浮かべ、そして落ち着いた口調でキラにそう返答する。
「…ありがとう」
その言葉を聞いたキラは、哀れみを含めた笑みでバルトフェルド隊長に礼を言う。
キラとバルトフェルド隊長の会話を見届け、ノーマルスーツからオーブジャケットに着替えた俺は、アークエンジェル、クサナギ、エターナルが見えるターミナル通路でラクスと久しぶりの会話をしている。
「お元気そうで、本当に安心しましたわ」
「ああ。君も無事で、本当に良かった」
再会を心から喜ぶように微笑む彼女に対し、俺は自分が今思っている事を言葉にして答える。
しばらく互いの笑顔を見た後、俺は気になった事を聞く為にラクスに話しかける。
「そういえば、アスランの腕がケガをしていたように見えたけど…」
「ああ、それはですね…」
「…そうか。アスランの奴、随分無茶をしたな」
「そうですわね。ですが、アスランらしいと思いませんか?」
「ああ。そうだね」
プラントに戻り、父親であるパトリック・ザラと再会した後のアスランは思った通り、かなりの無茶をしたようだ。
パトリック・ザラからのフューチャーとフリーダムの奪還を問われても、核を使用してまで戦争に勝利しようとする父親に、その真意を正面から問い出す等、度胸のある行動に出たとか。
そして質問に答えない事に業を煮やし、銃を取り出したパトリック・ザラに突っ込んで肩に銃撃を受けたらしい。
全く…相変わらず困った奴だ。
アスランのケガの事を聞いた後、もう一つの気になる事をラクスに聞く。
「そういえば、シーゲルさんの姿が見当たらないけど、一緒じゃないのかい?」
ラクスがいるという事は、シーゲルさんもここに来ていると思い聞いた瞬間、笑顔を見せていたラクスは表情を曇らせて俯く。
「…父様は…」
「…父様は…死にました…」
「…何だって…」
ラクスのその言葉を聞いた俺は、一瞬意識を失いそうになった。
しかし何とか持ちこたえた俺は、その理由を予測する。
シーゲルさんの死。
おそらく、それにはパトリック・ザラが深く関わっている可能性が高いだろう。
何せ奴は、シーゲルさんとは余り良い関係という訳ではなかったからな。
「………」
今も俯いているラクスの名前を静かに呼びかける。
「…ラクス…」
俺に呼ばれたラクスが顔を上げると、その目からは涙が流れている。
そして彼女は、俺の胸に飛び込んで泣き始める。
俺の腕の中で泣き続けるラクスの頭を優しく撫でながらも、実の子同然に育ててくれたシーゲルさんを死に追いやったパトリック・ザラへの怒りなのか、俺の心の中は激しい闘志を燃やしていた。
「…ラクス…」
「…心配しないで下さいダン。私なら、大丈夫ですわ…」
しばらく経ち、ようやく泣き止んだラクスだが、まだ表情は少し曇っている。
そして今は、用意されたターミナルの客室に来ている。
「…今は少し、休んだ方がいい」
そうラクスに言い、客室のベッドに彼女を優しく寝かせる。
「…ダンの方も、無理はなさってませんか?…」
「大丈夫。俺は、そこまで疲れていない」
自分が辛い思いをしても気遣ってくれるラクスに、俺は優しく笑みを見せて答える。
「…ダン」
「なんだい?」
俺の名前を呼ぶラクスに返事をすると、彼女は俺の手を優しく握ってくる。
「私が眠るまで、こうしていて、頂けませんか?ダンがいないと、とても不安で…」
「…わかった。君が眠るまで握っているから、安心して、ゆっくり休んで」
俺の言葉を聞き、安心したように笑顔を見せたラクスは、そのまま目を閉じる。
少しして、ラクスの小さな寝息が聞こえてくる。
相当疲れたのか、すぐに眠ったようだ。
無理もない。フューチャーとフリーダムを俺とキラに託してからも、彼女はプラントを脱出するまで色々と行動をしていたんだ。
ラクスを客室に休ませた後、俺はターミナル通路でエターナル、アークエンジェル、クサナギの三隻の様子を見ている。
そこへ……
「ダン」
覚えのある声の方を向くと、思った通りアスランであった。
しかし、そこにはアスランだけでなく……
その隣には、帽子で顔を隠したザフトの緑服を纏った男がいた。
大変長くお待たせしました。
相変わらずのリアル多忙の為、更新がかなり遅れました。
しかし、時間はかかっても完結はさせますので、次回もお楽しみ。