プラント最高評議会の臨時査問委員会から数時間が経ち、俺とアスランはそれぞれの休暇を取っている。
「ん?」
俺がベッドで仮眠を取っていると、部屋に設置されている通信機が鳴り響く。アスランはシャワーを浴びている最中のため代わりに俺がその通信機に出ると、モニターに女性オペレータの姿が映し出される。
「こちらダン・ホシノ」
「クルーゼ隊所属アスラン・ザラ。同じくダン・ホシノ。軍本部より通達です」
「はっ!」
「ヴェサリウスは予定を35時間早め、明日、1800の発進となります。各員は1時間前に集合、乗艦のこと。復唱の後、通信受領の返信を」
「ヴェサリウスは明日、1800発進。各員1時間前に集合、乗艦。ダン・ホシノ、了解しました」
俺はオペレータからの報告を聞きいて復唱、受領して通信を切るとシャワーを終えたアスランが戻って来る。
「ダン。さっきのは…」
「ああ。それが…」
俺は軍本部からの通信が来た事、ヴェサリウスの発進時間の変更と集合時間をアスランに教えていると…
『この船には、今回の追悼式代表を務める、ラクス・クライン嬢も乗っており、安否が気遣われています』
ニュースでラクスの名前が出て、俺とアスランはそのニュースに目を向ける。
『繰り返しお伝えします。追悼一年式典の慰霊団派遣準備のため、ユニウスセブンへ向かっていた視察船、シルバーウインドが、昨夜消息を絶ちました』
ラクスが行方不明になった事に、俺とアスランは驚きを隠せずにいる。
「ラクス…」
「…(ラクスが…)」
しばらくして予定時間となり、ヴェサリウスに到着すると、入り口前でクルーゼ隊長とザラ委員長を見つける。
「アスラン。ホシノ」
俺とアスランはクルーゼ隊長達に敬礼をしてそのままヴェサリウスに乗艦しようとするが、ザラ委員長に呼び止められる。
「ラクス嬢の事は聞いておろうな」
「…はい」
「しかし隊長…まさかヴェサリウスが?」
「おいおい、冷たい男だなアスラン。無論我々は、彼女の捜索に向かうのさ」
「…でも、まだ何かあったと決まったわけでは……民間船ですし…」
「公表はされてないが、既に捜索に向かった、ユン・ロー隊の偵察型ジンも戻らんのだ」
偵察型ジンが捜索から戻らない…?
まさかとは思うが…何か嫌な予感がしてくる。
「ユニウスセブンは地球の引力に引かれ、今はデブリ帯の中にある。嫌な位置なのだよ。ガモフはアルテミスで“足つき”をロストしたままだし」
「!!」
「まさか…!」
“足つき”とはキラとの戦いで見かけた新造艦の名称で、ガモフがその足つきを見失ったとなると、ユニウスセブンの近くいる可能性があるという事だ。
「アスラン、お前とラクス嬢が定められた者同士だという事はプラント中が知っておる。ホシノ、彼女の幼馴染みである君もそれは勿論知っているな」
「…はい」
「なのに、クルーゼ隊がここで休暇という訳にもゆくまい」
「あ…ですが…」
「彼女はアイドルなんだ。頼むぞ、クルーゼ、アスラン、ホシノ」
「「「はっ!」」」
ザラ委員長はそう言ってヴェサリウスを離れ、俺達は敬礼をしてそれを見送る。
「彼女を助けてヒーローのように戻れという事ですか?」
「それほど自分達を評価している、という事でしょうか?」
「もしくはその亡骸を号泣しながら泣いて戻れ、かな」
俺達はクルーゼ隊長の言葉を聞いて驚く。それは、ラクスが死んでいる可能性もあると言っているようなものだからだ。
「…(ラクス…)」
「…そう不安な顔をするなダン。まだそうと決まった訳ではない」
俺がラクスの安否を気にしているのを察したのか、クルーゼ隊長が俺に声をかけてくる。
「どちらにしろ、君達が行かなくては話にならないとお考えなのさ、ザラ委員長は」
そう言って、クルーゼ隊長は先にヴェサリウスに乗艦する。
俺はラクスの心配をしながらも、アスランと一緒にヴェサリウスに乗艦する。
それから1時間が経ち、俺達の乗るヴェサリウスはラクス探索の為出航する。
ヴェサリウスがプラントから出航してしばらく経ち、現在俺達は、ヴェサリウスのブリッジで途中入手した“ある情報”を元に会議を行っている。
「地球軍艦艇の予想航路です」
「ラコーニとポルトの隊の合流が、予定より遅れている。もしあれが、足つきに補給を運ぶ艦ならば、このまま見逃すわけにはいかない」
「仕掛けるんですか?」
「しかし、自分達にはラクス・クラインの探索が…」
「我々は軍人だ。いくらラクス嬢捜索の任務があるとはいえな」
クルーゼ隊長に異議を唱えるが、正論を言われ黙ってしまう。しかし心の中では、大事な幼馴染みであるラクスの事が心配でならなかった…。
予想航路付近に到着し、ヴェサリウスは地球軍の艦隊に徐々に近付いていく。
俺とアスランは、いつでもモビルスーツで出撃できるように発進準備をしていると味方からの通信が来る。
『やっぱり、隊長の勘は当たるな』
『ダン!アスラン!その機体の性能、見せてもらうぜ』
『ああ』
「そっちもしっかりな」
通信での短い会話を終え、味方の乗るジンが次々と発進し、アスランの乗るイージスも出撃する。
俺の乗るソウルの番が回り、カタパルトに移動の最中、俺は行方不明になっているラクスとの日常を思い出す。
俺が軍人になる前、ラクスと平和に過ごしていた…あの日を…。
「今日はミルクティーにしましたの。いかがですか、ダン?」
「うん。美味しいよ」
「そうですか。それは良かったですわ」
いつものように、一緒にお茶を飲んだり、雑談をしたり…そんな楽しい時間を過ごしながらも、俺は“ある話”をする為にラクスに声をかける。
「ラクス」
「はい。何ですダン?」
いつものように優しい笑顔で返事をしてくれるラクスに、俺は決意を固めて話を切り出す。
「…実は、大事な話があるんだ」
「どうしましたの?急に改まって」
「実は俺……
ザフトに入ろうと思うんだ」
ラクスはそれを聞いた瞬間、俯いて口にしていたお茶を置く。
「…いつ、行かれますの?」
「…近い内に行こうと思う」
「…わたくしと一緒にいる事が、嫌になりましたの…?」
「違う…そうじゃないんだ…」
「なら、どうして…」
俯いていた顔を上げ、悲しい顔で言うラクスにその理由を説明する為に口を開く。
「怖いんだ…。血のバレンタインで父さん達を失ったように…突然、この幸せを失ったりするのが…。だから…」
ラクスは俺の話を黙って聞いてくれる。
「もうこの幸せを失わない為に…守る為に、俺は軍人として戦う道を選ぶ。それほど俺には、守りたいものがあるから…」
俺自身の思いをラクスに伝える為に、俺はその決意を言葉にして彼女に話す。
「…もう、決めてしまわれたのですね…」
「…ごめん」
「謝らないでください…そういう意味で言った訳ではありませんわ」
沈黙が流れ、しばらくしてラクスが口を開く。
「…軍に入ると…しばらくは、会えなくなってしまいますわね…」
「…そうだね」
「…時々、手紙をくださいね…?」
「うん。きっと送るよ。きっとね…」
「…無理も、しないでくださいね…」
心配そうに、寂しそうな顔で俺の手に自身の手を重ねるラクス。
「…うん。気を付けるよ」
「約束ですよ、ダン…」
俺の返事にラクスは安心したように笑顔を見せてくれる。
俺はその笑顔を見て、ラクスを守る決意を更に固める。
「(ラクス…もう少しだけ待ってて…)」
俺は懐かしい過去振り返りながら、早くラクスの探索に戻る為、早期決着を決意し戦いに集中する。
「ダン・ホシノ!行きます!」
ソウルで出撃し、戦闘宙域に到着した俺は、敵艦隊から出て来るメビウスをビームライフルで撃墜しながら、敵艦を墜としていく。
イージスとジンの方も順調にメビウスを撃墜しているようだ。
メビウスの相手をジンに任せ、イージスと一緒に敵戦艦を撃墜していく。
そこへ、ガモフが見失っていた足つきが現れる。
ヴェサリウスにいるクルーゼ隊長からの指示で、足つき撃沈の為に周りの敵部隊の急遽撃破の指令が来る。
アスランはイージスをモビルアーマーに変形させ、スキュラで敵艦を一撃で沈め、俺はビームライフルで敵艦のブリッジを撃ち抜いて沈める。その直後、コックピットのモニターにストライクの映像が映る。
「(まさかと思ったが…やっぱり来たんだな、キラ…)」
キラのストライクがアスランのイージスに接近し、そのまま戦闘を始めてしまう。
「ちっ!(始まってしまったか…)」
俺は早期決着をつける為、ソウルの機動性を生かし仕掛けてくるメビウスと敵艦を次々と撃墜しながら足つきを目指す。
その途中、以前の戦闘でキラの確保を妨害した足つきのモビルアーマー2機がまた現れ、攻撃を仕掛けてくる。
「あれは、あの時の…」
オレンジのモビルアーマーの方は近くのジンに任せ、俺は再び青いモビルアーマーを相手に戦闘を始める。この前の戦闘で攻撃パターンは分かっている。
「…そこっ!」
ソウルのビームライフルによる攻撃が青のモビルアーマーの装甲に命中するが、確実に仕留める事は出来なかった。
ソウルの攻撃で被弾した青いモビルアーマーは足つきの方へ引き上げて行き、オレンジのモビルアーマーもジンの攻撃で被弾して撤退したようだ。
ヴェサリウスも援護射撃を行い、敵を徐々に追い詰めこっちが優勢になっていく。
そして、ヴェサリウスの放ったビームが最後の一隻を貫いて撃墜する。俺はそれを好機と見て、ストライクの相手をイージスに任せ、ソウルの機動力を生かして足つきに近付く。
しかし、あの時のキラの言葉もあり、船を仕留める前に、足つきのブリッジまで近付き、ビームライフルを突き付け降伏勧告を進めるという考えだ。
甘い考えかもしれない。しかし、上手くいけばキラとの戦いを避けられるかもしれない。
《ザフト軍に告ぐ!こちらは地球連合軍所属艦、アークエンジェル!》
突然、コックピットに女の声が流れる。おそらく目の前の足つきからの全周波放送だろう。
「(アークエンジェル…。足つきの名前か…)」
俺は足つきに近付くのを止め、ビームライフルを構えて警戒していると、俺にとって衝撃が走る言葉を足つきから聞かされる。
《当艦は現在、プラント最高評議会議長、シーゲル・クラインの令嬢、ラクス・クラインを保護している》
『何っ!?』
「っ!?(今…何て言った…。ラクスが…あの船にいる…。俺の目の前の…あの船に…ラクスが…)」
俺達が驚いている中、足つきは更に話を続ける。
《偶発的に救命ポッドを発見し、人道的立場から保護したものであるが、以降、当艦へ攻撃が加えられた場合、それは貴官のラクス・クライン嬢に対する責任放棄と判断し、当方は自由意志でこの件を処理するつもりであることを、お伝えする!》
『卑怯なっ!』
「っ…」
キラと交戦中だったアスランは足つきの手段に激昂しているが、俺は足つきにラクスが乗っている事実に愕然としていた。