足つきからラクスを保護している事を全周波放送で聞き、唖然としていると、ヴェサリウスから攻撃中止の入電が来る。
その入電を受けて次々と撤退する味方のジンを見て、我に返った俺が周囲を見渡すと、残っているモビルスーツは、ストライク、イージス、そしてソウルの3機だけとなっている。
『救助した民間人を人質に取る……そんな卑怯者と共に戦うのが、お前の正義かっ!?キラ!』
『…アスラン…』
コーディネイターなら、一般人でも人質として利用するナチュラルのやり方に、アスランは激昂しながらキラを問い詰める。アスランの言葉に対して戸惑っているのか、キラは何も言えずに口ごもってしまう。
「…アスラン。ここは引こう。攻撃中止の命令が出た以上、今の俺達には何もできない」
『くっ…!…わかった…』
足つきに動きに警戒しながらも、イージスの側まで近付いて呼び掛けると、アスランはためらいながらも了承する。
『…彼女は助け出す!必ずなっ!』
アスランはキラに対して、少し敵意を出すような言葉を発し、イージスはヴェサリウスに撤退していく。
「…キラ」
イージスの撤退を確認した俺も、ヴェサリウスに引き上げる前に近くにいるキラに声をかける。
「確かにラクスはコーディネイター…。立場的には地球軍の……ナチュラルの敵だ。だが、彼女はコーディネイターにも、ナチュラルにも…誰に対しても普通に接する心優しい女性だ」
そう。
ラクスの優しさは…幼い頃から一緒にいた、俺が一番よく知っている。彼女の優しさのおかげで、俺は両親の死から立ち直り、前に進む事ができたんだ。
だから出来る事なら、今すぐにでもラクスを助け出したい…。
「もしその彼女を傷付けるような事を足つきにいる奴等にさせてみろ。その時は、その船にお前の守りたい友人が乗っていようと……………
そのふざけた真似をしたナチュラル共が乗っているその船を必ず沈める…」
『っ!!…ダン…』
俺はラクスを助ける事ができない悔しさと、彼女を人質にするナチュラルに対する怒りを込めてキラに伝え、ヴェサリウスへ撤退する。
「くそぉっ…!」
俺とアスランはヴェサリウスに帰還するが、アスランまだは足つきの手段に対しての怒りを抱いていおり、その怒りを拳に込めて壁を殴る。
「ラクスは民間人だぞ…!そんな彼女を人質に取るなんて…!」
「…」
そんなアスランの隣で、俺は腕を組ながら目を閉じ、幼年学校時代に俺とアスランにトリィをプレゼントされて喜ぶキラを思い出している。
「(…キラ。何でお前はそんな奴等のところにいるんだ…?お前も俺達と同じコーディネイターで、幼年学校からの親友だろう…)」
いくら友人があの船に乗っているとはいえ、何故同じコーディネイターのキラが、そこまで俺とアスランに敵対しようとするのか…。
何故優しいラクスが人質として利用されなければならないのか…。
疑問と悔しさに苦悩されるが、今の俺達にはどうする事もできない。
戦闘中止からしばらく経ち、現在俺達の乗っているヴェサリウスは足つきを尾行する形で動き、ブリッジで状況確認を行っている。
「このまま付いていったとて、ラクス様が向こうに居られれば、どうにもなりますまい」
「連中も月艦隊との合流を目指すだろうしな」
「しかし…みすみすこのまま、ラクス様を艦隊には…」
「ガモフの位置は?どのくらいでこちらに合流できる?」
「現在、6マーク、5909イプション、0,3です。…合流には、7時間はかかるかと」
「それでは手を打つ前に合流されてしまうか……難しいな…」
クルーゼ隊長とアデス艦長の会話を聞いての通り、今は何もできない状況に立たされており、俺達にできる事は、ただガモフとの合流が早まる奇跡が起きるのを祈る事しかできない。
それと同時に、俺は軍人になったにも関わらず、ラクスを救えなかった自分の無力さに腹を立てる。
クルーゼ隊長からの指示で、俺とアスランは万一の場合に備え、待合室でいつでも出撃出来るように待機している。その待機中の間、俺はラクスを足つきから救い出す作戦を考えている。
「…ダン…」
心配してくれているのか、アスランが俺の名前を呼んでいるが、どうやってラクスをあの船から助けるか、それを考えている俺には、アスランの声を聞く余裕すらなかった。
『足つきからのモビルスーツの発進を確認!』
待合室で待機してから少し時間が経ち、突然艦内に警報アラームと共にモビルスーツ接近の知らせがやって来る。
『第一戦闘配備発令!モビルスーツ搭乗員は、直ちに発進準備!繰り返す!モビルスーツ搭乗員は…』
俺とアスランは、ソウルとイージスを起動させ、いつでも出撃できるように準備を終え、待機していると…
『こちら地球連合軍、アークエンジェル所属のモビルスーツ、ストライク!』
ヴェサリウス艦内にキラの通信が流れて来る。
『ラクス・クラインを同行、引き渡す!ただし!ナスカ級は艦を停止!イージスかソウルのパイロットどちらかが、単独で来ることが条件だ。この条件が破られた場合、彼女の命は…保証しない…』
「何…?」
『キラ…?』
俺とアスランは、キラがラクスを足つきから連れ出した事に驚愕するが、俺はすぐにクルーゼ隊長がいるブリッジに通信を繋げる。
「隊長…自分に行かせて下さい」
『ダン?』
『敵の真意がまだ分からん!本当にラクス様が乗っているかどうかも…』
確かにアデス艦長の言う通り、普通なら罠の可能性が高い。
だが、キラは友達思いで優しいだけでなく、俺と同じように自分の決めた事を最後までやり通す奴だ。
親友として、俺はそんなキラに懸けてみようと思っている。
「敵の罠の場合は控えているアスランに出撃を求め、自分がストライクを討ちます。隊長!お願いします…」
俺が熱意を込めて出撃の許可を求めると、クルーゼ隊長は少しの間考えている。
『…分かった。許可する』
「ありがとうございます」
俺は許可をくれたクルーゼ隊長に礼を言い、ブリッジとの通信を切る。
『ダン。ラクスを頼む』
「…分かった。もしもの時は、援護を頼むぞ」
『ああ』
カタパルトに移動中、アスランからラクスの事を任された俺は、アスランに援護を頼んで通信を切り、ソウルと一緒にストライクとの合流位置に向けて出撃する。
ソウルを出撃させてしばらくして、ようやくストライクの姿が見え、ソウルをストライクに近付ける。
ストライクはソウルにビームライフルを向けてくるが、キラの性格を知っている為、ソウルの武装を取らずにストライクと対峙する。
少しの沈黙が流れ、キラの方から通信で話しかけてくる。
『ダン・ホシノか…?』
「…そうだ」
『コックピットを開け!』
キラの言う通りにソウルのコックピットを開けると、ストライクのコックピットも開かれ、そこにはパイロットスーツを着たキラと宇宙服を着た人物の姿が見える。
『話して』
『え?』
『顔が見えないでしょ?本当に貴女だってこと、分からせないと』
『あ~、そういうことですの』
キラと話しているもう1人の声を聞いて一瞬驚くが、それと同時に安心を覚える。
『お久しぶりですわ、ダン。お元気そうで何よりですわ』
その人物は俺に向かって手を振って優しい声で語りかけてくれる。
聞き間違えるはずがない。
何故ならその声は、俺が大切に思っている幼馴染みの声だからだ。
『ウォン!ウォン!』
『テヤンデイ!』
ラクスの他にも、子犬の形をしたロボットとピンクのソフトボールの形をしたロボットが、彼女に抱きかかえられているのが見える。
子犬型ロボットの名前はドルフ。
俺が作ってラクスにプレゼントしたペット型ロボットだ。小回りも利き、声も出せる為、普通の子犬と同じように動く事が出来る。しかし、耳が立っている為、正確には子犬ではなく子狼型ロボットである。
ソフトボール型のロボットの名前はハロ。
機械工作を趣味に持つアスランが作ったロボットで、ドルフと同じように声を出せる他、たまに人間的な感情も見せる。アスランがラクスの誕生日にプレゼントしたものだ。
「確認した。確かに本物だ」
『なら、彼女を連れて行け!』
キラに背中を押さしてもらい、こっちに向かってくるラクスを俺はコックピットから少し出て、手を差し伸べて受け止める。
『色々とありがとう。キラ。ダンも、来てくれてありがとう』
「無事で良かったよ」
ラクスの無事を安心し、心から喜んでいるのが分かったのか、彼女は優しく笑顔を見せてくれる。
俺はキラの方へ顔を向けると、幼年学校時代に見せていた優しい笑顔で俺とラクスを見ている。
「…キラ!お前もこっちに来い!」
『…!!』
「アスランもお前の事を心配してる!親友同士の俺達が戦う理由なんかない!そうだろ!?」
『ダン…』
俺はラクスを無傷で連れて来てくれたキラの誠意に答えるために、嘘偽りなく、友としての本当の思いを込めて説得する。
「僕だって…君達とは戦いたくない…。でも…あの船には守りたい人達が……友達が居るんだ!」
辛そうに、しかし決意を込めたような眼をしたキラに、再び説得を断られる。
しばらく離れている間に、それほど大事な友人ができたんだな。
「…わかった…。なら、次に会う時は、俺達は敵同士だ!戦う時は、どちらかがどちらかを討つ…それを忘れるな!」
「……わかったよ…」
短かったが、親友同士の会話を終えて、互いにコックピットを閉じて距離を離す。
ストライクから大分離れたのを確認した俺は、ラクスを連れてヴェサリウスに引き上げようとすると、ヴェサリウスの方から何かが出てくるのが見えた為確認してみると、1機のシグーがこっち向かって来ている。
「…シグー!?まさかクルーゼ隊長!」
『ダン!君はラクス嬢を連れて帰投しろ!』
そう言ってクルーゼ隊長のシグーはソウルを通り越し、ストライクの方へ向かっていく。どうやらストライクを討つつもりらしい。
同じタイミングで足つきの方からもオレンジのモビルアーマーが現れ、戦闘が始まろうとしている。
「…ラクス」
「ダン?」
俺の声にラクスがこっちに顔を向ける。
俺の真剣な顔を見て、察したようにラクスが頷くのを確認した俺は、クルーゼ隊長のシグーに通信を繋げる。
「ラウ・ル・クウーゼ隊長!止めて下さい。追悼慰霊団代表の私の居る場所を戦場にするおつもりですか?そんなことは許しません!すぐに戦闘行動を中止して下さい!」
『…』
「聞こえませんか?」
『…了解しました!ラクス・クライン』
クルーゼ隊長はラクスの言葉に不服そうな表情を浮かべながらも了承してくれたみたいだ。
「ありがとう、ダン」
ラクスは俺に優しく微笑んで礼を言う。どうやら、いざという時は自分が通信を繋いで止めるつもりだったらしい。
それに俺としても、ラクスを連れて来てくれたキラを助けたかったからだ。
俺はラクスに笑顔を見せる事で答え、クルーゼ隊長のシグーと一緒にラクスを連れて、アスランが待っているヴェサリウスへ帰還した。