チート転生して現地勇者のお供してたけど敵女幹部の超美人がドストライクすぎて思わず攫った話 作:まもなう(旧ノリあき)
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「のうマキナよ」
「はい」
ここは泣く子も黙る魔王城。その玉座の間で今代の魔王は、傍に控えていた目を閉じている女性に話しかけた。
「魔眼のリリスが帰ってこないんじゃが」
「はい」
恐ろしい魔王様は豪華な玉座に座り足を遊ばせながら、頬杖をついてふてくされていた。
「偵察に行かせてもうどれぐらい経ったかのう?」
「そうですね、所謂半年ほどでしょうか」
魔眼のリリスが帰ってこないのである。
「確かわしはそなたの視た新しい勇者を偵察して来い、と言ったような気がするんじゃが」
「そう記憶しております」
「おかしくない?」
そう、おかしいのである。
徒歩でぶらぶら向かうのでもなければ、いくらなんでもたかがちょっと顔を見てくるだけでこんなに時間がかかることはないのだ。なんなら魔王様は目の前で転移魔法で赴いたのを見ていた。行きは兎も角、顔を見られた帰りに徒歩で戻るのはおかしいだろうと。
「はい」
「というか今までも何の報告もないのおかしくない?」
そう、おかしいのである。
魔王様やリリスぐらいの実力ともなると、通信魔法などお手の物。連絡や報告ぐらいくれてもいいはずなのだ。いや寧ろくれないと困るのだ。偉大なる魔王様は報連相の大切さを知っているからだ。
なのに全くそれがないし、なんなら魔王様からどうだった?と聞いてもまるで返事がない。届いていないわけではないが、敢えてそれを無視しているのかは謎だが反応がない。例えると既読無視である。
「そうですね」
「ぶっちゃけあのリリスが、かけだしの勇者に負けるとかありえんと思うのじゃが」
魔王様はその可能性も考えていた。勿論本当に負けたとは思っていないが、それでも何かあったのではないかと。
でも、そうであるなら尚更報告がある筈だし、何よりこの†天眼のマキナ†が気付かぬ筈がないのだ。
「はい」
「おかしくない?」
「そうですね」
「……さっきからそなたは返しが適当すぎる!なんじゃわしが心配しているというのに!」
「ふふっ」
「笑うんじゃないわっ」
ぷんすこと怒る魔王様は不服そうである。
そこでぴこん!と思いついた。というかなぜ今までこのことに気が付かなかったのか。このマキナに視てもらえばよかったのだ。
「そうじゃ、マキナに視てもらえば解決じゃの!」
「お気づきになりましたか」
「……何故わしに進言してくれなかったのじゃ?」
「ふふっ」
「ええいっ!」
マキナは天眼の名の通り、リリスと同じく特殊な目を持っている。それは万物を見通し、あらゆる場所はおろか、見ようとすれば未来すら視ることが出来ると言う。
普段は視えすぎるから、という理由で目を閉じているマキナだが、魔王様が直々に命じれば協力を惜しまない筈である。
「ごほん!……では頼むぞ。魔眼のリリスがどうなっているのか視てくれ」
「わかりました」
僅かに一礼すると、天眼のマキナはその閉じられていた目を開いた。こちらから見る角度で色が変わるその瞳を、魔王様は綺麗じゃのうと大層気に入っているのだ。
『わーすっご!!!!見てあれ超でかいよ!!!』
『何あれ……あんなのがこの海に居るなんて……』
『おいしいかな?』
『あれを目の当たりにして食べようとするのは貴女ぐらいね……』
「…………」
「どうじゃ?何が視えた?」
マキナはそのまま言うか少し迷ったが、そのまま伝えることにした。
「……そうですね、あれは人間の子供でしょうか。女の子と一緒に居ました」
「なんと!?……どういうことじゃ?」
「海底に」
「いやどういうことじゃ!?」
マキナが天眼を通して見たものとは、リリスと人間の女の子が海底を歩き、そこから更に深い海溝を覗き込むと超巨大な魚……魚?を発見した、という場面である。
一体どういうことなのか。流石に聡明な魔王様をもってしても状況がわからないらしく、頭に?マークを並べて首をひねっている。
「全然わからんぞ……そもそもリリスはまだしもその
「魔法、を使っているのでは?何やらリリスもその人間も、膜の様なものを纏っているように見えました」
「そんな魔法あったかのう……結界の応用かのう?」
「あとで試してみましょうか」
「そうじゃな。……いやそんなことはいいのじゃ!何でリリスが人間と一緒に居るんじゃ!?」
「なんででしょうね」
魔王様は後悔した。そもそもリリスが勇者と会った場面をマキナに視てもらえばよかったと。
「(まぁ視てるんですが)」
「わからん……その女子は何者なんじゃ?」
「勇者……でしょうか?」
「勇者だとしたら益々わからんぞ……何故リリスと一緒に居るのじゃ?」
「さぁ……」
魔王様はむむむと頭を抱えている。
「……まぁ、よい。健在なことはわかった。状況はわからんがの」
「そうですね」
「うーむ、リリスの様子はどうじゃった?」
「そうですね、手を繋いでました」
「手を!?」
そう、リリスは隣に居た女の子と手を繋いで歩いていたのである。さながらデートだ。場所はともかく。
「なんで……?」
「慣れた様子でした。普段からそうしているのでしょうか」
「なんで……?」
「さぁ……」
また魔王様は頭を抱えて唸ってしまった。
確かに魔眼のリリスは、この魔王城内においても高嶺の花とされていた。その彼女が人間の女の子と仲睦まじく手を繋いでいるのだ。無理もないだろう。
「……裏切った……?」
「はぁ」
「リリスはわしらを裏切ったのでは!?」
「なるほど」
「いや、裏切るにしてはやっていることが謎じゃ……何故海の中に居るんじゃ……」
「確かに謎ですね」
「うーむ……もう一回視てくれんか?気になってしょうがないのじゃが」
「私も気になりますね。もう一度視てみましょうか」
「頼むぞ」
「では……」
『何用だ、そなたら』
『わ!すご!喋られるの!こんにちは!』
『なんで平然としてられるの……?』
「魚が、喋っています」
「どういうこと……?」
「この城ぐらいの魚と、喋っています」
「どういうこと……!?」
確かに、この魔王様が治めている地には色んな生物が暮らしているが、魚が話すことは今まで報告されていない。これは驚くべきことで、思わず魔王様も口調が戻ってしまっている。
「私は初めて見ました……」
「いや、いや、わしも初めて聞いた。確かに喋ったのじゃな?」
「はい……人間が呑気に挨拶してました」
「胆座っとるな!?」
「……もう少し視てみましょうか」
『……ほれ、また来たぞ』
『あ、これやっぱりそうなんだ?何か覗かれてるなーとは思ってたけど』
『あー私の落ち度ねこれ。すっかり忘れてたわ。ごめんマキナ』
『いえーいマキナさん見てるー???今お魚さんと話してるよー!』
『呵々、愉快愉快』
「どうしましょう」
天眼のマキナは困った。
「な、何を視たんじゃ……?」
「私が視ていることがバレました」
「なんと!」
「しかも口ぶりから一度目からバレていました」
「なんと!?」
「人間にも」
「なんと!?」
あれだけ大きく、永きを生きているであろう巨大魚はそれだけの力があっても頷ける。何より原理は謎だが水中で喋ることも出来ているからだ。だが人間はわからない。しかも10歳程度の子供である。
そんな子供にマキナの天眼が見抜かれ、声をかけられ手を振られたのだ。
不覚である。
「あ」
「ぬ!?」
ピシリ。
突如として、この玉座の間の中央の空間が裂かれ、腕が生えてきた。次に足、頭、胴体と続き、それは姿を現した。
「こんにちは!」
「な、なんじゃ、どういうことじゃ!?」
「…………こんにちは」
「――――ちょっとアリカ!」
ここは泣く子も黙る魔王城。ここ最近、騒がしい日が増えたおどろおどろしい場所である。