『日本ウマ娘トレーニングセンター学園』、通称トレセン学園。
『トゥインクル・シリーズ』でのデビュー・活躍を目指して全国から選りすぐりのエリートウマ娘が通う全寮制のウマ娘養成機関。
前途有望なウマ娘が指導者や仲間達と共に切磋琢磨し、自信をより高みへと到達するために努力の日々を過ごしている。
そんなトレセン学園に入学して1ヶ月が経過する頃には、私はすでに周りのレベルの高さを痛感していた……。
「はぁ……私の実力じゃ通用しないのかな……?」
入学したての頃は、すぐにチームに所属して、凄腕のトレーナーさんの下でトレーニングを積めば重賞を取れる位の実力が付くと思ってた。
でも、いざ入学後の授業の一環として行われた模擬レースに出てみれば、1着は一度も取れてない。出来て入着出来る程でしかなかった。
このままでは凄腕どころか、どのトレーナーからのスカウトも受けられず、デビュー出来ずに学園を去ることになってしまうかもしれない。
(このままじゃダメだよね……でも、どうしたら……)
模擬レース終わりの放課後。今日も1着になれなかった私は、誰もいないトレセン学園の中央広場で小さく弱音を吐いていた。
幼い頃、地元で開かれていたちびっ子レースではほとんど負け知らず。トレセン学園の入学試験も問題無く通過出来ていたから入学前は不安なんて何もなかった。
唯一心配していたのはお母さんで、お母さんからは『あなたは優しすぎるところがあるから、大丈夫かしら……』なんてことを言われていた。
あの頃はどういう意味なのかわかっていなかったけど、今にしてみればお母さんはこうなることを予想していたのかもしれない。
――それでも、優しすぎることと走ることに何が関係しているのだろう。正直、私にはそれがまだわからない。
入学前のことを思い出しながら落ち込んでいると、ふと誰かから見られているような気がして私は俯いてた顔を上げた。
「あれ……? 誰もいない……?」
周りを見渡しても誰もいなかった。あるのは広場中央に鎮座する三女神の像だけだった。
古くからウマ娘を見守り、導いてきたという伝説がある三柱の女神。
トゥインクル・シリーズを走り抜けたウマ娘がこの像の前で想いを託し、これから走り始めるウマ娘がそれを継承して力にする。なんて噂を耳にしたことがあった。
その噂にあやかろうとしたのか、なんとなく私は三女神像に近づいて祈るように瞳を閉じた。
(三女神様……私はトゥインクル・シリーズで活躍できる実力はないのでしょうか……? どうすれば今より速く走れるのでしょうか……どうか教えてください……)
気持ちが沈んでいた所為なのか、普段ならしないような神様に縋るようなことをしてから私は自分の寮に戻った。
全寮制ということもあり、最初のころは右も左もわからず困っては先輩方や寮長さんに手助けしてもらいながらだった寮生活も1ヶ月も経てば板についてきた。
夕食とお風呂を済ませて、寝る準備を整えたらこの日は他に何もせずに私は布団に潜り込んだ。
明日の授業に必要な物は既に用意済。自慢ではないけど学力も比較的良い方だったので授業内容で躓いていないのでそのまま眠りについても問題はなかった。
けれど、布団の中に入って寝ようとしてもこれから自分がどうすればいいのか、どうやればもっと強くなれるのか悩んでしまい私はなかなか寝付くことが出来なかった。
――それが原因だったのか、この日はとてもおかしな夢を見ることになったのかもしれない……。
◆◆◆
『……や……なさい……』
「う……うぅん……」
――なんだか誰かの声が聞こえた気がする……。
『……や……起きなさい……ペロペロ』
声が聞こえたと思ったら、次は生暖かい何かが顔を伝ってる感覚がする。
『坊や、そろそろ起きなさい……』
「へっ……? う、うわぁっ!? な、なに……?」
誰かに呼びかけられてると気が付いた私が目を開くと、そこには見たこともない四つ足の動物が私の顔を舐め回していたのだった。
牛のような体とその体に似つかわしくない細い四本足。前に伸びたような顔の頭部にはピコピコと動く耳が付いていた。
「な、なんですか……? だっ……誰ですか……? というよりここは……どこですか……?」
何が起きているのか、目の前の動物は一体何なのか。わからないことが多すぎて、混乱している私は頭に浮かんだ疑問をそのまま言葉にするばかりだった。
そして、目の前の謎の動物は少し悲しそうに話すのだった。
『誰って、酷いわぁ……あなたのお母さんに決まってるでしょ?』
「お、お母さんっ!? お母さんって、どういう……」
どういう意味かと問おうとして自分の足元を見て、自分の足、いやこれ腕? 前足? がお母さんと名乗る動物とそっくりなことに気が付いた。
そして後ろを見れば黒くて短い毛が生えた体が後ろに伸びている。そして一番後ろにはピョコっとした尻尾がかすかに見えた。
そして周りを見れば、床一面には干し草が敷き詰められた狭い部屋にいることに気が付いた。
『あら、寝坊助坊やったら、まだ寝ぼけてるのかしら?』
干し草が敷き詰められた見たこともない部屋。目の前には自称母の謎動物。
そして何よりも、自分の体を見る限り目の前の謎動物と同じ姿になってしまったのであろう私。
「どっ、どうなってるのぉぉぉーーーっ!?」
状況が把握出来ない私はただ思うことを叫ぶことしか出来なかった。
――これは、私がウマ娘としてトゥインクル・シリーズで走る理由、自分が持つ能力。そして、ウマ娘の謎について知ることになる不思議な夢の始まりだった――
人→競走馬→ウマ娘の転生系の作品はよく見るけど、ウマ娘→競走馬の話はあまり見ないなと思って勢いで書きました。
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