そのウマ娘は馬世界の夢を見る   作:酒場刀

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第2話 目覚めるウマ娘

 目が覚めたら知らない場所に居て、自分が謎動物になっていた。

 そんな状況に陥ってから私は日を追うごとに少しずつ適応し始めていた。

 ……最初は驚くことばかりだったけど……。

 

     *

 

「あの……おっ、お母さん」

『ん? なぁに?』

 

 私と同じ部屋に一緒に居るお母さんを名乗る人物……いや、動物?

 お母さん曰く、ここは北海道にある小さな牧場で先月頃私が生まれ、こうしてお母さんと同じ部屋で暮らしている。

 この世界で目が覚めた直後の混乱した私を宥めてくれて、ずっと私のそばに寄り添って面倒を見てくれていたことから本当に私のお母さんであることを実感した。……それでも、まだ『お母さん』と呼ぶことには慣れないでいた。

 

「その、いつも私のことを『坊や』って呼ぶけど私、女の子ですよ……?」

『ふふっ、何を言ってるの? あなたはれっきとした男の子よ? その証拠に、下にちゃんと付いてるでしょ?』

「えっ……えっ? ……えっ!?」

 

     *

 

 ――今でも信じられないけど、どうやらこの世界の私は男の子になってしまっていた。

 お母さん曰く、お母さんや今の私のような動物は人間から『馬』と呼ばれていて、男の子は『牡馬』、女の子は『牝馬』と呼ばれる。それに当てはめると私は牡馬らしい。

 ちなみに人間は私が知っている元の世界と同じ見た目をしていて安心した。

 

 驚いたことは他にも――

 

     *

 

「マキナー。ほーら、ご飯だぞー」

 

 『マキナ』、お母さんの名前を呼びながらやって来たのは私とお母さんのお世話を担当している牧場スタッフのおじさん。

 私とお母さんの部屋の掃除、放牧中の付き添い、お母さんのご飯の用意をしてくれている。

 私はまだお母さんのお乳を飲んでいるので用意されたのは全部お母さんのご飯になる。部屋の前に吊るされているバケツのような大きな桶をのぞき込むと、今日のご飯も草と穀物のようなものが混ぜてあるものだった。

 

「お母さん。今日のご飯もいつもと同じですけど、白米とかお肉とかは出ないんですか?」

『え? 私たちはお肉なんて食べないわよ。あっ、でもたまにもらえるリンゴとかニンジンはとっても美味しいわよ?』

「そっ……そんな……お肉も白いご飯も食べられないなんて……」

 

     *

 

 私たち馬は草食動物らしく、お肉や炭水化物などの人間が食べるような料理を食べることはない。

 私にとってこれが一番ショックだったかもしれない。ウマ娘の中でそこまで食べるわけではなかったけどそれでも美味しいご飯を食べることは好きだったからそれがもう出来ないと思うと気持ちが沈まずにはいられなかった。

 

 ――っと最初は思っていたけど乳離れした後、いざ飼葉と呼ばれているご飯を食べてみたら思っていたより美味しく食べられた。何だか凄くしっくりきて、今までも食べてきたのではないかと思える懐かしさすらも感じた気がした。

 

 

 

 この世界に慣れ始め、部屋にいる時間はお母さんに馬としての生き方を教わっていた。この世界の馬と呼ばれる動物は牧場で産まれて『競馬』といわれる馬のレースで走ることになるらしい。中でも『ダービー』や『有馬』と呼ばれてるレースで勝つと牧場スタッフの人達はとても喜ぶらしい。そんな話を聞いて私はレース名に引っ掛かりを感じていた。

 

(ダービーに有馬……日本ダービーと有馬記念……? 元の世界のトゥインクル・シリーズにも同じ名前のレースがある……もしかしてこの世界ではウマ娘に代わって馬がレースに出る世界ってこと……?)

 

 まだわからないことは多いけどもしかしたらこの世界の馬と元の世界のウマ娘は何か関係があるのかもしれないと思い始めた。

 

 そんな風にお母さんに様々なことを教わったり、逆にお母さんが知らないことを私が教えてあげたり、放牧中はレースに出て早く走れるようにと、走るコツを教わる日々を過ごして、気付けば半年くらいの時間が経っていた。

 その頃になると牧場スタッフの人達が『そろそろ親離れの時期』とよく話題に挙げるようになっていた。

 

「お母さん、私も親離れしなきゃいけないんだよね?」

『そうね……立派な競走馬になるためには必要なことだそうよ……お母さんと離れ離れになるは大丈夫? 寂しくない?』

「ううん……寂しいよ……でもお母さんの自慢になるような立派な競走馬になれるように頑張るよ」

『ふふっ……ありがとうね。離れていてもお母さんはあなたのことを応援してるわ』

 

 その日はお母さんにいっぱい甘えさせてもらった。元の世界では寮暮らしだから親元を離れるのは問題なかった。でも、この世界では親離れしたら二度と再会しないことがほとんどらしいから出来る内に出来ることをしておく。

 そして数日後、親離れが行われお母さんは別の部屋に移動することとなった。親離れをするのは私だけじゃなく、同じ年に産まれた子達も一斉に行われていた。他の子達は母親が急にいなくなったことでパニックになったり、大声で母親を呼ぶ子もいたけど親離れの心構えをしていた私は取り乱さずにいた。心の余裕もあり、元の世界を含めれば他の子達よりも長く生きているから私は、放牧時に母親がいなくて泣いている子に寄り添ったり、率先して集団の面倒を見るようにしていた。

 

 

 

 他の子達との集団生活をし始めてから年が明けてしばらく経ったある日、見たこともないスーツ姿の男性二人が牧場に訪れていた。

 一人は、60歳後半くらいの、七福神の恵比寿様に似た肥満気味で優しそうな顔をしてるおじさん。もう一人は40歳くらいの、隣のおじさんよりも若くて細身のおじさんだった。

 牧場スタッフの人がおじさん二人の下に行き、深々と挨拶をしていた。

 

「これはこれは恵原さん、いつもありがとうございます。今日は新しい馬をご購入でしょうか?」

「いや、今日は彼が馬主デビューするからね。私はここの紹介と付き添いなんだよ」

 

 そう言う恵比寿様似のおじさん。今日はその隣のおじさんが用があってここに訪れているらしい。

 

「初めまして。今年馬主になった栄川と申します」

「そうゆうことなんだよね。それで早速で悪いけど、今年はどの子が良い感じだい?」

「でしたらこの子が良いかもしれないですね」

 

 牧場スタッフの人と二人のおじさんが私の部屋の方にやってきた。

 

「マキナの96です。うちのスタッフの間ではもっぱら『静ちゃん』なんて呼んでます。父はここ近年種付け数をどんどん増やしているあのサンデーサイレンスです。母はマキナで、去年亡くなってしまったワキアの全妹です」

「ほう、ワキアといえば今年デビューしたサイレンススズカの母だね。しかし、馬主初心者にサンデーサイレンスはどうなのかねぇ? 気性難らしいし、産駒にもその気性の荒さが出ているらしいじゃないかね?」

「まあ、確かに気性難な産駒もいると聞きますがこの子は違いますよ。穏やかな母親に似たのか馬房ではいつも静かでしたし、親離れの時も他の仔馬が暴れて鳴いている中、この子はずいぶんと落ち着いていました。ハミや鞍も嫌がらない。日頃の振る舞いと父親の名前から取ってそれで『静ちゃん』と呼ばれているんですよ。それに運動のときの動きも良いですし、デビューすれば良い走りをするかもしれませんよ」

 

 こうして褒められると少し気恥ずかしいと感じた。そして私はここで初めて父親、サンデーサイレンスの名前を知った。お母さんも一度しか会ったことがなかったらしく、どんな馬なのかあまり知らないらしい。

 

「なるほどなるほど。それなら良さそうだねぇ。栄川君もどうだい? この馬は?」

「そうですね……僕はまだあまり詳しくないですが良さそうですねこの馬。今も知らない人間が近くに居ても落ち着いてこちらを見ていますし……うん。この子にします」

「ありがとうございます。ですが他の子を見なくてもよろしいのでしょうか? 他にもうちには良い馬がいますし、なによりサンデーサイレンス産駒なので他の子よりも少し値段が高くなってしまいますが……」

「いえ、この子なら走ってくれそう。そんな感じがします。それに、お金の方なら問題ありませんよ」

「ありがとうございます。そうであればすぐに書類を用意致しますので少々お待ちください」

 

 牧場スタッフの人が事務所の方に向かっていく。その間も二人のおじさんは私の方を見ながら話をしていた。

 

「恵原さん。日曜日の貴重な時間に私の付き添いをして頂いてありがとうございます。お陰で良い買い物が出来ました。……ところで、競走馬の馬名はどうすればいいのでしょうか?」

「そうだねぇ。せっかく初めての持馬だし、直感で思いついた名前を付けるのも良いんじゃないかな? まあ、後で馬名の書類申請をして審査を受けることになるけど。」

「そうなんですね。それなら……」

 

 そうして細身のおじさんがしばらく考え込んだ後、口を開いた。

 

「この子には怪我なく長く走ってほしいのが一番ですが、栄光を掴んで欲しい。良い日に出会えたことと、父親の名前を踏まえて――『グローリーサンデー(栄光の日曜日)』なんてどうでしょうか?」

「ほうほう。良い名前じゃないかね。馬名のルールにも反していなさそうだし審査も通りそうだね」

 

 ――グローリーサンデー。それがこの世界で私に付けられた名前。

 そして、奇しくも元のウマ娘世界の私と同じ名前だった――

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 瞼ごしに光が差していることをぼんやりと半分眠っている頭で感じて目を開く。そこには随分と前に見たきり暫くだった天井があった。

 

「あれ……? ここ……栗東寮?」

 

 どうやら私は元の世界、元の自分の部屋に戻ってきていたようだった。枕元にある自分のスマホの日付を見れば馬世界に行く前、眠りについた日の翌日の朝だった。

 だとすれば今まで見ていた馬世界は只の夢だったのだろうか……? 夢にしてもおよそ1年と長い時間を過ごしていた気がするし、記憶も鮮明に思い出せる。

 わからないことばかりだけど時間を見ればもうすぐ登校時間。思考を一旦中断して私は身支度を始めた。

 

 身支度を整え、私は少し早めに寮を出た。トレセン学園のコースがよく見える横道を歩きながら私は朝の思考を再開していた。

 

(……結局あれは夢だったのかな……? それにしてはやたらリアルだったし、馬なんて動物今まで見たこともなかった……もしかして私が三女神様にお願い事をしたから……?)

 

 一人で物思いにふけっていて私は遠くから声を掛けられていることに気が付いていなかった。

 

「あの……あの……!」

「えっ……? あっはい!」

 

 後ろから大きな声でありながらか細く、綺麗な声で呼ばれていることにようやく気が付き私は振り返る。そこにはジャージ姿で、まっすぐ伸びた栗毛の綺麗な髪のウマ娘がこちらを追いかけていた。

 

「これ……あなたが落としたんじゃない、ですか……?」

「あっ……本当だ。それ私の筆箱です。すいません、ありがとうございます。……たしか同じ栗東寮の……」

「ええ。サイレンススズカです。こうしてお話するのは初めて、ですよね……」

「はい。私はグローリーサンデーです。何度か寮で見かけたことはありましたけど、初めまして。……ところでこんなに早い時間からトレーニングですか?」

「ええ、朝から走ると気持ちが良いし、この時間ならコースを独り占めできますから……」

「そうなんですね。改めて拾って頂いてありがとうございます。トレーニング頑張ってください」

「ええ、ありがとうございます」

 

 こうして落とし物を拾ってくれたウマ娘、サイレンススズカさんにお礼を述べて私はトレセン学園の校舎に向かった。

 これが私がスズカさんと初めて交わした会話だった。




第1話で決めていなかった設定決めたり、語彙力の無さ故に文章作成に悩んだり、モチベーションがなかなか上がらないなーと思ってたら1話投稿から1週間過ぎててたまげました。
次話はもっと早く投稿できるといいね…
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